140話 ポイント争奪PvPⅡ
銃撃の音はどうやら外から聞こえてくる。
屋上にいけば、外の様子もわかるだろうということで、俺たちは階段を目指した。
すぐ階段が見つかり、そこをずっと上まで駆け上がっていくと、屋上の扉を見つけて蹴破った。
少し怪力になっている気がする。
今のところ【抜刃】の使用は確認できたが、【狂剣舞】は使えなさそうな気がする。安全が確保できたら、もう少し自分の戦力を検証したいところだ。
「ソード、頭下げて」
「おう」
低姿勢で匍匐するように屋上の端まで移動した。
そこから下を覗き込むと、校庭のような場所で暗闇の中、煌々と火花が咲く様子が見てとれた。
まさに交戦中だ。
銃撃し合っている勢力は、数名で編成されたパーティー二つで、校庭にある遊具や木の物陰から銃を撃ち合っているようである。
「見える……?」
「暗くてよく見えねえ」
「今の私なら、ちょっと夜目が利くみたい。若い子どもたち十人くらいが、銃で撃ち合ってるね」
シールの説明によると、アーチェやヴェノムのようにハンター風のアーミー衣装に身を包んだ少年少女が戦っているらしい。
子どもが戦うとは、これまた異様な光景だ。
銃撃戦は、いよいよ片方のチームが一人撃たれて劣勢になり、もう片方が制圧する結果で落ち着いた。
勝ったチームの面々は嬌声を上げている。
負けたチームは地面に倒れて死んだ状態だ。子どもが死んだのだ。普通なら罪悪感など芽生えてもいいはずなのに、勝ったチームの子どもたちは気にする様子はない。
「殺伐としてるな……」
「ソード! あれ見て!」
シールが指差したのは上空だった。
そこに急に大きな文字が浮かび上がる。
【 おめでとうございます!
勝者『崖の谷のスカイ@対よろ』チーム!
各プレイヤーにスキルポイント+2
リーダーの丸刈りぽっぽさんにイベント挑戦ポイント+2000
他メンバーにイベント挑戦ポイント+500
が付与されます】
そんなメッセージがテロップのように空をぐるぐると回りながら、派手なファンファーレを鳴らしている。
しばらくすると、敗北した子どもたちは、小さなブロックに細分化されて、ぱっと消失した。
勝ち残ったチームは子どもたちの死体が残していった武器や弾倉を回収している。
「…………」
「…………」
俺もシールも言葉が出なかった。
ただ、一つ確信を持ったことは、ここが間違いなくゲーム世界であるということ。
どうやらチームで対戦をして、ポイントを稼ぐような仕様であるということだ。
「これが『パンテオン・リベンジェス・オンライン』? やけに過激なゲームみたいね」
「どうだったか――」
未プレイだが、パッケージは見た記憶がある。
確か七人の人間兵器をモチーフにしたファンタジー色の強いゲームデザインだった気がするが……。
銃撃戦中心のシューティングゲームではなかったような。
「とりあえずもう少し観察ね」
「ああ……。勝ったチームの後を追えば、プレイヤーがたくさんいる場所に合流できるかもな」
勝者チーム『崖の谷のスカイ』の面々は、周囲のドロップアイテムを回収していた。……にしても崖なのか谷なのか空なのか、所在地のわかりにくいチームだ。
――バタン!
校庭の観察を続けていたのに、急に背後で扉が盛大に開け放たれる音が聞こえた。
びっくりして振り向く。
屋上の扉は開かれていた。
奥の階段は暗がりでよく見えない。誰かがやってきたのかと思ったが、一向に扉を開けた主は姿を見せない。
「……?」
シールと顔を見合わせる。
その直後、血色の悪い手だけが扉の縁を掴んだ。
「ウゥゥゥゥ」
屋上に姿を見せたのは、目をぎょろぎょろさせて、涎を垂れ流しながら現れたゾンビみたいな人型のモンスターだった。
「なに、あれ」
「魔物の類いじゃねえか? 本当にここがゲームの中なら、プレイヤーに攻撃するようにプログラムされたモンスターだと思うが」
「でも、さっきの校庭で戦ってた子たち、プレイヤー同士で対戦してたよね? なんでこっちはモンスターが出てくるの? しかも突然」
「んなこと俺が知るわけねぇだろ」
ジャンルの定まらない感じが、ゲームをよく知らない俺たちをより困惑させてくる。
「ちょうどいい。背中の銃、試したらどうだ?」
「……」
シールは疑念を抱いたままだったが、背中の銃を取り出して、慣れない手つきで照準を向け始めた。
銃身に備えられたスコープを覗き込む。
「あのモンスター、『グール』って書いてある」
「書いてある? どこに?」
「頭の上……。スコープ覗いたら出てきた」
「マジか」
俺もライフルを借りて覗き込もうとするが、シールからライフルを受け取ると、
【エラー:※あなたは所有者ではありません※】
と銃身に赤いメッセージが浮かび上がった。
なんのこっちゃ。
「俺は使っちゃダメってことか」
「やりづらいね」
突発的な装備の貸し借りは不可ってことだ。
シールはライフルのスコープを覗き、狙いを定めて屋上に現れたグールに撃ち込んだ。
想像以上に大きな発砲音が学校に響き渡る。
銃弾は――当たった。しかも額に。
シール、狙撃は苦手というわりにちゃっかり狙いは正確だ。
しかし、グールは物ともしていない。
「なんかグールの名前の下に、赤いバーみたいなものが出たけど……全然減ってないよ」
「それはきっとアレだ。HPだ」
「HP?」
「生命力ってやつ。ゼロになると倒せるはずだ」
「意外と詳しいね、ソード」
俺もバカじゃない。
現代文明を身近に感じながら、主にプリマローズの入れ知恵で、ちょっとはゲームの基本知識は学んできた。
「ねぇ! もう一匹増えた!」
屋上の扉の奥から、また新たなグールが現れた。
違和感を覚えるくらい同じ姿をしている。
プログラムで作られた複製なんだろう。
最初に現れたグールは、攻撃されたことでこちらの存在に気づき、駆け足で迫ってきた。
そして屋上にグールが飛び出すと、また次のグールも扉から現れた。
「一匹だけじゃねえな!」
次から次にグールが飛び出してくる。
大群だった。
しかもグールだけじゃなく、空飛ぶテルテル坊主のようなモンスターも現れた。
そっちの方が移動速度が速い。
「ちょっと! 試し撃ちしてる場合じゃない気がするけど! 硬いし!」
「俺も参戦する」
云って【抜刃】で剣を手元に作る。
グールやテルテル坊主が接近してくる前に、こちらから間合いを詰めた。
接近すると、シールが言っていたモンスターの名前やHPの赤いゲージが俺にも視えた。
シールの銃弾では僅かしかHPを削れなかったということだが、そんな相手に近接攻撃を挑んで大丈夫だろうか――。
そんな不安を抱いたが、もう仕方ない。
逃げ場もないんだ。
最悪、倒せそうになかったらシールを抱えて屋上から飛び降りるって手もある。
俺は【抜刃】の剣を一振りした。
「オオオオオオオオオオオ!」
剣から赤黒い波動が放たれ、屋上に犇めき合っていたモンスターたちを一斉に焼き尽くした。
一撃で全部倒せた。
「……」
静まりかえる学校の屋上。
何が起きたのか俺も理解できず、後ろで慣れない銃を撃ちまくっていたシールも目をぱちくりさせている。
【 おめでとうございます!
勝者『螂ウ逾槭莠コ騾逵キ螻』チーム!
各プレイヤーにスキルポイント+2
リーダーのロストさんにイベント挑戦ポイント+2000
他メンバーにイベント挑戦ポイント+500
ロストさんに一撃必殺ボーナス+1000
ロストさんに一斉殲滅ボーナス+3000
ロストさんに全基撃墜ボーナス+10000
全メンバーにノーダメージボーナス+2000
が付与されます】
「は?」
突如、空中にお祝いのメッセージが現れた。
どうやらゲームが〝クリア〟されたらしい。
「ソード。今のって……さっきの校庭のと同じメッセージだったよね?」
「ああ。勝者がいるってことは、敗者である対戦チームもいたってことだ」
「勝者は私たちのこと?」
「それは……わからん。チーム名も文字化けしてて読めない。リーダーの名も聞いたことがない」
俺の攻撃が勝利の決め手だったとしたら、勝者は俺たちになるが、果たして……。
「念のため、屋上を離れよう」
「なんで?」
「仮に俺たちが勝者だとして、敗者側のチームは、今の戦いで手も足も出なかったはずだ。グールは明らかにプログラムだったし、手も足も出なかった敗者プレイヤーがまだ五体満足で校内をうろついてる可能性が高い。あっさり勝利を取られたのを逆恨みして、俺たちに嫌がらせをしてくる可能性がある」
「えぇ……」
シールは呆れたような顔を浮かべた。
「たかがゲームでしょう? 負けちゃった残念、で終わらないの?」
「ゲーマーの執念を舐めると痛い目を見る」
特に、プリマローズやボク・ウィモローのような廃ゲーマーがプレイするようなゲームだ。
さっきの校庭の少年たちの抗争が殺伐としていたことから察するに、このゲームもそんな和気藹々と楽しむゲームではなさそうだ。