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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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137話 人捜し

毎週(月)(木)17:00更新します。


「いらっしゃいませ~! ……って」


 俺の顔を見るや否や、愛想の良い顔がみるみるうちに顰めっ面に変わっていく。


「なんだ。ソードさんか」

「――なんだ、って。俺が来ちゃダメなのかよ」

「だめってわけじゃないんだけど」


 エスス魔術相談所の所長リンピア・コッコは肩を落としながら奥の所長椅子に戻っていく。


 俺は急遽、王都にとんぼ返りした。

 ラクトール村周辺のプリマローズ捜索をアーチェに任せ、シールと二人でだ。

 まさかその日のうちに王都に戻ってくるとは俺も思っていなかった。


「あんまり繁盛してないみたいだな、魔術相談所」

「うん。申し訳ないけど今は仕事ないよ? 例のオートマタのいざこざで、町の人たちも個人事務所に相談、って雰囲気でもないからね」


 市民は家の修復や生活の立て直しで大変らしい。

 そんなときに、浮気調査だの汚臭調査だの引き籠もり息子の更生だの、依頼している状況ではないだろう。


「実は、仕事を探しに来たんじゃない。今日は俺が依頼者側だ」

「え? え、ほんとに?」


 リンピアの虹色の瞳にやや光が差した。


「……でも、ソードさんってお金ないんじゃ?」

「それは心配すんな。こいつが出す」

「こんにちは」


 俺の隣にいた青髪の少女がお辞儀した。

 シールは金持ちだ。


「シ……シールさん……!?」


 リンピアは既にシールのことを知っているのか、ゲゲッという表情で、体を仰け反らせた。


「知り合いなのか?」

「私は知らないけどね」


 シールが小首を傾げた。


「あ……コホン。失礼しました。気にしないで」


 リンピアは咳払いして誤魔化した。

 なんか、俺が初めてリンピアと会ったときもそうだったが、この女……なんとなく俺たち人間兵器と縁がありそうな気がする。

 あの無愛想な男も何か知っていそうだった。

 そういえば、今日はあの無愛想な男がいない。あのシールと同じ青い色の髪の妖精族(エルフ)の男だ。


「そういえば、あいつは? あの無愛想な――」

「ああ、ロアくん?」

「ロア? あいつ、ロアっていうのか」

「うん。紹介してなかったっけ。――ロアくんは町の復興のお手伝いにいってるよ」


 復興の手伝い?

 仕事一徹の冷酷男かと思ったが、ボランティア精神もあるらしい。つくづく変わった男だ。

 ロアとは馬が合わなさそうな気がしていたから、ここで遭遇しなくて助かった。


「多分、相談所に仕事が来たって知れば、すぐ戻ってくると思うけどね」

「げ、そうなのか……。他のヤツが担当してくれないのか?」

「他? 我が相談所は私とロアくん、そしてソードさんの三人しかいないし、他なんていないよ」

「人手足りなさすぎだろっ!」


 まさか働き先に従業員が自分含めて三人しかいないとは思ってなかった。

 思い返すと、仕事が始まってすぐ次から次にプライミーに依頼が舞い込んできた。

 今なら納得だ。

 完全にブラック事務所じゃねえか。


「大丈夫大丈夫。ロアくんは百人力だから」

「一人が百人力でも問題はあるだろ……」

「百人じゃ心配? じゃあ千人力? 万人力?」

「数の問題じゃねえ!」

「まぁ、もしかしたら、ソードさんとシールさんからの依頼って聞けば、彼もやりづらいかもしれないけどね~……」


 リンピアは意味ありげに呟いた。

 どういう意味だろう。人間兵器二人が頼み込んでくるような依頼だから、相当ハードルも高いって認識してくれてるのだろうか。

 何にせよ、リンピアはロアをかなり信頼しているらしい。


「――で、依頼ってどんなことを?」

「いやな、行方不明者を探してほしいんだ」

「おお。我が事務所にぴったりの案件だね」

「だろ? しかもそれっていうのは、ただの失踪じゃねえ。ゲーム機が関係していそうなんだ」

「ゲーム機? どういうことかな?」


 俺は事の経緯を細かく説明した。

 探したい人物はプリマローズ・プリマロロ。

 ゲーム中にまるで忽然と消えたように、部屋からいなくなっていたこと。ゲーム機が『GPⅩ』で、挿入されていたゲームが『パンテオン・リベンジェス・オンライン』だったこと。


「魔王様が……消えた?」

「様?」


 リンピアが敬称をつけたことに違和感。

 それは軽くスルーされて、リンピアは続けた。


「本当にゲームが関係してるのかな? ゲーム中にいなくなっただけじゃなくて?」


 リンピアはあくまでゲームは無関係で、プリマローズがどこかへ行方を晦ましただけと考えていた。


「俺もそれは思った。でも、なんというか、空気が違ったんだ。俺が部屋に行ったとき、直前まであいつはいたような気配があった。――これは感覚の話だから信じてもらえないかもしれないが」

「うーん……。ソードさんが直感でそう云うってことは正しいんだろうけどさ」


 探偵のくせに個人の印象を信じてくれるとは意外だった。


「そもそもだけど――」


 リンピアは所長椅子から俺とシールを順番に見比べて、慎重に訊いた。


「二人揃って、うちみたいな事務所を尋ねてくるってことは、かなり怪しい事件なのよね? それに、魔王様なんか今まで幾度も失踪を繰り返してたと思うんだけど今になってどうして……ですか?」


 リンピアはシールに視線を合わせたときだけ、敬語になった。

 俺のときと若干態度が違う。

 視線の矛先がシールだったこともあり、代わりにシールが答えてくれた。


「込み入った話だけど、私たち人間兵器の未来に関わることなの。仲間の一人もどうやら〝ゲームの世界〟にいるそうで、私たちはその彼に会いたい。ゲームのことならプリマローズが詳しいかなって思って……」


 リンピアは真面目な顔で聞いている。

 彼女がどこまで俺たちの事情を知っているのか知らないが、それで意図も汲んでくれたみたいだ。


「それってつまり魔王様を探すことは副次目的で、本筋の主目的としては、ゲームの世界に行く方法を探してるってことですね?」

「云われてみれば……そうかも」

「なるほど」


 リンピアはさすが相談所の所長だ。

 依頼主が一番したいことを詳らかにし、こちらも整理できていない状況を確認してくれた。


「じゃあ、まず私も同行して失踪現場を調べてみます。あと、ロアくんにはそのゲーム機やソフトについて調べてもらうよう連絡しておきますね」

「さすが!」


 手際の良さに、俺も思わず賞賛した。


「高いよ? 本腰入れてやるし、時期も時期だし」

「うっ……」


 実働部隊だった俺は、自分の仕事がどれくらいの相談料を取っているかもよく知らない。

 しかし、こんな怪しげな魔術絡みの相談所だ。

 そりゃ高いに決まってる。だが、


「背に腹は変えられねぇ! 金なら払う!」

「誰が出すと思ってんのよ……」


 シールが呆れたように溜め息をついた。


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