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十話 一章その三:五月病とは言わせないゾッ!後編

前回までの『おれ天』!!

スーパーマン。

 あたしの名前は小鳥遊ヴァリ。

 日本のとある高校で生徒会長をしている。

 が、それは仮の姿。

 数年前に死んで成仏する前に才能を見込まれ天界で下っ端仕事をしていたが、今は神の勅命で動くエリート(になる予定)の天使(見習い)にジョブチェンジしたのだ!

 私の仕事は『元神・テトを監視する』こと。

 というより、現神様が降臨されるまでテトをこの場所に留めさせる……こと?

 そう言えば、「報いを受けさせる」って神様言ってただけだし、なんかあたしの仕事について詳しく言ってなくない?

 上手くGWの言い訳を使って避暑地に連れてきたは良いが、やっちゃダメなこととやって良いことが分かんなきゃなぁ。

 でもでも、あたしはもうエリート(になる予定)の天使(見習い)。

 いつまでも指示待ち人間、もとい指示待ち天使のままじゃあいられない。

 この小鳥遊ヴァリ、全力で仕事に取り組ませていただきます!

 全ては母なる〇ァースのために!

 いや、美味なる叙々苑のお肉のために!



「ヴァリちゃん。私たちは何をすれば良いの?」


「せっかく観光地来たのに、宿に引き篭もって何をするのさ。ヴァリちゃん」


「うるさいナッ! 何でも良いじゃあないカ! そこはリーダーに任せるもんだゾ、ナリ、ブーリ!」


 中肉中背のオカッパ頭な瓜二つの部下が愚痴を漏らしている。

 泣きホクロがある方がナリ。

 胸がデカいのがブーリ。

 あたしが言えたもんじゃあないが、二人ともお頭の方はあまり良くない。


「今日ここに招集をかけたのは、これからの作戦を立案するためダ!」


 貸切ったペンションの会議室におあつらえ向きな一室で、あたしが叫ぶ。

 目立つ位置に配置されたホワイトボードには『元神様に何をするかの作戦会議』の文字。

 一度やってみたかったんだ、これ。

 けど、何やって良いか分からないな。

 とりあえず話題振っているか。


「おい、二人とモ。何か言ってみロ」


「「えー。話すって何を、どうやって」」


「そこは、ほラ。あれダ。頭良くなんか話すんだヨ」


 二人は目を合わせた後、


「それじゃあ、ヴァリちゃん議長に従って、会話をディスカッションしていきまーす」


「論理的思考でロジカルシンキングしてゆきましょう。ヴァリちゃん議長」


「ヴァリちゃん議長、まずはこれからのことについて計画的なアジェンダを共有しておきましょう」


「ところで、神様にどの程度報告をエスカレしなきゃいけいないナレッジとか理解してますか、ヴァリちゃん議長?」


 ほえ?

 なにやら頭の良い会話を始めたぞ。


「待て待て待テ! 頭良くって言ったよな、あたシ! なにも意識高い系の会話をしろって言ってないゾ!」


「ヴァリちゃん、自分が無茶ぶりしてきたのに理不尽―」


「自分を棚に上げんな。ヴァリちゃん」


 二人の罵倒がつらい。

 なんだよ、あたしの方が偉いんだぞ。もうちょっと敬えよ。

 なんか泣きそうだ……。


「グッ…………。それじゃあ、何をすればよいんだヨ」


「ヴァリちゃん。もしかして分かんないの?」


「エリート天使とか自称してもポンコツだったりしちゃうの、ヴァリちゃん?」


「うぅ…………、あたしが悪かったヨォ。意地悪しないで教えてくれヨォ」


 あたしは涙目になったのを見てまた二人は見合わせた。


「「ふざけた答え? それとも真面目な答え?」」


「…………真面目な奴デ」


 二人はニヤリと笑った。


「「枕投げするんだよ」」


 枕投げ?

 修学旅行でわいきゃいしながらやるあれ?


「なんでそうなるんだヨ」


「ヴァリちゃんは分かってないなぁ」


「全くもって分かってないよ、ヴァリちゃん」



 ナリ曰く、枕投げとは戦争。

 ブーリ曰く、枕投げとは最高のストレス発散方法。


「ヴァリちゃん。ここでテトをボコして気持ちよくなろうよ」


「ストレス発散すれば、これから何をすれば良いか分かるものさ。ヴァリちゃん」


 なんか、不思議と元気が湧いてきたぞ。


「そうカッ! ありがとな、二人とモ! あたしについてこイ!」


 めでたく騙されたあたし。

 気づくのにそんなに時間はかからなかった。




 ―――時間は遡り、テトの視点―――


 俺は、バスの中にいる。

 合宿の宿に選んだペンション地帯とショッピングモールを直接結ぶバスの中は、銃声と突然の火事から一先ず逃げられた、といった安心感と疲れが充満していた。

 誰かが通報して呼び寄せたパトカーや消防車とすれ違って頭をもたれかけた窓が揺れるたびに、野次馬に跳ねていった銃弾を思い出す。


「クソったれ」


 勝手に思い起こして、手前勝手な自分に苛立ってくる。

 自分の都合のために赤の他人をないがしろにしようとした自分に、まだ苛立ちを覚えている。

 でも。

 なんで今更?

 今までそんなこと考えもしなかった。

 言うなれば、夏の夕立のようなものだった。


『絶対、見つけ出しますからッ‼』


 急に、神の仕事を押し付けたあの男のことを思い出した。

 俺はあの時引退したいばっかりに、自己評価が低く、かつある程度仕事を全うできる彼に無理やり神の使命を擦り付けた。

 それを思い出して俺にわいてきたのは、罪悪感だった。

 湧いてきたのが怒りや苛立ちならば「じゃあそろそろ天界に帰ってやるか」と思い立つのだろうが、不思議とそんな気分にはならなかった。

 隣にいるカナフや、いつも俺とやるゲームを楽しみにしているナットがいるからなのだろうか?


「なぁ、カナフさん」


「? どうした?」


 彼女を見ていると、知らずに声が出てしまった。


「いや…………、何でもない」


 そういう俺を、彼女は心配そうに真っすぐ見つめている。

 髪と同じ色をした燃えるような紅色の瞳には、険しい表情の俺。

 確かに、こんなやさぐれた顔じゃあ心配にもなるか。

 カナフは少しおいてため息をつき、


「テト。お前は良い奴だ」


 深く息を吐くように、そう言った。


「確かにお前はすぐに人を騙すし、仕事からは逃げようと必死だし、手あたり次第の女を落とそうとするクソ野郎だ」


 いきなり悪たれ口を吐いた彼女だが、その先にいある言葉を察した俺は黙っている。


「だが、一抹の責任感があった。嘘をついても、仕事を放ったらかしても、女にうつつを抜かしても。最後には必ず自分の使命を果たしていた」


 カナフの瞳には涙があった。


「だから、お前が天界から去った時はとても驚いた」


 涙が、カナフの頬を伝うことはなかった。

 まるで彼女が必死に涙を押さえつけているようにさえ見えた。


「そして、半年経って再会したお前は別人のようになっていた。今お前にあるのは混乱だろう。自分のものじゃあないような感覚に酷く戸惑っているのだろう。だが、それが本来のお前だ。お前が持っていた、数千年の積み重ねだ」


 混乱?

 言い当てられてドキリとしたが、深くそのことについて考えようとすると、大きな壁にあたった感じがしてうまく考えがまとまらない。

 そんな俺の様子を察したように、カナフは続ける。


「たぶん、私にはどうにもできない問題だろう。だから待つ。必要なら助けもしよう。今すぐじゃなくても良い。じっくりやれば良いさ。なにせ、お前は神で私は世界最古の天使なんだからな」


 カナフが言い終えると、ちょうど良くバスが終点に到着した。


「さぁ、宿で気分転換でもしよう。今日は疲れたからな、リフレッシュしないと」


 カナフは笑う。

 その瞳に、もう涙はなかった。

 溢れそうになった彼女の感情を、バスが引き留めてくれたように感じた。



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