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第二十九話「戦い続けました」


 こっちはまだ心の準備も出来ていないけど敵は待ってはくれいない。ウゾウゾと敵が迫ってくる。


「前回と同じ、八坂伊織が真ん中!俺は左を受け持つ!お前は右だ!残りは後衛につけ!」


「お前じゃなくて俺は斉藤健吾だ!」


 マックスの指示で皆が分かれて動く。ぼーっとしている暇はない。俺も後衛達も即座に配置についていた。だけど周りを気にしていられたのはそこまでだ。


「きた!」


「迎え撃て!」


 俺達が迎撃の準備をしている最中にインベーダーが襲い掛かってきた。これもいつもと違う。いつもならインベーダーが攻撃してくるのももっとゆっくりだった。今日は俺達がバトルフィールドに出ると同時にすぐに近寄ってきて、目の前に来ると同時にこれまたすぐに攻撃してきている。


「はぁっ!」


 ニコライに習った通りに剣を振り下ろす。今までは力任せにベコンと潰していた感じだったのに今回は木刀なのにまるで斬ったかのようにインベーダーがへこんでいた。


 もちろん木刀なんだから切断やましてや両断なんて出来るわけがない。ただ力任せにべコッとへこましたというよりはこう……、言葉では説明しづらいけどまるで斬ったように木刀の当たった部分だけが鋭くへこんでいる。


「八坂伊織……、お前……」


「伊織……、いつの間にそんな……」


 マックスと健吾が俺が殴ったインベーダーを見ているけどそんな場合じゃない。いつもと違って敵は休む暇もなく常に襲い掛かってきている。


「マックス!健吾!ぼやぼやするな!敵は止まっていないぞ!」


「あっ、あぁ……」


「くそっ!俺だって!」


 俺に言われて二人もそれぞれ武器を振るいだす。さすが前衛二枚看板のマックスと健吾だけあって敵を次々と屠っていく。だけど飛ばしすぎだ。これだけ敵がいっぱいいるのにあんなに飛ばしてたらすぐに体力がなくなってやられるだろう。


「二人とも飛ばしすぎだ!敵の数を見ろ!そんなに飛ばしたらすぐにバテてやられるぞ!」


「そうは言うけどよ……」


「敵が多すぎる……。倒しても倒してもすぐに攻められて手を緩める暇もない……」


 二人の言うこともわかる。こっちが一息入れようと思っていても相手が止まらなければこっちだけ止まるというわけにもいかない。だけどこんなペースで動いていたらすぐにスタミナ切れになる。どうにかしなければ……。


「――っ!マックス!健吾!ちょっと下がろう!陣形を小さくしてお互いにフォローし合うんだ!」


 いつも俺達はお互いが邪魔にならないようにはもちろん、後衛や周囲に敵が抜けていかないように少し広めに間隔をとってその間をフォローし合うように戦っていた。だけどこれじゃお互いが遠すぎて四方八方から攻撃されてしまう。もう少し密集してお互いの死角を補えば今よりはまだしもマシになるだろう。


「ちっ!止むを得んか」


「またあの時みたいに伊織と背中を預けあうか?」


 俺の言葉を聞いて二人は素直に下がってくれた。センターである俺に近寄ってくる。あまり近すぎてお互いが邪魔になるということはない。二人だって今まで散々戦ってきた者達だ。お互いの間合いを理解して邪魔にならず、最適にフォローし合える程度の距離感を保っている。


「よし!ここからは持久戦だ!あまり突出しすぎず、それに疲れたら無理をせずお互いに申告して交代で休もう!前衛が休む間は後衛も前衛に入ってくれ!」


 何も考えずにずっと暴れ続けて全員同時にスタミナ切れになったら即終わってしまう。無理したり変なプライドは持たずに休めるタイミングで交代で休んできちんと体力を回復させるんだ。


「うおおっ!」


「たぁ!」


「ふっ!」


 俺とマックスと健吾の三人で必死に前衛を支える。前衛が崩れたら一瞬で全滅だ。今回はやばい。


 だけど……、何だろう……。今日はやけに剣が冴えているというか……。思い通りに戦える。


 正面から無策に突っ込んでくるインベーダーを大上段からかち割る。これが真剣だったら真っ二つにしたという手応えを感じる。真剣で何かを斬ったこともないのにおかしな感覚だ。


 正面から突っ込んできた奴が崩れ落ちるとその左右から後続が襲い掛かってきていた。大上段から振り下ろした木刀を返す刀で切り上げて右のインベーダーを逆袈裟に斬る。


 確実に逆袈裟に斬り落とした手応えを感じると今度は再び袈裟切りに戻しつつ左のインベーダーを斬り伏せる。


 流れるように、無理なく自然に体が動く。三人称視点のゲームのように自分の後方頭上から俯瞰しているように戦場がイメージ出来る。


 インベーダーが伸ばしてきた触手を避けて、打ち落とし、胴を薙ぐ。そのまま勢いを殺すことなく体を回転させて左の敵も斬る。


 これは……、戦いが全てまるで俺が書いた脚本の通りに進むかのように、まるでお互いに示し合わせていたかのように全て俺の望むように、考えたように進む。でも違う。そうじゃない。俺とインベーダーが示し合わせて俺が考えたように動いているわけじゃない。


 俺は斬った瞬間、いや、斬る前からもう敵を見ていない。俺の視線は常に先を見ている。その視覚情報から次の戦いをすでに脳内で組み立てているんだ。だからまるで俺が思い描いている通りに周りが動いているかのように感じる。


「すげぇ……。伊織……、お前何で……」


「作戦を変える。八坂伊織を中心に、俺と斉藤健吾は八坂伊織の死角のフォローに徹するぞ」


 マックスはそう言って少し下がった。だけど健吾は下がらない。


「俺だって!いや!俺の方が!うおおおおーーーーっ!」


「健吾!無茶するな!」


 下がるどころか……、健吾は前に突撃していった。突然前衛右翼が空いたためにそこから後衛に向かって敵が流れ込む。このままじゃまずい!


「右翼のフォローは俺がする!マックスは健吾を止めろ!」


「わかった!ちょっと任せるぞ!」


 健吾が前に出すぎて空いた分俺は右翼のフォローに入る。多少は後衛にも敵を任せるけど後衛三人がいても健吾の代わりにはならない。俺が集中して右翼をフォローしている間にマックスに健吾を説得してもらうしかない。俺は声を出している余裕もないからな。


「落ち着け斉藤健吾!陣形を乱すな!」


「うるせぇ!俺が……、俺が全部倒しゃいいんだろうが!俺は負けねぇ!俺は……、俺はぁ~~!」


 健吾が力任せに槍を振り回す。突く攻撃じゃなくて長い柄で敵を殴りつけ引っ掛けて投げ飛ばす。箒で掃くようにインベーダー達が押し流されていくけどそれだけだ。多少ダメージを与えてもインベーダーは止まらない。人間なら痛みで止まるような損傷を与えてもインベーダーは怯むことがない。


 それなのにちょっとダメージを与えただけでズンズン進んでしまったら敵に囲まれて……。


「健吾!下がれ!囲まれるぞ!」


「うるせぇぇぇえええええええ~~~~!」


「――ッ!」


 駄目だ。完全に健吾の頭には血が昇っている。何でこんなことになったのかはわからない。ただ一つ言えることはこのままじゃ俺達が全滅するっていうことだけだ。


「冷静になれ!斉藤健吾!」


「俺に指図するな!」


 いつもなら健吾が突出しすぎてもどうにかなっただろう。それに仮に健吾一人が死んでも俺とマックスと後衛だけでも持ち堪えることが出来ただろう。でも今回は違う。今回はマックスと健吾の両方が揃っていても生き残れるかどうかもわからない。このまま健吾が無茶をすれば全滅は必至だ。


 でも……、それも仕方ないか……。


「健吾……、戻って……」


「――ッ!伊織……」


「でも……、健吾が戻らないならそれでもいい。もしこのまま陣形が崩れたら、健吾が戻ってくれなかったら全滅する。でも俺が今まで生き残れたのは健吾のお陰だから……。この命は健吾がくれたものだから……。ここで捨てろというなら捨てるよ……」


 もし最初の戦闘で健吾と同じパーティーじゃなかったら俺はあの時何もわからないまま死んでいた。その後の戦闘でも毎回毎回健吾に寄生していなければ生き残れなかった。だからこの命は健吾にもらったものだ。


 今俺は多少は強くなっただろう。でもそれはいつも健吾が前衛に立って、戦って守ってくれていたからだ。それにいつまでも甘えているわけにはいかない。このまま健吾が一人前に出て、俺達が全滅するとしても……。俺はそれを受け入れる。


 もちろん死にたくなんてない。だけど一人でどうにか出来るものじゃない。これが運命だというのならそれに従うのも一つだろう。最後まで抗い戦いはする。でもそれで死んでもそれだけのことだ。


「い……おり……。――ッ!……いや~!すまねぇな!ちょっと俺の槍捌きを披露したくなったんだ!すっきりしたしまた俺がお前らを守ってやるよ!」


 そう言いながら健吾は何もなかったかのようにまた槍を振るって戻ってきた。肩で息をしている。あちこち擦り傷もある。何でもなかったわけがない。もう少し暴走していれば健吾も死んでいただろう。だけど今はそれを言っている場合じゃない。


「ありがとう健吾……」


「伊織がデレた!」


「うるせぇよ」


 別にデレてない。それに戻ったら怒ってやる。このまま何もなしで終わると思うなよ。だから……、絶対に生きて戻るんだ……。


「よし、戻ったな。斉藤健吾は少し後衛と交代して呼吸を整えろ。その間後衛の三人は交代で右翼へ。斉藤健吾は休んでいる間も槍で右翼の援護をしておけ」


「わーってるよ!」


 よし……。また回り始めた。これならいける。健吾は軽傷とはいえ負傷しているし体力も使って疲れている。だけど休めばまだまだ戦える。俺とマックスは……、マックスも少し息が上がってきているな。健吾の休憩が終わったら次はマックスを休ませよう。


「健吾の休憩が終わったら次はマックスが休め」


「俺はまだ大丈夫だ」


「いや、休め。休めるうちに休んでおかないとジリ貧だ。交代で休むって決めただろ」


 マックスは責任感が強いから中々休まないだろう。だから何とかしてこちらで無理やり休まさなければならない。


「だったら八坂伊織が先に休め。お前の方が大変だろう」


 う~ん……。どうかな。俺はマックスと健吾にフォローしてもらっているからそれほど疲れていない。真ん中にいて両側からフォローされるんだから俺が一番楽だろう。


「俺は二人がフォローしてくれているからまだ息も上がってない。まだ大丈夫だから先にマックスが休んでくれ」


「…………わかった」


 ようやく納得してくれたらしい。二人の手が止まったら俺達のパーティーはお終いだ。二人には休める時に休んでもらって頑張ってもらわなきゃな。




  ~~~~~~~




 あれからどれほど経ったのか……。周りには夥しい数のインベーダーの死骸と他のパーティーであろうイケ学の生徒達の死体があちこちに転がっている。幸い俺達のパーティーはまだ一人も脱落者が出ていないけどもうそろそろ限界が近い。


「ハァ……、ハァ……。くそっ!いつまで続くんだよ!」


「はぁ……、ふ~~~っ……。まずいな……」


 健吾もマックスもかなり辛そうだ。体力がなくなってきたら動けなくなるだけじゃなくてミスも増えてくる。完全に動けなくなってやられるというよりは、体力を消耗して動きが鈍ったりミスをした時にやられるパターンが多い。


 健吾もマックスも傷が増えてきているしちょくちょく取りこぼしやミスが目立ち始めている。かといって後衛と交代して休んでもらおうにも後衛も一杯一杯だ。もう随分交代休憩が出来ていない。


「伊織!お前一度も休んでないだろ!俺達が何とかするから休めよ!」


「そうだな……。八坂伊織が倒れたらこのパーティーは崩壊する。少しでも休んでくれ」


 健吾とマックスがそんなことを言ってくれる。でも大丈夫だ。


「俺はまだ大丈夫だ。それより休めるなら健吾かマックスが休む方がいい。二人のどちらかが欠けても俺達は終わりだ」


 二人がフォローしてくれているから俺は一番楽をさせてもらっている。まだそれほど息も上がっていないくらいだ。これならどちらか一人が休んでいる間に俺がそちら側の前衛をフォローすることも出来るだろう。


「休みたいのは山々だけどよ……」


「もう休めるような状況にはないな……」


 マックスが指した先を見てみれば……。


「……マジかよ」


 また……、地面が見えないほどにびっしりと蠢いているインベーダーの波が押し寄せてきていた。



 いつも読んでいただきありがとうございます。


 予告


 年明け、一月一日より当作品は日曜日、火曜日、木曜日の週三回更新となります。


 一月一日より新作の連載を開始する予定ですのでよろしければそちらの応援もよろしくお願いいたします。

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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] 健吾はなんかコンプレックスでもあるのかね? 伊織、覚醒か? 乗りきれるといいなぁ
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