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銃と少女と魔法の島  作者: 芳賀勢斗
3/12

【2日目】倉木桜

…あれ? ここは…

目が覚めると記憶にある場所にいた。嫌な場所だった。

机に伏せて寝ていたのか…そっか、いつも寝てたか…


「…。」


体を起こしたら目に入った光景。声が出ないほど胸が締め付けられる。あぁ…この気持ち。嫌だ。


自分の机に書かれた


バカ


ブス


死ねよ


学校来んな


ビッチ


こんなの序の口。もっと酷い言葉や卑猥な単語が机に油性ペンかなんかで書かれてる。

いつからだろう。いつからだったっけ。

もう嫌だよ。学校来たくない。


あぁ、思い出した。


こっちを見てクスクスと笑う人の顔を見て思い出した。あの子の彼氏に告られて…返事できなくてうやむやにしてたらいつの間にか付き合ってることになって、付き合ってた子から恨まれたのが始まりか。

いや、これ私悪くないじゃん。二股かけようとしたお前の彼氏悪いでしょ。


【殺したい】


私をこんなにした奴らをみんな殺したい。


私は強く唇をかんだ。

もう何でもできる気がした。

そうだ。ニュースで虐められて自殺した子居たじゃん。虐めた方は犯罪者になるんだっけ。

良いじゃん。遺書もバッチリ書いて死んでやろう。何もしてくれなかった教師の奴らも書いたからな。


この時の私は自分の命に何ら重みを感じてはいなかった。


所持金全部使って観光バスに乗り少し有名な岬へ行った。

学校で死ぬことも考えたけどあんな奴らに看取られるくらいなら、夜に1人静かに死んだ方がマシだし、その岬なら観光客多いし復讐もせず無駄に朽ち果てることも無いでしょ。


もう疲れた。楽になりたい。


ふわっとする感覚。あぁ…さよならお姉ちゃん。


真っ暗な中で 


(貴女なら…)


そんな声が聞こえた気がした。













「起きましたか」


「え…あ、はい」


太陽は昇って真夏のような日差しで私は目が覚めた。


それにしても、なんでこの人はそんなに気まずそうな顔してるんだろう。


上から下まで迷彩服を着込んだ男の人。自衛隊の新城さんって言ってた気がする。結構若い印象。

あれ…?

私…何か、忘れてる…あれ。涙? なんで…


「おねえちゃん…」


「…。」


そうだ。


「お姉ちゃんは…? 居ましたよね!!」


新城さんは大きな深呼吸のあと立ち上がると、手を差し出してきた。


「行きましょう。お姉さんのところへ」


その差し出された手を掴むのが恐かった。腕が震えて手が上がらない。

どんどんと頭に流れ込んでくる見たくない辛そうな顔のお姉ちゃん。嫌だ。血を吐く光景。どんどんと虚ろになっていくお姉ちゃんの目。そして爆煙に消えたお姉ちゃん…

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!


いつの間にか私は頭を抱えて自分でも驚くくらい叫んでた。


そこからはあんまり覚えてない。新城さんに連れて行かれたんだろうけど。目の前には黒く焦げたちょっとしたクレーターがあった。

それだけじゃ無い。お姉ちゃん…がいた。


息が苦しくなる。息を吸っても苦しい。膝から崩れ落ちたけど、立ち上がれない。力が入んない。


「桜さん…お姉さん。千空さんを救えなくてすまなかった」


何も聞こえてこない。頭に入らない。お姉ちゃんはもう居ない。

助けてくれない。話せない。

やだよ…そんなのイヤだよ…


そんな私の前に目にとまった物があった。

自然と手が伸びる。

ずっしり来る重さ。日光を浴びて熱くもなったそれは、私みたいな一般人は目で見ることすらない本物の拳銃だった。


不意に私をお姉ちゃんから引き離した目の前の男に目がいった。


「お姉ちゃんに触れるな!」


映画でよく見る構えだけど、ちゃんと銃は新城に向いてる。

新城さんも相当驚いた顔をしたけど、直ぐに恐い顔になった。


「俺を撃ちたいか」


「君を千空から引き離したこと。千空を見捨てたこと。そうだな…君に殺されるくらいのことはしてるな。」


本物の拳銃を持っていることと、自分が自らの手で人を殺そうとしていることの恐怖でカタカタと腕が震える。指を引けば目の前の人は死ぬ?

この恐怖。この場になるまで知らなかった。


「だがな、俺は千空に君のことを頼まれたんだ。だからな。君が俺を殺すのはその後だ」


「近づかないで! ほ、ほんとに、撃つ…よ!」


新城さんは止まらなかった。近づいてくることに勝手に殺されると恐怖する私は、もう頭が真っ白になり何も考えることができなくなって人差し指を引いてしまった。


…。


何も起こらなかった。


バン!ともカチンとも言わず。ただ引き金を引いただけだった。


「それはもう弾は撃ち尽くしてる。貸して見ろ。弾は3発だけ入れてやる。奴らと戦うために使っても良い。俺を撃ち殺すための3発でも良い」


拳銃のスライドは引かれた状態。弾を撃ち尽くしたホールドオープンの状態だった。


「…」


「そしてその拳銃は倉木…千空の物だ。…その銃で俺を本当に殺したいならそのまま引き金を引けば俺は死ぬ」


「い、いゃ…私…」


本当に殺そうとはしていないのは分かってる。彼女自身どうして良いのか分からないのだろう。


「君は自分を殺したことがあるんだろう? 俺の頭に向けて引き金を引けば君が憎くて憎くて仕方ない俺を、姉の(かたき)の俺を殺せる」


「…ちがう。ちがう…私そんなんじゃ…」


君を追い詰めているのは自覚している。家族を失ったことなんてまだ無い俺には今の君の気持ちは理解できない。

ましてや自殺までやり遂げた君だ。悩みに悩んだ末、答えを見つけたんだ。実行する勇気も君にはある。これらは決して褒められるものではないが、見下されるようなものでもない。

そんな君が今超えなければならない壁は姉の死だ。君なら答えが出せる。俺はそう思った。







「私…わたし…」


私は泣いてた。涙で酷いことになってる。 

手足は震え、銃を持つ腕も下がった。


「え…ぇ?」


突然私は硬いけど若干暖かい物に包まれた。


新城さんだった。


「恐かったろう…何で君みたいな子が殺し殺されるような世界に来てしまうんだ…桜さん…倉木を千空を救えなくて謝っても許されるものじゃ無いことは承知の上で…本当に申し訳なかったぁ! 完全に俺の力不足が招いたことだ…すまないっ…本当にすまないっ…」


(新城さん…泣いて…)


お姉ちゃん以外に抱きしめられたのって…初めてだった…拒絶する気持ちは湧かなかった。

素直に新城さんの素の気持ちを聞いた私は…冷静になれた。

新城さんはずっと私と…お姉ちゃんのことを考えて居てくれてた。

命も張ってくれた…

そんな人に私は…


「ゎ…こそ…私こそ…助けてくれて…お姉ちゃんに会わせてくれて…そんな人を私…ごめんなさい…ごめんなさい…」


気付けば私も泣いていた。さっきまでの涙とは少し違う感じがした。ハッキリとした違いは分からないけど、そう感じた。















その後。私達は、お姉ちゃんそしてお姉ちゃんの仲間の皆さんのお墓を作りました。

お墓と行っても、土を掘りそこに埋葬するだけだけど、海の見えるちょっとした高台を見つけ、場所はそこにした。

新城さんには


「気持ちはわかるが…そこまで運ぶのもリスクがなぁ」


とも言われたけど、やっぱり太陽が出てる昼間であれば暗い森の中でもあの恐い化け物達も居なくて、時間はかかったけどみんな運べた。

何よりこの海、この空のどこかに私達の古郷があるんじゃ無いかと思うと、せめて見晴らしの良いこの高台に埋葬してあげたかった。


運ぶときも新城さんは1人でやると私に言ったけど、私もそのくらいのことは理解してるし覚悟してる。

無残な遺体も沢山あった。片腕、片足。確かに最初は気分が悪くなった。

でもみんなお姉ちゃんのように必死に生きようとしていたことを考えると、そう言うのは失礼だとおもった。


全員のお墓は合計で12でした。新城さんはこれで全員では無いと言ってたから、残りの人たちはまだ分かっていない。

お墓はもう増えないで欲しい。切にそう願った。


新城さんは敬礼をした。ピシッとしてて胸を張って…凛々しく見えた。釣られて私も敬礼をしそうになったけど…さすがにそれは違うかなってなって、私は両手を合わせた。


「こうして遺体があるだけ良いさ。それよりも死んだかも生きてるかも分からなくて、骨を拾う人も居なくただ行方不明って言う方が何倍も悲しいことだと俺は思う」


その言葉は私の心に刺さった。


「私も…行方不明…って事になってるんですよね…」


「そう聞いた。だから帰ったらごめんなさいって言うんだぞ。君の親御さんは行方不明の君をまだ待ってる。だから帰ろう。必ず…」


「…はい。だから…その…」


「ん?」


「だから…私を1人にしないで下さいね」


「あ、あぁ…もちろんだ。君を残して死ねるものか。そんな事しようもんなら、君の姉さんにあの世から叩き出されるよ」


「ふふっ、そうかもしれませんね。お姉ちゃん怒ると恐いですから」


俺の前で桜が笑った。そして俺も笑った。笑い合えた。

地獄のような夜を乗り越え、大切なものを失い、希望も無いこの島で彼女とこうして今笑い合えるという奇跡。


気づけばまた涙が流れてた。桜も笑いながら泣いていた。

それを互いに見てまた笑い合った。


(倉木桜は)


(新城さんは)


【優しい人だ】


「桜さん」


「はい」


「これからよろしくお願いしますね」


桜は涙を指で拭いながら答えた。


「はい! ご迷惑沢山かけると思いますけど、よろしくお願いします!」


互いに握手を交わした。

こうして本当の意味で俺の…いいや俺達の物語はプロローグを終え、本編へと進んでいく。

















やることは沢山ある。

まず第一に太陽が沈むまでに明かりを用意することだ。奴らは明かりさえあれば近づいては来ない。


これは流木や倒木をあるだけ運んで、一晩賄えるほどの量はそろった。


昼間に奴らを見かける事はないが、要心に越したことは無く桜とは一緒に行動する。もっとも脅威は奴らだけじゃなく未知数だからな。


明かりの確保はなんとかなりそうだ。


次は食料だが…これに関しては数日は缶飯やらパック飯やらを死んでいった仲間からもらい受けたから問題は無いだろう。

ただ、いずれは無くなる物だから先行きが不透明な現段階から現地調達するすべも模索しておかねばならないな。

飲み水に関しても、水源は俺が見つけた川の水を煮沸すれば問題は無いだろう。


寝床は墜落したC-1の機内を使わせて貰おう。さっき一通り見たが燃料臭くも無く、見た感じ漏れてる感じには見えなかった。

直ぐには無理だが、主翼の燃料タンクに残っている燃料も明かりに活用できないか考えて見る価値は大いにありそうだ。


衣食住の食と住はなんとかなりそうだが、衣服は…ある物を着回す位しか無いが…桜の服はどおするか…着替えなんて無いだろうし…



「桜さん、これ着れるか?」


「これって…」


「あぁ倉木の荷物にあったんだ…お前が着るんだったら倉木も何もいわんだろうよ」


「…ありがとうございます」


桜は受け取った倉木の戦闘服とTシャツ抱きしめるように受け取った。

いくらこんな状況でもボロボロの服を着続けるのは精神的にもキツいだろう。


問題は…これだな


「桜さん。本来これはやってはいけない事って言うのは理解できると思う。だが状況が状況でやむを得ないと思ったから特別だ。日本へ帰っても絶対に話してはいけないぞ」


「分かりました」


「よし、じゃあ扱い方を教える。こいつは9mm拳銃って言う。まぁ、名前なんてどうでも良いんだが重要なのは…」


それからやってはいけない事、やらなければならない事を必要最低限教え込んだ。実際桜さんが撃つ機会なんか無いのに超した方が良いんだがそうもいかないときもあるだろう。

そんな時は大体近接戦。狙う動作なんて必要ないくらいの危険な距離。射撃の練習もそこそこに拳銃に慣れる練習を重点的にした。


初めての射撃は桜さんはガッチガチに固まってしまって大変だったけど、数発も撃てば慣れたようだ。人間未知の物には好奇心と恐怖を抱くと言うが程度が分かってしまえばなんとかなるもんだ。


衣食住はなんとかなったが…あと1つ必要だ。それは防衛だ。

明かりは用意したがそれでも近づこうとする個体も若干数いたことは事実。明かりは安心するほど絶対的な物じゃ無い。


M249MINIMI(ミニミ)軽機関銃を砂浜に設置して軽機関銃陣地を構築。バリケードも作りたかったけどやはり木を切り倒すのも運ぶのも俺と桜じゃ物理的に不可能なので断念。同様の理由で壕を掘るのも断念。


やっぱり立派な物は作れないか…


そうこう準備しているうちに時刻は進み、あっという間に日が暮れ始めてしまう。また2日目の夜が始まる。


今回は充分に準備できた。明かりも今度は波で消されることも無いし、天気だって雨は降りそうに無い。少しの雨くらいでも消えはしないだろうし。

あんなことにはならないはずだ。


「あ…新城さん…」


見るからに不安そうな桜が俺の陰に隠れるように寄ってきた。

俺だって恐いんだ。あんな得体の知れない化け物を相手に見ず知らず土地で君を守り抜かなければならない。

とっても恐い。


だが…君を失う事の恐怖に比べれば…。どうって事は無い。

倉木が命をかけてまで守り抜いた君。倉木の意志を無駄になんかできるはずが無い。


「…桜さん。あれだけ頑張って準備したんだ。そんなに怯えなくても良いさ。…ほら、お腹空いたろ? 少し早いけどご飯にしようか」


日の入りまではまだ時間もあるし、見晴らしの良いここからならあいつらを見逃すって事も無いだろう。

桜さんは、「こんな時に!?」って顔してるが、やることはやったしお腹も空いた。日の入りまでずっと緊張しっぱなしでは正直気が滅入る。油断というわけでは無いが適度なリラックスも必要だと思う。


集めた木に火を付ける。

さっそく缶飯…とりめしにしよう。とりめしを汲んできた水の中に入れて炎の中に適当に入れた。

湯煎しないと吸収できる栄養にならないから食ってもあまり意味が無く、そもそも美味しくない。食事は精神的に大きな役割を担ってる。


「美味しいですか?」  


「はい! 想像より…て言うか…普通に美味しいです」


「それは良かった」


日本の戦闘食は世界的に見ても美味しい方らしいからな…俺自身他国の飯なんか食う機会なんてほとんど無いけど、みんな言ってるから大体あってるんだろう。


…。

会話が無い…。飯の時ぐらい楽しくしたいってのが本音だが…あまり踏み込んだ話も気分を落とさせてしまうし。

それに…俺自身彼女にまだ負い目を感じる面もある。

彼女、桜は俺をどう思っているのか。

まだそれが俺には分からない。

この際だ。思い切って聞いてみるのも良いかもしれない。


「なぁ…」


「な、何でしょう?」


「気を悪くしたら申し訳ない。けど、聞いておきたいんだ」


「…はい」


唐突な真剣な話に身構えたのか桜も食べるのをやめ、辺りはパチパチと薪の爆ぜる音だけになった。


「単刀直入に聞く。あんな結果になると知りながら君を千空と再会させた俺をどう思ってる? 再会したことに今…後悔はしているか?」


「後悔なんかしてません」


…即答だった。


「私にとってはもう会えないと思って別れたんです。それが…また会えるなんて…感謝こそしますが新城さんを憎むとか会わなきゃ良かったなんて思いません。今朝は気が動転してしまって…あんな事してしまいましたが…」


「そう…なのか」


「はい!」


桜は俺がまだ負い目を感じてると分かっていたのか、桜らの答えはスムーズに告げられた。頑張って隠していたつもりなんだけど…難しい物なのだな…


桜は他にはないの?って言う顔でこちらをじっと見つめてくるが…実のところここから先は全く考えてなかった。先程のように話す話題が無いのだ。

見かねた桜は暗い雰囲気から脱却させようと口を開いた。


「…新城さんは…待っててくれてる人とか居るんですか?」


「お、俺か? 俺は…祖母と姉が1人に…犬一匹って所だ」


「え、彼女さんとか奥さんとかは居ないんですか?」


何その…少し傷つく…。


「仕事がら出会いも無ければ俺にそんな度胸も無くてね…あはは…は…」


「そうですか…そうなんですね」


パクパクととりめしを口へ運ぶ姿が…なんかこう…

女の子っぽいと言うか…可愛らしいというか…小動物っぽい?

女の子ってほんと一口小さいよね


「あ…夕日が…」


桜がとうとう来てしまったというような顔をした。


「…そうだな」


その時


【バァ~ン】


「!?」

「!?」


遠鳴りする破裂音。間違いない、銃声だ。

また直ぐに1回、2回、3回。かなり切羽詰まった状況のようだ。


時間帯的に見ても奴らと遭遇した誰かの発砲と見て良いはずだ。

また長い夜になりそうだ。

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