表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
121/249

119話 赤の弓兵vs剣と盾の勇者


「うーむ……」


 自身の両足を叩いて反応を窺ってみる。

 やっぱりまだ本調子じゃねえや。


 夜空から冷たい秋雨が降り続けていた。

 こんな悪いコンディションだというのに、シールは二輪のアーセナル・マギアを巧みに操り、スリップせずに迷路のような道を滑走した。


 前線へ戻る前に適当な建物を見繕い、指差す。



「そのビルに入ってくれ!」


 眼力に優れるアーチェのことだ。

 もうとっくに俺たちを捕捉してるはず。

 攻撃してこないのは、確実に俺たちを仕留める好機を狙っているに違いない。



 シールは高層ビルの一階ロビーに二輪ごと突っ込んで、ガラス張りの壁を割って入館した。


 同時にアーセナル・マギアを解除しやがった。

 宙に放り出される俺とシール。

 シールは華麗に受け身を取って着地してみせた。

 俺はというと、手足が思うように動かず、綺麗には決まらなかった。


 シールはそれを見て一言。


「ふむ。なるほど」

「また俺の調子を測るのに乱暴な方法を……。暴力系(・・・)は時代遅れらしいぞ」

「無理ばっかりのソードにはちょうどいいでしょ」

「へいへい、どうせ向こう見ずだよ俺は」


 体を起こして二足で立ち上がる。

 もう少し時間が稼げれば復活できそうだ。



「それで、どうするの?」


 シールはバックパックから小瓶を床に並べた。

 魔素がいくつか並べられていく。


「アーチェは何個も能力を持ってやがる。あいつに対抗するには、こっちも能力を増やすしかねえ」

「却下」

「はぁ? なんでだよ」

「あのねぇ。私がこの50年、どんな想いで精霊の森を見張ってたと思う? また繰り返したいの?」


 シールの主張も理解できる。


 俺は過去に憑依(ヨリマシ)化した経験者。

 さっきも【狂戦士】が暴走して憑依寸前だった。

 DBが止めてくれなかったら、また逆戻りだっただろう。


 もし、ここで魔素をいくつも取り込んで体への負荷を増加させたら、何かしらの魔素に精神を汚染されて乗っ取られるかもしれない。

 アークヴィラン化まっしぐらだ。


「アーチェのことは放置でいいよ。それよりも優先すべきことがあるんでしょ?」

「……」


 シールは小瓶を一つ一つ荷袋に戻していく。

 持ってくるんじゃなかったわ、と不満を呟きながら眉間に皺を寄せている。


「待て」


 俺はその腕を握って手を止めさせた。


 確かにパペットやヒシズ、ヒンダも王城にいる。

 さっさと三人を正体不明の王家から救出に行きたいし、これは時間との戦いでもある。

 アーチェをやり過ごして王城へ侵入する方法だってあるはずだ。【潜水】を使うとかな。

 だけど。


「アーチェのことも助ける」


 あいつが憑依(ヨリマシ)になったのは俺のせいだ。

 不本意だったけど。


「なに言ってんの? 今のアーチェは敵だよ」

「そうだ。突破するべき障害になってる。でも……それでも今のあいつに尻拭いをさせられるのは俺しかいないんだ」

「はぁ……?」

「俺たち人間兵器は、暴走したときに他人の力じゃ終止符を打つことはできない。人間の力も自然の力も俺たちの脅威じゃないんだからな」


 人間兵器を止められるのは、人間兵器だけ。

 俺だってシールやDBのおかげで、こうして正気を保っていられる。


「――俺たちは、俺たち自身の手で終止符を打つ」


 リチャードがそう諭してくれた。

 ここでアーチェを放置したら、次に対峙したときにはもう手遅れだ。アーチェにとっても、俺自身にとっても手遅れなんだ。


 戦うなら今。

 あいつが真っ向から勝負をしかけた今しかない。



 シールはしばらく納得できないとばかりに眉間を吊り上げていたが、俺の真剣さが伝わったか、最後には溜め息をつき、折れてくれた。


 いつもはシールが作戦の参謀役だ。

 助言は尊重してきたし、俺も従ってきた。

 それを珍しく突っぱねたものだから、シールも戸惑っていた。


「なんか王都に来て意思が硬くなった?」

「ああ。いろんな人間に会って現代に馴染んだぜ」

「そう……。また無茶が過ぎて自暴自棄にならないといいけど」

「そのときはまたシールが面倒みてくれよ」


 持ちつ持たれつだ。

 シールは何度目かになる深い溜め息をつき、呆れたように俺を見返した。


「わかった。そのときはまた"貸し"だからね」

「当然だ。いつも感謝してるし、お返しはする」


 シールは荷袋から小瓶をまた並べた。

 持ってきてくれた魔素のラベルを見返して、それぞれ吟味していく。



 能力を増やすとしても必要最小限だ。

 検証してる時間はないから、訳のわからない能力には賭けられない。俺たちが元々持っている能力と相性が良く、今のアーチェを出し抜ける魔素――。


「ああ。これは……」


 ある小瓶を持ち上げた。


 俺たちは二人で役割分担ができる。

 そこが今のアーチェに勝るポイントだ。

 アーチェは【鎌鼬(キャンディポップ)】・【掃滅巨砲(キャノンボール)】・【雷霆(ケラウノス)】を駆使して標的を追い詰める一方、それらの能力を一人で使い分けなければならない。


 囮役を立てるか――。


 極めつけは、今のアーチェを救う為には、確実に接近する必要があるってことだ。



 作戦を決めた。

 シールもそれならいいと頷いてくれた。

 魔素の小瓶を開け、それを一気に呑み込んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ