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第八十九話「準備開始しました」


 俺がこの森に来てからもうどれくらい経っただろうか。最初に着ていた制服はもうただの襤褸切れと化している。一応まだ体に巻きつけているけどもう完全に服じゃないな。ただの腰布とかそんな感じだ。腰と胸に巻いておっぱいと股間部分を隠しているけどあまり意味があるとは思えない。


 まぁどうせここには俺かインベーダー達くらいしかいないんだからどうでもいいんだけど……。王都に戻る時にどうにかしなければならないだろうな。少なくともこんなボディラインくっきりの恥ずかしい格好で人前に出るのは無理だ。


 それはまだ先のことだから今悩んでも仕方がない。それより今日は……。


「ピギーッ!」


「いてっ!」


 しゃがんで地面を掘っていると白インベーダーにペチリと頭を叩かれた。


「ピギッ!」


「わかったわかった。これくらいにしておくよ」


「ピギッ!」


 俺が今日の採掘をやめると白インベーダーは向こうへ行った。あれは俺が魔力結晶を採り過ぎだって怒ったんだ。ちょっとくらい魔力結晶を採っても怒らないけど、あまりに採り過ぎたら今みたいに怒られる。採りすぎたと言ってもまだ掌の上に小さな石のようなものがポツンとあるだけだけど……。


 これだけでも俺にとっては十分だから今日はもう戻ることにする。


 あの後黒インベーダー達は何度も攻めてきている。明らかにペースがおかしい。白インベーダー達のやられ具合から考えて、もしずっとあれほど頻繁に侵攻されてるんだったら、とっくに白インベーダー達は全滅してたはずだ。


 でも実際には俺が来るまで白インベーダー達は生き残っていた。そのことから考えると黒インベーダー達が頻繁に攻めてくる目的は俺だろう。俺がここにいるから攻めてくるようになったんだと思う。全部俺のせいじゃなくとも頻度が上がってるのは間違いない。でなければ白インベーダーの生産量とやられてる数が吊り合わない。


 黒インベーダー達が頻繁に襲ってきてくれるから俺は相当レベルが上がった。俺がゲームの『イケ学』をクリアした時の全体のレベルは大体40台そこそこだった。平均45もいってないだろう。でも今の俺のレベルは……、まぁ……、あれだ。


 白インベーダー達には良い迷惑だったかもしれないけど、俺にとっては黒インベーダー達の襲撃が多いのは助かった。面倒臭いと思ったこともあるけど、このレベルまで上げられたのはあれだけ頻繁に襲撃してくれた黒インベーダー達のお陰だ。


 そして俺は黒インベーダー達と戦う傍ら色々なことを行なった。研究所の調査や魔力結晶の採掘だ。


 この山は適当に掘ると割と簡単に魔力結晶が出てくる。もちろんさっきみたいな小さな石がコロコロと出てくるだけだけど、それでも俺の目的のためには十分だ。


 研究所にはもう目ぼしいアイテムはないけど、知識ならいくらでも得られた。装置を操作すると色々なデータが残されていたからだ。最初は研究所の装置の操作もわからなくて苦労したけど、今なら現代地球風に言えばパソコンを操作して情報を検索して閲覧する、という感じのことくらいなら割と簡単に出来るようになった。


 その情報とブレスレットの情報を合わせて色々と調べて研究した結果、俺はかなり魔法陣が使えるようになった。


 やっぱりこの世界はあの研究所の魔法科学文明の後継文明だ。かなり知識も技術も失われているけど根底にある部分が同じだというのは、両方を見比べて少し調べればすぐにわかる。そして魔法科学文明の方が発達していた部分もあるけど、こちらにしかない発展や進歩も確かに見られる。


 総合的には魔法科学文明の方が優れていただろうけど、部分的にはこちらも負けていない。それらを組み合わせて俺はさらに独自の魔法理論や魔法陣を生み出した。そのためにこの山で採れる魔力結晶が必要だ。


 俺が考えていた通り、魔法陣を応用して魔力を注ぐだけで効果を発揮させるということは可能だった。というよりは魔法科学文明はほとんどそれで成り立っていると言っても過言じゃない。こちらで言うところの魔法陣を構築しておき、そこにエネルギーを流し込んで効果を発揮させる。


 機械とは違うから……、え~……、現代地球風に言うと、魔法陣が機械とかの制御ソフトとか制御プログラムというところかな?それにエネルギー……、電気を流すことで働かせるみたいな?ざっくりしたイメージで言えばそんな感じだ。


 魔法科学文明はこちらみたいに、ただ単純に火を起こすとか、水を撃ち出すとか、そんな制御をしてなかったというだけだな。やってることは自体はこちらの魔法陣と変わらない。


 俺にとっては機械を動かすわけでも制御プログラムが欲しいわけでもない。なので俺が作った魔法陣は普通にファイヤーボールの魔法を発動させるとか、そういう単純かつ攻撃魔法を発動させるという俺の戦闘に役立つ方向に特化している。


 魔法陣を描く触媒の魔力結晶はほんの僅かでいい。さっき採ってきた小さな石ころ一つでかなりの魔法陣が描ける。問題なのはそれを描く媒体だ。紙なんて当然ない。しかも紙なんてすぐにボロボロになってしまう。使い捨てならともかく再利用前提には不向きだ。


 他に考えられるとしたら羊皮紙みたいな、何かの動物の皮とか……、と考えたけど、そもそもここにはインベーダー達しかいない。俺は未だに野生動物を見ていない。なので皮も却下。


 となると、そのインベーダー達の皮を剥いで羊皮紙代わりにでもするか?とも思ったけど、いや、もっと言えば実際に黒インベーダーの皮を剥いで使おうとしたけど色々と問題があった。まず臭い……。インベーダーの皮を剥いでも臭すぎてすぐに臭いでそこにいるとバレてしまう。こっそり持ち歩くには不向きだ。


 そして臭いを我慢したとしても、まずインベーダーの皮に魔法陣を描いて利用するというのが不可能だった。何か反発し合うというか、インベーダーの魔力結晶が魔法陣の魔力結晶や働きを妨害しているような、変な挙動になってちゃんと発動しなかった。


 植物の皮を剥いで、とか、石の表面に、とか、色々試したけどどれも中々うまくいかない。そんな時に研究所に行って調べていたら良い物を見つけた。それは俺が着ているボディスーツの前の段階の素材だ。


 このボディスーツや培養されていた剣やインベーダーは、もしかしたら全部同じ素材で出来ているのかもしれない。少なくとも魔力結晶を利用して作られているのは確実だろう。


 でもボディスーツはインベーダーのように生臭くないし、まだスーツやインベーダーになる前の、皮の元みたいなやつには魔法陣を描くことが出来た。培養槽で培養されていた皮膚のような皮のような素材を取り出し、俺が魔法陣を描き、腕や指に巻きつけた。今ではその魔法陣に魔力を流すだけでそれぞれの魔法が使える。


 ただ、それにも問題があって、あまり近くにたくさんの魔法陣は巻きつけておけない。たぶん俺が細かく魔力を流すのを操作出来ないからだろう。明らかに別の場所にある魔法陣になら、そこに流そうと意識するだけで魔法陣を発動出来る。でもあまりに近すぎるとどちらも中途半端に魔力が流れて正常に作動しない。


 例えば、右足首と左足首に別々の魔法陣を巻きつけておき、戦闘中に左足首の魔法陣を発動させようと魔力を流したら、きちんと左足首に巻きつけていた魔法陣が発動する。


 でも右人差し指の、基節、中節、末節、にそれぞれ魔法陣を巻きつけて、中節の魔法陣を発動させようとしてもうまくいかない。理由は距離が近すぎて魔力がうまくそこだけに流れないから、とかそんなところだろうと思う。俺がもっと精密な魔力コントロールが出来ればうまく使えるのかもしれないけど……。


 まぁそんなに細かく近い場所だとうまくいかないけど、それぞれの指一本に一つ、くらいに場所を変えておけば発動出来る。だから両手で十本の指と、両手首、両足首、とかにつけるだけでかなりの数の魔法陣を別々に装着しておける。


 素材の皮の作りかけみたいなやつはかなり丈夫だから破れる心配もほとんどないだろう。このお陰で俺は口で詠唱しなくても即座に魔法が発動出来るようになった。


 ブレスレットのスキルも魔法もかなり覚えたし、魔法応用も全て読み終えた。レベルももうこれ以上ここで粘っていても中々上がらないだろう。というか普通にプレイしてたらまずこんなレベルまで到達しないはずだ。途中から知らないスキルも出てきてたから、ゲーム時にはまだ未実装だったスキルもここでは実装されているのかもしれない。


 研究所の知識もほとんど暗記したし、俺なりにこの世界をどうにかする方法も一応考えた。うまくいくかはわからない、といよりはうまくいかない確率の方が高いだろうけど……、今までのように何のあてもなく、ただ闇雲に死にたくないからと生き残ろうとしていた時よりはマシだろう。


 そもそも俺が失敗したって何の損失もない。ただ研究でこの世界が少しでも良くなればいいなと思っただけだ。最悪の場合は聖女様が命と引き換えに世界を救ってトゥルーエンドになるだろう。


 俺のプランだって何も難しいことじゃない。聖女の力、聖なる力、穢れを祓う清めの力、それを解析して他の者でも出来るようになれば、というだけのことだ。


 聖女に出来るのなら他にも出来る者がいてもおかしくない。むしろ出来る者がいるからその血筋なり遺伝なりから聖女が生まれてるんじゃないかと思う。なら聖女と同じ遺伝子や才能を持った者が他にいてもおかしくはないだろう。いや、むしろいなければおかしいとすら言える。


 だから聖女の力を解明し、同じ力を使える者達に聖女の魔法を使わせればいい。何も命と引き換えになるほど全力でやる必要はない。それだって聖女の力が解明出来れば、死なない程度に消耗を抑えて、何度でも使えるようにも出来るはずだ。


 人間一人の魔力で浄化していっても、一生で浄化出来る量なんて微々たるものだろう。そんなことをしていたら一体何人でかかって何十年かかるかわからない。


 でもすぐに浄化しないと星が崩壊するとか、人類が死滅するというほど切羽詰ってはいないだろう。だったらこれから暫くの時間をかけて、徐々に浄化していきながら人間の領域を広げていけばいい。そうすれば何十年かで星の浄化もかなり進むだろう。そこまでしてやれば後はこの星に住む人間達の問題だ。それ以上は俺の知ったことじゃない。


「もうここで出来ることもないし……、そろそろここを離れるか」


「ピギー……」


 何か白インベーダーが元気のない鳴き声を漏らす。もしかして俺がいなくなるのが寂しいとか思ってくれてるのかな?


「俺がいなくなるのが寂しいのか?」


「ピギ……」


「そうか……。ありがとうな」


「ピギー……」


 暫く沈黙が辺りを包む。白インベーダー達は意識を共有しているのか、一匹に伝えたら全体が同じことを把握している。だからこの一匹に伝えれば他の全ての白インベーダー達も把握しているはずだ。


「俺もずっとここにいるわけにはいかないからさ……」


「ピギッ!」


 どうやら白インベーダー達もわかってくれたようだ。だったら、ここから移動するための準備を始めなきゃな。


 問題はいくつもある。まずここがどこなのかさっぱりわからない。研究所には昔の地図があったけど今の地形や環境とは完全に異なっている。王都や学園がどこにあるのかもさっぱりだ。


 この森の周りは全て死の大地に囲まれている。インベーダー達と違って、俺はずっと死の大地にいても汚染されているという感じはしない。でもどっちに向かって何日進めば良いかもわからなければどうしようもないだろう。本格的に出発する前に、ある程度周辺に出て行って場所や方位や周辺を把握しておくべきだ。


 出発する前に作っておきたい魔法陣もあるし、保存食も作って持って行った方がいいかもしれない。やることはいっぱいあるし、今思い立って今日明日に出発するというのは不可能だろう。


「まぁ……、まずは旅立ちの準備だな。それだけでも何日も、もしかしたら一ヶ月くらいはかかるかもしれない。今すぐお別れじゃないさ」


「ピギー!」


 白インベーダーの頭?に手を置くと、白インベーダーも俺の足にヒシッ!とくっついてきた。何か段々愛着が湧いてきた。最初は気持ち悪いと思ったはずなのに、今じゃちょっとした愛玩動物みたいな感じだ。グロテスクなクラゲがペット枠っていうのもどうかと思うけど……。


「とりあえず飯にするか。その後は魔法陣の準備だな」


「ピギッ!」


「おう。それじゃまたな」


 足にくっついてきていた白インベーダーと別れて森の中を走る。これから色々準備しなきゃな……。


 あっ!そういえば服だ。今の服は襤褸を巻いているだけになっていて意味がない。人がいる可能性がある場所に出て行くなら、せめてマントか何か……、体を隠せるものがないと、こんなぴったりボディスーツで人前に出るなんて恥ずかしすぎる!



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[気になる点] ボディースーツの元素材でマント作ればいいのでは( ˘ω˘ ) [一言] 魔力結晶が不思議○飴っぽく見える
[一言] めっちゃ強くなったんだな
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