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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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169話 魔族排球Ⅱ


 檻に近づくと、メイガスの痛ましい様子がさらにありありと見せつけられた。


「メイガス!」


 俺よりも先にコートを横断したアーチェが檻にしがみつく。


「ぐっ……アァアアアア……!」


 何か様子が変だ。

 メイガスが魔物のような呻き声を上げ、真っ赤な目をかっと開いたかと思うと、全身から濃紺のオーラが滾っていく。


「アーチェ! メイガスの様子が――」

「待ちなさい!」


 俺の警告と、DBの警告は同時だった。

 俺もコートのど真ん中で思わず足を止める。


 DBの方を振り向く。

 DBは頭を抱えて首を振っていた。

 俺たちが何かやらかしたと言わんばかりだ。


 直後、コートの自陣境界を示していた白いラインが赤くじわじわと禍々しい光を持ち始める。


「っ……始まったわ!」


 DBはリリスの腕を強引に引っ張り、俺たちの後を追うようにコートに入ってきた。

 二人が着く前に、メイガスが捕らえられた檻から邪悪なオーラが漂う。


「アアアアアアアアア」


 メイガスが蒸発音のような絶叫を上げる。


「どうしたのメイガス! 私がわかる!?」


 アーチェが檻に掴まり、声をかけ続けた。


「きゃ!」


 アーチェは檻の鉄格子に流れていく魔力に手を弾かれ、短く悲鳴を上げた。

 何かが始まろうとしている。


 メイガスの全身から吸い上げられた濃紺色の魔力が鉄格子を伝って檻の上部へ向かっていく。檻の上部には格子で編まれた筒のようなものがあり、そこでギュルギュルと凶悪な音が鳴った。


 凝集された濃紺色の魔力が、球体へ変化した。


「あれは――」


 まるで火球(ファイアボール)

 奇しくもアーチェが此処に来る前に、運営の車に放った魔術と似ていた。

 ただ、色が赤ではなく、濃紺。

 その色調は邪悪で魔性を秘めている。

 便宜的に『魔球』と呼ぶことにする。


 ――その魔球が宙に放たれた。


「何!?」


 アーチェが宙に放たれた球を見上げた。

 俺も魔球の行方を目で追う。

 宙へと打ち上げられた魔球は、高速回転しながらコートを二分するネットを超え、対岸のゾーンへと飛んでいく。

 そこには誰もいない。

 DBが慌ててそのコートの中に入り、例のシリアルコード辞典を開いた。


法典武装(オーバーライトアーム)(ガイア)


 呪文を唱え、DBは両腕に"岩"を纏った。

 文字通りの岩。

 重たそうに正面に構え、さっきホログラムのイメージ映像で見た『レシーブ』の構えになる。


 そこに魔球が襲いかかる。

 貫く勢いで魔球がDBの両腕に飛び込んだ。

 削岩機のような音がコート中に響き、DBが両腕に纏った岩が削られていく。

 ガリガリと轟音を立てながら魔力同士が相殺されていく。――DBも苦痛に顔を歪めている。


 無惨にも、岩は粉塵を捲き散らして消えた。


「あぅ!」


 DBは反動で吹き飛ばされ、コートに倒れた。

 弾かれた魔球は場外へと飛んでいったが、宙に解き放たれた魔球がまた大きく方向を変え、倒れるDBに向かって物凄いスピードが落下した。

 まるで獲物を見つけた鷲のようだ。


「あああっ!」


 飛来した魔球に直撃したDBは、さらに体を跳ね飛ばされ、コート外まで転がった。

 魔球は床にめり込んでいく。

 そこでようやく魔球は動きを止めた。

 魔球は役目を終えたかのように、四角いブロック状に分解されて散り散りに消えてしまった。


「……」


 絶句。

 コートサイドに表示された電光掲示板には、0と1が表示された。

 今ので点数が1点入ったということだろう。

 しかも魔王チームに。

 もう試合が始まってやがる。


「DB! 大丈夫か!?」


 俺は対岸のコートで倒れたDBに駆け寄った。


「まったく……敵陣のコートから仲間が無惨にやられるのを眺める馬鹿と同じチームなんてね」

「それって俺のことか?」

「あと、アーチェもよ……」


 憎まれ口を叩けるなら、まだ大丈夫そうだ。

 DBを抱きかかえて起こしてやる。


「あっちが敵陣だってわからなかったんだよ」

「メイガスの檻がある場所をよく見なさい……。あそこはサーブを放つサービスゾーン。つまり、敵のサーブはメイガスが専属で行うってこと」

「アレが……サーブ?」


 説明で見たサーブと違う。

 選手が打つ健全な配球じゃない。

 弩弓(バリスタ)で石矢を撃ち放つかのような立派な殺傷兵器だ。

 まるで投石機のような扱いである。

 しかも、あの魔球は空中で自律して方向転換していた。


 魔法でボールの動きを変化させられるのだ。

 これじゃあルールなんて端から無いようなもの。


「これが【魔族排球(イビル・バレー)】かよ……」

「生半可な覚悟で挑んだら簡単に死ねるわ」

「DBは知ってたんだな?」

「当然でしょ。〝ゲーム〟なんだから」


 おまけにDBはこうも説明した。

 イベント攻略による獲得アイテムは、分配ではなく全員平等に入手できるそうだ。四人で挑めば、頭数が多い分、当然、高難易度の試合をふっかけられる仕様らしい。

 つまり、四人よりも三人。

 三人よりも二人。

 少ないパーティーで挑めば、まだ簡単な球技を提案されたようである。だからDBはリリスの同行を嫌がったのか……。


「クハハハハハハ! まずは1点! どうじゃ。この(ワタシ)に甚振られる気分は? 心身ともにじわじわと追い詰めていってやるからのう。さぁ存分に楽しめ。妾も愉しい」


 プリマローズが優雅にコートに入った。

 俺たちを見下すように得意げに嗤っている。

 完全にゲームシステムの一部だな、あいつ……。

 これは、DBの言うように挑むしかないかもしれない。


「――アァァアアア!」


 また、サービスゾーンの檻から悲鳴が上がる。


 俺たちの目的はメイガスの救出である。

 そのメイガスが苦悶に満ちた表情で魔力を吸い上げられ、また檻と投石機が合わさったような箱から魔球が撃ち放たれようとしている。

 さっきは敵のサービスエース。

 次も魔王チームのサーブからラリーが始まるようだ。


「アーチェ! こっちに来い!」

「でも目の前に!」

「メイガスを助けるために、この試合に勝つ!」

「……っ」


 アーチェは心苦しそうに檻から離れた。

 リリスは逆にコートから離れたがっている。


「リリスも頼む」

「いやいや……あたしは肉弾戦は苦手だわさ……」


 リリスもDBが魔球にボコボコに叩かれる姿を見て青ざめていた。


「俺でもあんな球を受け止められるか分からねぇ。だからリリスはレシーブするな。こぼれ落ちそうなときに球を打ち上げてくれるだけでいい」

「それすら出来るかわからないんですけどー……」

「……」


 リリスはサキュバスだし、球技が得意そうに見えない。こちらの〝穴〟だ。

 でも試合には頭数が必要だ。

 端からリリスには期待してない。

 三回のタッチで敵陣コートに球を返せばいいのなら、人間兵器が三人いれば十分可能なはず。


「ガァアアアアアアアァア……!」


 二回目の投石(サーブ)が放たれようとしていた。

 プリマローズの両脇に、黒い煙を纏いながら魔物が二人分現れた。これで向こうも四人チームだ。


「来るぞ」


 メイガスの濃紺色の魔力が凝集されていく。


「どうすんの? 誰が受けるのよ?」

「俺だ。DBはさっきのダメージもあるだろ」

「気をつけなさい。筋肉達磨の貴方でも、まともに受けたら腕をへし折られるわ」

「……」


 なんて遊びに巻き込まれちまったんだ……。


ちなみに三人パーティーだと3on3でした。

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