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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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159話 赤髪の魔法少女


 シールを振り切り、リリスを追った。

 ――というより、リリスを追いかけるモロスケを先頭としたプレイヤーの群れをだ。

 大人しくログアウトしておけばいいものを……。


 走り出した俺は、通常のキャラクターの仕様では考えられない速度で街を駆け抜け、あっという間にモロスケたちに追いついた。

 追い越し際に、手慣れた【抜刃】を駆使して剣を手にし、一瞬でプレイヤーたちの足を切り裂き、行動不能にした。


「あぁあああああっ!? なんだ!?」

「街でダメージ受けるってどういうことだよ!」

「バグか!?」


 プレイヤーたちは一斉に転ぶ。

 雪崩れ込むように倒れると、プレイヤー同士が重なり合って。奇妙な絡まり方をして身動きが取れなくなっていた。


「兄貴じゃないっすか!?」


 モロスケが俺に気づく。


「悪いけど、このサキュバスは諦めろ!」

「あ、え……。ええ。兄貴が言うんなら……」


 一応、俺への恩は忘れてなかったようだ。

 俺はそのままリリスに追いついた。


「もう少し走れるか?」

「えっ……? う、うん……!」

「このまま人目のない場所に向かうぞ」


 リリスは、ただでさえ目立つ。

 プレイヤーに見つかれば、一瞬でサキュバスだとバレるだろう。


 俺はリリスの背中を支えながら、路地裏まで寄り添いながら抜けた。

 そこは店などもなく、普段からプレイヤーの通りも少ない場所だった。ゲーム上、街並みの設計で余ってしまったデッドスペースのようだ。


「ここまで来れば大丈夫だろう……」

「はぁ……はぁ……。災難だわ。なんで人間ってあんな風に、急に襲ってくるんだろう」

「倒せるもんは片っ端から倒す発想なんだろ」

「そりゃひどいわねぇ」

「ゲームなんだから、そんなもんだ」


 リリスはうんざりしたような目で空を仰いだ。


「プレイヤーの反応がよくわかったろ。装備を変えられるなら目立たない格好に変えた方がいい」

「うう……。生まれてこの方、この一張羅だから、服装を変えるなんて、ちょっと抵抗があるわね」


 とはいえ、リリスを衣装屋に連れていく間に、また他のプレイヤーに見つかって狩りの対象にされる可能性があるか……。


「俺がローブか何か買ってくるから、リリスはそこの茂みにでも身を隠して――」


 街の片隅にある背の低い雑木の茂みを指差す。

 そのとき、ちょうど壮絶な音がした。


 ――ズシン。


「あぁ?」


 何かが落ちたような音だった。

 だが、空から何か降ってきた様子はなかった。

 なんだろうと思って様子を見に行くと、茂みの緑の中に赤一色の女の子が倒れていた。

 髪の色も制服のような衣装も赤く、一目で誰かいるということがわかった。


「うわっ。大丈夫か? ――って、プレイヤーか」


 こんな所でプレイヤーが倒れているというのはどういう経緯なのか理解できないが。


「どうしたの?」

「女の子が倒れてる」

「へ? ……あっはは!」


 なぜかリリスは急に吹き出した。


「なんで笑うんだよ」

「だってさ、ソードさん。女の子が倒れている状況になんて、なかなか遭遇しないよ。普通に〝倒れてる〟だって! ほんと退屈しない」

「こっちも好きで見つけたわけじゃねぇ」

「だからよ。余計にウケる」


 勇者の宿命だろうか。

 犬も歩けば棒に当たるように、勇者も歩けば困った人に当たる。

 見つけてしまったらスルーすべきじゃない。

 しかし、俺たちも状況が状況だ。


「放置しよう」

「えっ? それも酷くない?」

「どうせゲームの世界だ。NPCなら助ける必要はないし、プレイヤーだとしても放置して死ぬわけじゃない。街中だし、モンスターもいない」

「はいはいはーい」

「お前は別!」


 リリスが手を上げてからかってくる。

 確かに、既に『パンテオン・リベンジェス・オンライン』は普通のゲームではない気がする。

 対応を決めあぐねていると、


「う、うぅ……」


 赤髪の女の子が呻き、腕を動かした。

 起きようとしている。


「この子、プレイヤーじゃないかな。NPCの反応じゃないよ」

「だったら尚更――」


 赤髪の女の子が地面に腕をつき、体を起こす。

 顔を上げて、俺たちを見上げた。

 目が合う。


「な……」

「うん? 知り合い?」

「いや知らないが……誰かに似ている」


 赤髪の女の子は、ツインテールだった。

 魔術学校の女子制服のような服を着て、腰に魔術ロッドのようなものも装備している。

 魔法使いの見習いのような印象だ。

 しかし、どこかで見たことがある……。


「あっ……つぅ……うう」


 背中を庇うように女の子は起き上がった。

 傷は見当たらないものの、背中が痛いようだ。


「あんた、大丈夫か?」

「えっ……そ、ソード! ソードじゃない?」

「おお。俺を知ってんのか」

「当然でしょ。私よ私」

「いや誰だよ」

「というかソード、なんか大きくない? ……って私が小さいの? なんでよ!?」


 自分の出で立ちに混乱している赤髪の少女。

 その口調や〝赤髪〟という特徴から、思い当たる人物が一人いた。


「もしかして……アーチェか?」

「そう! なんでわかんないの!? っていうか私なんでこんな格好してるの」

「ここが『パンテオン・リベンジェス・オンライン』の中だ。お前は今ゲームのアバターの状態でここにいる。俺やシールも少し容姿が違うんだ」

「くっ……こんな少女趣味な格好、屈辱だわ」


 仕草は完全にアーチェのままで安心した。

 アーチェと合流できたことは幸いだが、そうとすると何故彼女がここにいるのかという疑問が浮ぶ。

 俺と同じように、意図せずゲームに取り込まれたのだろうか。


「ったく最悪よ……。あの男、私を殺そうとした」

「あの男? 現実世界で何かあったのか?」

「ええ。ソードも知ってるでしょ。魔術相談所の青髪の男。あんた、そこで働いてなかったっけ?」

「――ロア」

「そう。あいつに殺されかけたわ」

「……」


 詳しく話を聞く必要がありそうだ。


 リンピアの方は信用できると感じていただけに、その仲間であるはずのロアの挙動が解せない。

 一方で、あいつならやりかねない、という確信があるのも事実――。


 俺を嫌っているようでもあった。

 人間兵器全員を毛嫌いしているのだろうか。


 シールとリンピアとも逸れたばかりで、関係に亀裂が入ってしまったし、今までの仲間の関係性が少しずつ変わってしまっている気がする……。

 ゲームの思惑だろうか?


 ――にしても、ロアのことは残念だ。

 どういうわけか、俺はあいつを〝間違った判断をしないタイプ〟の男だという、ある種の信頼みたいなものがあった。

 信用はできないが信頼はできる、って感じだ。

 どれだけ冷酷で非道な結末でも正義や正解を選びそう、という印象がある。


 そんな奴がアーチェを殺そうとした意味は……。


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