表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/130

第七話「図書館に行きました」


 色々悩んでいる間に学園の授業が終わっていた。一応今後の方針は決まったけど自信はない。いつもなら……、イケ学なら……、自信満々にプレイしていただろうけど今の俺にはそんな自信はなかった。


「お~い、伊織!帰ろうぜ!」


「健吾……」


 皆がバラバラと帰りだしている。だけど俺は帰っている場合じゃない。


「悪い……。俺はちょっとすることがあるから先に帰っててくれ」


「あ?何か用事か?俺も付き合うぜ?」


 健吾は良い奴だな……。だけど健吾に付いてきてもらっても意味はない。


「健吾も図書館に行くのか?」


「げっ!用事って図書館かよ……。じゃあ先に帰ってるわ」


 やっぱりな。健吾なら図書館になんて絶対行かないタイプだと思った。


「じゃあまた後でな」


 健吾と別れて俺は図書館に向かう。俺はまず一番初めに図書館に行く必要がある。イケ学では戦闘パート以外の時は放課後に学園内や寮を移動して様々な活動を行う。


 例えばどこかの教室や寮に行って誰かと会う。そうすることでイベントが発生したり攻略対象の好感度が変化したりしてゲームが進行するわけだ。ゲームのイケ学なら行き先のマップが表示されてどこに誰がいるかわかるから好きな相手の所に自由に行ける。探し回ったり空振りに終わるということはない。


 そしてそれ以外にステータス強化のために体育館で特訓するか図書館に行って魔法を覚えたり関連ステータスを強化したり出来る。


 体育館では体力アップの特訓か、剣、槍、弓のいずれかの物理武器の習熟度アップの特訓が出来る。ちなみにどちらの特訓をしても力などは自動的に上がる。どちらの特訓をしても筋トレのような要素が含まれているということだろう。


 図書館に行くと本を読んでお勉強なわけだけど読む本の種類によって効果が変わる。知能などといった魔法関連のステータスがアップする本と、魔法そのものを覚えて増やす本が存在する。魔法は無制限に覚えられるものではなく下位の魔法から覚える必要があるし習得可能レベルが設定されていて低レベルでいきなり強い魔法まで覚えるなんてことも出来ない。


 俺は自分の育成方針を中途半端にすることにした。何かこの言い方だと変に聞こえるけど……。イケ学ならばとことん一芸特化でよかった。例えば全体攻撃で即死しない程度の防御力やHPとか回避能力とか多少必要なものはあるけどそれさえわかっていれば他を上げる必要はない。


 一例で言えば魔法職キャラを育てようと思えば杖装備可能レベルに達するまでは一応他の武器を装備しておくしかない。だから他の武器が一切育っていないということはないけど杖に持ち替えた瞬間に用済みとなる。そのレベルに達するまで仕方なく他の武器を使っているだけでそれ以上他の武器習熟度を上げる必要はなくなるというわけだ。


 だけど俺はこれから物理武器も上げようと思っている。ゲームのイケ学なら愚策だ。ゴミキャラに育って途中から使い物にならなくなるのが目に見えている。それなのに何故そんなことをするのか。


 ゲームのイケ学なら行動可能回数に限りがある。平日の放課後の行動可能回数は最大で三回までだ。その三回の中で必要なことをしていかなければならない。攻略対象と会ってイベントを進めようとしたらその三回全て、つまり一日丸々を消費することもある。


 そんな決められた行動回数の中で体力特訓、武器特訓、魔法特訓、スキル習得とあれもこれも手を出せば全て中途半端になるのはわかるだろう。だけどそれに比べてこの世界はどうだ?


 ゲームで一芸特化にする必要があるのは決められた行動回数、つまり決められた時間の中であれもこれもと出来ないからだ。でも現実なら寮に帰ってから自室で本を読むことも出来るし、朝少し早く起きたり授業の合間に本を読むことも出来る。


 隙間時間の利用や睡眠時間や休憩時間を削っての行動というものが可能なはずだ。だったらそういった時間を有効活用していけばゲーム時のイケ学よりもステータスを上げたりスキルや魔法を覚える時間が確保出来る!……と思う。


 パーティーの指定も、戦闘時の命令も出来ないゲームじゃないこの世界では体力もない魔法特化にしてしまったら敵に接近されただけで詰んでしまう可能性もある。だからある程度は対応力や敵に接近された時に身を守る術が必要になる。


 図書館で本を借りてゲーム時の図書館関係の特訓や習得は夜の自室や学園の昼休み等の隙間時間に行なう。そして時間があれば体力作りと物理武器の特訓を行なう。そもそもゲームと違って経験値が共有されていないと思われるこの世界では魔法を使えるようになるためにも俺が自力で敵を倒さなければならない。


 まずは図書館で本を借りて……、余裕があれば今日のうちに体育館にも行ってみよう。ゲームのイケ学なら主人公は攻略対象達とのイベントも進めなければならなかったし必須イベントや強制イベントも発生していた。それに比べて俺は別に誰かと恋愛をする必要もないし強制イベントは主人公が勝手にやってくれるだろう。


 夜、寮に帰った主人公は日記を書くという描写や攻略対象達へのプレゼントを作るという描写はあるけど自室では何もしていない。俺なら寝る前に図書館の本を読む等の行動が可能だ。


 問題は物理武器を何にするかだけどこれはもう剣に決めている。まず弓は論外だ。魔法が遠距離攻撃なのに物理武器も遠距離武器にする意味がない。接近された時に対応能力を高めることが目的なのに弓を覚えるくらいなら魔法の特訓でもした方がマシだろう。


 もちろんだからって弓が必要ないとは言わない。ゲームでならば魔法が効き難い遠距離の敵が出て来る。そういう時に遠距離物理が必要になるから弓も必要は必要だ。だけどそれは俺が覚えるべきことじゃない。遠距離物理の得意なキャラに任せれば良い。


 剣と槍は少々悩んだけど魔法職である俺はやっぱり剣が良いだろう。槍は中距離武器だから敵に最も接近される剣より多少安全な気はする。それに槍は戦場では最強の武器だ。地球の歴史上も剣よりも槍の方が優れていて主力武器だったことに間違いはない。


 だけど戦争で主力だった槍はあくまでファランクスや槍衾のように大勢の歩兵が槍を持って密集して相手に突撃させなかったり集団で上から叩くことを主眼にした使い方だ。イメージの戦国武将のように槍を持って一対一で突き合って戦うなんてことは滅多にない。最大でも六人パーティーでしかないイケ学で槍衾は効果がないだろう。


 それに何より両手が塞がるのが辛い。俺のイメージでは敵に不意打ちで接近された時などに近接武器で対応したいというのが理想系であり本格的に槍を構えて待ち受けるという形は想定していない。それならば腰に剣を差し咄嗟の時に抜いて対応出来るくらいが丁度良いだろう。というわけで俺が覚えるのは剣ということになる。


 この世界はゲームとは違う。だったら複数の武器も持てるんじゃないか?それをいつか戦闘フィールドで試す必要がある。ただそのためにはまずそこまでレベルを上げる必要があるわけで結局まずは俺が敵を倒してレベルを上げれるようにならなければならない。


 もしそれが可能ならば腰に剣を差し、普段は杖を装備して遠距離魔法を使う。万が一接近されたり不意打ちを受けたら杖から剣に持ち替えて近接物理で対応する。そういう使い方が出来れば生存率は格段に跳ね上がるだろう。


 まぁそんなのはまだ先の話だし実際に試してみないことには出来るか出来ないかもわからない。それよりもまずは今日の本を選ぼう。


 図書館に到着した俺は勝手に中に入って行く。別に図書館を利用するのに何も特別な許可は必要ない。学園生は誰でも自由に利用可能だ。


 俺が向かうのは魔法基礎というシリーズの本が置かれている本棚だ。この魔法基礎を読むと知能がアップする。体育館は体力アップと武器習熟度の特訓しかないけど図書館には三つの選択肢がある。


 まずは魔法基礎を読んで知能を上げる。知能は魔法の攻撃力に影響するのはもちろん魔法の習熟度を上げるのが早くなるという効果もある。それから魔法の覚えやすさだ。魔法を繰り返し使うことで習熟度が上がる。習熟度が上がると詠唱時間短縮、再使用時間クールタイム短縮、消費MP減少などの効果がある。


 さらにこの手のゲームにありがちなことだけど魔法やスキルは一回の特訓や読書で一発で覚えられるとは限らない。イベントスキル等で一発で必ず覚えるスキルもあるけど基本的にはランダムというか、運というか、計算式から求められる成功率で成功するかどうか判定される。


 成功率が1%でも運が良ければ成功するだろうけどそんな確率の低い賭けで何度も無駄に行動を消費している暇はない。スキルや魔法には習得に必要な最低必須レベルが設定されているけどそれより上であればいくらでも問題ない。


 細かい計算式は省くというかこの世界ではすでに意味がないだろうからどうでも良いけど覚えようとした時に必須レベルより高いほど成功率が上がり、他にスキルなら力、魔法なら知能の数値等が関わってくる。だから先に可能な限り知能を上げておくのがイケ学の魔法職の育て方だ。


 それから図書館には瞑想部屋というのがある。ここは体育館の体力特訓と似たようなものだ。体力特訓をすれば最大HPが上がり瞑想をすると最大MPが上がる。どちらも重要であり魔法職を育てるのが大変なのがここだ。HPとMPのバランスを考える必要がある。とりあえずHPだけ上げていれば問題ない物理職との違いだな。


 そして最後に図書館ではスキルや魔法を覚えることが出来る。魔法はともかく何故スキルも図書館で?と思うかもしれないけどそういう技能や技術が記された本を読むことで覚えるということのようだ。所詮は戦闘はおまけの乙女ゲーだから細かいことに突っ込みを入れても意味はない。そういうものだと思うしかないということだ。


 まぁそのスキルも本を読んで型を覚えるだけであとは実際に使って身につけていかないと役に立たないんだからある意味それも間違いではないのかもしれない。


 それはともかく俺は借りる本を最初から決めていたからあとはその本を持ってカウンターに行くだけだ。俺が借りるのは魔法基礎初級Ⅰ。名前からしてわかる通り魔法を習う上で一番簡単なものだ。ゲームでもこれから順番に読んでいかないと上の本が読めない。


「これをお願いします」


「はい。それでは学生証を出してください」


 カウンターに魔法基礎初級の本を持っていくと女性と見紛うほどの司書にそう告げられる。彼は司書のディオというキャラで女性プレイヤーにも結構な人気だった。何故ディオが攻略キャラじゃないのかと大規模な抗議もあったらしいけど結局俺が知る範囲までではディオが攻略対象に追加されることはなかった。


 学生証を出しながらディオを眺める。水色のような現実ではあり得ない長髪に柔らかな笑顔と物腰、顔も女性の顔を描いて男と言っているだけだろうという造形をしている。


 主人公アイリスが色々と悩んでいる時にアドバイスをしたり手助けをしたり良き相談役のお姉さんというようなポジションだ。まぁ男だけどな……。


 イケ学にはこういうキャラがたくさんいて女性プレイヤー達は何故そういうキャラを攻略出来ないのかとかなり不満が溜まっていたらしい。男の俺からするとこのディオのどこが良いのかさっぱりわからないけど……。


 確かにゲームでは色々と相談に乗ってくれたり手助けしてくれたり頼りにはなると思うけど恋愛とかそういう対象として見た場合に良い男だとは思えない。まぁ男が乙女ゲーのキャラを見ればほぼ全てのキャラがそういう風に見えるだろうからディオだけが特別じゃないけど……。


 女性はこんなののどこが良いんだろうかと思ってしまう。それは女性から見た男が喜ぶギャルゲーや女性キャラに対しても同じなんだろうけどね……。


「私の顔に何か?」


「え……?あぁ、いえ。すみません。何でもありません」


 やばいやばい。ちょっとガン見しすぎていたようだ。渡された本を受け取ってその場から離れようとしたら声をかけられた。


「それでは勉強頑張ってくださいね。それとこの学園には男しかいません。私は男ですのでそちらの趣味はありませんよ」


「……はぁ?」


 何言ってんだこいつは?……おい、俺が男同士の趣味があるとでも言いたいのか?それともお前は自分が女顔だから女に間違われているとでも思ったのか?気持ち悪いわ!俺は女の子が好きなんだよ!


「ありがとうごうざいました」


 気持ち悪いことを言うディオからさっさと離れようと思って本を受け取ると俺はもう振り返ることもなく図書館を後にしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[良い点] まあ、それは疑わしく魅力的でした。 ゲーム戦略と対立に満ちた世界の素晴らしい交差点。
[良い点] 7話までしか見ていないがとてもよかった。 昨今のなろうでは人が死んだ時のリアクションがあまりにも淡白で違和感が凄かったが、この作品はしっかりとその描写がしっかりとされていて最初本当になろう…
[一言] 人間をやめそうな名前の司書だ(゜ω゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ