155話 ◆パンジェス総合掲示板
アーチェ視点
ソードたちが監獄島に挑む数時間前。
現実世界の人間兵器たちに、別の動きがあった。
ラクトール村の公衆端末で、二号はインターネットに接続して『パンテオン・リベンジェス・オンライン』について調べていた。
シズクからの連絡で、ソードたちがゲーム世界に取り込まれたという話を聞いた。
六号と真っ先に会いたいアーチェとしては、理不尽さすら感じる状況だ。
「なんで私がこんな役回りに……っ」
下唇を噛みながら指でキーボードを弾く。
想い人に早く会うためにも、急いで情報を調べ、ソードの後を追いたいところだった。
しかし、メガティア社は所在地を調べても容易には出てこない。
問い合わせフォームもメールのみだ。
運営会社が子会社なら、親会社や経営母体が別にあると考え、そちらも調べてみるが、いまいちはっきりとした情報に行き当たらなかった。
ほんの些細な情報でもと考え、公式ではない掲示板や攻略サイトなどを辿っていくと、気になる記事を見つけた。
『【悲報】プリプリさん、魔王城イベ開催と同時に謎の配信休止【パンジェス】』
プリプリとは、言わずと知れたプリマローズ・プリマロロの渾名である。それがネットの記事になっていることに疑問を抱き、閲覧した。
「プリプリちゃんねる? なによそれ」
ざっと記事を読むと、『魔王プリプリのゲーム実況ちゃんねる』という動画配信チャンネルの更新が突如として停止し、全世界三千万人いるという彼女のファンが悲しんでいるそうだ。
現代におけるプリマローズのゲームへのこだわりは感じていたが、ネットでこんな活動をしていることを、アーチェも初めて知った。
彼女にはカリスマ性はあるため、ファンが多いことは、ある意味では元魔王らしい。
スクロールして記事を読み進めると、魔王城イベントのロゴシルエットと、配信者プリプリの類似性が指摘され、彼女をイメージする『薔薇』がイベントタイトルに含まれていることからも、プリプリと今回のイベントの関連性が言及されている。
大がかりな案件である説が支持されていた。
「なるほどねぇ……」
魔王城にトラウマのあるアーチェとしては、あまり良い気分ではない。
メイガスに関する情報もあるかと思ったが、それらしい情報は出てこなかった。検索範囲を広げ、『人間兵器』や『勇者』といったワードも加える。
すると――。
『【チート疑惑報告板】パンジェスに出現した剣の勇者さん(悪党)』
閲覧すると、魔王城イベントの関連クエストである『廃校』フィールドを、ものの10分でクリアした猛者が現れたという情報がスクリーンショットとともに晒されていた。
報告したプレイヤーは実際にそのチート疑惑プレイヤーに接触したそうだが瞬殺され、その直前のスクリーンショットまで撮っていたらしい。
そこにはソードと似た男が、禍々しい剣を構えて振りかぶる瞬間が収められていた。
「ソードじゃない! 何やってんのよ、あいつ」
アーチェは呆れを通り越して焦りを感じた。
ソードに任せていては、いつまでもメイガスに辿り着けないのではないかと不安に思ったからだ。
「私もそっちに行きたいわね……。うーん」
しかし、この怪事件において現実世界に残るメンバーが必要だとはアーチェも理解していた。
事情を知る自分が、リアル側からサポートできることはたくさんある。
「あ、そうだわ」
他に頼れそうな人間兵器がいることを思い出す。
ひとまずプライミーで連絡を取って報酬をチラかつかせておけば、多少の働きはしてくれそうだ。
彼は、この世の沙汰は金次第という、わかりやすい金欠勇者である。
『ん……? これは……?」
仲間への連絡のために個人端末を片手で操作しながら、ページ下部にスクロールしていると、あるコメントの書き込みに目が留まった。
『青色掃除屋 さん:
そのチーターに心当たりがある。調べてみたが、運営がその男を担いでいる可能性がある』
『>>返信
どういう意味だよ。ゲームマスターか?』
『 >>返信
詳しくは話せない。専門の事務所に相談中だ。このイベントが出来レースなのではないかと疑っている。ユーザーに不利益を被らないように、運営の悪事を暴きたいと思っている』
『 >>返信
専門家っぽい人キター!』
書き込みはそんな内容だった。
意味深な発言も相まり、そのコメントだけ、他の閲覧者からのリアクションが多数寄せられている。
「専門の事務所か。ふーむ」
アーチェにも一つ心当たりがあった。
もしかしたら、メガティア社の所在地も既にその事務所が押さえている可能性があった。そもそも書き込み内容から察するに、その事務所の人間が直接書き込んだようにも思う。
「ダメ元で行ってみようかしらねぇ」
公衆端末を落とし、ラクトール村を後にする。
向かうべきは、ハイランド王都だ。
知り合いのアークヴィランハンター仲間には、今見た情報も含めて、追加のメッセージを送った。
二輪のアーセナル・マギアの駆動音が深夜の平原に駆け抜けていった――。