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第五十一話「スキルを覚えました」


 昨日からずっと考えているけどこれは明らかに俺の知らない新要素だ……。『魔法応用Ⅰ』……。本格的に読むには時間がかかるからまだ少し流し読みしただけだけど内容は確かに魔法基礎を使った応用、タイトル通りの魔法応用だろう。それはいい……。それはいいけど……。


 ゲーム『イケ学』では魔法基礎を全て読み終える必要はない。知力を上げるために魔法基礎を読むけど別に全部を読まなければならないということもないし、途中からやることが多すぎて中々一人のキャラに全部読ませるというのも難しくなる。


 知力が低いと魔法習得率が下がるから一定以上は必要だ。確かに確率上0%でなければ知力をまったく上げていなくても魔法を覚えられる可能性はある。だけど連続で何回も失敗するくらいなら知力を上げて習得率を上げておく方が賢い。知力は魔法の威力にも直結するからな。


 だから魔法を覚えるためにも一定以上には知力を上げる方が良いけどゲーム時ならば別に魔法基礎を読むだけが知力アップじゃなかった。ステータスアップの割り振りで魔法職は知力に極振りすれば良いだけだから戦闘を重ねていけば自然と知力を上げることが出来る。魔法基礎を使うのは序盤のブーストみたいなものだ。


 それでも世の中にはそういったことを全て検証したり実験したりする物好きがいるわけで、実際攻略情報等でも魔法基礎を全て読ませた場合の上昇値や行動回数に対する効果の費用対効果なんかが検証されていた。だけどそういう奴の誰一人全部読ませたら追加項目や隠し項目が出ましたなんて報告はされていない。


 つまりこの『魔法応用』シリーズはゲームの『イケ学』には存在しなかった要素、この世界だけの要素ということになる。


 『魔法応用』シリーズが何冊あるのかはわからない。俺が読めるのは魔法応用Ⅰだけで項目もロックされていて調べることは出来ないからだ。前から一冊ずつ読んでいかないと全容はわからないということだろう。


 少し読んでみたけどこちらは難しい。さすが応用というべきか基礎が十分に出来ていなければチンプンカンプンな部分も多かった。俺はブレスレットで読むからわからなかったり、忘れている部分があればブレスレットを操作して魔法基礎の該当部分を呼び出せば良いけど、実物の本でやろうと思ったらかなり大変だと思う。


 それは良いとして問題はやることが多すぎるということだ。というよりブレスレットから読まなければならない物が多すぎるというべきだろうか。


 今はレベル制限のせいで読めないけど今後レベルが上がるごとに魔法を覚えていかなければならない。それから剣は現状の俺の主力武器だから剣スキルも覚えたい。どちらもブレスレットの中身を読まなければならず学習というか読み物をしなければならない時間が必要だ。


 それなのにようやく魔法基礎が全て終わったと思ったら今度は魔法応用シリーズ……。読み物が多すぎて時間が足りない。しかもどれも現実にある本じゃなくてブレスレットから読まなければならないというのが厳しい。ブレスレットは人前では読めないから隙間時間の利用が出来なくなってしまう。


 そこで俺は今日魔法基礎上級Ⅴを返すついでにディオに魔法応用シリーズについて聞いてみようと思って図書館へとやってきた。一日中これからの育成プランや魔法応用シリーズについて考えている間にあっという間に放課後になってしまったからな。


 魔法応用はⅠと書いているからⅡやⅢはあるんだろう。だけど基礎と違って初級、中級という括りがない。冊数が少ないからなのか、初級とか中級の括りに出来ない理由、それこそ内容としてはどれも初級なんてあるわけないわけで何級と分けられないからか。


 とりあえずディオに色々聞いてみよう。それと図書館に魔法応用の本があるのなら本で借りたい。本で借りることが出来れば学園で隙間時間を利用して読むことも出来る。


「こんにちは。まずは返却をお願いします」


「ああ、八坂伊織さん、こんにちは」


 俺が魔法基礎上級Ⅴを返すとディオはいつもの笑ってない笑顔で返却手続きを進めていく。今まで本棚では魔法応用は見たことがないけどどこかにあるんだろうか。俺が闇雲に探すより司書であるディオに直接聞いた方が早いだろう。


「すみません。『魔法応用』シリーズってありますか?」


「『魔法応用』に該当する本はありません」


「え?」


 ニコッと、笑ってない笑顔で対応された。その顔は魔法応用についてしゃべるなと言っているようだ。本当にそう思っているのかは知らないけど俺にはそういう風に見えた。


 少なくとも魔法応用という本を貸し出すことは出来ないと言われたと思っておけば良いだろう。あまりしつこく言うとディオが怖いし諦めることにしよう。どうせ元々もしかして図書館に物理的な本があるだろうかと思って聞いてみただけでないなら仕方ない。


 その日はまたバックヤードの瞑想部屋で瞑想だけして帰ることにしたのだった。




  ~~~~~~~




 今日の放課後は体育館で試したいことがある。ニコライに言ったら怒られるかもしれないけど剣スキルの実験というか実際にやってみたいというか……。


 確かにブレスレットの項目でスキルは読んで学習しているけどスキルは魔法と少々違う。というのも魔法は魔法の理論や詠唱が書かれていてそれを読んで理解すれば使えるようになる……、と思う。まだ実際に試し撃ちしてないからわからないけど……。


 ともかく魔法は勉強して理解して覚えれば使えるけど剣などのスキルはそうじゃないだろう?例えば剣道の入門書に『面の打ち方はこうです』と書いてあるのを読んだからといって面が打てるわけじゃない。実際に体を動かして、何千、何万、何十万回と繰り返し練習したって終わりというものがないものだ。


 そんな終わりのない鍛錬をちょっと本を読んだからといって出来るようになるわけもなく、実際に実践して体に覚えこませてようやく使い物になるという程度だろう。今の俺はちょっと本を読んでぼんやり体の動かし方をイメージしているだけでそれを実際に試したことすらない。


 というわけで今日は特訓ついでに剣スキルを実際にやってみたいと思っているというわけだ。


 問題があるとすれば俺が勝手に独学で剣スキルを覚えようとしているのをニコライがどう思うか……。もしかしたら勝手なことをするなと怒られるかもしれない。


「今日はちょっとスキルの練習をしてみたいんですけどいいですか?」


 準備運動や基礎訓練が終わった後に俺はそう言ってみた。普段ならこれから素振りの練習だ。その素振りで覚えようとしているスキルをやってみようかと思っている。果たしてニコライの反応は……。


「八坂伊織……」


 ゴクリッ……


 何を言われるんだろう……。


「お前今頃スキルとか言ってんのか?何で今まで覚えようとしなかった?」


「…………え?」


 ニコライの言葉に俺の方がポカンとする。ニコライは何を言ってるんだ?


「武器の技量を鍛えたら次はスキルだろ?お前は技量ばかり磨いて全然スキルを覚えようとしなかった。それが何でまた急にそんなことを言い出したんだ?もっと前から覚えておけば戦闘も楽になっただろうに」


「は……?」


 ニコライの言いようにイラッとする。俺のどこにスキルを覚えようとする時間なんてあったよ?お前がいっつもいっつも死ぬ寸前くらいまで基礎訓練ばかりさせてたんじゃないか。だいたいニコライ流剣術なんていうんだからお前がそのうちニコライ流のスキルも教えてくれるものだと思ってたよ。ニコライ流にはスキルなんてないのかい!


「いつも訓練で基礎訓練ばかりさせてた指導者しかいませんでしたしね。そもそも流派を名乗っているわりに流派のスキルもないんですか?そのうちスキルも伝授されるのかと思ってましたけど……」


 ちょっとイラッとした俺は嫌味を言ってやった。だけどニコライはどこ吹く風だ。


「基本スキルに流派はない。お前が基本スキルも使えないままだからニコライ流の奥義も教えられなかっただけだ。お前は言われるがままにただ操り人形のようにやるだけか?」


 うぐっ……。まぁ俺だって聞いたり調べたりもしてこなかったのは悪いと思うけど……、普段の基礎訓練があんなに厳しいのにスキルまで覚えているだけの時間はないだろ……。それは俺のせいじゃない。


「まぁいい。見てやるからやってみろ」


「えっ……」


 いきなり?何も教えてくれずに?俺はただ本で手順を読んだだけのド素人ですけど……?


 まぁそう言われたらやるしかない。とりあえず本で読んだことを思い出しながら……。


「『スラッシュ』!」


 お?やった!出た!特に練習もしてなかったけどうまくいったぞ。別に何か刃を飛ばすとか炎が出るとかわかりやすいエフェクトがあるわけじゃないけど確かに成功したという何かを感じ取った。


「駄目だ。やり直し」


「え?」


 でもニコライに駄目出しされた。何が駄目だっていうんだ?確かに今『スラッシュ』は成功したぞ。


 『スラッシュ』はレベル1でも習得可能な剣スキルの一番初歩の初歩だ。ただし習得率計算で力とか剣の熟練度が計算されるからレベル1でいきなり覚えようとしても失敗する可能性はある。


 『スラッシュ』は攻撃力1.2倍の単体攻撃というだけで特に何か追加効果とか特殊効果があるわけじゃない。効果も単純だけど固定の追加ダメージじゃなくて倍率アップだから後半でも使えるのが救いだろうか。


 ゲームによっては『物理攻撃力にXXダメージを追加したダメージを与える』というようなスキルが存在する。でもその手の固定ダメージ追加系のスキルは後半になると追加ダメージが微々たるものすぎてほとんど意味がなくなる。レベルが上がるとステータスがインフレするゲームが多いからその手のスキルはゴミスキルになりがちだ。


 それに比べて割合でダメージアップするものは使いやすい。こちらの基本攻撃力がアップすれば割合ダメージも増えるから終盤のインフレしまくった状況でも一定の効果が見込める。


 『スラッシュ』はその基本の中でも特に終盤までお世話になりやすいスキルだ。困ったらとりあえず『スラッシュ』というごり押しでも使える。


 今俺は初めてスラッシュを実際に試したのに確実に成功していた。レベルや力や剣熟練度がかなり上昇しているだろうからこんな初歩スキルの習得率は恐らく100%だろう。だからこそ一発で成功したんだと思う。それの何が悪かったというのか。


「おら!何してる!さっさとやれ!今から素振り全部スラッシュでやれ!」


「はぁっ!?」


 お前は何を言ってるんだ?


 いや……、冗談抜きで……。魔法はMPが存在して魔法を使えば使うほどMPを消費していく。MPがなくなれば魔法は使えない。じゃあスキルはというとスキルには使用回数が決められている。使用回数といっても一回の戦闘での使用回数であってゲームを通して一定回数しか使えないというわけじゃない。


 序盤のうちは一回の戦闘でインベーダー六匹を倒したら終わりとかいう簡単な戦闘で終われる。だけど中盤、終盤となってくると連戦させられることが多くなる。中には雑魚戦を何戦もやらされた挙句にそのままボス戦に突入させられるなんて時もあるくらいだ。


 その時にスキルの使用回数というのがネックになってくる。戦闘が終わったり、休憩したり、アイテムを使えばスキル使用回数が回復されるけど、そういうことがなければ一回の戦闘の間に使えるスキル使用回数は回復しない。連戦になるとそのまま使用回数が引き継がれる。


 何が言いたいかというと……、つまり……、普段やってる素振りを全部スラッシュでやれって明らかに使用回数を遥かに突破してるよね!って話だ。


「俺が普段何回素振りしてると思ってるんですか?それを全部スラッシュで?それは使いすぎでしょう」


「いいからやれ!」


「ひぃっ!」


 口答えした俺にニコライが竹刀を振り上げる。条件反射で縮まった俺はすぐさま言われた通りにやり始めた。


「スラッシュ!スラッシュ!スラッシュ!」


「ただ回数をこなせば良いわけじゃないぞ!もっと一回一回丁寧にやれ!腰が高い!腕の力に頼りすぎだ!体全体を使え!」


「ひいぃぃっ!」


 この後本当に素振りを全部スラッシュでやらさせられた俺の腕は、帰る頃にはパンパンになっていて上にあげることも出来なくなっていた。でも今日一日でもそれなりにコツは掴んだ気がする。あとは……、願わくばこの若い肉体が明日の筋肉痛を和らげておいてくれることを願うばかりだ。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] だがしかし教育者なのだから方針の立て方は教えるべきなのでは……
[一言] ニコライの言うことも最もだな
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