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第九十二話「手に入れました」


「これはっ!?」


 緊急装置と書かれた箱を開けてみれば……、出て来たのは……。


「はっ!ははっ!やった!」


 検索した時に見た参考画像と同じもの。個人用転移装置だ。転移装置がゴロゴロと出て来た。一、二、三……、ここにあるだけで十個……。かなりの数だな……。


 いや……、待てよ?これは『個人用』転移装置だ。だったら緊急時に脱出するためには職員の数だけなければ脱出出来ないんじゃないか?ならむしろ十個じゃ全然足りないということになる。そういえば他にもこんなのがまだあったな……。もっとあるんじゃないか?


 まぁいいか。今はこの十個で事足りる。まずは検証と実験だ。たくさんあったって使えなければ意味はない。


 これだけあるんだから遠慮なく実験出来るというものだ。まずは一つ装着してみる。個人用転移装置は腕に巻き付けて使う。よくSF映画とかで腕に巻き付けて使う情報端末みたいな感じだ。パソコンのものとは違うけどキーボードのようなものが並んでいる。


「取り説はないのか?」


 普通こういう緊急脱出装置なら、どこかに使い方の手順とか書いてあるんじゃないのか?まぁ……、たぶん……、この時代の人達には個人転移装置なんて当たり前に普及しているもので、いちいち説明なんて不要だったんだろう。そもそも操作が複雑でそんな簡単に説明出来ないというのもあるかもしれない。


「これか……?」


 何か起動ボタンらしきものがあるから押してみる。


「おっ?おっ?おおっ!」


 腕の装置からホログラフィーのような画面が浮かび上がった。適当にキーボードを触って操作してみる。いきなりわけもわからず転移とかしてしまったら大事だから、ここからは慎重に慎重に……。


「うん……、うん……。なるほど……。大体わかってきたぞ……」


 研究所のパソコンみたいな奴も散々触ってきたから、何となく操作が直感的にわかる。まず『神の目』から位置情報を受信してこの場所の座標が表示される。それから転移関連の操作として、転移先の座標入力や、転移先の確認、そして転移の実行というものがある。この辺りは現代人でも少し触れば何となくわかってくるだろう。


 もちろん怖いからあまり下手に触れないけど、機械やパソコンや装置の操作に慣れている人なら少し触ればわかるはずだ。そしてこれをいじりまわしていてふと気付いた。転移先の座標がすでに入力されている。


 これはあれか?緊急時にいちいち座標を入力していられないから、先に脱出先を指定してあるということか?


 他の転移装置も起動してみて確認してみたけど、やっぱりどれもデフォルトの転移先の座標が指定されていて同じだ。つまりこの転移先の座標が緊急脱出先ということだろう。


 どういう場所なのか、今どうなっているのか、非常に気にはなる。でもここへ飛ぶ気はしない。ここの人達だってこの装置を使えば外に出られたはずだ。それなのにここで朽ち果てるまで残っていた。普通に考えてこの脱出先も碌な事になっていないと考えるべきだろう。


 いつか行ってみてもいいかもしれないけど、それは相当な覚悟が必要だ。下手をすれば出た瞬間に死ぬ可能性もある。例えば空気がないとか、水の底に沈んでるとか、考え出せばキリがない。出た先がどうなっているかわからないのに、転移でいきなり飛ぶというのは恐怖以外の何物でもないだろう。


 とりあえずこの転移先に行くのは保留ということで、まずは色々と実験と検証だ。


「…………一度、…………転移してみるか」


 滅茶苦茶怖い……。リアルに『いしのなかにいる』とかなりかねない。いや、ないんだけどね?魔法科学文明人達だって馬鹿じゃない。安全装置もつけず、安全性も保障されないそんな馬鹿な装置を大々的に普及させたりするわけないだろう?でも絶対はない。それに長い時の間にどんな影響があったかも不明だ。装置の不具合ということもあり得る。


「まずは座標を……」


 ホログラフィーの画面から今自分がいる座標を確認する。そして転移したい先の座標を入力……、と思ったけどやっぱり一回外に出よう。何か建物の中だと怖い。




  ~~~~~~~




 というわけで外に出てみた。広い場所、何もない場所、ここで転移すれば失敗しても『いしのなかにいる』は避けられるだろう。それにさっき言いかけたけど、この転移装置には安全装置がついている。


 人工衛星『神の目』から座標を得ていると言ったけど、神の目は座標をこちらに送ってくるだけじゃない。監視もしていると言ったはずだ。神の目は端末の要請に従って座標を送る。そして端末が転移する先の座標を確認して、そこに何かあったりすれば転移させないようにエラーで止めるように出来ている。


 だから石がある場所に転移しようとしても神の目がその座標を確認して、邪魔になる物体があるから転移をさせないというわけだ。これによりリアル『いしのなかにいる』を避けて安全に転移出来るようになっている。


 大丈夫……。座標の確認は記録から読み取ってるわけじゃない。実際に衛星が上空からサーチして、その位置に転移しても問題ないと確認してから許可されている。だから大丈夫だ。古いデータだから今と地形が変わってるとかは関係ない。


 それに俺達はイケ学でもうこの装置を利用している。あれは設置するゲート型だったけど……。これだってあれだって同じシステムで動いているものだ。


「よし……。やるぞ……」


 ほんの少し先の座標を指定する。情報端末のホログラフィーに表示されているその座標は、ここから1mほど先だ。大丈夫……。絶対大丈夫。


「ポチッとな」




  ~~~~~~~




「…………お?おおっ!やった!成功だ!」


 いともあっさりと、俺は1mほど先に移動していた。起動音もタイムラグもほとんどなかった。押した瞬間に移動していたような感じだ。飛んだ瞬間に一瞬フワッとした浮遊感があった。たぶん地面ぴったりに飛ぶんじゃなくて、少し浮いた状態で出現するんだろう。


「よし!次だ!」


 転移は成功した。座標の入力とかも大体わかった。座標についてはホログラフィーで行きたい場所を指定出来る。これはあれだ……。スマホのナビ機能で、タッチパネルを操作して行きたい場所を直接タッチすればいいような感じだろうか。現在地や行き先の座標がこれで確認出来る。


 でも転移はもうおしまいだ。たぶんこれは滅茶苦茶魔力を消費している。気軽にホイホイ使っていいものじゃない。なので次の検証に移る。


 まず研究所に戻った俺は今使いかけた転移装置を停止してから分解した。別に構造を把握しようとか複製しようということじゃない。むしろそんなことは出来ない。


 例えば真空管を使って演算装置なら人の手で作れる。でも集積回路は人の手では作れない。人間が作り出したものではあるけど、機械を使って製造しない限りはあんなもの人間の手で直接作って再現するなんて不可能だ。


 同じようにこの魔法科学文明の装置や機械は人の手では作り出せない。装置を作り出すための装置をまず作って、その装置に作らせなければ再現や複製は不可能だ。だから俺がこれをバラしても中身を理解することは出来ない。


 じゃあ何故バラしているのか。それは……。


「うおっ!でっけぇ魔力結晶だな……」


 分解してみれば中には動力源である魔力結晶が埋め込まれていた。親指と人差し指で輪っかを作ったくらいの石だ。これは滅茶苦茶でかい。はっきり言って魔力結晶は小さな石粒一つで滅茶苦茶使える。こんなサイズの石だったらどれほどのエネルギー源になるだろう……。


 これを取り出して利用しようと……、ということでもない。確かに魔力結晶は貴重だから、これも捨てたり無駄遣いしたりはしない。でも俺の目的は……。


「これは簡単に言えば電池、バッテリーだ……。だったら……」


 そう……。魔力結晶は地球風に言えば電池やバッテリーに相当する。まぁ電池もバッテリーも同じだけど……。それはともかく、魔力が動力源で、魔力結晶から供給される魔力で動いている。


 じゃあ……、例えば……、別の魔力を供給したらどうだ?


 現状では魔力結晶は貴重な上に、こんなでかい魔力結晶なんて恐らく手に入れる方法はない。それにこの魔力結晶はこの規格に合うように加工されたものだ。そこらの石を拾ってきて嵌めればいいというものじゃない。だから今ある魔力結晶を消費してしまったら全て終わってしまう。補給の利かない消耗品だ。


 その問題をクリアするために……、俺はこれを一つ分解して、ここに俺の魔力を接続出来ないかと思っている。もし俺の魔力でこの装置が起動出来れば、少なくとも魔力結晶の補充という問題はクリア出来るかもしれない。


 このナビをあてにしてここから離れて、出先で魔力結晶が切れて自分の居場所もわからなくなりました、じゃ洒落にならない。何とか魔力の補充か確保をしなければ……。


「ここに魔力を流せばいいのか……?」


 最悪何個かは壊れてもいい。魔力結晶は大切だけど装置自体は研究のための尊い犠牲になっても仕方ないだろう。それよりも……、少しずつ慎重に魔力を流していく。一気に流しすぎてオーバーヒートしたら大変だ。電化製品だって過電流を流したら焼き付いて壊れてしまう。


 ゆっくり慎重に魔力を流しながら起動ボタンを押してみると……。


「お?」


 急に魔力を吸われるような感覚がしたので流す魔力をそれに合わせて増やす。


「おおっ!やった!ついた!ついたぞ!」


 魔力結晶が取り付けられていた場所に魔力を流しながら画面を見てみれば、ちゃんとホログラフィーが表示されていた。俺から直に魔力を流しても動くようだ。魔力の消費も大したことはない。あんなでかい魔力結晶が入ってたから、一体どれほど魔力を消費するのかとビビッたけど、これなら大丈夫だな。


「ついでだし……、ちょっと転移してみるか?」


 そのまま装置を操作して少し先の座標を入力する。ほんのすぐ先だ。これくらいなら……。


「うおっ!ぐっ!なんっ……、だっ!これ……!」


 グングンと魔力が減っていく。俺の魔力でここまではっきり減っていると感じられることは滅多にない。わざと減らそうと思っても中々こんなに減ってる感じはしないのに……。


「ぐあぁっ!」




  ~~~~~~~




「ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」


 ここは……。振り返ってみれば、少し後ろには先ほどまで俺があれこれ触っていたものが置かれている。開けた装置の蓋や、取り出した魔力結晶だ。どうやら転移成功したらしい……。


 たった……、たったこれだけの距離を転移するだけで……、今どれくらい俺の魔力が持っていかれた?魔力が減りすぎて体がだるい。こんな感覚は久しぶりだ。ここまでの状況は、図書館の瞑想で魔力が枯渇寸前になった時以来だろうか。


 冗談じゃない……。何て馬鹿げた消費量だ……。そりゃあんなでかい魔力結晶が必要になるわけだ。あんなでかい魔力結晶でも消耗品扱いだろう。でなけりゃこんな魔力消費なんて賄えない。


「便利さの代償……か……」


 どうして昔の魔法科学文明が滅んだのかわかった気がする。確かに分野によっては地球の科学文明すら遥かに凌駕していたんだろう。でもその代わりにとんでもない消費社会だったんだ。その結果が……、星の死と文明の崩壊……。これは根が深い問題だな……。


 俺が考えていたような簡単な話じゃないようだ。それはそうか……。そんなに簡単ならこれほどの文明が成す術もなく滅んだりするはずがない。それにインベーダー達がとっくに直しているはずだろう。あいつらが何百年、何千年と頑張っても直せていないものを、俺の思いつきで簡単に直せたら苦労はしない。


「転移については……、まだまだ要研究だな」


 とりあえず俺の魔力で装置の起動と、一応短距離での転移は可能だということはわかった。ただこれは実戦では使えない。座標入力が面倒すぎる。転移する前に入力している間に攻撃されて死ぬだろう。それに魔力消費が大きすぎて危険な場では使いたくない。もし今黒インベーダーが襲撃してきたら涙目だ。今日はもう戦いたくない。


 俺の目的としては自分の魔力で供給して、電池不要で無限にナビ機能が使えたらそれだけで十分だ。今は蓋を開けて魔力結晶を取り出した場所を触れて魔力を流している。これをどうにか……、普通に腕に装置を取り付けた状態で魔力を流せるようにしたい。その改造が出来れば一歩前進だ。


 まぁ……、他にも色々と問題があるわけで……、これが出来たってまだ出発とはいかないけど……。とりあえず一歩前進ということで……、次に取り掛かりますか。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] 短距離を自力転移出来たって事は、今まで以上に魔力を増やす訓練し続ければ、1年せずに相当な距離を往復転移出来る様になるんじゃなかろうか? と言うか伊織は良い根性してる。 転移で息荒くして、冗…
[一言] もっと魔力を増やさないと( ˘ω˘ ) 魔力結晶パクッと行けないだろうか(゜ω゜)
[一言] 短い距離でも一回転移できる伊織はすごいんでね?
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