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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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171話 魔族排球Ⅳ


 魔族排球(イビル・バレー)のルールをもう一度確認するため、俺は早くもタイムアウトを要請した。


 このタイムアウトも1セットで1回しか使えないようだ。


 まず基本ルール。

 サーブは必ずサービスラインの手前で打つこと。

 3回タッチするまでに相手のコートへ球を返すこと。

 これはネット際のブロックも含まれる。


 敵のコートに球を落とせば1点獲得。

 サーブの失敗は1点減点(・・)

 球の破壊も1点減点。

 同じプレイヤーが二回連続で同じ球に触れても1点減点。

 ラリー中のチームの誰かがライン外へ球を落とした場合は、なんと2点減点(・・)

 場外だけはやたらと減点が多い?


 そして1セット11点先取。

 2セットを続けて取ったチームの勝利となる。


 ――以上。



「これ……確かに〝手足だけ〟とか〝球一つだけ〟とはルールに書いてないな」

「そういうこと。つまり、どんな手を尽くしても、相手のコートに球を落とせばいいの」

「……」


 最悪、敵を殺してでも――。

 リリスの言うように戦闘も可能ということ。

 健全なスポーツに見せかけたデスゲームである。


 しかも、ミスは基本的に減点扱いだ。

 失敗すればするほど、試合が長期化して泥沼になる気がする。


 チーム構成は四人対四人。

 魔王チームの選手は、プリマローズ、メイガス、モブの魔物二体。

 勇者チームは俺、アーチェ、DB、リリス。

 プリマローズもメイガスも殺せない。

 ラリー中に攻撃するなら、モブの魔物二体か。


「ちなみに戦力の補充は可能なのか? もし敵を倒しても、すぐ復活するなら意味がねぇよな?」

「あたしが知る魔族排球なら――」


 リリスが答える。


「死者が出たとき、仲間を増やすことはできる。でもコートに入っていいのは片側四人ずつ、合計八人までの制限があるのだわ」

「なるほど」


 だったら、替えの利くモブ二体を倒しても無駄だろう。


 そういえば、第一サーブの段階では、魔物二体はいなかったような――。


 DBが一方的にやられたあの初回のプレイだ。

 あのとき、勇者チームのコートにはDBとリリスの二人しかいなかった。魔王チームのコートには、俺とアーチェ、メイガス、プリマローズの四人がいた。俺たちは何が起きているのかわからず、DBがやられる光景を棒立ちして見ていた。


 もしかして、片側のコートに四人という制限は、敵チームのコートに対戦相手が乱入しても適応されるのか。

 ルールには、ラリー中、敵チームのコートに入ってはいけない、なんて書いてない。



「ソードが何を考えているのか手に取るように分かる。敵を一掃してコートをフリーにすれば、簡単に球を落とせるとか考えてるんでしょう」


 DBが俺を見て言った。


「当然だろ。戦略の一つだ」

「脳筋の貴方が考えそうな策。そんなの戦略でもなんでもない」

「ソードの考えることなんだし、仕方ないわよ」


 DBとアーチェが好き勝手なことを言う。

 こいつら、チームで仲良くしようって気がない。


 そうこうするうちに、タイムアウトが終わった。

 まともな作戦会議もできずに試合再開である。

 勇者チームと魔王チームの点数は0:3だ。


 サーブはまたメイガスから吸い取られて生成された魔球の射出から始まる。


「アアアアアアア」


 痛ましい絶叫から始まるこのサーブ。

 仲間が人質に取られた上で、そこから吸い上げられた魔力が殺戮ボールとなって襲ってくるというのは、精神的にくるものがある。


「メイガス……」


 アーチェが呟いた。

 特に、ずっとあいつに会いたがっていたアーチェにとっては絶望的な光景だろう。

 早く救出してやらないとな……。



 魔球が打ち上がった――。

 これまでと同じように凄まじい勢いで球が襲いかかる。


「俺が受ける!」


 さっきと同じ要領で俺はレシーブした。

 足が床にめり込むほどの威力だった。

 気合いで勢いを殺し、上空へ魔球を跳ね返す。


「アアアアアアアア」


 直後、メイガスがまた絶叫を上げた。

 魔球が生成される合図だ。

 あまり聞きたくないが、球数が増えるのがすぐ分かると考えると、まだ良かった。


「次弾、来るわ!」

「DB、レシーブ任せた!」

「初段のトスは?」

「そっちはアーチェ!」


 とにかく一回は返したい!

 このまま一方的な滅多打ちで終わったら、何のためにここまで来たかわからねぇ。


 初段の魔球が落ちてくるよりも先に、二弾目の魔球のサーブが襲ってくる方が早かった。

 DBはシリアルコード辞典から鉄製の〝たらい〟を呼び出し、たらいの下に〝座布団〟を重ねた。

 ふざけたグッズを出したもんだ。

 だが、鉄のたらいは意外にも魔球を跳ね返した。

 弾き返した反動でたらいはひしゃげ、微粒なブロックを散らして消えた。


 ――その間、初球の魔球をアーチェがトスした。

 俺は助走をつけて跳び上がり、記念すべき初スパイクを決めにかかる。


「くらえッ!」


 狙いはモブの魔物二体のうち、どちらか。

 プリマローズはどうせとんでもない身体能力で、意図も容易く返してくるに違いない。

 腕を思いきり振りかぶり、狙いをつけてアタックした。


 魔球は直線を描いて、魔王チームのコートの穴場である魔物二体の間へと突き落とされる――。


「よしっ!」


 ――取れると思った。


 球速は俺の腕力で出せる最速だったと思うし、初めてうまく連携できたラリーだ。理想的な流れで繋げたのだから、これで入ってくれないと、という希望もあった。

 それを――。


「え……」


 片方の魔物が、自ら魔球に体当たりしにいった。

 レシーブのために飛び込んだというより、反動を殺すために捨て身のプレイをしたようだ。

 俺のスパイクで繰り出された魔球を背中で受けた魔物は、後方に吹き飛ばされて壁に激突し、そのまま霧散するように消えた。

 一度のレシーブに仲間一人を犠牲にする特攻プレイだ。


 球速が殺され、低空に浮いた魔球をもう片方の魔物が、槍で突き刺した(・・・・・・・)


「……」


 意味がわからない光景を前に唖然としてると、


「ソード、二弾目!」

「え、あ――」


 DBが鉄のたらいで上げた魔球が落ちてくる。

 えーっと……二弾目はDBがレシーブしたから、トスはそれ以外なら誰でもいいのか?

 くそ、二つもボールがあると混乱する……。


 魔球の落下地点は、俺が急いで回っても届きそうにない位置だった。

 しかもレシーブの軌道が悪く、そのまま球を落とせば〝場外アウト〟だ。2点減点になる。

 まだ1点も取ってないのに!

 おのれ、たらい!


「リリス、トスだ!」

「あ、あたしはスポーツ無理だっつーのっ」

「お前しかいねぇ!」

「もうっ何もしなくていいって言ったのにー!」


 リリスはおろおろした足取りで、魔球の落下位置に移動する。


 ボールを上に叩き上げようとしたが、タイミングが悪くバランスを崩したようで、トスする前にリリスは転んでしまった。


「きゃあっ」


 開脚状態で太ももとヒップラインが強調される。

 そこにポーンと魔球がリリスの頭で跳ね返り、勇者チームのコートに魔球が落ちた。

 魔王チームに1点追加。


「あわわ……やっちゃった~……」


 リリスは赤面して両手で顔を覆った。


「……」


 俺やアーチェ、DBはリリスの運動音痴っぷりに愕然とした。

 魔王チームにいるモブの魔物ですら、リリスの姿を見て、頬を赤らめている。――いや、馬鹿にしているというより、見蕩れているような?


「……」

「……あ」


 モブの魔物と目が合った。

 はっとしたように魔物は、魔球を突き刺した槍を掲げ、その場でジャンプすると、槍投げの要領で俺たちのコートに魔球を突き落とした。


 誰も反応できず、また点を取られた……。

 これで相手に追加二点。

 0:5だ。


 点数差がヤバい。


「うぅ……メイガスごめんなさい。私が不甲斐ないばっかりに……」


 アーチェはその場で膝をついた。

 胸の「あーちぇ」ワッペンのせいで深刻さが伝わらないが、アーチェは本気で悔しがっている。


 ――まだ諦めるには早い。


 色々と観察していて、このイビル・バレーとやらの全容がわかってきた。

 このゲーム、戦略の幅が広い。

 まだまだ巻き返すチャンスはある。


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