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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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146話 中間考察


 シズクとマモルの二人の誘導によって、俺たち三人は教会へと導かれた。


 曰く、その教会には『イベントナビゲーター』なるNPC――中身がなくプログラムされたキャラクターというのが存在するようだ。

 その人物に話しかければ、イベント挑戦のための保有ポイントや次回のポイント獲得クエストの内容をアナウンスしてもらえるらしい。



「ここって……」


 バーウィッチの町外れにある教会。

 そこは、小さいながらも雰囲気は王都の『タルトレア大聖堂』の風格を模していた。


「懐かしいな」


 それは現実世界でも、遙か昔、貿易都市バーウィッチにあった教会の東方支部そのままなのである。


「懐かしい? 懐かしいで済む話じゃないよ。街だけじゃなくて教会まで一緒なんて、どう考えたって変。当時を知る誰かが作ってるとしか思えない」


 シールが動揺している。

 小柄な青髪の少女は、まるで妖精のようである。


「きっとメイガスだろ? あいつが作ったんなら、安心してこの雰囲気を楽しもうぜ」

「本当に大丈夫かな……」

「なんで不安に思うんだよ」

「もしメイガスがこのゲームを作ったとして、どうして私たちをゲーム世界に閉じ込めたの? プリマローズのことだってそう」

「……」


 言われてみれば、確かに。

 考えられる可能性は二通りある。


 一つ。

 メイガスが助けを求めて俺たちを呼んだ。

 何かが原因で今は接触できず、どこかで待っているとか……。その何処かというのが、魔王城プリマロロのような気が、俺にはする。


 二つ。

 メイガスが悪意をもって俺たちを閉じ込めた。

 その場合、プリマローズを消した犯人もメイガスの可能性が高く、さらにそれはアークヴィランの魔素に精神を支配され、星の侵略を始めた前兆かもしれない。


 ――しかし。

 俺は一度、メイガスと王都下水道で接触した。

 あの水路の門に何故、ゲーム機『GPⅩ』が備え付けられていたかも謎なのだが、あの時のメイガスは魔素に乗っ取られているように感じなかった。


 いやいや。

 でも、パペットの事例はどうだ?

 パペットだって最初の接触では、記憶がないとはいえ、まったく憑依(ヨリマシ)化が進んでいるように見えなかったではないか。

 そう考えるとメイガスも既に……?


「わからん。考えれば考えるほど分からねえ」

「そう。わからないことだらけなんだよ」

「プリマが最初にゲーム世界に取り込まれたってことは、アークヴィランが絡んだ話である可能性は高いと思ってる」

「そうだよね」


 プリマローズのような魔族は、アークヴィランにとって一番に排除すべき星の覇者だ。

 手の届く範囲にプリマローズがいれば、本能的に殺しにかかるだろう。


 『パンテオン・リベンジェス・オンライン』がアークヴィランの息がかかったゲームならば、魔王を殺すために誘い込んだと考えていい。

 現にプリマはイベントの討伐対象にされている。


「でも、それだと私たちまでゲーム世界に閉じ込めた理由がわからないよね?」

「あぁ……。それなんだよな」


 情報が少なく、今の段階では考察しきれない。


「キャラクリエイトができて自由にアバターが作れる世界で、私たちだけが現実の姿と似た状態で呼ばれたのも意味がわからないし。それに、それを言えば――」


 シールは後ろを振り返った。

 俺たちは『時を刻む少女』の誘導で教会に向かって歩いているのだが、そのさらに後ろをリンピアも着いて歩いている。

 シールは彼女に怪しむ目つきを向けた。


 リンピア・コッコ。

 この女に関しては、さらに特例だ。

 魔族でも人間兵器でもないのに、どうしてゲーム世界に閉じ込められたのだろう。

 それも、現実世界の姿と寸分も変わらぬ姿で。

 俺たちですら若干の違いがあるというのに――。


 シールはそれを怪しんでいるようだ。

 確かに異質な存在ではある。


「一応、警戒しといた方がよさそう」

「……」


 リンピアのことは、俺も変に感じている。

 魔術相談所で面接を受けたときにも、人間兵器の立場を理解している雰囲気だった。

 ロアという唐変木のような男もだ。

 現代では学べないという古典魔術を使い熟せるというし、この状況でも飄々としている。

 信用できるかどうかは慎重に判断した方がいいだろう。


 ――でも、何故だろう。

 この女は信用してしまえる。

 当てにならない直感でしかないが。

 何より、リンピアは俺たちよりもよっぽど人間くさい。それがアークヴィラン特有の能力だとしたら騙されたものだが。


「せめて、他にも仲間がいればね」


 三号(シール)はそんな風に呟いた。

 相談できそうな相手は、一緒に六号(メイガス)探しを望んでラクトール村まで着いてきた二号(アーチェ)か。

 報酬さえ出せば七号(ヴェノム)も駆けつけそう。

 四号(パペット)は劇団で穏やかに過ごしているし、今は休んでてもらいたいところだ。

 ヒシズとの王都復興を邪魔したくもない。

 他に誰かいただろうか?


「頼れそうなのは、アーチェかヴェノムだな。念のため、現実世界での実働部隊もキープしておいた方がいいかもしれないが……」


 教会の扉前まで来て、先に入っていった『時を刻む少女』の後を追う。

 シールが先に入り、俺も続いた。

 夜の帳が降りる中、教会の中は壁一面のキャンドルが煌々と内部を照らしている。


「まずはアーチェだな。あいつはメイガスに会いたがっていたし、すぐこっちに――」


 言いながらシールに並んだのだが、シールは驚いたように教会奥を見ながら立ち止まっていた。


「どうしたんだよ?」

「あ、あそこに……」

「うん?」


 シールが指差した先、そこに講壇があった。

 小さな教会支部であるため、大聖堂のような司教座まではなかったが、女神像と台座はあり、その近くに講壇が据え置かれている。


 立っていたのは、薄紫色の髪をした少女。

 黒の修道女服に身を包み、ぼうっとした雰囲気はそのままだった。


「え……? DB、だよな?」


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