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あれから5年経ち、私は15歳になった。
5年前、あの男は神条冬也と名乗った。そして、私に名前はあるのかと聞いてきた。私は何も答えずにいた。私なんかに名前があるわけがないというのに。しいてあるとすれば、番号くらいだ。冬也は何も答えない私に、名前がないことを悟ったのか、
『うーん・・・なら、君のことは美恵って呼ぶね』
と言った。まさか、名付けられるとは思わなかった。だが、番号で呼ばれるよりは、なんとなく名前の方がいいと思った。
それから4年間は冬也の実家で生活した。冬也と、冬也の両親、和人と明美は優しい人達だ。私に生き方を教えてくれた。私に愛を教えてくれた。私は三人が大好きだ。
今は、1年前から冬也と二人暮らしをしている。最初、和人と明美には、私が冬也と二人暮らしをすることを反対された。私と離れて暮らすのが寂しいそうだ。和人と明美は一緒で、冬也だけ一人は可哀想だと言うと、しぶしぶ引き下がってくれた。
夕飯の支度を終えて、リビングで冬也の帰りを待つ。
「美恵~。ただいま~」
しばらくして、冬也が帰って来た。私は、急いで玄関に向かい、冬也に抱きついた。
「お帰り、冬也」
すると冬也はギュウ~と抱きしめてきた。
「冬也、く、苦しい」
「っ!ごめん、大丈夫?」
そう言うと、すぐに力を緩めてくれた。
「ん、大丈夫。冬也、今日何かあった?」
「ははは、美恵にはかなわないな」
少し様子がおかしいと思ったら、どうやら当たったようだ。
「実は、今日はやけにしつこく仕事の邪魔をしてくる奴がいてね、ちょっと疲れたんだ」
「冬也優しいから。嫌な時は、ちゃんと言っていいんだよ」
「うん、そうだね」
冬也は少し考え、微笑んだ。
「そうだ。ご飯出来てる。食べよう」
そう言って、冬也をリビングへ引っ張っていく。
「さすが美恵。今日も美味しそうだ」
冬也は、私の料理をいつも美味しそうに食べてくれる。頑張って、練習をしたかいがあった。
「そう言えば、来週だよね、入学式」
「うん。来週の月曜日。午前中から」
そう、私は来週から、私立カレリア学園高等部に通うことになっている。
私立カレリア学園は、幼等部からまでエスカレーター形式で進む。国内でも有名なお金持ちのお坊ちゃん、お嬢様が通う学校だ。私は既に大学卒業資格を持っているので、学校に行く気はなかった。しかし数ヶ月前、明美にその事を話すと、学校に行くように説得された。私は、明美がそこまで言うならばと、学校に行くことにした。学校は、冬也の通ったカレリア学園を勧められた。