144話 湖城への転移門
モロスケの案内で、魔王の湖城へワープできるという転移ゲートに連れていってもらえた。
曰く、転移門に話しかければ、ウィンドウが開くという。
まずウィンドウを開いてみるように言われた。
「は……? 門に話しかける?」
「そっす。○ボタンで」
「意味がわからないんだが」
「コントローラーの○ボタンっすよ」
「……」
この無機物に、話しかけろ、というのか。
どんな間抜けな
まずコントローラーがない。
生身でゲームに入り込んだ俺やシール、リンピアには理解しにくい動作である。
「モロスケ、俺たちは実は……」
事情を説明しようとしたところ、シールが、
「こんにちは」
「話しかけんのかーい」
普通にシールは、門という無機物に話しかけた。
「だって話しかけろって言ってるから」
さすが工作員と謳われる女。
変装も得意で、こんな茶番を演じることにも躊躇しないというのだろう。
今回【蜃気楼】が使えないのは心許ないが……。
俺もシールに倣い「こんにちは」と言ってみる。
なんだか小っ恥ずかしい。
すると、門が急に喋り始めた。饒舌に。
『ここは転移ゲートです。魔王城プリマロロのイベントクエストに挑戦しますか? 獲得イベント挑戦ポイントに応じて湖城へのルートを選択できます。ルートを選択してください。①魔王城へダイレクトワープ。消費ポイント100000。②空路を経由。消費ポイント30000。③航路を経由。消費ポイント20000。④陸路を経由。消費ポイント10000。
――です』
「え? ちょっと待て。早口で聞き取れねえ」
「ソード……多分これ、さっきの廃校での戦いで表示されていたポイントのことだと思うよ」
「そういえばメッセージが出てたな」
廃校の屋上でモンスターを倒した直後、ファンファーレとともに頭上でメッセージが表示された。
「俺たちは何ポイント持ってる?」
「わからないけど、わりと貰ってた気がするから、それで魔王城に直接いけないかな?」
確かにボーナスが色々表示されていた。
ちゃんと見てなかったから、トータルで何ポイントかわからないが。
「じゃあ、①の魔王城で」
①が魔王城って喋ってたのは聞こえたから、そう答える。
『残念ながら必要ポイント数に達していません』
「え? じゃあ②」
『残念ながら必要ポイント数に達していません』
「なんだよ。じゃあ――」
俺が続けざまに③と言おうとしたとき、シールにどんと小突かれ、言葉を止められた。
「待って。ソードが適当なルートでイベントに参加しちゃったら、私やリンピアと保有ポイントに差があるかもだし、別行動になる可能性が……」
「そうか?」
リンピアの方にも振り返り、目配せした。
「えー……、私は本当に廃校では何もしてなかったので、多分ポイントは溜まってないかと」
「チッ、確認する方法がないってのが厄介だ」
俺たちのやりとりを見ていたモロスケや時を刻む少女が訝しげな目を向けていた。
「兄貴ぃ、セレクトボタンを押してメニューを開けば、イベントタブでポイントが確認できますぜ」
「いや、俺たちはできないんだ」
「それは、一体どういう……?」
「話しても伝わらないかもしれんし、説明しても仕方ねえ。触れないでくれるか?」
モロスケは腑に落ちない様子だったが、深くは聞いてこなかった。
別に事情を話してもいいが、一般プレイヤーを巻き添えにして、また運営に通報でもされたら、メガティア側に動きが悟られて、不利な状況に陥る可能性だってある。
「まぁいいっす。兄貴、ポイント足りないならポイント獲得用クエストを周回するしかねえっすよ」
「さっきの廃校のやつか?」
「っすね。でもアレ、夜イベなんすよ」
「夜イベ?」
モロスケの解説は、独自の略語を使っていて、素人にわかりにくかった。
ただ、色々聞いた結果、状況が理解できた。
廃校でのパーティー対戦は、現実の夜二十時から二十一時の一時間だけの「夜専用」らしい。
次のポイント獲得イベントは朝開催だとか。
まだ現実時間で半日はある。
「オレもそろそろ飯落ちっす。ママが待ってるんですみません」
「ま、ママ?」
モロスケは強面の風貌に似合わず、ママなどと言い出した。
この男、中身は何歳なんだろう。
特注装備の剣のことも気になるし、年齢不詳だ。
「少女はどうする?」
モロスケは時を刻む少女に問う。
黙りだったら魔法少女風のキャラクターが見上げて、首を振る。
「ぼ、ボクはインベントリ整理してから落ちるよ」
「そうかい。んじゃあまた明日な。お疲れ」
マリンは今日初めて知り合ったらしいが、この二人は以前から見知った間柄のようだ。
モロスケ軽く挨拶すると、すっと消えていった。
ログアウトしたのだろう。
俺たち生身三人は取り残され、どうしていいかわからなくなる。
ひとまず次の朝まではゲーム慣れするためにも、街の探索をしてみるか……。
「あの、ソードさん、ですよね?」
時を刻む少女が恐る恐る俺に声をかけた。
マリンに続き、俺のことが知る存在が現れた。
しかし、俺の方はボクっ娘少女のことなど知らないんだが……。
「ぼ、ボクです! マモル・クーノダです!」
「え……マモル?」
「はい!」
なんで魔法少女風なんだ、お前?