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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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108話 等閑な人形廃棄


「私はクリフォード・バレンニスタと云います」


 恰幅の良い口髭のおっさんは丁寧に名乗り出した。


 爵位が侯爵位の貴族であること。

 領地を持たず、王に近侍して宰相(さいしょう)の立場として内政の進言をする立場なのだそうだ。

 他にも仕事内容を細かく紹介していたが、俺にとってはどうでもいい内容ばかりだ。


「……実は、(かね)てからパペット氏には王室の人形廃棄の件で相談をしていたのですよ」

「へえ。奇遇だな」

「奇遇?」

「俺もパペットに同じことを聞きたかった」


 斜め後ろに立つスージーに手で合図した。

 意図を察したのか、スージーは例の腕を返してくれたので、俺はそれをそのままパペットとクリフォードの前に投げ捨てた。

 ――べしゃり。

 朽ち果てた醜い腕が墓場の土に還る。

 それが皮肉にも腐った腕にはぴったりの場所のように見えた。


「アンタが造ったオートマタの腕らしい」

「これをどこで……?」

「東区の下水道」


 不愉快そうにパペットは眉をひそめた。


「何か知ってるのか?」

「……」


 クリフォードもパペットも答えるのを躊躇した。

 重苦しい沈黙の後、パペットは語るのも心苦しい様子だったのだが、意を決して口を開いた。


「ご迷惑をおかけしたのですね……」

「襲われたが、まぁどうってことはねぇ」

「ごめんなさい」


 パペットは申し訳なさそうに頭を下げ、続けた。


「今、王家の様子が、どうにもおかしいのです」


 そう語るパペットの背後に、誰かの影が重なった。

 身内の王女も同じことを言っていた。

 ヒシズが悩みとして打ち明けた国王と兄王子のことを思い出す。人が変わったようだったと――。


「宮廷に首を突っ込む立場ではない私が何故……と、ソードさんは不思議に思っているでしょう? これは私の造るオートマタから始まった話なのです」


 下水道に蔓延っていたオートマタ。

 北区の高級邸宅に仕えていたオートマタ。

 それらはすべてパペットの作製した物だ。


「以前、壊れた自動人形をスージーが運搬したとき、ソードさんも同行してくれたようですね。その節はありがとうございました」


 パペットはスージーを一瞥してから俺に礼をした。

 報告のときについ喋っちゃいましたテヘヘ、とスージーは愛想笑いを浮かべていた。


「通常、あのように廃棄人形は王室に運び、旧王城で【清祓いの儀】をして焼却するのがルールです。これをしないと穢れが煙となって雲に乗り、雨で都を穢してしまうからです」


 パペットは瘴気の除染を"お祓い"と語った。

 その源泉が自分自身であることに、自覚はあるのだろうか?


「今はそのルールが破られている、と?」

「ええ……。人形が適切に処分されていないということは、私もクリフォードさんが教えてくれるまで知りませんでした」


 パペットは隣の男に視線を投げた。

 その神妙な面持ちには、まるで邪気がない。

 パペットはシロだった。しかも――。


「そうです。おかしいと気づいたのは、タルヴィーユ陛下が大臣らに"人形"を配給し始めたことがきっかけでした」


 会話のバトンが渡されてクリフォードが語った。

 クリフォードは、その表情に王への嫌疑の色を浮かべながら口髭を撫でている。

 ――クリフォードもシロ。

 浮気の疑いも含めて、この男も真っ白だ。

 パペットとの密会は不倫を理由としたものじゃなかったようだ。

 コニーさん、良かったな。


「陛下は、雑務を熟す便利なオートマタがあるから好きに使っていい、と私たち大臣に配って回りました」


 クリフォードは重々しい雰囲気で説明した。


「当初は疑問に思わなかったのですが、王室で管理しているグレイス座の収支報告と、旧王城で記録している【清祓いの儀】の回数とで、齟齬があることに気づいたのです」


 グレイス座の収支報告は正しかった。

 支出として計上されるオートマタ交換費は、年々増えてきているようだが、その分、増えるはずのお祓いの回数が圧倒的に少ない。

 つまり廃棄人形が処分されていないのだ。

 それに気づいたクリフォードは、王が配給したオートマタは人形劇団の捨てた物だと確信した。


 クリフォードは王への不信感を持ったと云う。

 しかしながら、後ろ盾がない状態で直談判しても我が身が危ないと悟ったクリフォードは、オートマタの製作者であるパペットに相談したという経緯だ。



「DBには伝えたのか?」

「DB……ですか」


 パペットはその名を聞き、表情を曇らせた。

 まだ苦手意識があるか。


「お祓いは聖堂教会の仕事だろう。DBにも話した方がいい。あいつを頼るのは俺も恐ろしいけど、その分、後ろ盾になってくれたら心強い」

「うーん……。気乗りしないですね」

「そんなこと言ってる場合かっ。瘴気が広がったら、王都全域で瘴化汚染(マナディクション)が起きるぞ」


 なにを悠長なことを言っているんだ。

 実際に北区では、その兆候が現れ始めている。


「そうでした。北区のことも心配です」

「やっぱり北区の現状も知ってたな。――クリフォードさん、アンタの奥さんも住んでんだろ。早く助けなくていいのか?」


 クリフォードは一瞬、なぜそれを、と怪訝な表情を浮かべたが、呻吟して「その通りだ」と呟いた。


 リンピアからのメッセージを再び読み返す。


 "正体不明の人型の敵勢力"。

 これはオートマタのことに決まってる。

 もし下水道で遭遇したオートマタのように、北区の人々に襲いかかっていたら洒落にならない。


 王家はきな臭い。ヒシズのことも心配だ。

 DBにも連絡しないと……。


 この国、一体なにが起こってんだ?



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