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第四十七話「スカウトしました」


 不思議なブレスレットを起動させて開いた本の内容は今日図書館で読んだ魔法の本と内容がまるで違う。確かに同じ魔法について書かれているはずなのに何故ここまでまったくと言っていいほど違うのか。


「これは……、どういうことだ……?」


 とにかく少しその内容を読んでみる。何がどう違うのか。何故違うのか。それがわかれば……。


 ………………

 …………

 ……


「あっ!」


 やばい……。時間を忘れて読み耽ってしまった。お風呂に入ったまま……。


 お湯も若干温くなってきているし肌がふやけてしまう。一体どれくらいお風呂に浸かっていたんだろう……。とりあえず一度お風呂から出て……、もう一度ブレスレットから同じ魔法の欄を読む。


 何となくだけど……、わかった気がする。図書館にあった魔法の本が何かフワッとした抽象的というか直感的な説明ばかりだったのに対して、こちらのブレスレットに収められている内容は非常に論理的だ。


 例えば……、年代によって違うのかもしれないけど公立の小学校に通った者は低学年の時にマグネットのついたタイルを使って算数を習わなかっただろうか。あれが実際に意味や効果があるのかはわからないけど、計算もしたことがない子供に直感的、視覚的にわかりやすいように算数を教えるためにあんなことをしているんだろう。


 それに比べて数学だと約束事、決まった法則があり、それを覚えて知っている前提で理論が展開されていく。数学はそういうものじゃないとか、算数と数学の違いはどうだとか、そういうことを抜きにざっくり言えばそんな感じだろう。


 図書館の魔法の本とこのブレスレットの魔法の内容もそんな感じだ。同じものについて書かれているけどマグネットタイルを持ってきて一個と一個を足したらこうなります、と示しているか、最初から1+1=ということがわかっている前提で書かれているかの違いとでも言えばいいんだろうか。


 ブレスレットに収められた内容の方は基礎理論を理解している前提で書かれている分小難しく書かれている。だけどその分だけ理解すればより完全に内容が把握出来るようにもなっていると思う。図書館にあった本の方が理屈もわからず丸暗記スタイルだとすればこちらは理屈だけを理解するという感じだ。


 俺がこれを読んで理解出来るのはこれまで魔法基礎をずっと読み続けてきたからだろう。ゲームの時は魔法基礎を読めばステータスの知力が上昇するというだけのことだった。でもそれが現実となればこういうことなんだと実感させられる。


 図書館の魔法の本は丸暗記して本の手順通りにやれば同じ結果が出せますよ、という内容だ。それに比べてブレスレットの方は一例としてこうすればこんな魔法が出来ますと理論が説明されている。だから応用力やきちんと理解して覚えるためにはブレスレットの方を読む方が良い。


 図書館の方は誰でも、それこそ魔法初心者でも本を読んでまったく同じようにすれば誰でも同じ結果が出せる。魔法を普及させるためにはその方が都合がよかったんだろうけど理屈も理解せずただ丸々真似するだけで応用力もない。


 ディオはそれがわかっていたんだ。だから本を貸し出せないなんて言って俺にブレスレットの方に収められている魔法やスキルを覚えるようにそれとなく勧めたに違いない。俺もこれを読んでみてディオの判断の方が正しいと思う。魔法やスキルはこのブレスレットから覚えよう。


 この日はついつい夢中になって魔法を覚えようとしている間に随分時間が遅くなってしまっていたのだった。




  ~~~~~~~




「ふぁ~~~っ…………」


 眠い……。昨日遅くまで魔法の本を読みすぎた。スルスルと頭に入ってくるから楽しくてもうちょっともうちょっとと思っている間にかなり遅くなってしまっていた。


 これはあれだ。今までただひたすらに基礎理論だけを詰め込んできたけどようやくその具体的な使い道を見つけたみたいな感じだろうか。小難しい理論を覚えるばかりの時は難しいし覚えるばっかりで楽しくないしで大変だったけど、いざそれを使って具体的に物事を組み立て始めると楽しくなってくるやつだ。


 そんなわけで授業はほとんど頭に入らなかったけどどうせいつも聞いてないから別にいいだろう。今更この世界の勉強なんて習っても意味はない。昼休みに入ったから俺は学食へ向かいながらロビンを捜す。


 どうしてもロビンに会いたければ自分から訪ねていけば良いわけで、こうしていないかなと周囲を見ながら学食に向かっているだけというのはそれだけ『会えなければ会えなかったでいいか』くらいにしか思っていないからだ。


 ロビンを捜している理由はもちろんパーティーに誘うためだけど正直俺はあまり人付き合いが得意じゃない。会えたら誘うというスタンスではあるけど自分から積極的に捜しに行かないのはどう言えばいいかわからないからだ。


 そういう所が良くないのだということはわかっている。マックスのように多少周りに煙たがられても周囲のことを思って即座に行動出来る奴の方が信頼もされるんだろう。実際ディエゴもロビンもマックスのことはある程度信頼していたような節があった。


 それに比べて俺は中々決断出来ず人との付き合いも下手で奥手だ。最初は明るい性格の健吾がルームメイトで向こうから構ってくれたからすぐに打ち解けた。その次はマックスのような生真面目で面倒見の良い奴だったから親しくなれた。でも今度は俺の方からディエゴやロビンと親しくなって打ち解けなければならない。


 本音を言えば気が重い……。俺は一方的にロビンのことは知っているけどそれはゲームの『イケ学』において勝手に知っている気になっているだけだ。現実となったこっちの世界じゃ色々と違う部分もあるし皆も変わっているというか、ゲームでは語られなかった内面や性格まである。どう接すれば良いのか答えがないと俺は何も出来ない……。


 そうか……。今わかった……。俺は明確な答えがなければ行動出来ないんだ。ゲームの『イケ学』なら選択肢があってどれを選べばどういう結果になるのかの明確な答えが存在する。ゲーム進行中の選択肢にも全てその後の結果があり明確な答えが存在する。キャラクター育成もそうだ。どのキャラをどう育てるか明らかな答えがある。


 それに比べてこの世界はどうだ?ちょっとした会話の受け答え一つで無限の未来が有り得る。ほんの些細なことで言い争いになるかもしれない。ゲーム風に言えば相手の好感度が下がるかもしれない。逆に物凄く好感度が上がるかもしれない。


 そこに明確な答えも選択肢もなく全て自由な変わりに結果も全て自ら責任を負わなければならない。だから俺はそこに踏み出せないんだ……。


 ははっ……。何だよそれ……。俺ってとことん人付き合いとか出来ない奴なんだな……。まぁだからこそ一人でポチポチとゲームをするのが好きだったんだろうけど……。この世界に来てそれがはっきりとわかってしまった。


 まぁ考えていても仕方がない。俺がそういう性格なのは今更だし急に変えることも出来ない。俺は俺なりにやっていくしかないだろう。俺は健吾のような明るいキャラクターにもなれないしマックスのように周りにウザがられてでも貫き通せるほどに真面目でもない。俺は俺なりに……。


「あっ、八坂伊織さん」


「ロビン……、相席いいかな?」


「どうぞ」


 今日はロビンの方が先に学食に居たようだ。俺が日替わりランチを持って席を探しているとロビンを見つけたのでそこに相席させてもらう。昨日は俺の方が逃げるように早く食べて席を立ったけど今日はちょっと用があるから話がしたい。


「飯を食ったあとにちょっといいかな?」


「え?ええ、いいですけど……」


 ちょっと不審者を見るような目で見られている。そりゃ大して親しくもない奴にいきなりそんなことを言われたら警戒もするか。逆の立場なら俺だって不審に思うだろう。


 だけどそう思われてでも、ちょっとくらい強引にでも話をしないことにはパーティーに誘うなんてできっこない。どうやって誘うか考えながら俺は昼食を胃に流し込む。緊張とこの後の会話のシミュレーションでご飯の味なんて全然わからない。


「それで……、お話というのは?」


「あぁ……」


 二人とも昼食を食べ終わって一息ついた頃に我慢の限界だといわんばかりにロビンの方から話を振ってきた。向こうも何を言われるのかと思って気になって仕方がないんだろう。だけどここで言うのもちょっとな……。


「ちょっと場所を移動しないか?ここだと騒がしい」


「…………わかりました」


 ちょっと悩んだ後でロビンは頷いてくれた。大して親しくもない奴にいきなり呼び出されて何事かと思っていることだろう。とりあえず食器やトレーを返却して学食を出た俺達は少し離れた場所にある空き教室に入った。この学園はあちこちに空き教室があるな……。鍵もかかってなかったりするし管理がガバガバだ。俺はそれで助かってるから文句はないけど……。


「えっと……、ロビンは……、誰かとパーティーを組んでいるのか?」


「えっ!?……いえ、僕なんかがパーティーを組んでもらえるわけないじゃないですか」


 ちょっと怒ったような、悲しんでいるような、複雑な表情を浮かべながらロビンはそう言った。その気持ちもわからなくはない。ディエゴも、ロビンも、後衛向きのキャラは前半ではほとんど役に立たない。こんな命懸けの状況で役に立たない奴が周りからどう思われ、どう扱われるかは想像に難くないだろう。


 むしろ低いステータスや偏ったステータスでよくこれまで生き延びてきたものだと思う。いくら顔ありキャラといっても顔なしモブの前衛向きキャラよりも明らかに弱いんだ。そんな前衛モブ達がバタバタと死んでいるのによくディエゴやロビンがこれまで生き延びてこれたなと思う。プレイヤーが保護しているわけでもないのにここまで生き延びてきただけでも大したものだ。


「だったら……、俺達とパーティーを組まないか?」


「…………え?」


 今度は驚いた顔から……、徐々に怒りの顔に染まっている。何でだ?こういう時人の心の機微がわからないのは致命的だ。ゲームならどの選択肢を選んだらパラメーターがどう変化するとか、どういうフラグが建つってわかってるけど現実じゃそういうことが何一つわからない。人付き合いは非常に難しくとても怖い。


「僕なんかをパーティーに入れてどうしようっていうんですか?皆で笑いものにするつもりですか?それとも肉壁にでもしようっていうんですか?」


「え?いや……、違う!そうじゃない!」


 今度は俺の方が驚かされた。ロビンの言葉はあまりに衝撃的だったから……。


 もしかしたら……、ロビンはこれまでにも入って来たパーティーでそういう風に扱われていたんじゃないか?周りからは邪魔者だの足手まといだのと蔑まれ、同じパーティーになったら盾代わりにされたり……、そんなことが続けばロビンのこの態度もわからなくはない。でも俺はそんなつもりは一切ない。


「はっきり言うぞ?俺はロビンには弓の才能があると思う。ロビンが弓を装備出来るようになったらあちこちからスカウトされるようになるだろう。だから俺は他の奴らがロビンの才能に気付いて、それを利用しようとする前にロビンとパーティーを組んでおきたいと思った。それだけなんだ」


 ここまで言って大丈夫だろうか?また健吾の時のようにおかしくならないだろうか?でもこれくらいは言わないと俺の真意も伝わらないだろう。俺はロビンを盾にしようなんて思わない。それはロビンの真価がわからない奴がすることだ。ロビンは後衛で弓を使ってこそ輝く。


「…………結局あなたも僕を利用したいということじゃないですか?」


 何て答えたらいいんだろう……。こんな時に選択肢があって選ぶだけだったらどれほど楽だろう。間違えてもセーブデータをロードすればやり直せるならどれほど簡単だろう。でも現実ではそんなことは出来ない。吐いた言葉は取り消せずなかったことには出来ない。慎重な答えが求められる。だけど……、心を偽るのも駄目だ。


「そういわれたらそうかもしれない。ロビンがこれから強くなって戦力になると思っているから利用しようとしていると言われたらそうなんだろう。でも俺はロビンを一方的に利用しようと思っているわけじゃない。これから戦いはどんどん厳しくなっていく。その時に背中を預けられる仲間が欲しい。俺がロビンを頼りにするようにロビンも俺を頼りにしてくれたらいい。利用しあうだけじゃなくて仲間になって欲しいんだ!」


 うまく伝わっただろうか……。俺は口下手だし、こんな会話になるなんてシミュレーション出来ていなかったから考えも言葉もまとまっていない。もしかしたら怒らせたかも、もしかしたら誤解されたかも、そんな不安が付き纏う。人と接するというのがどういうものなのか今更ながらに思い知った。


「…………少し、考えさせてください」


「――っ!ああ!じっくり考えてくれ!」


 暫く黙っているからもう駄目かと思っていたけど……、ロビンは考えさせて欲しいと答えてくれた。いきなり親しくなるとか仲間になるなんてことは不可能だ。とりあえず一歩前進出来たみたいで俺はほっとしてロビンと握手を交わしたのだった。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] アイリス本人がコソコソ見てるか、誰かがアイリス密告して引き抜いてそう。 このまま行くと生徒全員引き抜かれそうだ((((
[一言] でもどうせ育成したところで引き抜かれるんでしょ(゜ω゜)
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