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第七十二話「減っていました」


 翌日、朝目が覚める。昨日もずっと寝てたようなものなのに、今日も朝までぐっすり眠れるなんて相当疲れていたのかな……。ともかく生活リズムが狂わなくてよかった。これで夜眠れずに朝まで起きているとかいう生活になったらまた大変になるところだった。


 いつも通りに朝の準備をして、健吾が起きてきて、朝食を食べて学園に向かう。


 健吾は特に変わった様子はなかった。普通、もし……、気の迷いでも何でも、俺にキスしようとしてたとしたら、こんな普通になんていられないだろう。だからあれはキスしようとしてたんじゃない……、と思いたい。


 それに医務室で治療を受けた後遺症もないようだし、アイリスの影響だってないんじゃないだろうか?もしまだアイリスの影響下にあるんだとしたらあまりに自然すぎる。本当に一組に編入になる前の健吾そのままだ。何も変わっている様子は見受けられない。


 教室に着いて……、授業が始まって……、俺は愕然とした。あまりに生徒が少ない……。


 元々最近では空席も目立つようになっていたけど、今日はいつにも増して空席だらけだ。それはつまり……、一昨日の襲撃でそれだけ多くの生徒が死んだということを意味する……。


 本当に……、本当に大丈夫なのか?恐らく二組だって似たような状況だろう。もう二組、三組は敵を押さえ切れないほどに消耗していると思う。はっきり言って壊滅状態だ。こんな調子で次の戦闘を切り抜けられるとは思えない……。


 これは……、やばいんじゃないのか?暢気に授業なんてしている場合じゃないと思う……。でも誰も何も反応していなくて……、あまりに気持ち悪くて吐き気を催す。


 こいつらはわかっているのか?次の戦闘になったら……、俺達は全滅するかもしれない……。


 いくら生き残っている者達はそれだけ質が上がっているとしても限度というものがある。ここはゲームじゃないんだ。体力の限界もあるし、ほんの些細な怪我が致命傷になることもある。ちょっと腕や足をやられただけで実質戦闘不能になることだってあり得るんだ。


 一対一なら俺はインベーダーだろうがインスペクターだろうが、千回戦っても、一万回戦っても負ける気はしない。でも連続で一万回も戦えば疲れて動けなくなるし、一万匹が同時に襲ってきたら対処出来ない。


 個人の強さがどれほどあろうとも、ゲームなら圧倒的実力差があればダメージを受けなくても、現実の世界では一人で出来ることなんて知れている。


 多少弱かろうと皆で槍を構えて槍衾でも作ればそれなりに効果があるだろう。弓兵を並べて一斉に放てば相応に効果があるだろう。数は力であり、数の暴力には個人の強さなんて大した効果はない。その大事な数がもうこれだけしかいないんじゃ……、下手をすれば次の襲撃で全滅もあり得る。


 例えば三十人居たのが、二十五人になり、二十人になりと減っているとして、そのまま十五人、十人と減っていくわけじゃない。部隊が崩壊する時はあるラインを超えた時に突然起こる。二十人までならまだ耐えていたものが、十九人、十八人となった時に突然前線が支えられなくなって一気に崩壊してしまうんだ。


 前回は持ち堪えたから、今回もまだこれだけ残っているから、というのは何の保障にもならない。次にこの人数で前線を支えようと思った時に、いきなり崩壊して全滅するなんてこともあり得る。それが現実に迫りつつある。


 やばい……。絶対やばい……。このまま……、このままだったら確実に、そう遠くないうちに前線が支えられなくなって崩壊する。どうにか……、どうにかしなければ……。




  ~~~~~~~




 授業中色々考えていたけど結局良い案なんて浮かぶはずもなく……、そもそも俺が何か考えた所でそれが実行されるはずもない。そう……、俺が何か言ったからって誰が聞いてくれる?それを思えば何も良い案なんてあるはずがない。俺が提言したり、実行させたり出来る案を考えればそんなものはないとわかるだろう。


 夢物語で良いのならいくらでも言える。出撃してない兵士達も戦闘に参加させろとか、町の住民達の中から戦える者を募って参戦させろとか、あり得ないことならいくらでも言える。でもそれを俺が言ってそれが実行されるか?されるわけがない。そんなことが出来るならとっくにそうしている。


 そんなことを考えている間に放課後になり、今日もやってきた舞にアンジェリーヌの手紙を渡され、返事を書いて送り出す。


 舞には今日は少し用事があるからと早めに戻ってもらった。頬を膨らませていたけど納得してもらうしかない。今日俺はディオとニコライの両方に話をしにいかなければならない。昨日、一昨日と二日も特訓をあけたのは初めてだ。それに今後の育成についても話し合いたい。そう思って両方を訪ねたけどやっぱり怒られた……。


 特訓や訓練は自発的なものなんだから、俺が俺の都合で休んだり日を空けたとしても怒られる謂れはないはずなんだけどな……。


 そして俺の特訓方針も変わらなかった。結局これからも特訓と瞑想を交互に通うことになってお終い……。俺の思った結果とは違うことになりがっかりだ。


 確かに特訓や瞑想も大事だろう。でも俺はそれよりも今は本を読んだ方がいいんじゃないかと思っている。魔法応用は応用というだけあって実戦に即した内容が多い。それにスキルや魔法も覚えなければならない。


 前までの本を読んでいた時と違って学園での隙間時間を使えなくなった今、本を読む時間を確保したいと思っているんだけど……、ディオとニコライは今まで通り特訓や瞑想を行なった方が良いと言っていた。


 確かに二人の言うこともわかるんだけど……。でもなぁ……。まぁ逆らうつもりはないというか、特訓と瞑想には行くけど……。


 寮に帰って、お風呂に入って、間仕切られたプライベートスペースに寝転がってブレスレットの中身を開く。


 魔法応用だけじゃなくて……、前回の戦闘でレベルが上がったからか、読める項目が増えていた。スキルと魔法だ。魔法はランス系が覚えられるようになっている。


 アロー系でも一発で倒せるんだからただ単発威力が上がるだけのランス系はあまり意味がない。消費MPが増えるだけで、どちらにしろ一発だったらコスパの良いアロー系しか使わないだろう。


 今後もっと耐久力の高い敵や、魔法耐性や属性耐性のある敵が出てくる可能性もあるけど……、属性耐性はあまり意味がない。一個ずつ魔法を覚えていたゲーム時と違って、アロー系ならアロー系を覚えると全ての属性で使用可能になる。敵が特定属性に耐性を持っているなら違う属性を使えば良いだけだ。


 今のアロー系で一発で倒せない敵が出てくる可能性はあるけど……、それでもランス系はそれほど急ぎではないだろう。ただ早く覚えておかないと範囲魔法であるボール系を覚えられるようになっているのに、ランス系を習得していないために覚えられない、という事態になる可能性もある。


 スキルも同じだ。今覚えられるスキルはあまり効果的なものはない。だけど追々必須になってくるようなスキルを覚える前提条件として、下位のスキルを覚えていなければ覚えられないものが色々ある。だから時間があるのなら魔法もスキルも覚えておかなければならない。


 でも魔法応用Ⅱはかなり興味があって早く読みたい。場合によっては、もし魔法陣で俺が考えているようなことが出来るようになるなら戦闘で大きな助けになる。


 あれもしたい。これもしたい。あれもしなければ。これもしなければ。とにかく忙しすぎて時間が足りないのが現状だ。


 本当に授業なんてなければいいのに……。学園の授業が一番いらない。何の意味もなく、足を引っ張っているだけだ。


 まぁ……、ゲームの『イケ学』が現実になった世界だとすれば……、ゲームの時の学園パートはプレイヤーの足を引っ張るためにあったようなものだ。今の仕様もわからなくはない。


 ゲームの時もプレイヤーの行動回数に制限をかけ、さらにイベントを進めるためにその限られた行動回数すら割かなければならない。まさにゲームをクリアするためにはただの足枷でしかなかった。


 もちろんイケメン達との学園生活を楽しみたい女性プレイヤー達にとっては、学園パートの方が重要だったのかもしれないけど……。効率プレイと極限まで無駄を削ぎ落とし課金せずにクリアすることを目指していた俺にとっては良い迷惑でしかなかった。


 そういう意味では今もまさに学園パートは邪魔でしかないわけだ……。何とも皮肉に感じられて苦笑が漏れる。


 スキルはただ読んで身につけるだけじゃ使い物にならない。ちゃんと特訓で使って体に染み込ませる必要がある。魔法だってそうだ。ただ頭で覚えたからと戦闘ですぐ使えるというものじゃない。やっぱり覚えられるものが増えた時にはスキルや魔法を優先して読むしかないだろう……。


 そう思った俺は魔法応用Ⅱを諦めて他の項目を読み始めたのだった。




  ~~~~~~~




 朝起きると、何故か今日は健吾がもう起きていた。こんなことは今までで初めてだ。健吾が俺より先に起きているなんて今まで一度もなかった。


「おはよう伊織。今日はパレードだぜ」


「あっ、ああ、おはよう……」


 そうなのか……。今日がパレード?日数的にはまぁ……、いつも通りくらいか?最近は徐々に遅くなっていたからな。それから考えれば少し早い。


 それにしても何故そういう情報は俺には一切流れてこないんだ?普通学園が休みになってパレードに参加しなければならないのなら、学園で教師なりが説明するのが普通じゃないか?当日すぐにパレードだというのなら説明している暇がなかったとしても、それならそれでパレードに参加しろという放送なりがあって然るべきじゃないだろうか。


 健吾はいつもそういう情報を知っている。でも俺はいつもそういう情報は知らされていない。これはどういうことだ。何かこの世界の者だけがそれを知れる何かがあるのか?


「なぁ……、健吾はいつもそういう情報はどうやって知ってるんだ?」


 もう聞いてしまおう。そう決めた俺は思い切って健吾に聞いてみた。


「はぁ?どうもこうも……、掲示板に貼り出されてるだろ?伊織……、お前もしかしていつも掲示板を確認してないのか?」


「……へ?」


 掲示板?そんなものがあるのか?そこに予定か何かが貼り出されている?そういうものを確認することも面倒臭がりそうな健吾ですら確認しているのに、俺は確認どころかその存在すら知らなかったのか?


 そんなものがあるならもっと前に教えておいてくれよ……。俺だけ色々情報に疎かったのはそのせいか?学園生は健吾のような性格の奴ですら全員が確認するのが当たり前なのに、俺だけはそれを確認していなかったと……。


 何か長年の謎が解けてすっきりしたような、がっくりしたような、気が抜けたまま俺は健吾と一緒にパレードに向かったのだった。




  ~~~~~~~




 いつもならアンジェリーヌの慰安訪問の方がパレードより先のことが多い気がする。でも今回はアンジェリーヌの慰安訪問よりもパレードの方が先になった。いや……、俺は詳しく知らないからわからないけどな。アンジェリーヌと色々と交流するようになったのはつい最近だ。それまでのことはあまりわからない。


 もしかしたら元々慰安訪問の方が後になることの方が多かったのかもしれない。ただ今回はパレードより慰安訪問の方が後になった。それだけのことだ。


 パレードに出る前に並んだらはっきりわかる……。確実に生徒の数が少ない。もう次は前線を支えられないかもしれない。崩壊する時は一気に崩壊することになるだろう。それが次か、あるいはその次か、次の次の次か、もうそれほど遠くないように思われる。


 俺は怖い……。本当にこのままでいいのか?俺が死ぬだけじゃなくて……、俺達が抜かれたらアイリスやパトリック王子達も死に、この町も襲われるんじゃないのか?そうなればアンジェリーヌも、そして……、舞も……、死ぬなんてことに……。


 やめろやめろ!不吉なことを考えるな!俺が考えるといつも大体碌な事にならない。インベーダー達が襲ってくるなよとか、来ないなと思ったらきっちりきやがる。俺が余計なことを考えたら碌な事にならない。


 舞たちが危険な目に遭わないためにも……、俺はもっと強くなって敵を追い払わなければならない。俺に出来ることはそれだけだ。


 せめて……、舞やアンジェリーヌ達が平穏に過ごせるように……、俺達が戦うしかない。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[良い点] イリスさんがこの世界から逃れるために、この世界を破壊しようとしているのではないかと疑い始めています。 ゲームは完全にバラバラになっており、意図的にそうなっているようです。
[一言] 外部から見たイケ学はどう見えるのか( ˘ω˘ )
[一言] 考えれば考えるほど深みにはまっていく
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