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第九十六話「別の森を見つけました」


「なんだ……、これは……」


 谷の逆側を探索し始めてすぐに、俺はとんでもないものを発見した。谷の向こう側、俺達が戦っていた方角からは丘の影になって見えなかったけど、少し谷のこちら側を歩いて丘を回ってみれば……。


「…………廃墟?」


 乱立する建物群。計画的に整備されたであろう道路。工場か、ショッピングモールか、娯楽施設か、何らかの大規模施設。


「これは……、まさか……、魔法科学文明の町?」


 すでにかなり崩れかかっている。実際傾いているビルのようなものもあるし、道路は荒れ放題、ひび割れ、陥没、長い年月の間に風化して崩れ、最早人が住める状態にはない。でも緑に覆われているということもなく、多少あちこちに草や、場合によっては木も生えているけど、ほとんどは建材がむき出しのままだ。


 地球で言えばコンクリートやアスファルトで覆ってしまっているために、草がその隙間から少し生えているだけという感じだろうか。木に関してはかなり少ない。草も全てを覆ってしまってるわけではなく、あちこちの道路が割れた隙間などから生えているだけという感じだ。


 元々この世界は植物も少ない。俺はあの森を見たけど他は戦場で見たような草原のようなものしかなかった。ここが全て人工物によって覆われていることと、この世界の植物そのものがあまり育たない環境のために、これほどはっきり見てわかるほどに廃墟が残っているんだろう。


 あちこちが崩れやすくなっているから慎重に辺りを探索する。でも何かありそうには見えない。研究所は白インベーダー達が整備して維持していたから残っていただけで、普通の家やビルが管理もされず放置されて何か残っているとは思えない。


 ざっとあちこち見て回ったけど特に何も見つからなかった。完全に全てを調べたわけじゃないけど、俺一人でこの広さをあてもなく隅々まで確認しろというのは無理な話だ。


 ただわかることは、森の研究所の上部構造物と同じように、コンクリートのような建物そのものは残ってるけど、中身はほとんど全て風化してしまって何も残っていないということだけだ。


 こちらでは小さな建物はほとんど崩れてしまっている。もしかしたら個人住宅とかだったのかもしれない。地球風に言えば、鉄筋コンクリート製の大型施設やビルは残ってるけど、木造なども多い個人住宅は早々に風化してしまって崩れている、という感じだろうか。


 いくつか、まだ形の残っている建物の中に入って調べてみたけど、ほとんど風化して崩れているだけで中にも何もない。どこかに隠し部屋があったり、白インベーダー達のような物が維持している施設や設備が……、ないだろうな……。


 研究所のデータから見た限りでもあの白インベーダー達は当時普通に普及していたものというわけじゃない。世界が崩壊に向かってから慌てて各所で研究を開始して出来たもの、という記録があった。それがこんな普通の街中で利用されてるはずもないだろう。


 ……でも何故研究所はあんな場所にあったんだろうか?秘密の研究所は人里離れた場所にひっそりとあるものだ、と言えばそうかもしれないけど、別に隠さなければならないような施設とも思えない。


 それよりも一刻も早く人類を救う研究をしなければならないのなら、利便性が良くて、建設や何やと都合が良い場所に建てないだろうか?あんな森の中にポツンと建てるのでは建設するだけでも手間が……。


 いや、待てよ?俺の考えがおかしいのか。あの森は後から出来た。研究所を建てた当初はあんな森なんてなかった?そう考えればおかしくもないのか?


 わからないな……。ただ転移があったから魔法科学文明の人にとっては距離は大した足枷ではなかったのかもしれない。それよりも危険な実験を街中でする方が反対も多いから、郊外の離れた場所に作られたとか?


「最早知る由もない……か」


 この廃墟を発見した時は驚いたけど、特に何もないし俺が考えてもわからないことだらけだ。でもこの近くに王都がある可能性はある。


 例えば……、この町に住んでいた魔法科学文明の人達が、世界が滅ぶ際にこの町から逃げ出した。そして何とか自分達が生きていけるように急遽作り上げたのが王都だとすれば……、それほど遠くない位置に王都があってもおかしくないだろう。


 かつての魔法科学文明の避難所だったとか、人が集まって出来た避難キャンプだったとか、そういう所から発祥したのかもしれない。


 ただこれ以上ここで粘っても凄い発見があるとは思えない。森の研究所より優れた成果は得られないだろう。それならこれ以上ここを探索するよりも、早く王都を探しに行くべきだ。


「どうせ食料も手に入らないしな……」


 気にはなったけど、食料の残りなどから考えてもゆっくりしている暇はない。廃墟の探索は諦めて王都探しを再開したのだった。




  ~~~~~~~




 廃墟を拠点にしてもう何日も周辺を探索しているけどこれといって新しい発見はない。死の大地から離れたお陰か食料の傷みは遅くなったようだけど、そもそも食料の残りが心許なくなってきた。


「今日はこっちの方角を中心に調べてみるか……」


 ナビ画面を見ながら今日の探索範囲を確認する。今日向かうのは川上方向に近い。平面で考えた場合に上から下に川が流れているとすれば、今日の探索は左上方向に進む感じだ。川から離れつつ川上方向に向かう方角になる。


 他はある程度調べたからまだ調べていないのは川上方向だけだからな。何か川上からやってきたのに、川上方向へ戻るのは何となく嫌な気がして後回しにしていたけど、もう残っている主要な探索方向はこちらしかない。


「今日で進展がなければ……、そろそろ森へ帰還することも考え始めなければならないかもな……」


 ある程度余裕を持って行動するつもりならもう数日以内には決断をしなければならないだろう。草は生えてるけど木はほとんどないから木の実も採れないし、変なきのこを食べて毒だったら大変だしな……。


 そんなことを考えながらラピッドも使って目的の方向に進んでいると……、段々と生い茂ってきていた。これは……、森だ。森だ!小さいけど確かにこれは森と言っていいだろう。荒野や草原とは明らかに違う!森が出来ている!


「ここならもしかして食料も……」


 俺が居た森のようにある程度食料が確保出来るのなら、これからはここを中心に探索してもいい。食料が手に入るのなら拠点にはもってこいだ。


「――ッ!?これは……、掘り返した跡?」


 小さい森の中を何かないかと歩いて探索していると、明らかに何かが地面を掘り返した跡があった。自然に出来たものじゃない。地球には穴や地面を掘る動物もいたけどこの森でもまだ生き物は見ていない。それに掘り方が……。


「人間が掘ったものか……?でも何でわざわざ……」


 森に食べ物を探しにきた……、わけないわな。それなら何故こんなにあちこち掘り返しているというのか。これは何か別の目的が……。


「……あ?石が……。もしかして……」


 掘り返した辺りに小さな魔力結晶が転がっていた。もしかしてこれは……、人間が魔力結晶を採りに来た跡なのか?


「何だ……?何か妙な臭いが……」


 何かえた臭いがする。何か動物が死んで腐ってきたような……、そんな臭いが……。何かに引っ張られるようにその臭いのする方へ引き寄せられて……。


「うっ……。人間の……、死体……か?」


 掘り返した跡の近くには人間の死体が散乱していた。どれもインベーダーにやられたような痕がある。俺だってここに来るまで散々黒インベーダー達に襲われた。俺なら向こうが気付く前に近づき一気に殲滅出来る。仲間を呼ばれたら厄介だから、極力仲間を呼ばれないように始末してここまで来た。


 浄化された森の中だから黒インベーダーが来ない、なんてことはない。ここに転がる死体が物語っている通り、死の大地でも、荒野や草原でも、浄化された森にだってインベーダー達はやってくる。


「こいつらは……、王都の兵士?それと……、何かの労働者か?」


 転がっているのは明らかに王都にいた兵士達と同じ装備をした者と、炭鉱夫のような格好をした者達。近くには袋や袋に詰めた土が転がっている。


「そうか……。これが王都の秘密か……」


 俺は一人納得して木にもたれかかった。何てことはない。イケ学の生徒達の役割はこれだ……。王都は確実に古代魔法科学文明の遺産を利用している。研究所がまだ稼動していたように、王都にも魔法科学文明の遺産が残っている。学園の転移門もそうだ。


 でもそれらは魔法科学文明時代の大量消費があってはじめて成り立つものだ。今の魔力結晶が枯渇寸前でほとんど手に入らない状況では、いくら道具があっても動かすことが出来ない。


 その動力源、エネルギー源を得るために……、まだ生きている森まで魔力結晶を採りに来なければならない。ただ魔力結晶が必要だから採掘に行きましょうと言って、はいそうですか、と簡単に手に入れられるわけがない。そこで出てくるのがイケ学だ。


 イケ学の生徒達を採掘作業を行なう場所の近くに出撃させて黒インベーダー達を食い止めさせる。その間に兵士に護衛された労働者達が地面を掘り返し魔力結晶を持って帰る。俺達はそのためのただの壁だ。


 出撃時に中々クリアされずに段々と戦う時間が延びていたのは……、少しでも多く魔力結晶を確保して帰るために、俺達がもつ限りギリギリまで戦わせて粘っていたからだろう。


 確かに……、王都の都市機能を守り、維持するためには魔力結晶が必要なのかもしれない。でも……、戦わされていた俺達は何も知らされず……、ただ採取してくるまでの間の壁をさせられていただけなんて……。こんなのあんまりじゃないか?


 せめて……、せめて事情を説明されていたのならいい。魔力結晶を手に入れるために、王都を守るために志願する者もいるだろう。でも俺達は何も説明すらされず、何故戦っているのかもわからないまま、ただひたすらあの地獄に送り込まれていただけだった。そんなのあんまりじゃないか…………。


「王都に戻っても……、俺はもう王都のために戦えない……」


 誰だって死にたくない。俺だって死にたくないから必死で戦ってきた。別に王都のためとか、王国や国民を守ろうと思って戦ってたわけじゃない……。それでも……、俺達の戦いは誇りある戦いだったと、死んでいった者達に言ってやりたかった……。


 でもその中身はどうだ……。俺達はただの捨て石じゃないか……。これで俺達は王都のために、民のために戦って死んだと言えるのか?


「…………舞と、アンジェリーヌのためだけに、これからは!俺は!あの二人のためだけに戦う!」


 もうこんな腐れた世界のことなんて知らない。俺が戦うのは俺にとって大切なあの二人のためだけだ。王国や王都は勝手にすればいい。今までこうやって生き延びてきたというのなら、これからもこうやって生き延びていけ。俺はもう知らない。


「こんなものがこの辺りに転がっているということは……、王都は近いはずだ」


 やっぱり転移は近くの場所を、そして魔力結晶が埋まってそうな場所の近くを狙って行なわれていたんだ。それにこの死体はまだ新しい。死体を食べて分解する生き物が少ないせいか、この世界では中々死体は分解処理されない。でもこの死体はまだそこそこ新しいはずだ。


 昨日今日というほど新しくはないけど、一週間、二週間くらいのレベルかもしれない。あるいは一ヶ月?


 普通に考えて地球ならそんな前の死体はもう酷いことになっているだろう。色々な生き物に食べられて、菌などに分解されて、もっと崩れているはずだ。でもここでは生き物が少ないために分解が遅い。数ヶ月単位で死体が残ることもある。でも最後は骨も残さず分解されて魔力へと還る……。地球とはまったく異なる生命のサイクル……。


「ここから王都が近いのなら……。こいつらの物を少し利用させてもらおうか」


 流石に死体の服を引っぺがして着る気にはなれない。汚いとか気持ち悪いというのもあるけど、いくら俺でも死体から追い剥ぎするのは気が引ける。


 利用出来そうなのはこいつらが土を詰めている袋だ。土を入れて運ぼうとしていた途中で襲われたんだろう。土が入ったままの物があちこちに転がっている。でもまだ未使用の物もある。それを利用すれば体を包んだり、外套にしたり出来る。


「何枚か貰っていくぞ」


 適当に使えそうな物をあれこれ物色して持って行く。死体の追い剥ぎが、とか言ってた癖に結局追い剥ぎじゃないかって?それは違う。着ている服まで剥ぎ取るのは、と言っただけで、持ち物に一切手をつけないとは言ってない。


「よし……。ここから離れて拠点を作るか」


 使えそうな物資を色々と頂戴した俺は、また王都の者達が採掘に来るかもしれないからその場から離れ、王都を探すための拠点をこの森に構えようと再び歩き出したのだった。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
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