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第九十七話「王都を見つけました」


 小さな森を拠点にしようと思ったのは良いけど……、本当に狭い。俺が本気で走り回ったらすぐに隅から隅まで全部回れるくらいの広さだ。そしてこの森にはあちこちに掘り返した跡があった。どうやら王都の連中は完全にこの森を食い物にしているようだ。


 最初はもっと広い森だったのかもしれない。でも王都の連中が魔力結晶を持ち去ってしまうために、次第にこの森も枯れてきているのではないだろうか。向こうの森の白インベーダーのように管理するモノもおらず、それどころか人間が魔力結晶を無計画に持って行く。この残された森もやがて消えてしまうかもしれない。


 それはともかくこれじゃいつどこに王都の連中が現れるかわからないだろう。どこか採掘場所が決まっているのなら、そこだけ避けておけば人間と出会うことはないだろうけど、これほど森のあちこちを掘り返してるとなると、次にどこに出てくるか予想もつかない。


 森を拠点にしようと決めたのは良いけど、地面の上に堂々とテントを張っていたら見つかってしまう可能性がある。人間達と接触しないようにうまく考えないと……。


 ただ人間に見つからず住むだけなら、廃墟に寝泊りして、食料調達だけこの森に来ればいい。でも俺の目的は廃墟に住んで森で食料を調達することじゃない。王都を見つけて侵入し、舞やアンジェリーヌと再会を果たすことだ。そのためには廃墟を拠点にするには遠すぎる。


「う~ん……、どうしたもんかな……。食料はあるけど……」


 ざっと調べて回った限りでは、向こうの森で食べていたような木の実やきのこは生えている。川がないから魚は獲れない。いや、小さな小川はあるんだけど前までのような魚がいるほどの川じゃないというべきか。小川は例の谷の方に流れているから向こうへ合流しているんだろう。これじゃ町探しには使えない。


 人間の生活には水が欠かせない。だから水の流域に生活圏が出来、そこから徐々に発展していくものだろう。でも古代魔法科学文明の遺産で成立している王都なら、もしかしたら水源なんてなくても魔力結晶さえあればどうにでもなるのかもしれない。


 地球なら川や井戸が必須でも、こちらでは魔法で水を生み出して生活している可能性もある。あまり地球での感覚に固執してたら思わぬ落とし穴に嵌る可能性もあるだろう。そもそもあの谷の川自体が飲めたものじゃなかったからな……。汚染が酷いこの世界では普通の川以外から水を得ている可能性は高い。


 ただ魔力結晶を採掘しにきている関係上、この森の近くに王都があるのは確実だろう。何とかこちらは相手に見つからず、先に向こうを見つける方法があれば……。


「とりあえず……、暫くは木の上で生活するか……」


 王都を見つけるまでにどれくらいかかるかわからない。そして次に人間が採掘に来るのもいつかわからない。なら少しでも姿が見つからないように、生活するのは木の上しかないな。


 起きている時ならこっちの方が先に気付くだろうけど、寝てる時にいきなり転移門でやってこられたら反応する前にこちらが見つかる可能性もある。転移門が目の前に出て来た時にどういう風になるのかはわからない。寝ててもこっちが先に気付けば見つかる前に隠れられるだろうけど……。


「周りに物を広げたり、休む時は見つかり難い場所でするしかない。まぁ……、なるようになるか」


 これからのことを考えた俺はまずは飯にしようと食事の用意をする。といってもリュックから食料を出すだけだ。森の食料を集めるのも良いけど、持ってきた物の方が先に傷むからな。こちらで確保する食料はまた後で食べることにして、先に賞味期限の早い方から食べなければならない。


「あまり派手に火は起こさない方が良いだろうし……、不便な生活になるな……」


 干物やきのこを焼いて食べたいところではあるけど、煙や匂いでバレたら元も子もない。仕方なくそのまま食べた食事はおいしいとは言い難いものだった。いつまでもこの生活を続けるのは無理そうだ……。




  ~~~~~~~




 翌日、日が昇ると同時に活動を開始する。流石に夜は人間も来ないと思うけど絶対とは言い切れない。俺が居た頃のイケ学なら出撃はいつも授業中だったけど……、戦闘自体は長引いていることも多々あったしな。だから夜も火を起こせない。


 俺はある程度夜目も利くから灯りがなくても多少のことは出来るけど、それでも日中や灯りの下でとまったく同じように何でも出来るわけじゃない。火を起こせない以上は日中に出来る限りのことをしておかなければならない。


 差し当たって問題なのが……。


「このボディスーツを隠せるようにすることだよな……」


 死んでいた者達から拝借してきたずた袋を分解してマントとか、羽織る物を作りたい。ちなみに『ずた袋』は本来『ずだ袋』、つまり『頭陀袋ずだぶくろ』であり坊さんが持ってた鞄のことだけど、それはまぁどうでもいいか。


 俺が言ってるずた袋はまぁ……、土嚢袋とかそういう感じのものだ。地球の土嚢袋とは違うけど、あいつらも土を入れて運んでいたようだし、用途としては同類のものだろう。


 まずはこの袋状にされているものをバラす。どうやらこの袋は二枚の布を縫い合わせてるわけじゃなくて、一枚の布を半分に折って左右を縫い合わせているらしい。解くと一枚の長い布に戻る。これは俺にとってラッキーだった。


 作る方も折り曲げてる部分は縫わなくて良いから作る手間が減るのかもしれない。俺は長くて大きい布が手に入る。どちらにとっても都合が良い。


 裁縫道具というほど大したものじゃないけど、向こうの森に居た頃にリュックを作ったりするのに使った道具や糸は持ってきている。そんなどうでもいい物を持ち運ぶなら食料を増やせと思うかもしれないけど……、食料は保存可能な日数に限りがあったから増やしてもあまり意味がない。


 それに裁縫道具なんて大して嵩張らないし、途中でリュックが壊れたりしたら致命的だ。だからこれは必須アイテムだった。持ってきていたお陰でこの布の裁縫も出来るし大正解だろう。


 針も糸も研究所で用意したものだ。針はただの金属のような細い棒を針代わりにしてるだけだし、糸は研究所で作られていた繊維?皮?を細い糸状にしているにすぎない。こんなものでちゃんと縫えるか心配だったけど、ちょっとあれこれ裁縫の真似事をしているうちに何とかコツを掴んできた。


 数枚の布をつなぎ合わせてまずはマントが完成した。出来れば俺の全身をすっぽり覆うような長さが欲しかったけど贅沢は言えない。首に巻いて膝くらいまで隠れるからこれでいいだろう。もっと下まで布を足せば長いものも出来るだろうけど……、移動する時には邪魔になるだろうしこれで完成ということにする。


 フードは別で縫い付けて頭もすっぽり覆えるようになっている。ちょっとフード部分が大きすぎて、完全に頭が入ってブカブカだけど……、被って動いても脱げなければそれでいい。


 元々の布もそれほど良い物じゃないし、あちこち繋ぎ目だらけで不恰好だけど、全身ピッチリボディスーツ丸出しよりは良い。これなら見られてもまだ我慢出来る。


 ついでに体も隠せるものを作れないかと考える……。でも良い案が浮かばない。筒状にして胸に……、ってそれはチューブトップだけど、逆にその方が何か恥ずかしくないか?暗い色のボディスーツの上に、割と目立つ土色というか……、の布で出来たチューブトップを被る……。むしろその部分が強調されて余計恥ずかしい気がする。


 もちろんパンツも同じだ。ボディスーツの上から、股間部だけのパンツ、ショートパンツとかを作って穿いてたら余計その部分だけ強調されている気がする。むしろ余計に恥ずかしい。


 じゃあショートパンツじゃなくて長ズボンか?それもおかしいだろう。上半身はピッタリボディスーツなのに、下半身だけこんな襤褸から作った長ズボン……。あまりに異質すぎる。


「マントで隠すだけで満足するしかないか……」


 色やデザインをもっと工夫出来るのならこのボディスーツの上からでも着れる物はあるだろう。でもこの土色のような襤褸布から素人が作れる形状とデザインで、あまりおかしくならない範囲で作れと言われても無理がある。


 服についてはどうすればいいのかわからないので保留ということにしておく。袋自体はまだあの死体の所にあるから、何か思いつけば補充は可能だ。知らない間になくなってる可能性もあるから、多少はこちらでも確保しているけど、全部持ってきたわけじゃないからな。


 もし誰かが再び採掘にやってきて、死体共の所に残っている袋の数が合わないなんてことになったら存在がバレる可能性がある。すでにいくらか使えそうな物はもらってきてるけど、全部無くなってたら流石に気付かれるだろう。というわけで俺は少ししか拝借してきていない。


 いつまでも服作りにばかりもかまけているわけにもいかないので、そろそろ食料調達に出かけることにしよう。持ってきた食材から先に使うのは当然だけど、そろそろこちらでも食料を調達しておかなければならない。


 あまり広い森とは言えないから食料も豊富ということはないと思う。ここを拠点にして王都を探すとしてもそんなに長い時間はかけられないだろう。そもそも木の実やきのこばっかりの生活なんてもう嫌だし……。


 魚ばかりだとそれはそれで嫌だったけど、その魚すら手に入らないとなると長期間は耐えられない。俺が食事に満足出来ないだけじゃなくて、たぶん体にも良くないだろう。いい加減肉が食いたい……。


 王都の食材ってどうしてたんだろう……。流石に食べ物まで魔力結晶で作るなんて出来るとは思えない。それにそんなことをするくらいなら栄養剤とか栄養ドリンクでいいだろう。そういう風に進化するはずだ。王都では普通の飯が食えてたけど一体どうやって……。


 王都が食料を確保するために畑や牧場を拓いていたのなら、町の規模も結構大きなもののはずだ。実際俺は王都の端から端まで全てを知っているわけじゃない。むしろイケ学と、パレードの進路上しか知らないとすら言える。


 もし俺が思った通りに大きいのなら、案外王都もすぐに見つかるかもしれない。マントも出来たことだし、そろそろ本格的に王都を探していこう。




  ~~~~~~~




 小さな森に辿り着いてから何日くらい経ったのか……。まだそんなに物凄い日数が経ったわけじゃない。でも木の実ときのこの生活のためかもううんざりしている。食事の楽しみもなく物凄く長い苦痛の時間に感じられたけど、それでも周辺を丁寧に探索していく。


 当初の予定より長く滞在出来ているお陰で心には余裕があった。いくら楽しみのない食事でも、本来ならとっくに戻っていなければならなかった日数を越えても滞在出来ているのは大きい。


 その間に次の採掘班が来ることもなかった。もしかしたら別の採掘場へ行っているのかもしれない。王都近くの森だってここしかないということはないだろう。定期的にあちこちを順番に回っている可能性もある。それならイケ学の出撃先が変わっていた説明にもなるしな。


 そんなわけで周辺を探索して幾日か……。俺はついに……。


「あれが……、外から見た王都か?」


 高い城壁に囲まれた広い町が見える。こちらから見ていると本当に広く見える。実際かなりの広さがあるだろう。よくもこれほどの城郭都市を作ったものだと思う。


 古代魔法科学文明の生き残り達が作った町を、徐々に改修したり拡張したりしながら暮らしてきたのだろうか。でなければあんな中世か近世かというような町並にこれだけの大規模な都市ではあまりに不釣合いに思える。


 王都の周辺は多少緑に覆われている。木や草が生い茂っているけど……、黒インベーダー達もウヨウヨしてるな……。完全にインベーダー達に取り囲まれている。俺達はこんな中に住んでいたのか……。今外から見たらぞっとする。


 城壁の上には見張りがいるし、門の所にも兵がいる。今は門は開かれているけど……、あれは人の出入りのために開いてるわけじゃなくて、壊れかけの門を修理している最中のようだ。兵士達は一応外に備えているけど、もし黒インベーダー達が襲い掛かってきたら凌げるとは思えない。


 でも何故かインベーダー達は兵士達を襲わない。……襲わないんじゃなくて襲えないのか?


 何か……、インベーダー達に襲われない仕掛けがあるのかもしれない。でなきゃとっくに王都そのものがインベーダー達に襲撃されているだろう。まだ王都が残っているということは、黒インベーダー達に襲われない何らかの仕掛けがあると見るべきだ。


「これは……、まずいな……」


 王都まで来たら何とかなるかと思っていたけど……、どうやら事はそう簡単じゃないかもしれない。俺が人間だからって正面から堂々と近づいても、歓迎して迎え入れてくれるとは思えない。そもそも誰も外に出入りしていないんだ。外から来た者なんていたら絶対に怪しまれる。


 じゃあこっそり城内に侵入しようと思っても、恐らく何らかの仕掛けが存在しているに違いない。それが俺でも通り抜けられるものならいいけど、もし通り抜けられなければ……、それも目立って兵士に見つかってしまう。


 最悪転移で入ればいいかと思っていたけど、何か結界やバリアのようなものがあるのなら下手に転移しない方がいいかもしれない。バリアにぶつかって転移失敗で見つかる、とか、最悪は転移とバリアがぶつかってこっちが死ぬなんてことになったら目も当てられない。


 王都を見つけたのは良いけど……、一つ解決しても、また一つ新しい問題が出てくる……。一体どうすればいいんだ?



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] そうだトンネルを掘ろう( ˘ω˘ )
[一言] >王都を見つけたのは良いけど……、一つ解決しても、また一つ新しい問題が出てくる……。一体どうすればいいんだ? ぜひとも、ずだ袋を頭からかぶってメジェド様遊びを……(お目目キラキラ) 現…
[一言] 当たって砕けろ! …砕けちゃだめか
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