一話 序章その一:俺のことは嫌いになっても、新任の神様は嫌いにならないでください!
「私」はこの物語の主人公ではありません!
神様であるテトが主人公なのです。そこんところお間違えなく。
私は、機会に恵まれない作家でした。
「自分には才能があるのだから」と定職につかずにひたすら実家に引き篭もって書き続け、結局新人賞にはかすりもせず、充電期間だと自堕落な生活をしてゆく内に、いつの間にか四十も過ぎたただの子供部屋おじさんとなっていました。
まともに社会に出たことのない私は、当然就職活動がうまくいくはずがなく。得意だった執筆も、その劣等感からか思うように進みません。そんな中、ある日私に出会いがありました。
それは、両親の遺産を完璧に食いつぶしこれからの生活に悩みながら雨降る街を歩いていた時のことです。
人が、落ちてきたのです。
私もおかしなことだとは思いました。街を歩いていると、近くの五十階建てのマンションから人が自ら命を絶たんと落ちてきたのです。予測のしようも、果ては自分に激突するとは思わないでしょう。
当然、死にました。
50キロの物体が、上空200メートルの高さから自由落下してくるのです。助かるはずもありません。
最期に見る景色が、自分の脳漿とは。
そうして、私の意識は途絶えました。
ですが、私は再び目を覚ましました。
当たりの景色は何もなく、ただ真っ白く光る空間だけ。目の前には威圧感のある青年が居りました。その時、私は思ったのです。
もしかして、転生できるんじゃあないか。
と。
*
もしかして、いや、もしかしなくとも、貴方は神様ですかッ?
「そうだな」
そうですか、やはりそうなのですか。そうだ、聞きたいことが山ほどあるんです。死後の世界は本当にあるのかとか……、あっ、死んでも意識があるってことはそういうことですね。
「待て待て待て待て、君さっき死んだのにテンション高すぎじゃあないか?」
と、言いますと?
「いや、だって、普通は死んだことに戸惑うもんだよ。もしかして、未練とかない系の人? 君。前のページからすっかりと人格変わってるけど」
急にメタくなりましたね。
生憎、恵まれなかった人生だったもので。あっ、でも環境的に恵まれなかったわけじゃあありませんよ。家は比較的裕福でした。ですが、作家という夢を捨てきれずにここまで来てしまったのですから、『恵まれなかった』というのは贅沢なものでしょう……。
「あっそ……、いや待てッ! 君作家なのか!?」
そうですが……、って、そんながっつかないでくださいッ。
「そうかそうかそうか、君は作家だったのか。ちょうど君みたいな人材を探してたんだ」
も、もしかして転生ですかッ!? それでしたらバッチ来いですッ!
「アホか、君は。『不慮の事故で亡くなった人間にチート能力を授けて別世界に転生させる』のが神の仕事ってならそんな簡単なこたぁねぇさ。なんだよ、あからさまに残念がるんじゃあねぇよ」
じゃあ、どんな仕事なんですか?
「そりゃあ、『世界を創造する』ことに決まってんだろ」
は、はぁ。
「物ってのは、なにも造っただけじゃあ終わりとは言わねぇ。造り上げたもんをどうやって使ってゆくか、どのようにして運営してゆくかが重要なんだ。だから、神である俺が骨子を造って、部下の天使たちがそれに肉を付けてゆく。そうやって、君のいた世界は回ってたってわけだ」
意外と地味ですね。
「そうだよ、そうだよ。やってることはクリエイターと一緒だ。後から天使になった死者も元はクリエイターの人間だからな」
じゃあ、私を呼んだのは転生させて異世界でハーレムさせるんじゃあなく、貴方の手下になれ、というわけですか?
「当たらずとも遠からず、ってとこだ。君には、俺のポストについてもらおうと思ってる。世界を創造するというやりがいのある仕事だ。職場も和気あいあいとしたアットホームなところだぞ。何も心配はいらない」
まるっきり地雷な求人広告なんですが、それはッ!?
「はいはい、文句を言うのが遅いぞ。君に拒否権はない。そもそも天使の下積みなしで神様になれるんなんて異例なんだぞ。どちらかと言ったら感謝してほしいくらいだ。じゃあな、俺はもう行く」
行くって、何処へ?
「下界のどこかに決まってんだろ。どこか住みやすい場所に暮らすのさ。もちろん、神さまなんて激務は引退してな」
あっ! 今激務って言いましたよねッ! 労基に訴えてやるッ‼
「はっは~、君面白いジョーク言うね。大丈夫、『俺の名前、元の神のテトから引き継いだ』って言えば、大抵の天使は言うこと聞いてくれるから。だが、俺を探そうとはすんなよ」
絶対、見つけ出しますからッ! 働きたいとは思ってたけど、ブラックの環境はお断りですッ! 待ってください、まだ話は終わってませんよッ!
「『俺は神様を引退しました。天使の皆さんと新任の神様はどうか探さないでください』 なんてなッ! アディオス~」
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