第八十五話「探検しました」
まずは一階の床を見て歩く。もし普通にピットがあるだけならば入り口を隠す理由はない。むしろメンテナンスのためにはある程度わかりやすい入り口が用意されているはずだ。前までもある程度気にしながら探していたけど見つからなかった。今回は絶対に見落としがないようにじっくり確実に見ていく。
「…………ないな」
ない……。ピットに下りるための点検口がない。デザイン上隠してあるとしても、このボロボロになった廃墟では一目でわかるはずだ。この施設が利用されていた当時はデザインでうまくわかりにくいように隠されていたとしても、今の何もないこの廃墟では開口部が絶対にわかる……、はずだ。それがない。
その理由はいくつか考えられる。例えばピットの点検口は外とか、外とは言わないまでも建物の外周部からしか入れないという可能性もないとは言えない。大規模な施設なら建物内からじゃなくて、外からピット内に入る出入り口や点検口が用意されている場合もあるだろう。
それ以外に可能性があるとすれば……、俺は地球式の建築方法で考えているけど、こちらの世界では建築の方法や考え方や使われている技術が違う場合もある。こちらの建築物ではピットは作らないとか……、メンテナンスのための点検口が必要ないとか……。
魔法もある世界だから何らかの地球とは別の技術が使われていて、建築技法等も地球とは違うという可能性はある。
そして……、それら以外とすれば……、地下への入り口が巧妙に隠されている場合だ。何故見てわからないほどに巧妙に隠す必要があるのか。それは……、そこが秘密の施設部分だからじゃないだろうか。
シェルターになっていて、一般人達にはわからないように作られているとか。あるいは……、秘密の研究を行なっているとか……。
こんなのはただの妄想だ。何の根拠もないどころか普通に考えたら妄想癖でもあるのかと思われるようなことだろう。でもこんな世界だ。絶対にないとは言い切れない。
「…………今度は壁も調べていくか」
もし隠し扉があるとしたら、床に直に隠し扉と階段を作ったりはしないだろう。普通なら壁に出入り口を作らないか?それなら真っ直ぐ立ったまま秘密の地下室へと降りられる。床に直に秘密の扉を用意したら開け閉め、出入りが面倒になる。
建物の構造上おかしなところを探せ……。妙に壁が厚いとか、空間が空いているはずなのに妙に室内が狭い場所とか、何か不自然な所を探すんだ……。
「…………駄目か」
今度は壁も床もよく調べながら施設を歩いてみたけど隠し扉などは見つけられなかった。
「う~ん……。確かにちょっと空間があるはずの所に空間がない場所はあるけど……」
例えばだ……。廊下でその部屋の端から端まで5mあるはずなのに、部屋内が4mくらいしかない、みたいな部屋が並んでいる区画がある。確かに一見不自然には見えるけど、この手のデッドスペースも珍しくはない。
その壁と壁の間には柱があって、その分の厚みだけ廊下から調べた部屋の広さと、実際の広さに差があるなんてのはザラだ。別に柱だけじゃなくて、実際に建物を建ててみればそういうデッドスペースがあちこちにある。あるいはパイプシャフトだとか……。一見無駄に思えても設備上必要な空間というものもある。
空間を最大限に利用したいと思っていれば、壁を躯体と出来るだけぴったりにした方が良いと思うだろう。でも実際にはそうはいかないことも多い。様々な理由によってデッドスペースは出来てしまう。
ここも壁を徹底的に調べたけど完全にただの壁だった。隠し扉とかはない。一つの部屋だけ狭いとかだと怪しいけど、ここの並びの部屋が全て外から見た広さに比べて狭いんだから、恐らく壁の裏に柱なり……。
「いや……。いやいやいや……。待てよ?」
待て待て。ここの二階部分にそんな柱なんかあったか?確かこの上にはそんなものはなかったような気がするぞ?じゃあやっぱりここは怪しい?見落としただけで壁に隠し扉があったのか?
「…………特に怪しい点はない、……か」
やっぱりこの周りの壁に怪しい点はない。普通の壁だ。隠し扉なんかはないだろう。やっぱり俺の気のせいか?
「でもこんな場所に柱なんてなかったし……、何故こんな所にデッドスペースが……」
設計図とかを見てみないとわからないけど……、いや、見てもわからないかもしれないけど、何らかの事情があったのかもしれ……。
「あっ!まさか!」
一つの可能性に気付いた俺は床が抜けないように気をつけながら、出来るだけ急いで二階に向かった。さっきの謎のデッドスペースがある部分の二階だ。もし俺の推測が正しければ……。
「……もしかして、これか?」
さっきの場所の真上、二階部分で同じ場所を調べて回る。そして俺はついに見つけた。
「ビンゴ!」
巧妙に隠された隠し扉と、その先にある下へと下りる階段だ。
仕掛けは簡単だ。俺は地下に下りる隠し扉は一階にあるとばかり考えていた。地下へ行くためには一階から下りる。それは誰もが考えることだろう。三階に上がるのに一階から上がることは出来ない。二階からしか三階へは上がれない。誰もがそういう先入観を持っている。
これはその心理を逆手にとって地下への降り口を一階ではなく二階に作ってあるんだ。いや、知らんけどね。俺の勝手な想像だ。
とにかく真相が何にしろ、二階に隠し扉と下へと下りる階段があった。それだけが真実だ。一階のあのデッドスペースは、この階段があるスペースだった。だからいくらあのデッドスペース周りを探しても隠し扉や階段が見つかるわけがない。
「よし……。下りてみるか……」
暗い階段を、俺はファイヤーアローを出して灯りの代わりにして下りていったのだった。
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隠し階段は地下まで一直線だったようだ。一階を飛ばして二階から地下まで一気に下りるから長い。崩れかけていたから隠し扉も見つけられたけど、この建物が利用されていた当時は俺なんかじゃ見つけられないくらい巧妙にカモフラージュされていたんだろう。
長い階段を下りるとまた扉があった。カードキーか何かで開ける扉だったのか、扉の隣の壁には何かのリーダーのようなものが取り付けられている。当然もう完全に壊れているし、元がどんなものだったのかもわかりづらいほどに朽ちているけど……。
ロックがかかったまま固まってしまっていたら動かせないかもしれないけど……、何とかこの扉が動かないかと色々と試してみる。でも一階にあった扉と違ってこの扉は動かない。
「ぶち破るか?そんなことをしたらもう取り返しはつかなくなるけど……」
もしこの中が現在も密封されていて保存されているのだとしたら、俺が扉を壊してしまったら二度と密封することは出来なくなってしまう。これが遺跡並みに貴重な建物で、この中の物が相当に貴重だとすれば、保存方法もなく無計画に開けてしまうのは問題だけど……。
「う~ん……、どうすれば……」
……開けてしまうか。どうせ俺が開けなければここが発見されるのもあと何百年、何千年先になるかわからない。歴史的なものが貴重だったとしても、今ここを開けなければならないような気がする。俺はいつも俺の直感を信じてここまできた。だから今回も俺の直感を信じよう。
問題は……、開けると決めたのは良いけどどうやって開けるかだな。魔法をぶち込んで扉を壊す!とかは論外だろう。そんなことをして中にまで被害を出してしまったら元も子もない。
「そうだ!これで……」
腰に佩いた鉄の剣を抜いて扉の隙間に差し込んでみる。斜めになるからうまく刺さらないけど、それでもちょっとずつ扉の縁をなぞるように周囲を差してみた。
「う~ん……。駄目かなぁ……」
元々相当密閉されるドアだったんだろう。なかなか隙間すらほとんどない。それでも扉の縁を外側に向けて差していると……。
「お?」
上になら剣をほとんど壁と水平にして差し込める。上にガンガンと突いているとズボッ!と先が刺さるようになってきた。横向きに剣を差そうとしても壁に剣が当たるから斜めにしか突けなかったけど、剣の長さより扉の高さの方が高いから、上にならほぼ水平に差せるというわけだ。
そしてこの扉も左右に開く扉じゃなくて上下に開くらしい。だからこの……、上を突いていれば……。
「ん?そろそろ大丈夫か?」
ガシガシと剣を何度も突き入れた後で少ししゃがんで扉を持ち上げてみる。すると……。
「お?お?動く?」
錆び付いているかのように滑りが悪く硬いけど、力を込めれば何とかちょっと動く。長い年月の間に扉がくっついてしまったのかもしれない。それでも下に物を挟みながら少しずつ持ち上げると……。
「おおっ!すげぇ!」
開いた扉の中は……、上の廃墟と違ってまだほとんど風化していなかった。外気に晒されることなくほぼ密閉状態が維持されていたんじゃないだろうか。その結果ほとんど風化せずに残ったんだ。
そりゃ多少は汚れているし埃も溜まっている。布や紙のようなものはボロボロになってるだろうし、液体は蒸発してなくなってるだろう。色々な成分も分離している。でも……、それでも人間が利用していたのがわかるくらいには綺麗だ。久しぶりの人間の気配に何か安心感や懐かしさを感じる。
「まぁ……、人間が作った施設とは限らないけど……」
俺は勝手に人間だと決め付けているけど、もしかしたらインベーダーを作った宇宙人達の施設かもしれないし……。
「とにかく探索するか」
慎重に地下の隠し部屋に入る。入って少し先に二重扉のようになっている所があった。もしかしてこの先はクリーンルームとかだったのか?でもまずはそのクリーンルームの先に行かずに別の方へ行ってみる。もしこの先がクリーンルームで、そこがメインだとすれば、クリーンルームに入る前の着替えやスタッフの待機や休憩場所があるはずだ。
クリーンルームに入らず通路を進むと普通の扉がついた部屋が並んでいる場所に出た。俺の想像通りならこの辺りはスタッフの着替えや休憩を行なう区画じゃないだろうか。そう思って一番手前の扉を開けてみれば……。
「――っ!」
淀んだ空気の中、ロッカールームのような場所に……、人型のシミとぼろぼろになった布切れ……。遥かな昔、そこで誰かが死んだのであろう跡がありありと残っていた。砂のようなものが残っている。骨までボロボロになったのか?他はあまり風化していないのに何故?
ミイラ化した遺体や骨くらいは残りそうなものだけど……、何故この遺体はこんなにボロボロなのか……。いや、俺は死体とかに詳しいわけじゃないからわからないけど……。
まるでこの遺体の人物の成分がこのロッカールームに漂っていそうな気すらしてしまうけど、それでも俺はロッカーなどを調べていく。不気味だし気持ち悪いけど、俺のためには調べるしかない。
「ロッカーの中はボロボロか……」
この隠し部屋に来た時はそんなに風化していないかと思ったけど、それでもやっぱりかなりボロボロになっている。ロッカーの中に入っていたであろう着替えらしき布切れとかは、もはや原型がわからないほどにボロボロになっていた。辛うじて形が残っていても俺が触るまでもなくロッカーを開けた衝撃だけで崩れたりしている。
どうせここまで来てしまったのだから、何か俺にとって収穫になるものを得なければ、何もなく手ぶらで帰るわけにはいかない。
どちらかが男子でどちらかが女子ロッカールームだったのだろうか。似たような部屋でロッカーが並んだ部屋が他にもある。そちらにも遺体が転がっていた。その遺体の骨はまだ辛うじて残っていたけど、性別がわかるようなものではなく、俺が動いた振動か空気の流れだけでも骨が崩れるほどだ。
ロッカーなんかも全部丁寧に調べていくけど今の所収穫は何もない。もしこのまま何もなかったらどうしよう……。
何かあるかもなんて期待して来たけど、上の階の風化具合でわかったはずだろう……。例え隠し部屋や密閉された地下室があったとしても、そこだってまともに残っているはずがないと……。期待が大きかっただけに、この現実を突きつけられて落胆も大きい。
「この辺りは何も残ってないか……」
スタッフルームとかロッカールームらしき場所は全部探したけど碌な物は残っていなかった。あちこちに何人もの死体は発見したけど……。こんな場所に残っている死体があるなんて、やっぱりこの施設はまともな方法で閉鎖されたわけじゃなくて、何らかの事情により突然放棄されたか、封鎖されることになったんだろうか。
残っている死体はここに取り残されて出ることもままならなくなった人たちか?それとも……、外で何かがあったから止むを得ずここに隠れていたのか……?
どちらにしろ助けが来ることはなく、死ぬまでここに閉じ込められていたのだろうか……。
「次は……、このクリーンルームの先か……」
奥の着替えや休憩スペースらしき所は全て見たはずだ。次はこの二重扉の先に進むしかない。
「せめて……、何か少しでも役に立つものがあれば……」
最初の期待や喜びは吹き飛び……、今は祈るような気持ちで、せめて何か収穫があればと願いながら二重扉の先を目指したのだった。




