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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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117話 ◆人形少女Ⅰ


 ――狙撃手(アーチェ)は目を光らせていた。


 城壁内部――王城では多くの人の気配がする。

 自らの意思で寄り集まった醜悪な人間たちが、傀儡のように群がって王城へ入る姿を、アーチェは目撃していた。


 城壁という壁を挟んで、外側は醜悪な人形が群がる地獄絵図だというのに、内側もまた傀儡(・・)が群がっているのだ

 この二者に何の違いがあるというのか――。


 誰もが高貴な装いを身に纏った者たちだ。

 北区の住民だろう。

 彼らが何故こんな夜更けに王城に集まるのか、アーチェには知る由もない。


 ただ、何かが始まろうとしているのは感じていた。

 人間の愚かさの集大成でも見せてくれるのだろうかと、密かに期待している。

 元より復讐のためにアークヴィランハンターを生業としたアーチェにとって、人間たちの行く末などどうでもいいのだ。


「んん?」


 城門の外側に視線を移す。

 東区の方から、たどたどしく駆けていく小柄な人影を捉えた。


「あれって……」


 そこにいたのは見覚えのある娘。


 確か"ヒンダ"と呼ばれていた少女である。

 洒落込んだ衣装だが、田舎臭い雰囲気の抜けない無垢な少女。それが何やら青ざめた顔をして、王城へ向かって走っていく。


 反射的に弓を構えたアーチェだが、止めた。

 彼女は一度、拉致したことがある。

 そのときの異常な出来事を鮮明に覚えている。


 ――今もそうだ。

 ヒンダは迫り来る人形たちを力づくで押し返し、道を進んでいく。

 その光景は明らかに異様だ。

 彼女の頭を魔導銃で撃ち抜いたときも、殺害はおろか傷つけることもできなかった。

 あの娘は一体何者なのだろう。


 興味を引かれたアーチェは、むしろヒンダが王城に辿り着くのをサポートしたくなった。


 ヒンダが凱旋通りを周り、南区の吊り橋を通じて城門を渡っていく。その間、襲いかかる人形たちをそっと弓矢で射抜いて、手助けしてやった。

 無事にヒンダは王城に辿り着いた。


「はてさて、どうなるのかしらね」


 城内へ入る人間を選別するアーチェは、まるでこの場では城の門番だ。


 もう何人たりとも通すつもりはないが――。



 今一度、東区に向き直る。

 エンジン音が風に乗って耳朶を叩いた。

 誰か来たようだ。アーチェはそれが新たな敵であることを確信し、弓を持ち替えた。



     ◆



 雨が降ってきた。


 ヒンダは焦燥感を押さえきれなかった。

 しとしとと降る冷たい秋雨は、不穏な予感を現実へと落とし込む予兆そのものだった。


「はぁっ……はぁっ……」


 息が切れそうになる。

 道中に犇く人形たちを、ヒンダは傷つけたくなかった。人形には思い入れがあり、その眼識からか、本能的に理解していた。


 ――これはパペットさんが作ったものだ。


 押しのけることでしか抵抗できなかった。

 幸いにも、人形の力は然したるものではなく、少し押すだけですぐ進路から払い除けられた。



 凱旋通りを南下し、南区に入る。

 いよいよ吊り橋を渡って城内へ入ることができた。

 その頃には雨も増し、吊り橋に降りそそぐ雨の中には雹のように硬い粒もあって、人形がそれにたまたま直撃して難を逃れる場面もあった。


 不思議な現象だったが、ヒンダの頭は現在、パペットのことでいっぱいだ。

 それ以外など、気にしている余裕がない。



『ヒンダちゃんには才能があります。入団してくれるなら大歓迎ですよ』


『学校なんて必要ありませんよ。この子には才能があります。人形師としての才能が』



 パペットが優しく微笑む姿を思い出した。


 王都に来てから一週間程度。

 長いようで短い小旅行は、ヒンダにとって実りある日々だった。


 連れてきてくれたソードには感謝している。

 だがそれ以上に、村で続く退屈な日々から連れ出してくれたのはパペットの言葉にある。


 そんな恩人の身に何かあったら――。


 想像しただけで絶望した。

 はやる気持ちが足を速めた。



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