五話 序章その五:学校生活は修羅の道…………、べ、別に俺は平気だし
前回までの『おれ天』!!
モヤシ野郎ッ!
『なまじ顔が良いからって調子のんじゃあねぇぞ』
『もうカナフお姉様には近づかないで!』
『おめーの席ねぇから!』
『YOU MUST DIE』
これ、何だと思う?
全部俺に向けられたやつ。
『憎まれっ子世に憚る』ってことはよく言ったもんで、半年前まで世界に幅を利かせた(というより世界を好き勝手にしてきた)神様にはみんなきつく当たることに決めたらしい。
まぁ、余談はそこらへんにしておいて。
カナフの爆弾発言の翌日から俺に浴びせられた罵詈雑言誹謗中傷の雨あられ、正直気が滅入ってくる。
そもそも、なんで俺が学校に通う羽目になったかって話だ。
カナフを丸め込むため、俺のことを天界へチクらず、カナフが暴れることで他の天使たちにも俺が日本にいることを察せらせないためだ。
間接的には俺のためになるんだけれど、『学校に通う』というのは苦渋の決断であって、断じて俺の利益にはならない。
俺は一日中家に引きこもってゲームなりアニメなりを見続けて過ごしたいんだ。
『まぁでも、思惑通りにはなったんじゃあない?』
放課後、言葉のナイフでずたずたになった俺にナットが言った。
「『思惑通り』って言ったって、代償が重すぎんだろ。これじゃあトラックに轢かれて異世界転生コースだ」
『そうなっても良いんじゃあないの? ハーレムなんて男子の夢でしょうに』
「俺はハーレムよりもニート生活の方が良いね。すること為すことに責任がないし、何も考えなくても明日が来るってことが魅力だね」
『じゃあ、今のままで良いの?』
「もちろん。しょせん人の悪意なんてもんは右から左に受け流せるようにできてるのさ。俺の価値は俺が一番分かってる。他人からどう見えているかなんて考えだしたら、それこそ気が滅入っちまうよ。何事も起きず、カナフの様子を見れてればそれで良い」
俺は大きく伸びをしながら言う。
自分に言い聞かせるように。
『テト。さっきと言ってること違うよ』
ナットは笑いながら返す。
「違わないさ、何もな。さっきの愚痴はスパイスったやつよ。知ってたか? 愚痴りながら飲むコーラは美味いんだぜ」
近くの自販機に小銭を突っ込んで、出てきたコーラをさっそく飲み干す。
深く吐いたゲップで涙目を浮かべた俺は、ぐしゃりと缶を握りつぶしてゴミ箱に投げ込んだ。
外れた缶は変な軌道を描きながら明後日の方向へ。
『テトがそう言うなら、ボクは止めないよ』
そんな俺を見て、彼女はため息をつきながらそう言った。
*
スクールカーストの荒波を感じた放課後の翌日。
正午の教室にて。
「どうした、テト。昨日から上の空だぞ」
小ぶりな弁当箱を抱えたカナフが俺の視界に割って入ってきた。
「人ごみに疲れただけだよ」
「まだ一週間も経ってないぞ、だらしない」
「それで、カナフさんは大所帯を連れてどこかへお散歩ですか?」
カナフの後ろには20人ほどの男女生徒がいる。
揃いの揃ってお行儀よく俺に敵意を向けてな。
ひとつ気になったのは全員カナフからある程度距離を置いていることだったが、
「? 私が集めたわけじゃあない。勝手に集合して尾行していただけだ。全く、ここの生徒は尾行が何たるか何も理解していない」
「たぶん尾行じゃあなくて、一緒にランチしたいんじゃあねぇの? なんかソワソワしてっし」
「なんだ、そうだったのか。それなら早く言って欲しかった。 みんなッ、悪いが他をあたってくれ! 私はテトと食事をとりたいのだッ!」
おい、言い方!
そんな大声で言ったら怒りの矛先が俺に行くって考えないのか、この天使さんは?
ほら、みんあコソコソして俺のこと睨んでんじゃん。
どうせ、『カナフさんはあのDV男の何が良いの? イケメンってだけでカナフさんを言いくるめてあれよこれよするクズ野郎じゃない』って言ってるに決まってる。
「カナフさんッ! こんなモヤシ野郎をランチに誘う理由がどこにあるってゆうんです!? 俺たちと一緒にキャッキャウフフな、もとい優雅なランチを楽しみましょうッ! ほ、ほら英国から取り寄せたお紅茶もありますよ!」
あ、お前、初日に俺をモヤシ野郎って突っぱねた奴じゃあねぇか。
しかも、誘い方下手か。最後はお前の願望だろうに。
「ここは騒がしい。テト、外で食べよう」
「カナフさん、俺の都合って考えたことある?」
「特段考えたことはないが、このままではお前がリンチにされることくらいは分かる」
ぬぅ、イケメンなことおっしゃる。
そう言って、カナフは何時ぞやの夜のように俺の腕をつかんで走り出した。
情熱的な取り巻きたちは流石に追いかけるような野暮はしなかったが、カナフを求める声や俺への罵倒が捨てゼリフのように俺に届いていた。
結構な速度で走るもんだから周りの生徒たちが道を開けている中、一人だけが俺たちを遮った。
「止まレッ! 二人とモ!」
響いたのは、張りのあるハスキーボイス。
通せんぼした人物は、溌剌さと賢さが共存した女生徒(制服からして俺らと同じ2年生)だった。
「二人水入らずの逃避行は結構だが、『廊下は走らない』って小学校で言われなかったカ?」
この人、鼻声だ。
鼻風邪にかかってティッシュにすられ過ぎて鼻を真っ赤にさせながら言うような声だ。
「それは済まなかった。なにぶん目障りな連中につきまとわれていたもんでな」
「いや、分かれば良いヨ。落ち着いた場所なら、あたしが案内しよウ。学校は庭みたいなもんだからナ」
「そうか、ありがたい」
そう言ってカナフは女生徒について行こうとする。
当然彼女は小学校に通ってなんかいないので、『廊下は走らない』のは知らないし、『知らない人について行ってはいけない』ことも知らない。
てか、それを知らなくても名前も知らない人について行くのはどうかと思うんだけど。
「あ、あの! 俺たち、君のこと知らないんだけど…………」
「あぁ、先週転校してきたのだから、知らないのも仕方ないナ」
女生徒が振り返ると、周りの生徒たちは静かになっていた。
何かを待っている、そんな風に見えた。
「あたしは小鳥遊ヴァリ、この学校で生徒会長をしていル」
上品にスカートをつまみ上げて女生徒は、ヴァリは見栄を切った。
静かにしていた周りの生徒は待ってましたの拍手の嵐。
鼻声で。
人望のある。
生徒会長。
キャラ付けとしては充分なんじゃあないか?
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