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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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138話 現場検証


 シールとリンピアを引き連れ、再びラクトール村のタイム邸に戻ってきた。


 一連の騒動で日も暮れ始めていて、ナブト・タイムには申し訳ない気分だ。

 シズクも学校から帰宅し、家にいた。

 シズクは俺が戻ってきたことで歓迎ムードだったが、シールやリンピアが一緒だったことから察してゆっくり喋ることもないまま、プリマローズの部屋に案内してくれた。


「一応、そのままにしてます」


 そう云って案内してくれた部屋は、俺が昼前に訪れたときと同じ状態だった。

 コントローラーは床に転がり、ジャージも投げっぱなし。ゲームは起動されていて、『パンテオン・リベンジェス・オンライン』のタイトルロゴが表示されている。


「うん……。微かに魔力の残滓がある」


 リンピアは部屋に入るなり、床や壁に手をつきながら気配を探り始めた。


「ちょっと調べてみるね」


 リンピアはアタッシュケースから、粉の入った袋を取り出し、それを床に振り撒いた。


「知はアルバーティの探究に従い――」


 呪文を唱え、魔力を込めると床に振りまいた粉のうち、虹色の光が道筋を描き始めた。


「古典魔術ですか」


 シズクがその光を眺めて呟いた。リンピアは魔術に集中しながらも、シズクを横目で見た。


「知ってるの? 若いのに博識なんだね」

「この粉の成分は……もしやエマグリダケ?」

「そうだよ」

「どこで入手したのですかっ。西部山脈のマナディクション化が進んだせいで現代では入手困難なキノコのはずですが!」

「企業秘密だよ」


 リンピアはシズクの追究を軽く往なす。


「そもそも古典魔術は再現不可能なものが多くて実演できないので、学校でも学べません。どこで学んだのですか?」

「どこでも無理だろうね~。強いて挙げるなら私の魔術相談所で直々に、くらいかな。ふふ」

「おお~……」


 得意げに微笑むリンピア。

 目を輝かせるシズクに、ポケットから名刺一枚を出して「興味あるなら」と差し出した。


「こら。シズクをブラック事務所に勧誘するな」

「興味あるならいいでしょう」

「おいシズク。このお姉さんに関わると身がよじれるくらい働かされるぞ。俺なんか腕がもげるほど働かされたんだ」

「あのねぇ! ソードさんの腕を吹っ飛ばしたのは敵の弓術師(アーチャー)のせいだし、仕事は関係ないでしょ! ……というか調査の邪魔しないでってば」


 虹の光は投げ捨てられたジャージ、コントローラーの周囲で強まり、その光はゲーム機『GPⅩ』に辿り着いた。

 特にGPⅩの周辺で光が強くなっている。

 その色が虹のスペクトル光から、赤黒い色に変わり始めた。


「ソードさん。ご明察ね。このジャージを着ていた人物――魔王様はゲーム機の中に向かっていって、そこから気配が消えている」

「やっぱり……」

「そして準備していた服に着替えもせず、普段着のジャージも残されているという状況から考察するに魔王様はゲーム機に裸で吸い込まれていったと考えられるかな」

「裸で?」

「うん。全裸の可能性だってある」


 リンピアは真面目な顔で、そう強調した。

 いや、どういう状況だよ。

 あいつが裸かどうかはどうでもいいんだが。


「せめて下着は着ているんじゃないの……?」


 シールがそこに、どうでもいい異を唱える。


「確かに下着は現場に残されてないね」

「でも、プリプリさんは下着なしでジャージを着ることも多かったです。そういう人でした」

「うげっ、どういう衣生活感覚……」

「ゲーム中は谷間と股間の蒸れが気にならないようにと、ブラもパンツも身につけないなど、むしろ日常茶飯事でした」

「くっ……。なんか敗北感……」


 シールは自らの胸を押さえ、悲痛な面持ちだ。

 シズクとリンピアも自らの胸を抱え、互いのサイズ感を悟らせないように配慮している。

 議論するところ其処かよ!


「いやいや、お前ら、プリマが全裸かどうかなんて議論はどうだっていいだろ」


 突っ込むと、三人は不思議そうに俺を見返した。

 なんで俺がおかしいことを言っているみたいな雰囲気を出してくるんだろう。


「ソードが一番重要視してると思った」

「男性の関心事なんてそんなもんだしね」

「幻滅です。ソードさん……」


「どうでもいい! マジでこれっぽっちもどうでもいい!」


 濡れ衣もいいところだ。

 話題を反らすために別のことを尋ねてみる。


「それよりどうやってゲームの中に入るかだ」

「それだけど、入るというより――」


 リンピアが魔王の部屋をぐるりと見回した。


「準備もなく、ただでさえソードさんのお出迎え直前だったというタイミングから考えると、魔王様がゲーム世界に行ったことは不本意だったと考えられる。つまり、自分から入るんじゃなく……」

「――無理矢理、連れていかれた?」


 シールが重ねて答えた。


「シールさん正解。もしGPⅩかパンテオン・リベンジェス・オンライン側の意思だったとしたら、ゲーム世界に入れるかどうかは、ゲーム側の選別。あちらの〝能力〟ってこと」


 リンピアはそう断言した。

 ゲーム制作者や生産者の罠ということだ。


「そんなことがゲーム如きでできるのか……?」


 リンピアはアタッシュケースから、筆のようなものを取り出した。

 何をしでかすかと思えば、空中に筆で絵を描き始めた。色鮮やかな魔力の塊が宙に漂い、まるでホログラムモニターのようにイラストが浮かび上がる。


「それも古典魔術の『魔力抽出』では……!」


 シズクが興奮して反応した。

 リンピアは軽く微笑んで、その追究を躱した。

 イラストにはゲーム機やその先に広がる世界、魔王などが描かれ、矢印で関係性を図示している。

 絵が異様にうまく、リンピアの本業は絵師なのでは、と思わせるほどだった。


「――ゲーム世界に取り込まれるというと、なんだか突拍子もない話に聞こえるけど、昔から魔法の世界には他次元移動があったし、術者の心象世界を具現化させる〝具象魔術〟というものもあった。理論的には確立されている。もしそこにアークヴィランの力も絡んでいるとしたら……」


 リンピアの絵には、人がコントローラーを握り、ゲーム画面を見る絵。その後ろに、現実のような風景が広がる絵が描かれていた。

 それを見ながら俺はぼんやりと呟いた。


「ゲームの向こうに、もう一つ世界が?」

「そういうこと――」


 リンピアはプライミーのメッセージを見せた。


「ロアくんが洗ってくれたけど、GPⅩを作ったコンシューマー開発会社は白だったみたい。問題は、『パンテオン・リベンジェス・オンライン』の開発会社『メガティア』――この会社、新興なんだけど数年前からヒット作を連発して、徐々に資本を増やしていたみたい。今は特にこのパンテオンに注力して、ばんばん宣伝してるみたいね」


 メガティアって聞いたことがある気がする。

 そういえば……。



〝――ちなみに、お客様がゴーレム君に勝利できた場合、賞金と、あの超一流ゲーム会社『メガティア』の新作オンラインゲーム『パンテオン・リベンジェス・オンライン』の特注装備が手に入ります〟



 ゲーセンで腕相撲バトルをしたときだ。

 あのゲーセンのスタッフが、キャンペーンの景品としてゲーム内装備をくれると言っていた。

 あのときはゲームのゲの字も知らなかったから聞き流したが、既にメガティアが侵略のために、あの頃から『パンテオン』を普及していたとしたら?


「怪しすぎるな。メガティアへの接触は?」

「ロアくんが今動いてるけど、会社住所がどこにも載ってなくて特定できてないよ」

「そうか……」


 俺も王都に戻ってメガティアを調べるか。

 これ以上、この部屋にいてもプリマローズの足取りを追えそうにない。


「ねぇソード。それ、やってみたら?」


 シールがGPⅩを指差して提案した。


「このゲームをか?」

「うん。だってパンテオン・リベジェス・オンラインが怪しいっていうなら、まずどんなゲームか調べてみる必要があると思うの」

「言われてみれば確かに」


 リンピアを見やると肩を竦ませた。

 お好きに、って感じだ。


「誰かこのゲームに詳しい奴を知らないか?」

「私はゲームのことはちょっと……」


 リンピアはお手上げ。

 そこにシズクが口を挟んできた。


「あの……もしかしたらマモルさんが詳しいかもしれません」

「マモルが?」

「学校でそのゲームの話をお友達としているのを隣で聞いたことがあります」

「そうか。マモルを連れてこれないか?」

「わかりました。行ってきます」


 シズクは駆け足で廊下を走り去っていった。

 マモルを呼びに行ってくれるらしい。


「ソードもそのゲーム、持ってなかったっけ?」

「俺?」


 シールの指摘に思い当たる節がなくて戸惑う。


「ほら。私がシズクちゃんに変装しながら過ごしてたときだけど、なんか王都に行ったあと持ち帰ってきたでしょう」

「ゲーセンの景品で貰ったんだ」

「それ。一度くらいプレイしなかったの?」

「してねぇな……」


 それどころか今は手元にない。

 確か誰かに渡したんだ。誰だったか。


「引き籠もり少年に譲ったんじゃなかった?」


 上司であるリンピアが気づき、そう指摘した。


「ほら、ウィモロー家の子だよ。ソードさんが引き籠もり解消のために力業でゲーム機を破壊しちゃって、それを弁償するために」

「あぁボク・ウィモローだ。あいつに渡した」


 しかも、ボク・ウィモローはパンテオンの熱狂的ファンだったはずだ。

 ログインボーナスが切れるからという理由でプレイできない状態を嘆いていた。

 あの少年だったら詳しいかもしれない。


「ゲーム仕様について訊く宛てができたね。でも、今から王都に向かうとしたら夜遅くなるし、聞き込みは明日以降かな……。ロアくんには先に連絡しておこう」


 リンピアはプライミーに文字を打ち込み始めた。

 シールは急いでいるようで、先ほどから視線をゲーム機本体へと向けている。

 アーチェやパペットとの約束もある。

 悠長なことはしていられないのだ。


「ゲームなら今できるし、やってみようよ?」

「そうだな……。少しくらい試してみるか」


 そうして俺は落ちていたコントローラーを握り、適当にボタンを押してみた。

 思えば、これが俺の初めてのGPⅩ体験だ。


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