表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/130

第二十三話「安定しました」


 今回も健吾は槍装備。それ以外の五人は全員剣装備だ。だけどだからって健吾だけがレベル5以上で他のメンバーのレベルが低いとは限らない。


 健吾の前で武器とかレベルの話をしたらまた喧嘩になるかと思って言ってないけど実は俺も槍は装備出来る。前回の戦闘が終わってから俺もそろそろレベル5を超えているんじゃないかと思ってこっそり槍を装備してみた。結果俺は槍を持つだけじゃなくてきちんと『装備』出来ていた。


 強さから考えてマックスも恐らく装備出来るだろう。装備出来ることと装備することは別の問題だ。例え槍や弓を装備出来るレベルになっていたとしても剣一本で貫く者もいるだろうし別の武器に持ち替える者もいる。そこに考えや明確な将来のビジョンがあるのならばどちらも間違いじゃない。


 一番やっちゃいけないのはただレベルが上がって持ち替えられるからって次々に装備を換えていくことだ。将来自分が主武器にする予定もないのに無意味に武器を換えていくのだけはしちゃ駄目だ。健吾もそれはわかっていると思いたい。前衛の健吾が剣か槍を使うのは良い。ただこの後レベル10になったからって弓に換えさえしなければ……。


 それはともかくそんなわけで俺も晴れてレベル5はクリアしているわけで、マックスも恐らく俺よりレベルが高いだろう。とはいえ俺の最終目標は杖装備だからまだまだ先だ……。今後はさらに戦闘時間が延びることが予想される。それだけ経験値がおいしいということだけどそれはあくまで生き延びられるのならの話だ。


「来るぞ!俺と健吾がフォローする!伊織は正面だけ抑えてくれ!」


「こっちは任せとけ伊織!」


「ああ。任せるぜ」


 よし……。今はまず目の前の敵をどうにかすることが先決だ。前回までのセンターが厳しいと言っていたのは強い前衛が一人でセンターに立ち、左右のフォローをしながら前衛を支えなければならなかったからだ。それに比べて今日の二枚看板じゃまた話が変わってくる。


 左右に強い前衛がいて両方がセンターをフォローしてくれるならセンターの負担が一番軽く、左右はその分だけセンターよりも負担が重くなる。完全に俺がお荷物になっているけど実際に俺は前衛としては健吾やマックスには敵わない。ここは素直に任せつつ出来ることだけきっちりするのが最善だ。


「うおおおっ!」


 健吾が前に出て槍の一突きでインベーダーを貫く。一撃で倒すという意味においてはやっぱり槍は優秀なようだ。木刀だったらベコベコに殴り倒すしかないからな。でも槍で突いたら抜かなければならない。突き刺さったままの瞬間が隙だらけになってしまう。


「健吾!張り切るのは良いけどあまり突出しすぎるなよ。それに飛ばしすぎたらあとでバテるぞ」


「大丈夫だって!おらおらおら~!」


 駄目だな……。健吾は話を聞かずにどんどん前に出てしまう。折角パーティーで戦っているのに連携が出来ていない。それに飛ばしすぎれば後でバテる。いつまで戦わなければならないかもわからないのに無理をするのはよくない。


「あいつが一番お荷物なんじゃないか?」


「はは……、まぁまぁ……。あんなだけど健吾は体力もあるからいつもは最後までもってるよ……」


 マックスが呆れたように健吾を見ている。一応フォローしておかないと二人が険悪になって今後パーティーを組まないとかいうことになったら俺が困る。


 今は健吾が言うことを聞かずに突出しすぎているとはいえこのパーティーはかなり理想的に機能出来ている。左右の健吾とマックスが敵を抑えて俺は正面だけに集中出来る。後衛達は俺達の死角や隙をフォローしてくれるから前衛が大きく崩れるということがない。


「はぁ……、はぁ……、どうだ!」


「健吾、落ち着いたならちょっと下がれ。突出しすぎだ」


 ようやく少し止まった健吾にマックスが指示を出す。


「何だぁ?へっ!まぁお前じゃ俺ほど活躍するのは無理な話か?」


 あ~ぁ……、何で健吾はそうマックスを挑発するかね……。ライバル視でもしてるのか?


「個人技で俺の方がお前より劣ると思うのなら勝手にそう思ってろ。だがな、パーティーとして役割を果たしているのは俺だ。お前の行動はパーティー全体を危険に晒している。そしてお前はセンターの、伊織のフォローをしなければならない立場なのに自分勝手に突撃して伊織のフォローすらしていない。それが答えだ」


 ほぉ……。マックスは健吾に挑発されても冷静なようだ。しかも言っていることは正しい。


「…………、ちっ!わーったよ!」


 頭をボリボリと掻いた健吾は少し下がってきた。どうやらマックスの言うことを受け入れたようだ。あれだけ正論で言われたら健吾も……。


「言っとくがお前の指示に従ってんじゃねぇぞ。伊織から離れすぎたらフォローが出来ないってのが当たってるから下がっただけだ。それから俺が周りの敵全て倒せばそれだけ伊織の負担が軽くなる。俺の働きが伊織のためになってないってのは訂正しろ!」


「そうだな。お前が囮になって敵を引きつければ確かに周りは多少は楽になるだろう。だがそれよりもきちんと連携して全員でお互いをフォローする方が生存率が良い。お前一人先走って死ぬのは勝手だがそれで伊織を危険に晒すような真似はするな」


 おいおい……。何だよこいつらは、さっきから……。お前らの喧嘩に俺をダシに使うなよ。


「喧嘩してる場合か。次が来るぞ」


「ちっ!」


「へっ!」


 やれやれ……。何でこの二人はこうも仲が悪いのか……。折角前衛の二枚看板だっていうのに……。


 だけどやっぱりこれだけ豪華な前衛だと戦闘が安定する。前回までの主力前衛が一人だった時に比べてずっと戦いが楽だ。俺が楽という意味じゃなくて前衛が崩れるということがない。だから後衛もそれほど危険がなくパーティー全体が安定して戦えている。


 主力前衛が一人だけだったらどう頑張っても死角が出来るし討ち漏らしも出てくる。それを残った者で対処するにしても他の者の力が足りない状況だった。それに比べて今回は二人の主力前衛がお互いをフォローしつつ立ち回っている。出来ることならこれからこのパーティーで戦闘に参加したい。


「前も思ったが……、やるじゃないか伊織。伊織がいてくれるお陰で随分楽だぞ」


「え?そっ、そうかな?」


 マックスみたいな主力前衛にそう言われて悪い気はしない。お世辞というか、今までの他のモブに比べてマシという程度の意味だろうけど、これまで頑張って特訓してきたのが認められているようでうれしい。


「おっ、おい!伊織!何デレてんだよ!こんな奴がいいのかよ!?」


「はぁ……、健吾……、お前何言ってるんだ?」


 こいつはたまにデレるとか言うけど俺はツンでもデレでもない。


「くっそ~……。こうなったら俺が敵を全滅させてやる!」


「馬鹿!だから一人で突っ込むな!」


 また暴走気味に健吾が突っ込んでいく。でもそんなに心配していない。今回のパーティーはこれくらいじゃ崩れない。




  ~~~~~~~




「ハァ……、ハァ……、ハァ……。くそっ!いつまで続くんだよ……」


「だから後半バテるから落ち着けって言っただろ……」


 もう結構な時間が経っているのに今回は中々戦闘が終わらない。健吾だけじゃなくて後衛達もかなり息が上がっているようだ。マックスは……、さすがだな。まだまだ余裕がありそうだ。


「まったくだな。先のことも考えずに突っ込むからそうなる。それにしても伊織は大したもんだな。俺でも息が上がってるのに平然としている……」


「いや……、俺だって息が上がってるよ。それにマックスはまだ余裕があるだろ?そもそも俺は健吾とマックスにフォローしてもらってるからな。俺より負担が重いのに耐えてる二人はすげぇよ……」


 体力的にはニコライとの特訓の方がきついとはいえ、あれは途中で止まっても死にはしないし終わりも決まっている。それに比べて一つのミスで命に関わる上にいつまで続くかもわからないこっちの方がかなりきつい。


 褒めてくれるのはうれしいけど倒した敵の数も健吾やマックスには及ばない。二人がフォローしてくれているからまだ何とか踏ん張れているだけだ。


 これが俺と主力前衛の実力差ってことだろう……。俺がいくら頑張っても二人のようにはなれない。本当に魔法が使えるようになるのかもわからないし……。


「健吾、疲れたんならポジション変わってやろうか?」


「あぁ?まだまだいけるぜ!」


 かなり息が上がってきているけどまだ大丈夫そうだな。今までフォローしてもらってた分今度は俺が健吾のフォローに回れば良い。


「どうやらまだ終わらんようだな。また来たぞ」


「よし!」


「ハァ……、ハァ……」


 再び迫ってくるインベーダーと対峙する。今回はかなり良い感じで経験値を稼げているだろう。チラリと見てみれば俺達が倒したインベーダーの死骸?残骸?があちこちに残っている。その数は相当なものだ。それに俺達が敵をかなり引きうけているお陰で今回は他のパーティーも結構耐えている。


 満遍なく戦力を分散して耐えさせるのも悪くはないのかもしれないけど、こうして主力パーティーを作って前に出させ、そのパーティーをフォローするように他のパーティーを展開すれば全体としても生存率が上がるんじゃないだろうか。


 もちろんその前に出させる主力パーティーに自分が入っているのは不本意だけど、学園全体の損耗率や生存率から考えたらこれはこれで悪くない気がする。


 いつもいつも兵士がランダムで六人刻みにパーティーを分けるよりもこうしてきちんと戦力やパーティーを割り振った方が良いんじゃないだろうか。何故そうしないんだろう?


 分けるのが面倒だから?兵士は馬鹿でそこまで考えられないから?


 もしかして……、あまり考えたくはないけど……、これは間引きなんじゃないのか?何度もこうしてランダムな、ひどいパーティーで送り出して……、それに耐えて生き残れるような者だけを選別しているとしたら……。


 はっきり言ってアホなやり方だと思う。それなら大器晩成型の後衛はほとんど生き残れないだろう。ゲーム後半になるほど後衛職の重要性は増してくる。それなのにこんな方法で間引いたら後衛向きの者はほとんど死ぬことになるはずだ。


 だけど……、こんな恐ろしい予想も絶対にないとは言い切れない……。それが恐ろしい……。


 誰がこんなことをやらせているのかはわからない。でも誰かがそういう指示でもしていない限りはあまりに不自然すぎる。もし本当に建前通り王子達が敵を倒すまでの肉壁だというのならもっとしっかり敵を食い止められるように考えるはずだ。こんな無意味に死人を増やすようなやり方をさせるとは思えない。


 キュピピーーンッ!


 その時、このシリアスな戦闘にはあまりに不釣合いないつもの音が聞こえてきた。


「あ~、ようやく終わったぁ……。疲れた~~!」


「――っ!」


 やっぱりおかしい。健吾は今目の前にインベーダーがいるのに、今さっきまで殺しあっていたのに、戦闘終了の音が鳴った瞬間に槍を下ろして振り返った。普通そんなことが出来るか?


 今さっきまで殺しあっていたんだぞ?人間が相手でこれが何かの試合だっていうのならまだわかる。ゴングと同時に終了もするだろう。だけど相手は言葉も通じているかわからないタコのようなインベーダーだぞ?それなのにあの音が鳴った瞬間にこうまで無防備になれるものか?少なくとも俺なら無理だ……。


 最初はゲームのように思っていた。そういうものだと思っていた。だけどこの中途半端に現実になったかのような世界においてこれはあまりに不自然だ。そもそもインベーダーの方も何故ああもあっさり引き下がる?最後に健吾に一突きしたら健吾を倒せていた。それなのにインベーダーの方もあっさりと引き下がる。


 何なんだ?何なんだこの世界は?


「こんだけ倒したんだから俺相当レベルが上がってるよな!」


 レベルは上がるほど次のレベルに上がるための必要経験値が爆発的に跳ね上がる。俺達のようにそこそこレベルが上がってきていると段々レベルの上がりは悪くなってくるだろう。


 いや、それは良い。そんなことじゃない。何故健吾はこうも無防備でいられる?誰も、あれだけ冷静なマックスですらこの状況がおかしいことに気付かないのか?


 俺だけ……。俺だけか?それは俺が本来のこの世界の住人じゃないから?


 わからない……。わからないけど……、いつまで経ってもこの気持ち悪さは消えない……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[良い点] なぜ侵略者がいるのですか? この包括的なミステリーは魅力的です
[一言] 謎が分かってくるのはいつになるのか……
[一言] 考えるのはいいけれど、あまり不振な行動はしないようにね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ