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第八十六話「秘密を知りました」


 二重扉の手前の扉を無理やりこじ開ける。ガラスか強化プラスチックのような部分をぶち破ってもいいけど、出来るだけ壊さないように慎重に……。


 錆び付いているのか、ゴムとかみたいなものが溶けてくっついたのかわからないけど、やたら硬い扉を悪戦苦闘しながら何とかこじ開けることに成功した。窓部分を割らずに済んでよかった。


 でも入ってすぐにもう一枚扉があるわけで……。クリーンルームに入る前にこの間のスペースで空気で埃を飛ばしたり、消毒したり、何かそういうためにあるものだと思う。ただ汚れや埃を中に持ち込まないためにだったらいいけど、菌とかを漏らさないために消毒するスペースだったら怖いな……。


 何百年前の施設か知らないけど、もし菌とかウィルスの研究施設だったとしても、未だにこの先に菌やウィルスが生きているとは思いにくい。でもやっぱり怖いものは怖い。菌やウィルスは目に見えない。しかも俺はここが何の施設で、この先が何なのかわからない。未知への恐怖というのは半端じゃない。


「……よし!いくか!」


 でも迷っていても何も解決しない。もうここまで来てしまったんだ。なら例えこの先に何が待っていようとも進むしかない。覚悟を決めた俺は、どうせまた扉が錆び付いているだろうと思ってこじ開けようとして……。


 ウィーンッ


 と、扉に近づくと勝手に開いた……。


「…………え?」


 一瞬意味がわからず固まる。人間とは不思議なものだ。自分の想定外のことが起こって驚くと、慌てたり騒いだりすることもなくただ呆然としてしまう。


「じっ、自動で開いた!?電気が生きているのか!?」


 いや、落ち着け。電気で動いているとは限らない。そこは動力が生きているというべきだ。


「って、違う!何を冷静に突っ込んでるんだ!」


 そうだ。そんなことはどうでもいい。動力が電気なのか、魔法なのか、はたまたもっと他の何かなのか、それは俺には知りようもないし知ったところで意味はない。それよりも大事なのは……。


「この施設はまだ生きているのか……」


 周囲や他の場所の朽ち具合からしてこの施設は相当昔の物だと思う。それこそ何百年前とか言われても俺は納得する。それが……、その何百年も昔の施設が今も動いているなんて……。


 でもそれなら何故この二枚目の扉だけ?もしこの施設が生きているのなら一枚目もあんなに錆び付いてなくてもおかしくはないけど……。


「ピーッ!」


「ピーッ!」


「――ッ!?」


 開いた二枚目の扉の先にあかりが灯り、そして聞こえてきたのはまるでインベーダー達の鳴き声のような、それでいてインベーダー達とはちょっと違うような鳴き声だった。慎重に扉の先を覗いてみれば……。


「なんだ……、これ……?インベーダーの……、子供?」


 あかりが灯った先にいたのは……、ちょっと小さいインベーダーだった。格好は完全にインベーダーだ。ただし小さい。俺が両手で丸を作ってその中に収まるくらい……。球じゃなくて、椀のように丸くした両手の上に乗るくらいの感じだ。それが何匹かいてウロウロと動き回っている。


「なんなんだこれは……?やっぱりここはインベーダーの工場?」


 小さいインベーダーが動き回って働いている?ようなので、やっぱりここはインベーダーの生産工場とかだったのかもしれない。チビインベーダーは俺に襲いかかってくるような様子はなかった。いつまでも止まっていても何も解決しない。意を決した俺はその中へと足を踏み入れる。


 入った先は……、ただの廊下のようになっている。入ったらすぐに研究用の設備でも置いてあるのかと思っていたけど、どうやらそんなことはなかったようだ。二重扉を超えた先はまた廊下になっていていくつかの扉が並んでいる。どうせ全部調べるから手前から順番に見ていく。


 手前の方の部屋は……、何かの研究室とか、仕事を行なう部屋のように思える。ここまで見た限り色々な道具や設備はあったけど、何のための部屋かもはっきりわからない。道具の使い方もわからないし、そこで何をしていたのかなんて俺には想像すら出来ないものだった。


 そして廊下を一番奥まで進んでみれば……、そこだけ他の脇にあった扉とは異質な扉があった。大きな両開きだ。ここまであった小さな部屋の扉とは違う。その扉の前に立つとまた自動で扉が開いた。ここも自動ドアのようだ。


「ほ~……」


 中に入ると……、何か地球でもありそうな研究室という感じの部屋だった。ガラスの向こう側に何かロボットアームのようなものがあって、こちらからそのロボットアームを操作するのかな、というような設備や、何かの機械、見た感じでは本当に地球でもありそうな研究所というイメージそのままのような部屋だ。


 ここで何が作られていたのかは考えるまでもない。ここはやっぱり……、インベーダーの研究をしていた場所だ。ここの者達がインベーダーを作り出したのか?


 白インベーダー達もここのチビインベーダー達も俺に襲いかかってくることはない。インベーダーだから敵だという認識はもうないけど……。何故ここの者達はインベーダーを作っていたのか。ここの設備を見ても俺には何もわからない。ただ今でも十分使えそうな、といよりは実際に動いているこれらの設備で一体何が出来るのか。それすらわからない。


 この広い研究室の先にまた扉がある。何かの機械が置いてある部屋とか、培養室とかだったら俺には何のメリットもないけど、それでもここまで来た限りは全部調べる。そう思って扉を開いてみれば……。


『よくきたな』


「ひぇっ!ごっ、ごめんなさい!まさか人がいたなんて!……あれ?」


 扉を開けたらいきなりそんな声をかけられて驚いたけど……、その中はまるであれだ……。教授とかの研究室みたいな?もしかして向こうの広い部屋で働いている研究員の個室みたいな感じか?


 そして……、椅子に腰掛けている頭が見えている。でも……、それは……、髪の毛はスカスカで……、白い地が見えている……。椅子に腰掛けたまま息絶え、未だ朽ちることなく残っている……、白骨死体だ……。


「でも……、それじゃさっきの声は……」


『後の世で誰かがこれを見つけてくれることを願って……、……の研究成果と……、……滅びと再生……』


「――ッ!?」


 白骨死体の前にホログラフィーのような映像が浮かんでいた。格好や髪の色からしてこの映像の女性がここに座ったまま朽ちている人物じゃないかと思う。生前に映像を残していたということか。


『我々はかつて魔法科学文明を極め……、……無限に魔力を取り出せる……夢のような力の発見と利用に成功した』


 所々切れていてわかりにくい。でも何となく言っていることはわかる。


 どうやら……、この星にはかつて魔法科学文明というものが栄えていたようだ。その人達は魔力や魔法を動力源にした文明を作った。そしてどんな文明でも必ずぶち当たるのがエネルギー問題だ。現代地球でもエネルギーは常に問題になっている。


 そんな時彼らは夢のような、クリーンで、無限に湧き出る、最高のエネルギー源を見つけ出し利用し始めた。


 でもそんな都合の良い物があるはずがない。エネルギーは別のものを別の形に変えても絶対に増えることはない。何かのエネルギーを使うということはそこからエネルギーを奪っているということだ。そして熱エネルギーに変換してしまったら、それは周囲に熱が散らばり冷えて終わる。


 再生可能エネルギーなどというものは存在せず、太陽から取り出した熱エネルギーを利用してもそれは最終的に熱になり、拡散して宇宙空間の温度が均一になっていくだけのことだ。


 この世界の文明も、無害で、無制限に、無限に使える夢のエネルギーとしてとあるエネルギーを見つけ利用し始めた。でもそれは人類が触れて良いものではなかった。禁断のエネルギー源。それは星の生命そのものだった。


 最初のうちは気付かずどんどんそのエネルギーを掘り出し利用していたその文明は、やがて様々な問題に悩まされることになった。星の生命力は失われ、寒冷化したり、気候や星の運行まで狂ったり……。


 そして気付いた。このままこのエネルギーを使い続ければこの星は死んでしまうと。星が死ねば自分達も死ぬしかない。


 でもこの文明の者達はエネルギーを使うのをやめなかった。無限に湧き出す、クリーンで、無害な、夢のエネルギー源。そう信じる者達が大勢いたから……。


 目に見えるものならわかりやすい。石油や石炭ならそれを掘り尽くしてなくなれば減っていると目に見える。でも目に見えないエネルギーだけを取り出して、それがクリーンで、無害で、無限のエネルギーだと思っていたらどうだろう?


 太陽から降り注ぐ無限の光。それは夢のような無限のエネルギー源だと思わないだろうか?でも実態は違う。太陽はほぼ無限に輝くから人類が死滅するまでもつエネルギー源か?そうじゃない。


 例えば……、太陽光発電をするためには水力発電の何十倍もの広さが必要になる。水力発電のためのダムを自然破壊だと言いながら、何故水力発電と同じだけの電力を得ようと思ったら、その何十倍もの面積を破壊しなければならない太陽光発電は自然破壊だと理解出来ないのか。


 そして水力発電は火力発電の何万倍もの水がなければ同じだけのエネルギーを取り出せない。火力の何万倍もの水力のさらに何十倍もの自然負荷が必要な太陽光や風力が環境に優しいエネルギー源であるわけがない。そんなことは冷静に考えれば誰もがわかるはずだ。


 それに……、本当に何の影響もないと言えるだろうか?太陽光パネルを張って地面に太陽光、つまり熱エネルギーが伝わらなくなれば、何かしらの影響があるんじゃないだろうか?例えば……、物凄く極端にいえば、マントルや核が冷えて星が死ぬとか……。


 もちろん太陽光で熱せられているからマントルや核が熱いなんて思っていない。でも地表が太陽光で温められているお陰でマントルや核の熱に影響を与えている可能性はあるかもしれない。熱が冷め難くなって助けになっているとか、そういう関係性がないと言い切れるだろうか。


 水力発電の何十倍もの広さの自然を破壊し、まだ人間が理解していない何らかの悪影響を与えるかもしれない。これまで何十億年と届いていた光と熱を遮るわけだから、それがどんな影響になるのかはまだまったくわかっていないことだろう。


 でも世の中がそれがクリーンエネルギーで良いことだ、という風潮になれば、誰かがそれは違うと本当のことを言っても世の流れは変わらない。地球が再生なんて出来るわけもない『再生可能エネルギー』などというわけのわからない言葉や、クリーンエネルギーという間違った認識に引っ張られているように、この世界の人達も無限に湧いてくる夢のエネルギーだと思ってしまった。


 結果……、星は弱り、大地は死に、文明は滅びた。


 あの真っ黒な大地はかつての文明がこの星の生命力を奪いすぎたために現れた死んだ大地らしい。インベーダー達の本来の目的は……、あの死んだ大地を蘇らせること。


 白インベーダー達がしていたのは、死んだ大地に、生きた大地の砂を少しずつ馴染ませて、死んだ大地に生きた大地を混ぜて……、少しずつ活力を取り戻させようとしていた……、らしい。


 ここの森はまだ生きている。その生きている森が浄化し、再び循環させている星の命を、少しずつ死んだ大地に広げ、長い時をかけて再生していく。それが本来のインベーダー……。


 でもここで予想外のことが起こった。死んだ大地に長く触れすぎたインベーダーは黒く変色し、まるで死の大地の意思を持つかのように生き物を殺そうとするらしい。それは……、まるで星の命を吸い尽くした人間に対するこの星の恨みの念のように……。


 エネルギーの枯渇や環境問題、天変地異、様々な要因により崩壊しかかっていた魔法科学文明は、自分達の手によって作り出した救い手達の手によって止めを刺されることになった。黒インベーダー達に襲われた魔法科学文明は完全に崩壊し、残った者達もここの研究所のように孤立して飢えて死ぬか、黒インベーダー達に追われて殺された。


 恐らくその時に辛うじて逃げ延びたのが今この星にいる人間達だろう。そのことについてはこのホログラフィーの映像では語られていないけど……、他に考えようがない。


 医療ポットのような妙に突出した文明を持っているかと思えば、随分ローテクな技術しか持っていない部分があったりとチグハグだったのはそのためだろう。もしかしたら医療ポットなんかは魔法科学文明の遺産で、今となっては新しく作ることは出来ないのかもしれない。


『……人類が生き残り、そして復興するためには……』


「――ッ!?」


 そうだ……。ゲームの『イケ学』はインベーダー達を退ければ終わりだ。でもここでは……、こんな話を聞いたらそれで終わりとは思えない。ただその日その日を生き残るだけなら黒インベーダー達を撃退すればいいだろう。でもそれじゃ何も解決しない。このまま放っていたらいつか星が死んで、全ての生命も死に絶える。


 それを救うためには……。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] >それを救うためには……。 『人類が野生へと還り、ぴぎーぴぎーと鳴く生活を送らねばならない』 こうですね? 分かります(下手な口笛ぷひーぷひー)
[一言] 人口を減らすしかないな(極論)
[一言] うわ~気になるところで終わった!
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