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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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149話 虹の瞳Ⅱ


「さて、ここからが瞳の色の答えです」


 リンピアは、身の上を話して信用してもらえたと思ったようで本題へ移った。


「守護者の存在はお話した通りです」

「それは、とりあえず信じよう」

「ありがとうございます。――実は、かく言う私も、元々は守護者という立場ではなかったんですけど……そのロアくんと誓いを交わして……」


 リンピアが頬を染めながら目を泳がせる。


「誓い……?」

「は、はい……」

「どういう誓いだ?」

「あっ、そ、それ聞くのは野暮ってやつじゃないですか!」

「……」


 おいおい。のろ気話を聞きに来たんじゃない。


 シールの目も、なんとなく白んでいた。

 なんだかゲーム世界に入り込んでからというもの、シールはこういった痴話に敏感に反応を見せる。


「あっ……こほん。とにかく、ロアくんと血の盟約を結んだことがきっかけで、私も不死の守護者となったのです。ロアくんが守護者一族で、彼との『血の盟約』の影響です」


 慌てて取り繕うリンピア。

 惚けていたことの醜態を誤魔化そうとしていた。


「あいつが守護者の一族ねぇ」


 あんな無愛想な奴に守られたくないが。


「そしてケアさん――今はDBさんと呼ばれる彼女も、人間兵器になる前は〝守護者〟という立場でした。(・・)守護者ですね、彼女は」

「ふーん」


 世界の守護者は、みんな漏れなく皮肉屋か。

 そんなシニカルな現実世界は嫌だ。


「あぁそれで」


 シールが口を開いた。

 何かに気づいたようだ。


「おわかりですか?」

「その虹の瞳は、守護者の証明の一つってこと?」

「その通り! さっすがシールさん!」


「……は?」


 理解が進むと、理解できないことも増える。


「待て。あの教会のイベントサポーターが、世界の守護者の一人だと云いたいのか? 今は人間兵器のDBだって、瞳は虹色じゃない。俺たちと同じ赤い瞳だ」


 しかも、あのイベントサポーターも変だ。

 普通に声かけても、あぅあぅしか言わないんだぞ。

 犬か。世界の守護者は、犬か。


「DBさんは元・守護者ですから。あそこの教会にいるイベントサポーターは、人間兵器になる前の、守護者としてのケアさんなのではないですかね? ……と、私は予想してます」

「……?」


 リンピアは得意げに推理を披露するけれど、その実、謎は一つも解き明かせていない。


 ケアが人間兵器五号となる前。

 あいつが昔は〝守護者〟だったとして、それが現代のゲーム『パンテオン・リベンジェス・オンライン』のイベントサポーター役として配置された理由はなんだ?


 マモルの話によると、イベントサポーターも俺たちがゲーム世界に来てから、すり替えられたようだし。

 一体このゲームの中で何が起きてやがる。

 底知れない強大な敵を感じさせる。


「このゲームという仮想世界、とても不安定です。元々はプログラムでしかないものが一つの〝世界〟になり始めた。私もこんな体験は初めてですが……」


 リンピアは固唾を呑む。


「これも、新たな並行世界なのでは、と――」


「……」

「……」


 俺やシールは唖然としていた。


 それは、リンピアの最初の話に立ち替わる。

 遙か昔の厄災を機に、世界が複数に分岐してしまった。

 並行世界が存在するのだと。

 ――『パンテオン・リベンジェス・オンライン』も、その並行世界の一つになろうとしている、と言いたいのか?


「いやゲームだぞ? たかがゲーム。子どものオモチャだ。それが並行世界だの、世界分岐だの、なんで小難しい話になるんだ? オモチャはオモチャで終わりじゃないのか」

「でも現実、私たちはゲーム世界に取り込まれたよ」


 シールが呟く。


 起こった事実を踏まえても、筋の通った推理ではある。

 さすがリンピア。相談事務所の所長。

 名推理かもしれない。

 ただ――。


「誰の仕業でそんな……」

「メイガス?」


 シールが答える。

 可能性としては、ありえなくない。

 アークヴィランの仕業か、魔素によるものか、はたまた人間兵器の仲間の仕業か。



 ――"ああ、九回目のこと? 気にしないでよ! 確かに僕はやられちゃったけど、おかげですごい発見ができそうなんだ"



 下水道のGPⅩを通じて会話したメイガスは、そんなことを言っていた。

 あのときの『すごい発見』が何なのか。

 もしかしたら、この並行世界の存在のことだろうか。

 とすると――。


「メイガスも魔素にやられちまってんじゃねえか……?」

「うん。私もそんな気がする」


 元から暴走しがちな魔術オタクだった。

 しかし、ゲームの中にまで別の現実世界を作り上げようというのなら、それはやりすぎだ。

 ある種の侵略行為とも云えよう。

 現実世界を支配するのではなく、新たな世界を作り上げることで現実に侵食する世界征服。現に、このゲームを遊ぶプレイヤーの中には、のめり込んで現実に戻れなくなるような廃人までいる。


 だとすれば、アークヴィランとしての侵略が、電脳世界で水面下に繰り広げられているとも考察できる。


「止めねえとな」

「うん。メイガスを探そう」


 パペットの事例もある。

 メイガスが同様に暴走しているとすれば看過できない。

 アーチェとも早いところ合流して、力を借りたいところではあるが――。


「二人とも、まずはアレを……」


 リンピアは街灯の先に見える塔を指差した。

 そこにはイベントフラグが立てられ、



『期間限定魔王討伐イベント

 【激戦!! 魔王城プリマロロ攻略戦線!!

  ~勇者求む! 湖城に咲く紅き薔薇の棘~】』



 のイベント名が刻まれている。

 リンピアの言う通り、メイガスを探す宛てがない今は、まずプリマローズに接触することで手がかりを追う方がいいだろう。


「結局やることは一つね」

「おうよ! ポイントを稼いで討伐イベントに出る!」


 決意を新たに、拳を高らかに空へ掲げた。


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