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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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105話 勘違いスパイラルin喫茶店


 待ち合わせの噴水広場に到着した。

 時間ぴったりに来たつもりだったが、スージーはそのずっと前から待っていたようだ。

 俺を見るなり、笑顔で駆け寄ってきた。


「こんにちは、ソードさんっ」

「もしかして時間を間違えたか」

「いえいえ、そんなことないですよ~。私も来たばっかりですから、大丈夫です」

「……」


 スージーは嘘をついている。

 歩いたばかりなら、ちょっとした息遣いの変化、筋肉のこわばりが多少なりとも見られるはずだ。

 それがない。じっとしていた人間の肉体反応だ。

 俺に気を遣っているのだろうと思って、特に触れないことにした。


「それで、見てほしいのが――」


 さっそくビニール袋から例の腕を出そうとした。

 下水道で入手した腐ったオートマタの腕。

 正直かなりドぎつい臭いがする。


 だが、それを遮るようにスージーは腕を絡めて、得意の手首固め(リストロック)によってがっちり拘束してきた。

 か、関節の自由が利かない……だと。


「さぁ、今日こそは二人でカフェに行きますよっ」

「腹は減っていない」

「何を言ってるんですか! 男女が昼に待ち合わせして向かうところと言ったら、まずは喫茶店でランチに決まってるじゃないですかっ」


 こっちは腐敗物持参なんだけどな。

 飲食店なんて一番行ったらダメな場所だ。

 そんな俺の意思も無視して、スージーは俺の関節をキメながら、ずいずいと歩いていった。



 スージーのオススメという喫茶店に来てしまった。


 王城の敷地に面した凱旋通りだ。

 せめてもの配慮として、テラス席を希望した。

 店に腐敗臭をまき散らすワケにいかない。


 外は、王家のお膝元の大通りとだけあって、さっきからやんごとなき身分の人間がよく通る。

 わざわざこっちを見てくる奴はいないが。

 きっと忙しいんだろう……。


「テラス席なんて、なんだか嬉しいです」

「なんでだ?」

「だっていろんな人に見られるじゃないですか。ソードさんも、私と居るところを誰かに見てほしいんですか~? ……なんて」


 スージーは照れたように両手で頬を隠した。

 別に誰から見られようが、どうだっていいことだ。


「私、てっきりパペットさんとソードさんって、その……何かお友達以上の関係があるのかなって邪推してましたよ。最初から呼び捨てでしたし」

「友達以上……まぁそうだな」


 5000年前は生死を分け合った仲間だった。


「えっ、やっぱりそうなんですか!?」

「ああ。でも昔の話だ」

「お、おお……ざ、座長の元カレ……」


 スージーは複雑な表情を浮かべている。


 昔と今のパペットは違う。

 言ってしまえば、俺もそうだ。

 人間兵器は目覚めの度に記憶がすげ変わるから、人格は同じでも経験を通して微妙に違ってくる。

 今は逆に"経験"のせいで関係が拗れてきているが。

 一方で、昔から変わらない関係の仲間がいるのは、ありがたいことだ。


「それに、パペットよりずっと親しい相棒もいる」

「女性の方で……?」

「性別はそうだ。シールっていうんだ」

「女性のパートナー!」


 シールだけは一貫して俺に連れ添ってくれてる。


「そういうことになるか」

「ががーん。ソードさんって、けっこうヤリ手なんですね……。モテるとは思ってましたが、反応的に奥手なのかと……」

「……?」


 さっきから何の話をしてるんだ。

 会話しているはずなのに話が掴めない。


「じゃ、じゃあ今では新しいお相手がいるのに、どうしてグレイス座にやってきたんです? パペットさんと気まずくないんですか!?」


 スージーは何故かそわそわして尋ねてきた。

 テーブルに手をついて身を乗り出す様子は、まるで何かを糾弾するような気迫がある。

 一番気まずかったのはスージーなんだが。


「気まずいも何も、パペットに会いたかったんだ」

「えっ……えっ!?」

「会って色々と話がしたい。俺たちのこれから――将来のこととかを話したいんだ」

「しょ、将来の話ィ~!?」


 スージーは顔を真っ赤にして頭を抱えだした。

 何をそんなに狼狽しているんだ。


「ちょ、待ってください、ソードさん」

「なんだ?」

「シールさん……という方とはいつから関係を?」

「まぁ、ずっと一緒だな」

「ひぇ」


 サンドイッチが乗った小洒落た皿が運ばれてきて、店員がやりづらそうにテーブルに並べた。

 立ち去るのを待ってからスージーは続けた。


「それなのにパペットさんと将来の話って、どういうことなんですか……?」

「そのままの意味だ。俺の将来を考えると、パペットの存在は欠かせないと思ったんだ」

「な、な……な……」


 スージーは愕然としている。

 言葉を失い、口をパクパクさせている。

 今日のスージー、大丈夫か。


「今日スージーに訊きたかったことも、パペットに関係している事だ」

「ああ……それで人形劇のファンを……」

「そう、人形のことだ。これを見てほしい」

「わ、私はヨリを戻す繋ぎ……私のプライドが……」


 スージーは放心状態で口をあんぐり開けていた。


 なんなんだ。しっかりしてほしいぜ。

 これ以上付き合ってたらいつまでも話が進まない。

 俺は厚地のビニールから、腐った人形の腕の一部を出してみせた。


「うげ。なんですかそれ」

「オートマタの腕だ。下水道にたくさんいた」

「オートマタ? なんで下水なんかに……」

「こっちが聞きたい」


 腕を入手した経緯と俺なりの考えを伝えた。


 この腕がパペットが作製した人形のものなのか。

 王室へ廃棄した後、人形はどうなるのか。

 その答え次第で、王室で何かおかしなことが起きていると予想していることも――。


 だいぶ脱線したが、人形の腕をまじまじと観察し始めたスージーの顔つきは真剣そのものだった。

 さすが人形劇団の一員だ。

 スージーの鑑定を待つ間、プライミーから着信音が一度だけ鳴った。誰からだろう。



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