三話 序章その三:親方ッ! 空から残念な天使がッ!
前回までの『おれ天』!!
ヒロインは二人。
カナフ・バックドラフト。
神テトが世界を創造して7日目の休日の後に自分の力を分け与えられた8日目の創造物。
またの名を、『最初で最古の天使』。
司る力は『火』。
その所為か非常に情熱的で、テトのことが好きで好きでたまらないがこの数千年間なにも伝えられないまま主であるテトが引退を決意。
そして半年間の捜索の末、ついにテトの居場所を見つけることができた。
果たして彼女の運命は如何に……
「おい。なんだよそのナレーション」
『いやぁ、なんか盛り上がると思って……』
「バトルの燃り上がりはどっかのナードが消火器ぶっ放しておじゃんになっただろ」
『しょうがないじゃん、あのままだったらボクの残業がどれだけ増えてたことか。あと、クソヲタク(ナード)言うなし』
ナットに意識を飛ばされたカナフを部屋に運び込んで、暴れないよう縛って放置してみたは良いが、妙に背徳感が俺の胸をすいて仕方がない。
燃えるような赤髪に、高過ぎない身長。
よく鍛えられた、が太くなく健康的に締まった細さを保った手足。
そしてへこむべきところに食い込んだ縄は出るべきところをこれでもかと強調している。
なんと言うか、その、…………エロい。
今まで下心なく彼女と接してきたかと言われれば嘘になるのだけれど、
今のこの状態のカナフを見ていると、下の方が熱くなっている。
胸よりも下の。
へそよりも下の。
いわば、英語で『息子』っていうとこがさ…………。
もうめんどくさくなってきたな。ムラっと来んだよ。俺の『息子』がな。
だって考えてもみろよ。
俺のことを好きだって分かってる強気の美女が、俺の部屋にいるんだぜ?
しかも気を失って、縛られてるんだ。
多くの信心深い奴でもムラっときちまうし、あのイエス・キリストだってそうなるはず………、いや、あいつは違うかな。なんか変な奴だったし、こういうの興味なさそ。
まぁ、イエスがムラっと来なくても、俺の『息子』がムラっと来るのは仕方のないことだ。
JOJOに言わしてみれば、「コーラを飲んだ後にゲップが出ることくらい当たり前」のように『仕方のない』ことだ。
「はっ! …………何事だああああ、これはッ!」
俺に残った欠片ほどの理性のおかげで、カナフは無傷で目覚めることができた。
寝起き早々うるさい奴だ、と思ったのは内緒だぞ。
「よっ、やっと目が覚めたのか」
「てててててててテトッ! この状況を説明しろ! 私を気絶させた挙句、自分の家に連れ込むだなんて、しかも縛って自由を奪うだと!? くっ……」
お? なんだなんだ。オークに捕まったエルフ宜しく「くっ殺せ」っていうのか?
リアルで『くっ殺』を見れるなんて俺はツイてるなぁ。
「……ヤるんなら、一思いにやれば良いッ!」
おん?
「わ、私に半年間も会えなかったんだ。お前も恋しくなってきたんだろう? いつもは邪魔に思ってた存在をいざ失っているとその大切さを理解できる、的なやつになったのだろう? 口下手なお前のことだ。不器用にこんな手段しかできないのを私は分かってる。さぁ、好きにするが良いさ」
なんか、変な自供が始まったぞ。
可哀想な女性だと思ってはいたが、最早そこまでとはなぁ。
『お、俺の友達のことなんだけどさ』って自分の悩みを告白する映画の主人公みたいだ。
「か、カナフさん? なんか勘違いしてない?」
「なんだ、まだ決心がついてないのか。良し分かった、少しなら待ってやっても良い」
「『勘違い』って意味わかって言ってるなら、君は奔放な人だな。縛られてるのに」
カナフはきょとんとした顔を浮かべる。
忘れてた。彼女にはジョークも分からなかれば、この状況を察せるような洞察力も皆無なんだった。
「そうか、お前にその気がないのなら遊んでいる暇はない。さぁテト、天界へ帰るぞ。私にご褒美が……ゔぅぅぅん、大量の仕事がお前を待っている」
カナフをそう言うと、自分を縛り付けていた縄を燃え落として俺の腕を強く握りしめた。
『やい待てッ、暴走炎上脳筋女! テトはボクと毎日ゲームをするっていう大事な日課があるんだ。天界へ連れて帰ろうなんて、ボクの目が黒いうちに許すと思ったら大間違いだぞッ!』
誘拐ともとれるカナフの行動にナットの叫びが通る。
足を発火させ、ジェット噴射のように飛び上がろうとしたカナフの真上には先ほど彼女の意識を刈り取った100トンの仮想の重り。
それが再び、重力の自由落下に任せて落ちようとしていた。
「二度も同じ手を食らうとでも思ったかッ!」
カナフは器用に足のジェットを駆使して空中で一回転。
重りの回避に成功した。
それの遠心力に振り回された俺はと言えば、まぁ無事とはお世辞にも言えない。
元神なもんだから、俺には神がかり的な身体能力なりチート能力なり持っているわけだが、それを使うわけにはいかない。
そんな目立つもん使ったら天界に探知されてカナフ以外の天使たちも来るに決まってる。それこそ避けるべき事案だ。
だが、こうもあっさりと連れていかれるわけにもいかない。
抵抗してみるのも手だと考えていた瞬間―――――、
「ははははははッ‼ 僻地の天使が最古の私に勝てるわけがないだろう! テトは連れて帰るぞ、さらばドゥェッファッッッ‼」
カナフはカエルのような呻き声をあげる。
彼女の頭には何も落ちてはいない。
彼女より上には広大に広がる空だけ、ゲーム上の破壊不能オブジェクトを示す文字が浮かんでいて、それが彼女の上昇を妨げてた。
そう、カナフは空に激突したのだ。
激突して、再び意識を刈り取られたのだ。
「『Immortal Object』かッ! 『たいしたものですね』ぇッ!」
『おっしゃ! 『オイオイオイ、死ぬわあいつ』って言ってやるぜ!』
日本を管理するナットにとって、この国は彼女の庭。その庭を屋内ように天井を設けることだって、彼女には朝飯前だ。
室内でル〇ラの呪文なんか使えば、天井に激突するのは当然だろう。
だが、そんな機転を利かせたナットだが、彼女にも抜けているところがある。
「能力使えない、って最初に言ってたよね」
地面まで20メートル弱、俺は自由落下する。
君と出会った奇跡がこの胸に溢れても、
空なんて飛べないと思います。
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