表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/130

第九十九話「出会えました」


 さて……、王都を見つけたのはいいけど、侵入するにしても何にしても色々と解決しなければならないことがある。すぐにどうこう出来る状況にはないし、まずはじっくり考えようと一度森に戻ることにした。


 森に戻って食料調達をしつつ考える。どうすればバレずに王都に侵入出来るのか。


 もちろん俺の存在が明るみになっても良いのなら堂々と門へ近づけばいい。最初は俺を受け入れてくれないとしても、こちらが普通の人間だとわかればある程度は受け入れてくれるだろう。


 何故外に居たのかとか、どうやって生き延びたのかとか、色々と調べられるだろうし、下手をすれば身柄を拘束されて尋問とかもされるだろうけど、少なくとも王都側だって外の情報は欲しいはずだ。それを持っている可能性がある俺を何も考えずに始末するということは考え難い。


 でもそうなると俺の存在は、兵士や、貴族や王様、そして折角死んだことに出来て逃れられたアイリス達に見つかってしまう。王国のために戦えと兵士に加えられるくらいならまだ良いけど、イケ学に戻されて戦えなんて言われたら最悪だ。今度こそアイリスに何をされるかわからない。


 どうにか見つからずに王都に潜入したい。ただそうなると問題はどうやったら王都に入れるのか?ということだ。


 黒インベーダー達が周りにいるのに襲っていない所を見たら、少なくとも黒インベーダーに襲われなくなる何かはあると思われる。黒インベーダー達は周囲にいると言っても少し離れた木や草の陰に隠れつつ周りを取り囲んでいる感じだ。城壁のすぐ目の前に迫っているわけじゃない。


 何もないのならすぐにでも城壁に取り付き、乗り越え、襲い掛かってるだろう。実際離れて様子を見ていた俺には、黒インベーダーがいつでも襲えるように身構えつつ機を窺っているように見えた。黒インベーダーの言葉なんてわからないけど……、白インベーダー達とずっと一緒にいたせいか、何となくわかってしまうような気がする。


 それはともかく、黒インベーダーに襲われない何かがあるとして、じゃあ具体的にそれはどういったものなのか?というのが重要だ。


 仮定一、王都の城壁の外まで全てを覆う物理的なバリアが存在する可能性。


 もしこれだったら俺にはどうしようもないかもしれない。物理的に通り抜けられないバリアがあるのだとすれば、俺も黒インベーダー達と同じで外に締め出されている形だ。しかも物理的に遮断するバリアなのだとしたら、転移を使ってもバリアに阻まれてぶつかるなんて可能性もある。そうなるとバリアが解除されるまで出入りは出来ない。


 ただ……、物理まで遮断するほどのバリアを、外から見ても広大だと思った王都を丸まる覆えるだけに張ろうと思ったら、それは一体どれほどのエネルギーが必要になるだろうか?森で小さな魔力結晶をチマチマ集めているような王国が、そんな大規模バリアをどうやって張って維持しているのか。それを考えればあまり現実的ではないかもしれない。


 仮定二、インベーダーだけが寄り付けなくなる何かを張っている。


 研究所のデータにはなかったけど、各地で似たような研究所があったはずだ。この王都が古代魔法科学文明の末裔や遺産によって作られているのなら、もしかしたら生き延びていた誰かが、黒インベーダー達を近寄らせない何かを発見して実用化した可能性はある。


 この仮定の場合も、それが人間の通過を妨げないのか、転移を妨げないのか、という疑問が付き纏う。もしインベーダーだけ通さず、人間は自由に通過出来るんなら良いけど……。見つかるリスクや命を懸けて一か八かで試そうとは思えない。


 仮定三、実は何も張ってない。


 もしかしたら黒インベーダー達が王都に接近しないのは、そういうバリアとかインベーダー除けがあるわけじゃなくて、もっと別の理由があって襲っていないだけで、これといって何らかの装置などがあるわけではない、という可能性もゼロとは言い切れない。


 他にもいくつか考えられる可能性はあるけど、とりあえずそういうリスクと可能性がある以上は、下手に王都に接近するわけにはいかない。


 俺が何か行動を起こすとしても夜だろう。夜なら兵士達も俺を発見しにくいんじゃないだろうか。森である程度の食料を調達して、暫く王都の近くで観察と実験をしてみよう。見張りに見つかるわけにはいかないから、多少時間はかかっても慎重にな。


 もうここまで帰って来たんだからそんなに急ぐこともないだろう。焦らずじっくり策を練って、舞とアンジェリーヌに会いに行こう。




  ~~~~~~~




 森で食料を集めては何日か王都の付近に潜伏して情報を集める。それを繰り返して色々とわかったことがある。


 まずやっぱり黒インベーダー達は一定以上に城壁に近づこうとしない。無理やり捕まえた黒インベーダーを城壁近くに放り投げてみたけど、特に何かバリアのようなものにぶつかることもなく普通に飛んでいった。それなのに黒インベーダーは慌てて城壁から離れて逃げ出した。


 そのことから俺の推測としては王都の防衛機能は、吊るして置いておくだけで虫が寄ってこなくなる、という地球にあった虫除けみたいなものではないかと考えた。実際気になって石を放り投げてみたけど城壁にちゃんと当たった。その手前に物理バリアがあるということはない。


 城壁を超えて王都内まで石を放り投げたらどうなるかはわからないけど……、少なくとも城壁際まではバリアはない。


 そこで俺は見張りに見つからないように何日も観察して、見張りの隙を突いて城壁まで慎重に接近してみた。実際に城壁に触れても何もない。アラームのようなものが反応するわけでもないようで、兵士達も何も気付かずのほほんとしたものだった。


 これにより俺の推測は恐らく当たっていると結論付けた。黒インベーダー達も接近するのを嫌がるだけで、実際に何か効果が出ているわけでもない。長時間接近させていたら弱ったり死んだりするのかもしれないけど、少なくとも俺が放り投げた何匹かは、ただ逃げ出すだけですぐに死んだりはしていない。


 俺が城壁まで近づけるということは、上を飛び越えても大丈夫だろうと思う。何故なら城門の修理をしていた兵士達は、城門や城壁から離れた場所まで出て警戒していたからだ。もしバリア的なものが城壁の際までしか効果がないのなら、兵士達があんな場所まで出てくるはずがない。


 そう思ったからこそ俺はバリアがあるとすれば城壁より外側だろうと思ったんだ。城壁まで近寄っても何もないということは、人間の接近を防いだりアラームのようなものが反応したりする類のものではないと判断出来る。


 それからイケ学の転移だ。もしバリアが転移を阻害するのなら、イケ学の出撃時などにはバリアを解かなければならないということになる。でも俺が見張っていた限りではバリアが解かれた日はない。何故それがわかるかと言えば、もしバリアが解けたのなら周囲を囲む黒インベーダー達が王都を襲うだろうから……。


 黒インベーダー達の襲撃が発生していないということは、俺が見張っている間に一度もインベーダー除けが解除されていないということだ。


 時間をかけてそこまでの結論に到った俺はついに王都内への侵入を実行した。これまで何度も確認してきた見張りの隙を突いて、城壁傍まで行ってから飛び越える。高さは5~6mくらいか?ヒョイっとジャンプして城壁の上に出るとすぐに逆に下りる。もちろん城壁の内側に人がいないことは上から確認済みだ。


 初めて王都内に侵入してから俺は徐々に探索範囲を広げていった。というのも、俺は王都のことを何も知らない。今更だけど……、イケ学の場所すらわからなかった。


 王都を外から眺めつつ一周してみたんだけど、見覚えのある場所がどこにもなかった。もしかしたらイケ学とかは結構王都の中心部分近くにあるのかもしれない。


 まぁ俺は別にイケ学に行きたいわけじゃない。むしろ行きたくないとすら言える。俺が探すべきなのは舞とアンジェリーヌだ。でも……、そこにも問題がある。……俺って舞とアンジェリーヌの居場所も知らない……。


 プリンシェア女学園に行けばいるのか?それともアンジェリーヌは貴族だし実家から通ってるのか?でもそもそもそのプリンシェア女学園はどこにあるんだ?


 俺って奴は本当に王都やこの王国について何も知らなかったんだな……。あれだけ長い間住んでいたというのに……。いくらイケ学から自由に出られなかったと言っても、それにしたってあまりに無知すぎる。


 侵入には成功したけど一度戻って対策を練る必要がある。ここまで来たら慌てたって仕方がないし、あとはどうにかうまく舞とアンジェリーヌの居場所を見つけ出すだけだ。




  ~~~~~~~




 王都の外周の見張りに立っている兵士の勤務や移動パターンを解析して覚える。敵がインベーダーだと思ってるからか兵士達は割といい加減だ。インベーダー除けが効いていることも関係あるんだろうけど、特に敵を見張ったりすることなく、定期的に巡回と交代をしているだけだから隙を突くのは容易い。


 次にナビにマークをつけていく。ナビのデータが古いからか、マップを見ても町は映らない。もちろん物体がある場所に転移するようにしようとしたらエラーが出て止められる。そこに物質があることは把握しているけど、わざわざ3Dマップとかで建物とかの詳細まで出るわけじゃないということだ。


 まぁこれも今までで実証済みだから驚きはない。森で転移しようとして、転移先に木があれば安全装置が働いてエラーで止まる。だけどマップに実際に木が表示されるわけじゃない。


 それはともかく、ナビにマークをつけて、城内に侵入しては探索済み地域をマーキング。そして森に戻り食料調達などを行い、また城内へと侵入する。


 俺の目的は舞とアンジェリーヌを探すことだ。でもどうやって探せばいいのかわからない。アンジェリーヌは貴族だから家に帰っているかもしれない。でも貴族の家に侵入なんて出来るか?舞はプリンシェア女学園の女子寮にいるかもしれないけど、こっちだって侵入なんて出来るか?


 街中で偶然出会う……、なんて可能性はない。俺が城内に侵入しているのは夜中だ。そして夜が明けるまでに脱出する。


 俺の格好で街中にいたら目立ってしまう。絶対にすぐに捕まることになるだろう。それならこっそり侵入している意味もなくなるわけで……。だから夜中に捜索して夜のうちに出て行く。


「今日はこの辺りにするか」


 適当にまだマーキングしていない辺りを選ぶ。王都も騒動になっていないし、多分俺の存在は見つかっていないと思うけど、同じ場所に連続で行ってたら誰かに見つかる可能性が上がってしまう気がする。外周部に近い場所から順番に、周囲を一周すれば段々中央に近い所まで、順番に……、順番に捜索していく。


 もうどれくらい王都への侵入を繰り返して捜索を続けただろうか。こんなことがいつまで続くのかと思っていると……。


「――ッ!?」


 舞!?それに……、その横にいるのはアンジェリーヌ?


 何で?何でこんな真夜中に舞とアンジェリーヌが……、地面に寝転がっているんだ?まったく意味がわからない。でもそんなことはどうでもいい。


 見つけた……。とうとう見つけたんだ!


 俺は急いで舞の横へと降り立った。二人は上半身を起こして向かい合っている。その舞の後ろからギュッと抱き締めた。


「ひぅっ!?」


「――ッ!?シッ!」


 舞が変な声を出すから口を塞ぐ。そう言えば何か前にもこんなことがあったな。あの時は随分怒られたっけ?ようやく……、ようやく会えた……。


「舞……」


「んんっ!?」


 そっと舞を抱き締めて耳元で囁く。そう言えばさっき舞を抱き締めたり、口を塞ごうとして完全に舞の体までマントで覆ってしまっていた。まるで二人で一つのマントの中に入っているようだ。


「この化物!舞を丸呑みにするなんて!出しなさい!舞を返しなさい!」


「えっ?ちょっ!?」


 舞の隣に座っていたアンジェリーヌが、何かそこら辺に転がっていた箒のようなもので叩こうとしてくる。しかも声が大きい。誰かに見つかってしまう。


「しっ!アンジェリーヌ!しーっ!」


「――ッ!?いっ、伊織様?」


 舞を抱えたまま飛び下がり、何とかアンジェリーヌを大人しくさせようと声をかける。どうやらすぐに俺と気付いてくれたようで呆然としたように箒を落とした。


「んん!」


「あっ、ごめん」


 舞が俺の手を叩きながら呻いたからようやく思い出した。まだ舞の口を押さえたままだった。その手を離すと……。


「伊織ちゃん!」


 クルッと向きを変えた舞が俺に抱きついて来た。それは前までの舞と同じもので、何だか妙に安心した。


「舞……」


 二人で抱き締めあい、お互いの唇が近づく……、と思ったら舞は露骨に変な顔をしていた。


「伊織ちゃん……、臭い……」


「――ッ!?」


 くっ、くさい?うそ……?だってこのボディスーツは汚れも綺麗にしてくれるはず……。


「かなり臭うよ……?それに髪もねちゃねちゃのべちゃべちゃでばりばり……」


「あっ……、あ~……」


 そうか……。確かに体は綺麗にしてくれるかもしれない。老廃物を取り除いて一緒に吐き出してくれるかもしれない。でもボディスーツに覆われていない部分、頭はそうはいかないだろう……。そしてあの森の小川は小さすぎて頭とかをあまり洗っていなかった。最後に洗ったのはいつだ?しかも石鹸も使っていない……。


「おい?何か物音が聞こえなかったか?」


「げっ……。舞、アンジェリーヌ、話は後だ。まずは場所を移そう」


 さっきの騒ぎが聞こえたのか人が集まってくる気配を感じる。このままここに居たら俺達は見つかってしまうだろう。


「ええ……」


「うん!」


 まだ状況が飲みこめていないアンジェリーヌと、何か妙にハツラツとしている舞を連れて、一先ずこの場から離れることにしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[良い点] 再会! 安堵だけじゃなくて、伊織さんが臭うような混乱とリアリズムがあるところが好きです(笑)。
[一言] 舞さん災難( ˘ω˘ ) 臭いのこもったマントの中に……
[一言] 伊織視点だと、一度も出て来ない三角頭の(袋を被っている)描写よ。 もはや袋は体の一部です。 Info:野生児から怪人へランクアップしました このままなら、噂止まりじゃなくて公認で、新種の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ