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銃と少女と魔法の島  作者: 芳賀勢斗
4/12

【2日目】仲間…?

森からの銃声が聞こえた。つまり戦闘が始まっている。

誰が誰と?

状況的に見ると昨日の化け物と…


「…桜さん、迎え撃つ準備を始めよう」


「え、でも…あの…助けには行かないんですか…?」


「…。」


「新城さん言ってましたよね…? まだ仲間の方の行方が分からないって…」


「あぁ…」


「なら!」


「…不可能だ」


「っ…」


「…すまない」


つい声を荒げてしまった…。桜も少し怖がってしまったじゃ無いか…。


「これから一気に辺りが暗くなる。そんな中森へ入るなんて自殺行為だ…無謀すぎるんだ…」


またか…またなのか…


「それに俺は君の命を託された…。わざわざ危険を晒すなんて真似はできない…」


また仲間を…今度は助けられるかもしれない命を…


「ここに居れば少なくとも森の中よりは安全なんだ…」



【前動続行】

いかなる犠牲があろうとも、任務遂行のため命令どおりに指示を続行すること。不屈の精神を現す。


理由付けして見捨てるのか…空挺団を…桜を理由に見捨てるのか


話しているうちに自分が情けなくなる。


森からの銃声がそんな俺の感情を刺激する。


「それでも…私はそれでも助けたいです…まだ助けられるなら…それでも私は助けたいんです」


「ッ! だからっ…」


「助けたいっ! 私はお姉ちゃんを救えなかった!」


「っ…」


「お姉ちゃんをただ見てるだけしかできなかった…だから助けられるなら助けたいです! 新城さんは言いました! 私を守ってくれるって…でもそれを…新城さんが仲間を見捨てる苦しみを背負う理由になんてして欲しくありません!」

 

「…」


この子は…本当にこの子は…

この気迫は倉木譲りか…。いかんな、かってに倉木を重ねてしまっては。


「ったく…せっかくこれだけ準備したのに…自分の命より他人が大事かこの大馬鹿娘」


「じゃあ!」


「勘違いするんじゃないぞ。戦うのは俺1人だ。君は俺から離れるな。それだけだ。あと助けれるとは言ってない。あれだけの数だ、無理だと思ったら直ぐにここに戻る。」


「分かってます!」


そうと決まれば行動は迅速にだ。ミニミの火力は捨てがたいがここへ置いていく。森で扱うにはちと重量がネックだ。


フラッシュバン3つ、手榴弾2つ。89式の弾倉がポーチに6つだがあるだけ持つことにする。

桜には9mm拳銃に予備弾倉1個。使わせる予定はないが念には念だ。


桜も普段着と言うわけにもいかない。俺と同じく88式鉄帽(ヘルメット)に防弾チョッキ、これは3型。2型よりは軽いが重いのに変わりは無い。だがしっかりと着て貰う。


「こ、こんなの着てるんですか…?」


「死ぬよりはマシさ」


「そ…うですよね」



そんな感じで俺達は森へ足を踏み入れた。

銃声を聞いた限りではそこまで森の奥深くでは無い。昼間なら普通に歩いて10分とちょっとだろう。


物音を立てないように慎重に進む。


敵地のど真ん中。どこに潜んでいるか分からない。恐い。やっぱり訓練とは比べちゃいけない。全くの別物。状況だって刻々と変化して複雑に絡まる。

1つのミスが俺の…いや桜の終わりだ。それだけは避けなければならない。


「…っ!?」


…鳥が飛び立っただけだった。








どれくらい進んだだろう。時間の割に進んでない気がする。

慎重すぎか? いや慎重に越したことはない。

桜も頑張ってる。恐怖と緊張でそれどころじゃないだろうがそれでもしっかり離れず物音立てず付いてきている。

大した度胸だよな…本当に。


「っ!?」


また銃声だ。だいぶ近づいていたようだ。

と言うことは敵も近くに居ると言うこと。

出来ることなら銃声の主を先に発見したい。そして状況を知りたい。だが暗闇で何も見えない。ここまでも月明かりで何とかたどり着けたようなもの。


ここで助けに来たと教えるために撃つか? 

そしたら相手からも返事が来る?

いや、リスキーだ。こちらの位置がバレて身動きが取りづらくなる上、もし相手が返事が出来ない状況だったらこちらの1人損だ。

そもそもここは敵のど真ん中。直ぐに退路を断たれるのは目に見えてる。


これ以上近づくのは発見される危険が増すだけだし、何も言わずに近づけば誤射される危険だってある。

ではどうする?

なにが最適解なんだ?


考える。考えてる。どうすれば良い。


不意に桜が袖を引っ張る。


「何か聞こえます」


ん? …確かに聞こえる。何かを引きずる音…歩く音。

近づいてくる。


頭を少し上げて音の方へ注意を向けた。


見え…た。見えた…。複数の化け物に…小柄な…銀髪の少女…?

血だらけの少女が何かを杖にしながら足を引きずり歩いてた。

今にも倒れそうな程足取りは弱々しい。


そんな少女を化け物は蹴り飛ばした。少女は近くの木に叩きつけれグッタリと倒れ込む。

変な音が聞こえてくる。

これが化け物の笑い声なのか?

化け物は片手で少女の髪を無造作に掴みそのまま持ち上げた。

少女が苦痛の表情を浮かべる。


だめだ。完全にもて遊ばれてる。


自然と殺意が湧いた。小さな子供に寄ってたかって…。


(デゴヅラゼヤガッデ)


例の拳から生える刃が出てきた。

少女もここで終わりかと覚悟を決めたのか抵抗も何もしない。


そんな時だった。何かが足下にコロコロと転がったのは。

その場の化け物も少女もそれに視線がいくが、少女は咄嗟に目を背ける。

直後。

眩い閃光と拳銃の何倍もありそうな破裂音が鳴り響いた。


もろに直視していた化け物たちは目を押さえながら悶絶する。

ただでさえ光に弱いあいつらに閃光手榴弾を投げつけたらどおなるか。結果は見ての通りだった。


少女は化け物の手から逃れると地面に倒れた杖のような長い物を手にとって…


未だ悶絶する化け物に迷いなく向けた。


拳銃よりも大きい銃声が何度もなる。

爆音と閃光が化け物の飛び散る返り血を照らす。

鳴り止むころには少女を囲んでいた化け物たちの頭にはキレイな風穴が開けられていた。


あまりの衝撃的な光景に俺達はその場を動くどころか声も出なかった。


それほど少女の目は、冷酷かつ鋭く…見入ってしまえば自我を忘れる程に深かった。残虐と言うには甘すぎるくらい冷え切っていた。

全てを捨て…戦いに身を投じた少女。これが俺と少女の出合だ。


少女と目が合う。正直あんな少女に自分が恐怖するとは思わなかった。蛇に睨まれたネズミ。こんな感じだ。


あれは俺の仲間ではない。少女だがその体につり合わない大きく得体の知れない銃を所持している。助けたは良いがどうする? 敵か味方かも今になっては怪しい。


俺が次取るべき行動を考えてる間に、彼女は俺達を見つけた。


信じられなかった。俺達は少女の銀髪が月明かりを程よく反射してわずかながらに見えている。しかし…俺達はどうだ。

月明かりすら差し込まない草むらに潜み、頭だけを出している状態。しかも一応迷彩模様のヘルメットさえしている。


街中なら見えるだろうがここは電気なんかない絶海の孤島。


見えるはずが無いんだ。


なのに彼女は真っ直ぐに俺達を見ている。


「っ!?」


「伏せろ!」


また銃声が木霊する。


俺達じゃない。音速を引き裂く銃弾がピュンッと言う音をなびかせながら俺達の頭上を通過する。少女だ、少女が俺達に向け…


後ろでバサッと音がした。


「…。」


倒れていたのは化け物だった。化け物の喉を引き裂くように銃弾が貫通している。

助け…られた?


「新城さんっ! あの子が!」


「なっ」


俺達を助けたのかは真相は分からない。だが、その彼女が今ぶっ倒れた。

くそっ


「桜! 走るぞ!」


「はい!」


あんだけ騒いだんだ。今更どうこうしたところで状況は変わらん。最悪だ!


倒れた少女の元へ走り、片手で抱える。軽い…

銃も…一応拾う。

銃は桜に持たせて、俺は少女を担いで森を抜けようと走る。


赤い目があちこちに確認できる。恐すぎだ馬鹿野郎!


奴らもやはり追ってくる。知っていたが…


前に来るやつは拳銃で倒し、後ろから追うやつからは全力で逃げる。


「こいつらなんて早さだ」


後ろを少し振り返る。

ダメだ。振り切れない。めっちゃいる。


「くそっ、使うしかねえか」


片手でポーチがフラッシュバンを取り出し、ピンを口で抜く。

それを後ろへ放り投げる。

背後でまたもや爆音と閃光が轟く。

 

いくつもの悲鳴が聞こえてくる。


再び後ろを確認するが、やはりだいぶ追ってくる数は減ったようだが…あいつらの走るスピードが速く、追いつかれようとしている状況は変わらない。


潮の匂いを感じてきた。もうすぐなんだ!


どんどんと距離は縮まる。ダメだ…間に合わない!


奴らの足音が迫る。歯を食いしばり全力で走る。桜も必死に走る。桜が意外に体力あることなど考えている暇は無い。

とにかく砂浜へ全力で走る。


ついに奴らの一体が俺の背中を捉える。気味の悪い声で叫びながら飛びかかってくる。


「ッ!!」


俺はバランスを崩しながらも思いっきり横へ飛び、回避する。

少女を抱いている事で転倒は避けられない。

ここで立ち止まるのは避けなければならない。


そう思った俺は目の前の木に倒れる体を叩きつけながらバランスを取り戻す。

少女を庇いながらの体勢だったためか打ち所が悪く


すげぇ痛かった。


ただ痛みにもんどり打ってる場合ではない。飛びかかってきた奴に素早く拳銃で応戦する。

慌ててたためか3発のうち1発だけが腹部と思われる箇所へ直撃し、化け物がもがき始める。

とどめを刺す暇も惜しく、また全力で後続の化け物から逃げる。


波の音が聞こえる…そして俺達の焚き火の明かりが見える!


そして、地面は砂地に変わりゴール…ではない。


後ろを見る。


「うっ…」


気付かないうちに敵が増え…倍増…している。


「桜止まるなぁ! まだ走れぇ!」


俺は直ぐに即席機関銃陣地へ走り、ミニミのフィードカバーを開け…ってくそったれ!

置くだけ置いて弾帯セットしてなかった!


馬鹿たれか俺は!


悠長に準備している時間は無いと判断した俺は即座に89式を使うことにした。


やはり明かりは奴らに有効であっても絶対ではなかった。

森の中から飛び出してくる敵が少なくない。


89式に取り付けたライトが敵をどんどんと照らしていく。


「桜さん! 彼女は無事か!?」


「はい! 傷だらけですけど深いのは無さそうです!」


「分かった! なら彼女から武器を取り上げといてくれ! 服の中とかちゃんと隅から隅までチェックだ!」


こんな時だが必要なことだ。起きたとき何されるかなんて俺達は分からない。少なくともあんなデカい銃を持ってたんだ。一般人ではすまされない。


「は…はい!」


こちらは明かりのお陰もあって出てくる敵も少ないからなんとかなってる。

あれだけの敵が1度に押し寄せてきたらと思うとゾッとするが、これならギリギリなんとかなりそうだ。


「なっ、なにこれ…」


桜の声だ。何をそんなに…


彼女のガンケースのような…いや実際ガンケースなのだろう。背負っていたそのソフトケースからはロシア語で書かれた弾薬の小箱に読めないが見るからに怪しい薬品や薬の類いが数種と注射器。さらに手榴弾にナイフ。消音器のついた拳銃。粘土質の塊はなんとなく爆薬の雰囲気がある。


この少女は何だ!?

まるで歩く武器庫だ。


いけない、一瞬思考停止してしまった。俺は目の前の敵をだ。


「桜さん、それ全部バックに戻して遠くじゃ無くて良いから彼女から見えない場所に。あと俺の荷物の中に包帯とか入ってる。消毒して包帯巻くだけで良いからやってあげてくれ」


「はい!」


一体何なんだこの子は。


ロシア語に…あのデカいライフル。多分ドラグノフって言う奴だよな。知識としては知っている。周辺諸国の戦力を知るのも仕事だからな。

だがな俺がそこまで驚いたのはそれだけでは無い。


なんたってあのマークだ。


鎌と槌。背景が真っ赤に燃え、その中で黄色く輝く鎌と槌。

間違いない。


ソ連、今はなきソビエト社会主義国。滅んだ国の国旗が出てきた。

なぜ今時こんなのが?


社会主義者? こんな少女が? いや持ち物や武器も東側と思われる物ばかり。ドラグノフだってソ連とかの武器のはずだ。


なぜそんな物を彼女が持っているのかは…あとで聞いてみるしかないな。


そんなことを考えているうちに敵の攻勢は弱くなっていく。

不毛な戦いと自覚したか? 諦めたか?


なら。


後回しにしてきたミニミの準備を進める。

こいつがあるのと無いのとじゃ天と地の差だ。









どれだけの時間が経ったか。


奴らはひょっこり顔を出さなくなった。

森が静けさを増し、逆に不安になる。

来ない理由は…奴らが諦めたか…と言うのは希望的観測にすぎないが、何があったのか全く分からない。


だが一息つく時間が出来たのは事実で、少しは桜に気を遣うことが出来る。

そう思った矢先、桜が少し慌てたように俺を呼んだ。その声は途中で途切れ、桜の苦しそうな呻き声がした。


「…!? 新城さ…っ…」


「桜ッ!」


「…。」


目の前で桜が拘束されていた。

誰に? 森で見つけた少女にだ。


くそっ。もう少し考えれば予想できた事だ。

あれだけ武器を持ってた奴のそばに桜を近づけたのは完全に俺のミスだ。

少女は桜の背後から首に左腕を回し圧迫してる。

桜が必死に引きがそうとしているが少女の腕はビクともしない。


慌てて俺も腰の拳銃に手を伸ばすが、彼女の方が早かった。


右手で桜の腰から拳銃を奪い、それを桜のこめかみへと向けた。

下手に動くと命はないというサインだ。俺が出遅れて拳銃を引き抜くのを諦めたと確認した少女は、今度は俺に銃口を向ける。


桜に向けられた銃口とは完全に重圧が違った。

本気の殺意。何も考えていないようなその無表情な視線で今にも殺されてしまうと錯覚してしまうような重い殺意が放たれる。

いや錯覚じゃない。この状況、間違いなく彼女が引き金を引けば確実に俺は殺される。そして彼女の殺意は本物。


「私達にあなたとの敵対の意思はない。今すぐに彼女を解放しろ!」


Кто ты?(お前は何者だ)


彼女の声は冷たくもキレイだった。だが聞いて取れるほど怒気に溢れたその声は綺麗と思った感情さえも上塗りする。


クトテン…?

ん? これは…ロシア語…? ヤバいぞ。ロシア語はそんなに得意じゃない。会話なんてレベルじゃない。

じゃあ英語は通じるだろうか



「I am a Japanese Self Defense Force.」

(私は日本国自衛隊である)


通じているだろうか…わからない。だが続けて問いかける。


「We are not going to have hostility.」

(私達に敵意はない)


「Free her soon!」

(すぐに彼女を解放しろ)


あっているか自信がない。そして通じているかもその無表情な顔からは感じられない。

だが彼女は再び口を開いた。


「…日本人 私の知る自衛隊、違う」


日本語!? 見た目も初っぱなのロシア語からも想像だにしない日本語に呆気にとられていると、彼女の口はまた開いた。


「日本語が話せるのか。話が楽だ。彼女は民間人だ。今すぐに解放しろ」


「彼女は君の体を手当てしていたんだ。それに森で倒れた君を助けると言ったのも彼女だ。敵意はない」


そう伝えると彼女は自分の腕や足に巻かれた包帯と桜とを見返したがら一言


「…そう」


そう言って彼女は拘束の腕を緩めた。桜の苦しそうな顔も今はだいぶマシになったようだ。


「私の荷物と交換。拒否すればこの子もあなたも死ぬ」


「…分かった。これだ。」


荷物とはガンケースのことだろう。桜の命には代えがたい。

素直に取引に応じる。

意外なことに彼女も自分の荷物と確認したあと直ぐに桜を解放した。


「今俺達は敵と戦闘中だ。あとで聞きたいことが沢山ある」


「理解している」


「だから今は君と争っている時間は無い。…意味はわかるな」


「理解。一時的な休戦」


いつまで続くかわからないこの休戦協定。

だが、こちらの戦力が増すなら悪いことばかりでもない。


荷物を背負った彼女は足早に俺達との距離を取った。


「桜…すまなかった。怪我は無いか?」


「だ、大丈夫です。拳銃も返して貰えましたし…」


良かった…。桜に怪我も無く戦況が苦しくなることもなかったのが不幸中の幸いだ。

桜の拘束中に化け物達が再び襲ってきていたらもうおしまいだった。


「どうした? そんなに俺の顔見て」


「え…いやその。新城さんって英語話せるんですね」


「あ、あぁ。最低限はな」


なんだそんなことかと思ったが、こんな目に遭ったのに何でそう…そんなに明るく振る舞えるんだ。


「どうしました?」


「殺されかけたんだぞ? 何でそこまで明るくいられるのかってな」


「それは…何ででしょう。恐くなかったから…でしょうか」


「は? やっぱお前相当肝座ってるな」


「そういう事じゃないです! なんかこう…あの子に捕まっても…苦しかったですけどそこまで怖さは無かったんです」


と言うことは俺には殺意丸出しで、桜を殺す気は無かったって事か?

なんだそれ。俺が感じたのは間違えようのないデカすぎる殺意だった。それが桜にはわからなかった。


一体何を考えてるんだあの少女。







「…来ないですね」


「そうだなぁ」


これが不気味というやつだろう。


この島の夜。奴らがいないと本当に静かだ。涼やかな波音に若干の虫の鳴き声と風の音。たまに森から鳥の鳴き声。

本当に奴らを除けば俺達しかいないんだな…と思える孤独感。


「新城さん…」


「ん?」


「あの子…1人で大丈夫でしょうか」


「問題はないだろ。何かあれば俺達も助けられるし、どちらにせよあの子へ奴らが攻め込んだ時にはここも戦場だ。きっとそれはあの子もわかってるからこの遠すぎず近すぎずの距離に離れたんだろう」


あの子はきっと桜よりも年下だ。だから桜が心配する気持ちも分かるけどなぁ。さっきも思ったけど他人に対して優しすぎるって言うかお人好しって言うか。


言い方が汚いがそもそもあれは普通の子供じゃない。


とにかく注意が必要だ。子供と舐めてかかるととんでもないプレゼントをされるって米軍も言ってたっけ。


「とりあえず心配はするな。素性はどうあれ必死で助け出したあの子を簡単に見捨てたりはしないから」


「そう、ですか。良かったです」


話がわからんやつでもなさそうだしな。


そう思いながら大きな流木にドラグノフを依託し、森を眺め微動だにしない少女をみた。

月明かりに輝く汚れながらも美しい銀髪に燃えるような血に染められたような紅い目。

素直に整った顔立ちだが、やつれたと言う言葉では足りないくらい鋭い目と体に不相応なドラグノフがそれら全てを覆す。


「新城さん…」


「今度は何だ?」


「すみません…もう限界で…」


そう言うと桜は俺にもたれかかるように眠りについた。

なにも謝んなくて良いのに。昨日はあんまり寝れてないしな。こう言う時に寝るのは良い判断だ。

ただまぁ、俺も眠い。寝て許されるなら5秒、いや3秒で眠りにつける自信がある。

しかし俺まで寝ることはできないからな。

でも真剣に考えないといけないかもしれないな。俺1人で毎日桜を守ることも出来ない。桜と交替で夜を見張るにも桜には悪いが多分不安で寝ていられない。まだ任せるのは無理だろう。


将来的には…あの子と協力関係になることが最善策か?


多分あの子がこの島で独り身なら、俺と同じ課題に悩んでいるはずだ。

完全夜型の人間になるにしても、昼間無防備で寝ていられるほどこの島自体甘くは無いだろう。睡眠は欠かせない。


交渉…してみる価値はあるか。協力者は必要だしな。


「お姉ちゃん…」


寝言か…。





目頭を抑え、たまに体を伸ばし眠気と戦いながら時は過ぎていく。


それからは何事もなく太陽を迎えられた。


正直意外だった。日の出前に一斉に突撃してくると思って警戒していたけど、そんなことは全くなかった。


一旦は落ち着けるかな


眠いながらも桜のために朝食の準備を少しずつ始める。


朝食と言っても湯を沸かして、缶詰投げ込むだけだがな。

俺は…眠気のせいか…。食欲はないな…。無理して食うこともないと思った俺の分は食料温存もかねてお預け。

桜も食べないと言っても蓋さえ開けなきゃなんとかなるしな。



すっかり辺りは明るくなり森からも奴らの気配は感じなくなった。

太陽もすっかり輝き夏の砂浜特有のジリジリとした暑さを増してきた頃に桜の目は覚めた。


「おはようございます…」


「あぁ、おはよう」


大っきなあくびをしながら大きく体を伸ばす。

おいおい、そんな砂まみれで目をこすらない方がいいぞ


「朝飯、食べるか?」


「つ、作ってくれたんですか!?」


「特にやることも無かったんでな、無理に食べなくても良いからね」  


「いえ、頂きます!」


缶切りで蓋を開けてあげ桜には手渡す。

この島で食料を調達したいけど…どうしたもんか。


「桜さん、すまない。俺も少し寝させてもらうよ、何かあったら起こしてくれて構わないからね。あと出来ればあまりここから離れないでくれよ」


「はい! おやすみなさい」


「お休みさせて貰うよ」


そういって俺もしばしの休眠となった。











そしてなぜだろう。

目が覚めて最初に見たのが、桜と一緒に缶飯を食べるあの銀髪の少女だった。


なぜこうなった…?


目が覚めたあとしばらく考え込み、声を出すことが出来なかった。







──────────────────────────────────

ここらでいくつかイラストが用意できたので良かったらコメント下さい!

倉木桜(くらきさくら) 18歳


挿絵(By みてみん)


銀髪少女

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


完全に力の入れようで作者の趣味がわかるイラストでしたね。

はい。銀髪赤目ってすっごく好きです。

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