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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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172話 魔族排球Ⅴ


「リリス、大丈夫か?」


 フリーゾーンで尻餅をついているリリスに手を差し伸べた。


「ごめん……。見ての通り、あたしは運動がからっきしでさぁ。きっと迷惑かけるだけだから、隅っこでじっとしてた方がいいと思うのよ? ……ってぇことで……」


 リリスは頬を掻き、徐ろに立ち上がる。

 ぱんぱんと黒い皮のパンツを叩いてから、そのままそそくさとコート外へ逃げようとしている。

 その尻尾を鷲づかみにした。

 逃がさん。


「ふぎゃっ」

「待て」

「いででででっ! 尻尾は掴まないでくれ~っ!」


 ぱっと離してやると、リリスは力なく、またしても尻をついた。


「お前は勇者チームの希望かもしれん」

「え? あたしが?」

「そうだ! 協力してくれ!」

「……?」


 リリスは首を傾げるばかりだ。

 サキュバスという夢魔だからこその特性が、今ここで活かせそうな気がする。



     ○



 タイムアウトを使ってしまったため、1セット終了まで作戦タイムが取れない。

 すなわち、俺の作戦はまだ共有できない。

 しかし、このゲームは2セット先取で勝ちだ。

 最初の1セットは魔王チームにくれてやってもいいかと思う。それだけ作戦に自信があった


 1セット中は作戦が通用するかの検証を重ねる。

 そして、うちの主砲(エース)の調子だ――。


「敵からサーブが来る前に言っておきたい。この第1セット、一回負けよう」

「……?」


 DBが眉を小さく動かし、俺を見た。

 被せて反応してきたのはアーチェだった。


「ちょっとちょっと! なにソードらしくないこと言ってくれてるワケ? 負け戦なんてダメよ」


 アーチェは(はりつけ)のメイガスを一瞥した。

 苦しそうに魔力を吸い取られるメイガスを、これ以上見たくないのだろう。


「気持ちはわかるが、この第1セットだけだ! 必ず第2・第3セットを連続で取りに行く」

「でも1セットを先に取られたら、後がないわよ」

「わかってる。俺を信じろ」

「…………」


 アーチェはその場で足で床をパタパタ叩いた。

 イライラしている様子だ。

 メイガスがまた「アアアアアア」と叫び、魔球弩弓からまたサーブが打ち出されようとしている。


「アーチェ」


 DBがそこに口を挟む。


「なによ」

「ここはソードの考えに従いましょう」

「珍しいのね。DBが――ううん。ケアが、ソードの言葉を素直に聞くなんて」

「ふふふ。貴女も感じているようね。――今のこの連帯感、勇者時代を思い出すでしょう?」

「う……うん。まぁ」


 DBが不敵な笑みを浮かべる。


 この場には七人の勇者は揃っていない。

 四人の人間兵器がいて、シール、パペット、ヴェノムの三人は不在。確かにパーティーメンバーは少ないが、みんなが感じているように、このチーム攻略戦は、勇者時代の俺たちを彷彿とさせた。


「なんとなく『パンテオン』に来てからのソードは冴えてるように感じるわ。当時の感覚を取り戻したのかもしれない。この男は、苦難が立ちはだかったときに、いつも攻略法を編み出したリーダー。――そんな本来のリーダーの姿を、貴女も見たがっていたはずでしょう?」

「……っ」


 アーチェはそっぽを向いた。


「わかったわよ……っ! リーダーの素質とやらを拝見させてもらうわっ」


 俺が勇者の運命から逃げた九回目の目覚めで、リーダー代理を引き受けたのはアーチェだった。

 その結果、九回目の魔王攻略で勇者パーティーは敗北。苦汁をなめる結果となり、アーチェは俺を恨むようになった。


 その返答は、その精算が済んだ証拠だ。


「サンキュー、アーチェ!」

「ただし、第2セットで負けたら承知しないから。今度は腕一本じゃ済まないからね」


 射撃の的にされるってことで理解した。

 そいつは恐ろしい。


 俺はサーブが打たれる直前、前衛にリリスとDBを、後衛に俺とアーチェがつくように指示した。

 ずっとサービスラインぎりぎりで立ちんぼしていたリリスは、ネット際に配置されて怖がっていた。


「なんであたしがこんな重要ポジションにぃ」

「お前はむしろそこで一番輝ける!」

「意味不明なのだわ!」



 魔王チームから魔球のサーブが放たれた。

 いつもの如く、筋肉達磨の俺がレシーブで受け止めに行く。


「アーチェ」

「な、なによ」

「俺がレシーブで上にあげた後、カーチェイスの時にやってた魔法、魔球に当ててみてくれないか?」

「もしかしてファイアボール?」

「それだ!」


 今のアーチェは魔法使いだ。

 どういうわけか火属性の魔法が得意のようで、こちらもこちらで〝魔球〟を放てる状況にある。


「馬鹿っ。魔球の破壊は1点減点でしょ」

「そうだ。だから第1セットは検証だ」

「減点の検証したって活かせないじゃないっ」


 そうこうする間にメイガスの魔力で出来た魔球が襲いかかる。俺はレシーブで受け止める。

 難なくこなしているように見せているが、これがかなり両腕へのダメージが凄まじい。ふんばっている両足が床にめり込むほどなのだ。


「っ……信じるからね!」


 レシーブが高々と宙へ上がる様子を目で追いかけながら、アーチェは言った。

 俺の決死のレシーブで覚悟を感じたようだ。


「杖がないとよくわからないけど……こうかしら」


 アーチェは手を翳して目を瞑った。

 手先で赤い魔力が凝集していき、球体状に変化していく。


「その調子で頼む。破壊するくらいの威力でな」

「力の加減がまだわかってないのよ」

「それも練習で感覚を掴んでおいてくれ」


 俺はその間、次の検証に移った。

 自陣のコートから抜け出す。


「ちょ、どこいくの、ソードさん」

「検証!」


 リリスが驚いて目を丸くしていた。

 それもそうだろう。まだ魔球は勇者チームのコートにあり、これから三回ラリーして相手コートに返すのが本来の流れ。

 そこに穴をつくるように、チームメイトが脱走してしまったのだ。当然焦る。


 魔王チームのコートに回り、フリーゾーンからラインの内側に入ろうとする。

 すると――。


「っ……」


 バチリ、と赤く変色したラインが反応した。

 そこから先には進めなかった。

 ゲームシステムの枠を超えた俺のような存在も、このコートの人数制限(・・・・)というルールは適用されるらしい。


 ――つまり、このコートに入るためには、一人誰かを殺す必要がある。


「ピギ?」

「お前に罪はないが、所詮はプログラム。試合に貢献できずに残念だったな……!」


 俺は【抜刃】で呼び出した剣を投げつけ、モブの魔物に突き刺した。


「ィギャンッ!」


 魔物は潰れた声で絶叫した。

 魔物が微粒なブロックに分解されて塵となって消えていく。


 コートを区切る赤いラインが白線に戻った。

 人数制限の解除を意味しているに違いない。

 思い切ってラインを跨いでみると、すんなり魔王チームのコートに入れた。

 

「よしっ! やっぱりか!」


 俺がコートに侵入すると、線がまた赤く染まる。

 魔王チームのコートには、俺とプリマローズ、メイガス、モブの魔物一体がいる。計四人だ。

 敵だろうと、相手のコートに侵入して、やりたい放題できるということである。


「何がやっぱりじゃ? 呑気に死にに来た大馬鹿者めが――」


 殺気がコートを埋めつくす。

 刹那の間に襲ってきた魔王の刃を、俺は新たに作り出した【抜刃】の剣で受け止める。


「――血の魔剣『紅き薔薇の棘』……!」


 それはプリマローズの愛剣。

 赤い刀身に血の匂いが漂っている。


「おう。妾の剣を止めよったか」

「へっ……こういう勝負の方が得意なんでね」

「ククク、なかなかやるようじゃの、おぬし」


 赤い剣を押し返し、間合いを取った。

 魔王プリマローズから、禍々しいオーラが漂い始めている。


 何が魔族排球(イビル・バレー)だ。

 やっぱりこの戦いの本質は殺し合いだ。

 サーブで打ち放たれる魔球だって、ネットさえなければ戦場で飛び交う魔術師同士の交戦と、何ら変わらない。


 このバレーはそういう勝負をルール付きでしているだけなんだ。

 だからこそ勝機はある。


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