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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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111話 住宅迷宮Ⅲ(人名救助)


 まだまだDBと話したいことは山積みだ。


 でも、先に北区の住民を助けないとだ。

 正体不明の人型の敵がいる、という情報もある。


「アーチェの情報、助かったぜ」

「どういたしまして。……さっきから窓の外を気にしてるようだけど、もしかしてまた勇者みたいなこと考えてるのかしら?」

「勇者みたいなことってなんだよ」

「人助け」


 人助けを避けていたことの当てつけか?


 その件はシールのおかげで吹っ切れた。

 今では積極的に人助けしていくべきだとも思う。記憶をリセットした過去の俺への敬意を表して……。


「お前も昔は勇者だったろ?」

「あの頃はお遊戯に付き合う感覚だったわ」

「最低だな、おい……」

「でもまぁ貴方が手伝ってほしいって言うなら、特別に付き合ってあげないこともないけど」


 取引を持ちかけているらしい。

 DBの人助けは、善意のカケラもない人助けだ。

 でも一人でも手が多い方がいい。


「じゃあ、頼むよ。今はお前の力が必要だ」

「今日は素直なのね」

「いつもこんな感じだ」



 一軒一軒、虱潰しに家を捜索していった。

 クリフォードが呼んだ救助隊も到着するだろうが、北区全域がアーチェの矢の射程になることを考え、救助隊は待機させることにした。

 安全確保(クリアリング)が出来たエリアから解放し、救助した住民を救助隊に託す。

 ……という作戦だ。


 住宅迷宮の探索を進める。

 弓兵のせいでDBとも離れて行動するわけにいかず、手分けできなかったが、一人より安心感はある。

 遮蔽物が多いのも功を奏した。

 アーチェからの狙撃は、今のところまだ無い。


「DBは人形のことをどこまで把握してる?」


 住宅迷宮を進みながら、ふとDBに尋ねた。


「少なくとも貴方より理解している」

「見たことあるか? 腐った見た目をした奴らだ」

「アレは夜な夜な町中を徘徊している。貴方が呑気に寝てる間、私も夜に出歩いて調べてたんだから」


 なんで夜に徘徊するんだ……?

 夜行性? オートマタのくせに?

 今まで人形と遭遇した場所も、日の当たらない場所ばかりだった。


 そのどれもがパペットの製作物らしい。

 パペット自身も王家はちゃんと廃棄していると思っていて、まさか【清祓いの儀】が行われてないとは思っていなかった。


「――当代のハイランド王が、アークヴィラン絡みのことに杜撰な対応を取るとは思えないわ」


 DBは訝しげに語る。


 ハイランド王、タルヴィーユ・ダグザ=ド=ロワ。

 その人となりは厳格で思慮深い。

 ヒシズも語っていたが、アークヴィランによる環境破壊への関心も高く、その人物背景を知っていれば、アークヴィランの憑依(ヨリマシ)が製作したオートマタなど、最も厳粛に管理するはずである。


「だから、私も当初は疑っていなかった」

「教会はお祓いを依頼されていなかったのか?」

「定期的に依頼されていたし、【清祓いの儀】も実行していた。廃棄数も例年通りだったから、違和感はなかったのよ」


 実態は、廃棄予定のオートマタは増えていた。

 王家がそれを隠し持っていたのだ。


「諸悪の根源は、国王……なのか?」

「根源……と言うと難しいわね。どちらにしろアークヴィランの魔の手が王家に渡ったのでしょうけど、そう仕立てた犯人が、必ずいると思うわ」

「裏で王家を操っているヤツが?」

「そう。洗脳系の魔素か、また別の方法か、それはわからないけれど」


 北区の混乱が落ち着いたら、王家に直談判しに行った方がいいかもしれない。

 パペット一人で向かわせてしまった。

 大丈夫だろうか。



 ――ギィ……ギィ……。


 ――ひぃいっ……来るな……っ!



「……聞こえたか?」

「2時の方向。距離、300」


 俺より正確に特定してやがる。

 索敵なら非戦闘型人間兵器の方がお手の物か。

 道路から屋根を飛び越え、素早くDBが読み取った位置へ向かった。あまり高い場所にとどまると、アーチェに捕捉される……。慎重に……。



 一軒の邸宅があった。

 玄関扉を突き破って中に侵入すると、玄関ホールの階段の隅で縮こまる三人の男女と、緩慢な動作で迫るオートマタがいた。


 近くの花瓶を【抜刃】で剣に変えた。

 投擲してオートマタの頭部に剣を突き刺す。

 オートマタはすぐ倒れた。


「大丈夫か?」

「ひっ、ひぃ……貴方は……?」

「俺は……俺も街の住民だ。助けに来た」


 執事のような男が泣きっ面で応えた。


「あ、ありがとうございます……」

「アンタらは使用人だな? 家主は?」

「それが……突然一人で外出すると言って昼間に出て行ったっきり、お姿が見えなくて……」

「行方不明なのか?」

「そうなのです」

「……」


 DBも後からゆったり入ってきた。

 倒したオートマタは、下水道に居たそれより見た目はまだ綺麗。――というか、このオートマタは家主が王家から貰ってきたものらしい。


「ふーん。一家に一台、オートマタねぇ」


 DBは惨状を見て皮肉を言った。

 北区全域の貴族邸宅にオートマタが配給されているのだ。早くなんとかしないと死人が出る。


 助けた執事やメイドは救助隊に任せた。

 近隣の邸宅は既に避難したのか、行方不明なのか分からないが、もぬけの殻である。

 北区はまだ人口が少ないからマシだ。

 こんな迷宮化が南や東区で起こったら、洒落にならない規模で被害が拡大するだろう。


 東区に向かったスージーに連絡を入れておいた。



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