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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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152話 監獄島の夢魔Ⅱ


 今まで他のプレイヤーと比べて不便な点が目立ったが、もしかしたら、ゲーム世界に入り込んだ俺やシールにも利点があるかもしれない。

 それは、ゲームシステムを無視した行動ができるという点――。


 通常のユーザーなら破壊不能オブジェクトとされるものは、どんな強い攻撃を加えても破壊することはできない。だが、


「なぜオブジェクトが壊れて……。やっぱり兄貴、チート……?」


 モロスケが破壊された扉を見て首を傾げている。

 俺みたいにゲーム世界が現実のものとなった存在には、現実と同じようにオブジェクトも破壊できるようだ。

 これは使える――!

 しかし、他のプレイヤーの疑惑の目には注意しなければならないだろう。


「誰が脱出させてやったと思ってるんだよ?」

「あっ、す、すいやせん!」


 一瞥くれると、モロスケは背筋がぴんとなった。

 他のプレイヤーはまだ脱出に苦戦していて、個々の牢屋で右往左往している。


「このクエストはタイムアタックなんだろ? 今のうちに一番で脱出するぞ」

「へいっ!」

「あと、このフロアには野郎しかいないみたいなんだが、俺は他のメンバーと合流したい。心当たりはないか?」


 シールもリンピアもまったく別の場所にいるのかもしれない。


「初クエストなんで、オレもどうにも……。ただ、夢魔がボスという情報なので、男キャラクターはサキュバスが、女性キャラクターはインキュバスが敵になるんじゃないでしょうかね」

「まぁそうなるよな。やっぱり」


 モロスケの考察は、俺の見解と同じだった。

 同じフロアに居ないことがほぼ間違いない。

 それならば、もう牢屋のフロアを出てもよさそうだ。俺とモロスケは二人で階段を探した。


 廊下を駆け抜けると突き当たりに階段を発見。

 俺が迷わず下に行こうとすると、モロスケが立ち止まっていた。


「どうした? 早く来いよ」

「いえ兄貴……。その先、行けないッス」

「行けないってなんだよ。階段は続いてるぞ」

「進もうとしても進めないんスよ!」

「……」


 モロスケが階段を下りようと走るが、その場で前傾姿勢になって足踏みし始めた。

 これももしかして――。


「そうか……。またゲームシステムか」


 通常のプレイヤーは移動を制限されているのだ。

 おそらく、この階段も、上にしか行けない――すなわち、上へ進むように開発者が示唆しているということだ。


「兄貴~~! オレはどうしたらーーっ!」

「……」


 足踏みして必死に階段を下りようとするモロスケを冷静に眺める。


 ここで俺も他のユーザーと同じように、上を目指してもいいが……。

 というか、上に行かないとゲームシステム的には攻略(脱出)できないということなのだろう。

 でも俺は、この下に重要な何かがある気がする。

 そもそも脱出しろと言われているのに、監獄の上を目指すっておかしいだろう。脱出するなら、下に向かって地上から逃げるのが普通だ。


「モロスケ。悪いけど、俺は下に行く」

「えっ」

「お前は上に行ってみてくれ」

「兄貴! 置いてかないでくれっ」



 装備は一流なのに、情けないこと言うな。

 せっかく返してやったというのに。


「お前には背中の最強の剣があるだろ……。それで無双しておけよ……」

「そんなぁ~! つれねぇッスよ!」

「大丈夫大丈夫。サキュバスに会ったら、あいつら雷撃に弱いから、魔法で攻撃しながら牽制して剣で刺し続ければ、そのうち倒せるぞ。間違っても炎とか土とか、反動の大きい魔法は当てるなよ。物理衝撃を反射させてくるから」

「なんか兄貴、詳しいっすね」

「そんな気がするんだ」


 サキュバスとは勇者全盛時代によく戦った。

 物理攻撃や爆裂系魔法に耐性が強いから、俺やシール、ヴェノムは苦手な相手だった。昔の性質のままだったら、サキュバスやインキュバスの弱点もわかったようなものた。


 俺はモロスケにアドバイスした後、すぐ階段を駆け下りていった。

 あるいは、行き止まりも覚悟していた。

 だが、意外と階段を続いて、駆け下りるにつれて冷気が漂うようになっていた。


 だいぶ下層まで下りてきたとき、頑丈そうな扉が目の前に立ち塞がった。

 階段はその扉の前で終わっている。


「ここは……」


 他プレイヤーが入り込めない場所に、謎の扉。

 開発者専用の部屋なのだろうか。

 俺はその先に可能性を感じて、ドアノブに手をかけた。


 ――ガチャリ。鍵などはなく、普通に開いた。


 開いたとなれば躊躇う必要はないと、俺は勢いをつけて扉を開け放った。

 そこに、寛ぎのリビングルームがあった。


「え……?」


 それまで物々しい雰囲気だった監獄とは裏腹に、その部屋は柔らかそうなソファや花柄のカーテン、ウッドテーブルなど、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「なんだここは」


 雰囲気が一変したことに逆に恐怖心を抱き、俺は慎重に中に入っていった。

 ソファの上で誰かが寝ていることに気づいた。


「すぅ……すぅ……」

「……」


 ゆっくり近づく。


「すぅ……」

「って――」


 ソファに寝ていたのは、露出の多いボンテージファッションを纏う金髪美女だった。

 紛れもなく、サキュバスである。

 サキュバスが、寛ぎの部屋のソファで寝ていた。


「おい」

「すぅ……うう……うーん……」

「おい起きろよ、お前」

「だめぇ……あと五分……」

「起きろーー!」

「ふぇっ!?」


 サキュバスは飛び起き、瞼をこすっている。

 眠そうだ。

 クエストのボスとは思えない雰囲気。


「え……? 誰? 運営さん、じゃないよね?」

「運営さん?」


 サキュバスも戸惑っていたが、それは俺もだ。

 そもそもこの部屋はなんだ。

 どう見ても監獄に相応しくないだろう。


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