表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/130

第十一話「二回目の敵がきました」


 ゲームのイケ学のオープニングと同じイベントが始まって主人公アイリスが転入してきてから、そして俺がこの世界にやってきてから二週間少々が経過している。


「おら~!キビキビ動け~!」


「ひぃ~~っ!」


 今日は体力特訓の日だから相変わらずニコライにしごかれている最中だ。だけどこの二週間で俺も随分体力がついたと思う。最初の頃に『何で毎日来ないんだ!』って言われた時に瞑想と交互に来ているからだって言ったらそれ以来何も言われなくなった。ディオにも同じことを聞かれて体力特訓と交互だって言ったら同じように黙った。


 二人は特に嫌な顔をしたとかそういうことはない。むしろ俺が体力特訓と瞑想を交互にしていると言ったら二人とも好意的な顔をしていたと思う。本心はわからないけど表面的には……、な……。


 たった二週間のうちさらに半分しか体力特訓していないというのに今じゃかなり体力がついて初日にダウンしたメニューをしても割りと平気だ。そしてニコライの言っていたことの意味がわかった。あれは確かに準備運動だった。


 初期の頃の俺が体力限界になるまで動いて筋トレさせられたのはまだ本当に始まりですらなく、それを乗り越えた先にこそ本当の地獄が待っていた。今日も準備運動を終えた俺はニコライの地獄の特訓を受けている。


「おらおら~!チンタラするな!」


「うひぃっ!」


 ニコライの特訓はとにかく動くことばかりだ。今もひたすら反復横飛びをさせられている。ニコライの目的というかこの運動の狙いはわかっている。敵と戦う時に横にすぐに動けるようにということだろう。だけどものには限度というものがある。とにかくひたすらたくさんすれば良いというものじゃない。


「動きが止まってるぞ!速く!速く!」


「ひぇ~~!」


 今日も限界目一杯まで動き回った俺は体力特訓が終わった後暫く倒れたまま動けなかったのだった。




  ~~~~~~~




 今日の放課後は瞑想だ。実は最近俺は魔力が感じられるようになった!……気がする……。


「瞑想部屋をお借りしますね」


「はい。二番の部屋へどうぞ」


 ディオが営業スマイルでそう言ってくる。二番なんだから一番や三番は埋まってるのかと思いきや誰もいない。体力特訓と交互だから週の半分しか知らないけど俺が瞑想部屋を利用している間に他の誰かが来たこともなければ誰かと会ったこともない。恐らく誰も利用していないんだろう。


 じゃあ何故ディオは一番じゃなくて二番と言ったのか。それは簡単だ。ディオは毎回一つずつ違う部屋を順番に案内する。部屋は全部で五番まであり今日が七回目の瞑想利用だから二番の部屋というわけだ。まぁディオが順番に違う部屋を指示する理由はわからないけどな……。


 そんなことを考えていてもわからないのだから時間の無駄だろう。それよりも早く瞑想に取り掛かろうと誰もいない瞑想部屋エリアに入って行く。二番の部屋に入った俺は早速瞑想を開始した。


 まずは自分の内側に意識を向ける。自分の中に流れる生命力のような……、不思議な力の流れを……。そしてそれが次第に外に広がり世界に溶け込むように……。自分が世界に、世界が自分になったかのようなこの感覚は嫌いじゃない。これがきっと魔力を感じるってことじゃないだろうか。


 暫くそうして自分の内側、そして世界と自分が混ざるように、瞑想を繰り返す。


 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ


「…………もう時間か」


 瞑想をしていると驚くほど時間が経つのが早い。さっき瞑想を始めたばかりのような気がするのにもう時間だ。


 俺はいつもいつも瞑想していると時間に気付かず閉館時間過ぎまで残ってしまう。その度にディオに呼ばれるから途中から俺は時計をセットするようになった。今日も閉館五分前にアラームが鳴ったからディオに注意されることなく閉館前に出られる。


 それにしてもこの時計とアラームはまるで地球の目覚まし時計のようだ。ここは剣と魔法の世界のはずで科学技術は地球に比べて劣っているはずなのにこういう小物は地球の生活水準そのままっぽくてチグハグ感が拭えない。こういう所が設定ガバガバなゲームが現実になった場合の気持ち悪さの一つだろう。


「帰ります。ありがとうございました」


「はい、お疲れ様」


 片付けを終えた俺はディオに声をかけてから図書館を出る。いつもの営業スマイルのディオが言葉を返してくれたから適当に会釈して手を振ってから寮へと向かった。


 健吾と相部屋の寮に戻ると飯と風呂を済ませて本を読む。最近じゃ風呂も慣れたもので健吾に見られないように気をつけながらささっと入ってる。


 魔法基礎初級だけど今はようやくⅢに入った所だ。週に一冊くらいのペースということになる。最初は基本もわかっていないから読むのに時間がかかるだろうけど基礎知識が出来てきたら読むペースも上がるだろうと思っていた。だけど甘かった。


 はっきり言って魔法理論は難しい。ちょっとやそっと勉強したくらいで自在に使えるようになるなんてことはない。レベル15でようやく杖が装備出来るようになって魔法を覚えるというのも頷ける話だ。例えどれほど才能があっても今年学園に入ってきて一ヶ月もしないうちに『はい魔法が使えます』なんてなれるはずがない。


 魔法基礎初級はⅠ~Ⅴまである。その次は中級、上級となるけどそれぞれⅤまでだ。同じペースで読んでいけば全ての魔法基礎を読み終わるのに十五週間ということになる。だけど現実にはそんな単純な話じゃない。今もⅡ、Ⅲと進むほどに読むペースが落ちてきている。内容が難しくて復習したり理解したりするのにかなり時間がかかるからだ。


 恐らく今でも簡単な魔法なら覚えようと思えば覚えられると思う。基礎の全てを理解しなければ魔法が一切使えないというわけじゃない。足し算と引き算を覚えれば足し引きの計算問題は出来るわけで掛け算割り算を覚えるまで足し算も引き算も出来ないというわけじゃない。魔法も同じように今理解している基礎でどうにか出来る範囲までなら今でも魔法が覚えられるだろう。


 ただ魔法を覚えても結局杖を装備出来るまでは魔法が使えない。前回のチュートリアルの出撃で健吾と試したようにレベルに見合わない武器は装備出来ないのはゲームのままだ。あの後も試しに木の槍を装備しようとしてみたけど持てなかった。一回の戦闘で5も上がるわけないと思ってたけどやっぱりレベルはまだ5未満だ。


 どっちみち杖を装備出来るようにならなければ魔法は使えないのなら魔法を覚えるのはもう少しレベルが上がってきて杖装備が出来る目処が立つ頃くらいでいいだろう。今はまず魔法基礎を学習しておけば良い。


 それからレベル上げだ。ゲームでは主人公達は特定の条件を満たせばクリアだった。例えばその回の敵を全て撃破しろ、とか、特定ターン数を生き延びろ、とか、そういうものだ。だけど俺達モブは違う。


 前回のチュートリアルの戦闘からして俺達は主人公達が戦闘のクリア条件を満たすまでほぼ無限湧きの敵と戦い続けなければならない。いつ主人公達がクリアしてくれるかもわからないし敵の波が止まることもないから下手すれば延々戦い続ける羽目になる。正直キツイ戦いだ。


 だけどそれは何も悪いことだけじゃない。ゲーム中なら倒せる敵には限りがあった。無限湧きするわけじゃないから一度に得られる経験値にも限りがあるし無制限に戦い続けられるわけでもない。それにイケ学のシステム上あまり戦闘回数を増やすのはよろしくない。


 イケ学もオンラインゲームだから明確にゲーム期間は決まっていない。例えば厳密に何月何日、というような表記を出してしまったらゲーム中で学園を卒業するほどの年数が経ってしまったらどうするんだという問題が出て来る。だからゲーム内では日数の経過は曖昧だしどれだけ時間をかけても卒業するということはない。


 だけどじゃあ無限に戦い続けたり学園パートで特訓をしたり出来るかといえばそうじゃない。ゲームと現実となったこの世界じゃ色々と変わっているだろうから、今は関係なさそうなことやはっきりしないことは置いておくけど戦闘回数が増えると敵の強さが上がってくる。


 この世界でそのシステムが適用されるのかは知らないけど無制限に育成出来るものじゃなくて一定期間学園パートを過ごすと強制的に敵が侵攻してくる。そして戦わなければならないわけだけど戦闘回数が増えると敵の強さが上がるシステムになっている。


 つまりダラダラと先に進めずに学園パートばかり繰り返しキャラのイベントや育成ばかりしていると、強制的に敵と戦うことになり、戦った回数が増えると敵が強くなってくる。やがてこちらの成長を上回るほどに敵が強くなって詰んでしまうというわけだ。


 もちろん敵が強すぎてゲームが進行出来なくなればプレイヤーがやめてしまう。だから一応救済策はあるけど課金要素だ。この世界では今の所課金要素は見つかっていない。どこかで利用する方法はあるのかもしれないし、まったく課金要素は利用出来ないのかもしれない。


 ただしこちらは現実になっている分ゲームの時には出来なかったことも出来るし、ゲームにはなかった要素もある。俺達モブは主人公達がクリアするまで敵を食い止めるために無限湧きと戦わなければならないけど逆に言えば無限に経験値を稼げることも意味する。


 課金要素が使えない上にやり直しも利かない一発勝負だというのならこれを利用しない手はない。そろそろ来るはずの次の戦闘では出来る限り経験値を稼ぐんだ。可能な限り早く少しでも多くレベルを上げなければ……。




  ~~~~~~~




 次の日の授業中、その時がやってきた。


『インベーダーが現れました。全校生徒は戦闘準備に入ってください』


 きた……。きてしまった。ついに二回目の戦闘だ。まだ当分は主人公達は初心者プレイヤーが何も考えずに適当に操作しても絶対勝てる程度の敵が相手でしかない。これから段々厳しくなってくるけどそれまでに出来るだけ経験値を稼いでレベルを上げておかなければならない。


「おい伊織、行こうぜ」


「ああっ!」


 健吾について教室を出る。更衣室でプロテクターをつけて今日も木刀を握った。武器特訓は全然してないけど木刀を振り回すだけなら何とかなるだろう。基礎体力もないのに武器の振り方だけ身につけても意味がない。まずは戦闘が終わるまで動けるだけの体力が必要だ。


「今度も一緒になれるといいな」


「……え?」


 健吾の言葉に嫌な予感を覚える。そうだよ……。前回はたまたま健吾と同じパーティーだったけど毎回選べるわけじゃない。はっきり言って健吾は強い。というか低レベルの間は前衛職がいないと勝負にならない。しかもこんな無限湧きみたいな戦いじゃ余計にそうだ。しっかりと前衛を支えてくれる者がいなきゃ話にならないだろう。


 俺は健吾とパーティーが組めると思って予定をたててきた。だけど必ずしもそうじゃなければ?前回だって兵士が勝手に決めていたような感じだった。後衛ばっかりのパーティーとかになったらその瞬間死が確定してしまう。何としても健吾と同じパーティーにならなければ……。


 1、2、3、4、……、なるほど……。あの兵士達は組み合わせとか関係なく並んだ順に六人になるようにパーティーを区切っているだけだ。そんなことだからあんなに犠牲が出たんだろうに何も学んでいない。


 いや……、こいつらからすれば俺達は王子達が敵を倒すまで時間を稼げば良いだけの捨て駒だったな……。


 とにかくこのままじゃまずい。丁度健吾で六人になってしまう。その後ろに並ぶ俺は別のパーティーだ。このままじゃ死んでしまう。


「なぁ?順番変わってくれないか?」


「え?」


「頼むよ。俺とこいつは君の後ろに行くから」


「おい伊織……」


 俺の後ろに並んでいた人と順番を変わってもらう。これで良い。これで健吾から六人で一パーティーになる。


「次!お前からは向こうだ」


「へ~い」


 よし!健吾から次のパーティーになって別の出入り口の前に誘導された。やっぱり何も考えずに六人一組にしているだけだ。これならパーティー編成はどうにか乗り切れる。


「また同じパーティーだな」


「ああ。健吾がいてくれるなら心強いよ」


「お?こいつ。ついにデレたか?」


「はぁ?何だよそれ」


 本当に何だよそれ。デレたって何だ?まぁ健吾なりのジョークだろうな。俺達は少し笑いあいながらその時を待つ。そしてついに……。


「いけ!」


 兵士に言われて扉を潜る。また前と同じバトルフィールドだ。目の前にはわんさかと通常敵がいる。王子達が相手にしている初期用の雑魚とは違う。醜悪な化け物達が俺達をターゲットと認識して押し寄せてくる。


「お~し!伊織は後ろでいいぞ」


「いや……、俺も出来るだけ戦うよ。健吾ほど戦えないけどな」


「まぁ無理すんなよ。伊織はちっこいんだからな!」


「なんだとぅ!」


「「はははっ!」」


 他のパーティーメンバー達は緊張で固まっているのに俺達だけそうやって笑いあう。あぁ、いいな……。頼りになる前衛がいるってのはこれほど安心感があるものなんだな……。


「いよっし!やるか!」


 わけもわからず連れて来られた前回とは違う。今回は、今の俺はもうきちんと目的もプランも、そして覚悟も持っている。今度はあんな無様は晒さない!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[良い点] ニューウェーブ、より強いヒロイン! 今回はどう変わるのか楽しみです。
[気になる点] 第六話「育成方針を考えました」」で <健吾がいる間は良い。健吾は良い前衛だ。だけど前回の感じからして必ずしも同じパーティーになれるとは限らない。健吾がいなくて前衛職不在のパーティーに編…
2019/12/29 21:44 退会済み
管理
[一言] こう考えると接待プレイに金をつぎ込んでたようなもんなのか(゜ω゜)?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ