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第十七話「新たな友が出来ました」


 他にも知っているモブがいるかと思ったけど流石にいなかった。俺とマックスの他に見るからにモブという風体の四人で扉を潜ってバトルフィールドに移動する。


「おいおい、挨拶されたら答えるものだろう?無視して行くなよ」


「いや……、別に無視はしてないよ……。兵士がさっさと行けって顔してただろ?あんな場面でゆっくりしてられるかよ」


 早速面倒臭ぇ……。俺だって別にマックスを無視しようと思ってたわけじゃない。ただ兵士が次々行けと指示を出しているのに無視してあんな場所でゆっくり自己紹介なんてしてられないだろう。


「そうか。じゃあ改めて、俺はマックスだ。よろしくな」


「あぁ……、俺は八坂伊織だ」


 今度こそ無視したら何を言われるかわからないからきちんと答えておこう。俺だって別に無理に無視したかったわけでもないしな。それにマックスは生真面目で面倒臭い性格をしているけど戦闘では使える。イケ学で無課金前衛キャラなら一、二を争うレベルの主力キャラだろう。


 ちなみにイケ学で本当にモブ中のモブは目なしの同じ顔で髪型が若干違うキャラが出てくる。それは定期的に湧いてきてパーティーに入れたければ入れられるキャラ達だ。


 イケ学では初期状態で十八人までストックすることが出来る。雇う……、でもないし、パーティーに組み込む……、ともちょっと違う。何と言えば良いのかわからないけどパーティーを組む際に選べる手持ちキャラの最大所持数は十八だ。


 俺がプレイしていた時点まででイケ学では攻略中に同時に最大六人、三パーティー、つまり十八人必要になるマップが存在する。初期のままだと保持出来るキャラと総出撃人数が同じだ。これは非常に困る。十八人持てるとは言っても主人公と五人の攻略対象合計六人は固定だ。つまり十八人しか持てないと使えない王子達を全員出撃させなければならなくなる。


 そこで課金要素で最大所持キャラ数枠追加というものがあった。それも無制限ではなくて所持数制限はあるけどここは課金必須要素の一つだろう。なくてもクリア出来なくはないかもしれないけど……。


 そのキャラの増やし方だけど基本的にはクラスからスカウトするというコマンドで仲間に加えることが出来る。それらのキャラは皆顔なしのモブで多少髪型のバリエーションが存在するだけだ。


 それに比べて健吾やマックスのような顔ありの無課金キャラには仲間にするためのイベントが存在し、ある程度ストーリーが語られたりイベントをクリアしたりしてようやく仲間にすることが出来る。それ以外には課金のキャラガチャがあってガチャで引いたキャラを開封すれば仲間の欄に加えることができる。


 前にも言ったと思うけどその人数上限数に達した場合はキャラを換えたければ解雇して枠を空けなければならない。解雇するにしても戦闘不能状態では解雇出来ないから一度復活させる必要がある。盾として使って死んだらそのまま解雇というわけにはいかないというわけだ。


 マックス関係のイベントは面倒臭いものが多い。何がってイベント内容じゃなくてマックスの性格が……。陽気なアメリカ人風なのに性格は生真面目で小うるさい。キャラとしては普通に主力級として使えるけどイベントは少々面倒だ。


 今回は思わぬ形で関わることになってしまったけど果たしてどうなるだろうか。せめてこの戦いくらいは切り抜けて……。


「来るぞ!俺とお前、それから八坂伊織、お前も前衛に立て!」


「わかった……。でもセンターはマックスに任せるぞ?」


 これまでの戦闘からわかっている通り負担が大きいセンターはマックスに任せる。俺は前衛左翼だ。前回左腕を痛めたからちょっと左側に誰もいないのは不安だけど丁度良い。そういう苦手意識も出来るだけ早いうちに乗り越えておいた方が良いだろう。


「わかった。ただし俺の指示には従ってもらう。いいか。まず……」


 インベーダーが動き出したのを見てマックスがパーティーに指示を出し始める。そう言えばいつも健吾とパーティーを組んでいる時はこういうことはなかったな。俺と健吾は適当に声をかけあって連携していたけど他のメンバーと協力していたかと言えば疑問だ。それをマックスは当たり前のように行なっている。


 もしかして今までもこうしてパーティー全員で協力していたらもっと楽だったんじゃないかという気もする。俺達は一体何をしていたんだろう……。生き残りをかけたサバイバルだったのに何で他のパーティーメンバーに協力を仰がなかった?


 俺が最初からモブ達は使えないと思っていたからじゃないか?でも本当に使えなかったのは俺の方だ……。ただ健吾に寄生してレベル上げをしていただけの……。


「おい!来るぞ!しっかりしろ!」


「あっ、あぁ……」


 危ない危ない。こんな所だっていうのに考え事に没頭していた。今はそんなことを考えている場合じゃない。まずはこの戦いを生き残るんだ。戦いを生き残らないと悩むことも出来ないし健吾に謝ることも出来ない。まずはこの戦闘を勝ち抜こう。


 俺の知る限りのイケ学と同じなら今回の戦いも王子達はまだ簡単なミッションのはずだ。普通にプレイヤーが操作していれば数ターンで終わるような戦闘だから今回もそんなに滅茶苦茶長い時間がかかるということはないだろう。


 いつも戦っている最中はとんでもなく長い時間を戦っているような気がするけど、実際に学園に戻ってみたらそれほどとんでもない時間が経過しているということはない。初期イベントの敵を倒すのにあんなに時間がかかるか?と思うほどには長いけど……。


 それはともかく健吾はたった三回ほどの戦闘ですでにレベル5を超えている。これはゲーム時のイケ学ではあり得ない。確かに低レベルの頃はまだレベルが上がりやすいとはいえ流石に三回で5も上がるというのはあり得ない話だ。


 つまりこれはこの世界ならゲームでは無理な育成も可能ということを示している。俺は健吾ほどは敵を倒していないからまだそんなにレベルは上がっていないだろうけど、ゲーム時に比べたらずっとレベルが上がっている……、はずだ。確認しようがないから具体的にはわからないけどゲーム時よりかなり多くの敵を倒している。


 マックス達はどうだ?ここまで生き残っているからといって強いとは限らない。マックスは確かにゲームでは使える強キャラだけどそれだってきちんと育成すればの話だ。初期値のまま育てていなければ結局使えないのはどのゲームでも変わらない。


「行くぞ!」


「はいっ!」


 マックスの掛け声に右翼を守る前衛が答える。俺も返事をしておいた方が良いだろう。また後で小言を言われたらたまらない。


「よし!」


 前衛の俺達三人で壁を作る。皆木刀だから後衛は攻撃出来ない……、のはゲームだけだな。現実となったこの世界なら後衛が木刀でもそれなりには戦える。前衛は怖いけど早くレベルを上げなければならない俺は一匹でも多く敵を倒したい。


「うおおっ!」


 マックスが飛び出して来たインベーダーをぶん殴るとベコリとインベーダーの頭が潰れて吹っ飛んで行った。


「「「「おおっ!」」」」


 右翼や後衛のモブたちから声が上がった。俺も驚いた。どうやらマックスは力だけで言えば健吾よりも上のようだ。健吾は日本人っぽい設定だから日本人にしては長身だし良い体格をしているけど、外人っぽい設定のマックスには敵わないらしい。


 このゲームの世界観はいまいちよくわからない。名前や顔立ちは地球で言えば様々な国の人だろう。だけど特にそういう区別や出身国という概念はない。色んな人種が当たり前のように共通の言葉を使って一緒に生活している。


「はぁっ!」


 ボサッとしている場合じゃない。俺も左から寄ってくる敵を中心に木刀で薙ぎ払っていく。レベルもそこそこは上がっているはずだしニコライとの特訓のお陰で体力や筋力はついている。これくらいの敵を相手に一方向を守るくらいなら出来るようになっている。


「やるじゃないか八坂伊織!」


「あぁ……、左翼だけに集中していれば良いだけなら多少はもつと思う」


 まぁ俺がそこそこ戦えているのはあくまでいつも健吾やマックスのような前衛のセンターが前線をしっかり支えてくれているからだ。これが逆に俺がセンターだったら左右は負担が大きくなりすぎてすぐに崩壊するだろう。


「そうか!ならそっちは任せるぞ!俺は右翼のフォローを中心に立ち回る!」


「わかった」


 チラリと見てみれば……、確かに右翼がやばい。必死に持ち堪えようとしているけど一杯一杯だな。ステータス的には前衛向きのモブっぽいけど特訓やレベル上げが足りないんだろう。まぁゲームだったなら普通のステータスの顔なしモブは数合わせくらいにしか使えないけど……。


 でもここはゲームじゃなくて彼らだって生きて?……いるはずだ。ゲームの時なら使い捨てのように使っていたモブキャラ達もこの世界では普通の一人の人間のはずなんだ。俺はそれを忘れていた。健吾に対してもそうだ。


 俺はあくまでゲームをプレイしているプレイヤーの視点でしか物事を考えていなかった。だからこれまでパーティーになった者達のことも『使えないモブ』としか見ていなかったし、効率プレイや意味のあることを最小限でクリアしようとしすぎていた。でもそうじゃないだろう?


 人間の生活ってのは無駄だって一杯ある。非効率なことも失敗もする。最短ルートで最高効率で進む人生なんてあり得ない。俺はここにいる者達を血の通った人間だとは看做していなかった。だから今までパーティーを無駄だと思っていたし頼りにもしなければ作戦も取ろうとはしなかった。


「――ッ!伊織!センターのフォローを頼む!俺は右翼のフォローをする!」


「任せろ!」


 何度も右翼が崩れそうになる。その度にマックスが右翼のフォローに入って俺がセンターに入る。マックスの負担はかなり大きく、俺だって短時間とはいえフォローに入らされるだけ負担は大きい。それでも……、もうそれなりの時間を戦っているというのにこのパーティーはまだ誰も脱落者が出ていなかった。


 後衛達も右翼のフォローを必死でしている。もちろん前衛が崩れたら後衛の自分達が危ないからだという打算ではあるだろう。だけどパーティーは運命共同体だ。右翼が崩れて後衛に敵が雪崩れ込み後衛が崩壊すれば俺とマックスだけが残っても物凄く危険な状況になる。俺と健吾はいつもそのパターンだった。


 それに比べてこのパーティーは理想的なくらいに安定して凌げている。確かに俺の経験値とレベルアップという意味では健吾と二人の時より効率は劣るかもしれない。無理に攻めたりもせずただ敵を倒して凌いでいるだけだ。経験値としてはそんなに飛びぬけて美味しくはない。


 自分一人が生き残りたいのなら可能な限り経験値を稼いでレベルを上げる方が良いだろう。だけどそれは本当に正解なのか?この世界で生き残り切り抜けたいならこうしてマックスのようにパーティーで一つとなって連携して生き残る方が良いんじゃないか?


 一回限りのランダムパーティーだから自分の経験値が最優先だと思っていた。レベル上げとステータス上げが重要だと思っていることは今も変わらない。でも……、ゲームをクリアするためには仲間が必要だ。イケ学だって最低でも十八人は仲間がいなければクリア出来ない。そういう仲間を育てようともせず俺一人だけレベルを上げてもやがて行き詰るんじゃないか?


「もうちょっとの辛抱だ!皆頑張れ!」


「「「「はい!」」」」


 マックスがセンターで踏ん張りながら鼓舞することでパーティーがいきている。本当にもうちょっとの辛抱なのかどうかは俺にはわからない。ただ他の四人はマックスを信じて踏ん張っている。これが……、パーティーのあり方か……。




  ~~~~~~~




 あれからどれほど経ったのか……。今日はやけに時間が長い気がする。今日のパーティーの皆、マックスも他のモブキャラ達も限界が近い。俺はまだ体力には余裕があるけど俺一人が生き残った所で一人になった瞬間に敵に囲まれて終わりだろう。


 このままじゃやばい。今敵が一斉に襲い掛かってきたらさすがのマックスでも堪え切れないだろう。そう思っていると……。


「敵が……引いていく?」


「やった!凌いだんだ!生き残ったぞ!」


 どうやら主人公や王子達がミッションをクリアしたらしい。いつも通りに戦闘終了となりインベーダー達が引き上げていく。今回はパーティー全員が生き残っている。いつもなら俺と健吾しか残っていないくらいなのに……。


「伊織、お前やるな!」


「いや……、マックスがセンターで踏ん張ってくれたからな」


 俺の背中をバシバシと叩くマックスは最初の頃より随分気安くなっていた。一緒に死線を潜り抜けたら友になるというやつだろうか。


 何にしても生き残れてよかった。俺は今回色々と思い知らされることがあった。俺が普段モブキャラだと思っている者達だって生きているしきちんと協力すればちゃんと戦力になる。今までそれが活かされていなかったのは俺や健吾が何の指示もせずリーダーシップを発揮しなかったからだ。


 今度は……、今度からはもっとパーティーで協力しよう。自分だけレベルを上げて生き残るんじゃなくて皆で協力してこのクソッタレな世界をクリアするんだ!



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[良い点] これは良い成長です。 槍のように、その値は調整された数です
[一言] 少し、成長したな
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