【4日目】神殿
【お初にお目にかかります、私はリルと言います。皆様をお迎えに上がりました。救世主様方】
【どうか私…いえ、ラピス様をお救い下さい…】
俺達の前にリルと名乗る剣を携える少女が立ちはだかる。
敵対…の意思はないようだが少々訳の分からないことを言っている。
「私は日本国自衛隊の新城だ。救世主と言うのは俺達のことなのか? すまないが俺達は救世主どころか、救って欲しい側なんだが」
「いいえ、そんなことはありません。この島で3日…生き延びたあなた方はラピス様が待ちに待った救世主様です」
「…まってくれ。なぜ俺達が3日生きていることを知っているんだ? それに、ラピス様って言うその人がまるで俺達が来ることを知っていたような言い方だな」
俺は目の前のリルという少女がまるで漂流者ではない気がしてならなかった。
「はい。ラピス様はこの国…いいえ、この島の生みの親ですから」
「島の生みの親? まるで神さまみたいだな…。」
「…。そうです…ラピス様は神さまみたいにお優しくて…私なんかが本来お側に仕えるお人では無いのです…それゆえ…」
リルは急に落ち込んだように声のトーンが下がっていく。
ラピスという人物…どうやらその人がこの島の重要な情報を持っていると見て良いようだ。
「ラピス様という人を助けてとさっき言ったな? それはリザルト、化け物からということか?」
リルは首を横に振る。
「ラピス様の元へお連れいたします。こちらへ」
リルはそう言うと来た道を帰るように森のへ歩き出した。
いや、俺達戦車乗ってるんだが…そんな巨木薙ぎ倒せな…い…
俺が心配したのもつかの間
リルが剣を引き抜いて…スパンっと言う風切り音した。
そよ風が俺を撫でたかと思うと森が歪んでいく様に見えた…いや見える。
直後にはまっすぐ一直線の幅5m程の道ができていた。
リルがその剣で断ち切ったわけでは無い。剣は空をかいただけだ。しかし、振り下ろした剣は森の木々達を変形させ道を開かせた。
まるで人混みが割れるときのような感じだ。
だが74式は動こうとしない。リルもどうしたのかとこちらを待っている。
あっそか。
「桜、彼女の謎は多い…だがこの島の情報を得られるチャンスでもある。74式に彼女を追ってくれって伝えてくれないか」
「わかったよ」
その後74式はグウォンとうなりを上げ黒煙を吹き出しながら木の幹を越えていく。
いくら戦車が走破性が高い車輌とは言え、車内が揺れないとは誰も言ってない。
横揺れ縦揺れ、もう凄いことになってる。
さすがにこの揺れで気を失っていたヴィエラーヤも目を覚ます。
「あれ…私…あ、桜!? ここはどこ!? …ってその膝の上の子って…」
ヴィエラーヤも俺と同じ様な反応だ。やっぱり普通はあぁなる。
「ヴィエラーヤ、落ち着いてくれ。桜の抱えるその少女はもう脅威ではないそうだ。俺自身事の顛末を見たわけじゃないからな…桜、すまない。俺はまだ安心はできないんだ」
「うん…後で話そうと思うの。この事のこと…あと神様のこと」
神様? アグレイアのことか? なぜその話が今出てくるのか問い詰めようとしたが、それも後で話すときに聞くことにした。
「ヴィエラーヤ、体調はどうだ?」
「だるさが結構あるけど…他は大丈夫みたい」
だるさか…俺も相当ある。ヴィエラーヤもとなると桜に治療して貰った後遺症…いや、影響とみていいのだろうか?
その後、ヴィエラーヤに74式戦車のことを説明すると、桜のことをじっと眺めて…考えるのをやめたようだ
「要するに神様の見習いなんでしょ? こんな事も出来るんじゃ無いの?」
だそうだ。
「と言うことはさ、桜に弾薬を出して貰うことってできないのかしら? 私達の力は桜と違ってここにある物が無くなったら瓦解する物よ。それが可能なら希望はあるわ」
「そうか…。俺も悩んでたんだ。このペースで弾薬の消費がかさめば数日もしないうちに底をつく事は目に見えてる。こうして戦車が出てきたと言うことは可能性がありそうなもんだが」
そう言うと俺とヴィエラーヤは桜をじっと見つめた。
これが実現できれば弾丸と限らず対戦車兵器やもっと火力の見込める装備が使える。
まるで物をせがむ子供のような目をしてたと思う。
「弾薬って…弾のことかな? そう言えば私あまり詳しく知らないんだよね…」
「あ、あぁそうだな。俺達の使ってるのは5.56mmNATO弾って言ってな…これだ」
俺は予備弾倉から1発だけ抜き取り桜へ手渡す。
雷管を先の尖った物で叩かない限り安全だろうと言うことで渡したが…まぁ日本だとお縄だわな
ピカピカと光る薬莢、銅のジャケットで鈍く光る弾頭をマジマジと見つめる。そうだな…桜に銃について話するのもこれが始めてか?
9mm拳銃は触らせたが、それ以外の89式小銃は触らせてないからな
桜はおもむろに弾を握りしめて目をつむる。
マジックのようだった。
握られた拳が若干光ったと思えば、開かれた手の中には1発だった5.56mmNATO弾が2発に増えているんだ。
「まじか…」
「すごっ…」
「できちゃった…」
当の桜本人でさえこの結果には驚いていた。
自分の意思で力を使ったのはこれが初なんだから当たり前だろうが…
「桜にはなんも異常は無いのか? ゲームだとなんか別の物消費するのがセオリーだろ?」
ゲームで魔法を使えば大抵MPやそれに準じた力を消費することがセオリーだが…
桜自身何も無いような顔で首を横に振る。
弾一つくらいな、本人が気づく程の変化は無いって事か?
いやしかし…弾丸とは大きさも質量も比較にならない74式戦車そのものを出して尚体に異常が無いとこ見ると制限は無い…のか?
「だがしかし…何かを得れば何かを失うってのは神威にも当てはまるはず…。はずだと思うんだ」
「なにその“はず”って? もっとハッキリしなさいよ」
「それがわからないんだよ。アグレイアは神威は人の理解を超える存在といった。だから神威は得れば失うという俺達の絶対的な法則からも外れている馬鹿げた力かもしれないわけだ。しかしそうでなかった場合…失う物が不明なうちは不安すぎて多用はできないって思ったんだが…」
「確かにそうね…。この力の代償が桜の命とかだったら笑えないわよ」
「そうだな…」
いきなり力の使いすぎで桜が倒れるなんて…俺の力のなさに自殺してしまいそうだ
…桜の前でこの話は出さない方が良いな…。
「…あの。私は…みんなの役に立てるなら…」
ヴィエラーヤが突然桜の口を塞いだ。
何事かと下を覗き込むが、ヴィエラーヤは真剣な顔で桜を告げる。
「やめなさい」
「え…?」
「命を削っても良い何て冗談でも言わないでちょうだい。自己犠牲で助かる命はあるかもしれないけど救われる命は無いのよ」
いつになく真剣で重みのある言葉。ヴィエラーヤは真面目に桜に言い聞かせた。
助かる命はあるが…救われる命は無い…か。
意味はわかるが…俺も本質は理解できないんだろう。
やはり俺とヴィエラーヤではヴィエラーヤの方が正規軍では無いにしろ遥かに実戦経験があるのは確かだ。
人を殺したことのない俺では、ヴィエラーヤの言葉の本当の意味は理解できないんだろう。
俺には仲の良かった工藤と言うオタクがいた。居たが…この島で死んでしまった。
そんな工藤にある日映画を見ようと誘われて俺の部屋で丸一日DVDをみて過ごした事があった。
俺がタイトルをみて「魔法少女? そんなのみなきゃダメなのか?」と怪訝な顔をしたのを覚えてる。それでも工藤は嫌な顔せず再生ボタンを押した。
…。
映画を見終わり「ここで終わるんだな」と終わったとばかりに席を立とうとすると、工藤に「まただ」と言われ後編と新編があると言われてこれが丸一日潰した原因だ。
「最近の魔法少女ってAT4とかRPGとか迫撃砲とかミニミとかクレイモア使うんだな…しまいにあれトマホークか何かか? 全体的に魔法って感じじゃ無いし夢も希望もないんだな」
後編を見終わり随分と物騒な魔法少女だと工藤に言ってみた。
しかし後編は本当に夢も希望も無かったな…
少女達がいたたまれない。
特に男を横取りされたあの子…深く同情する。
前編と後編とここまでは工藤も見たことがあったらしく、これから見る新編というのはまだ見たことがないらしい。
なるほど工藤がむりくりにでも俺に見せようとするわけだ。中々ストーリーが考えられていて気を抜けば俺も泣いてしまいそうだ。
新編もお互い一言もかわさず無言のまま画面を睨み続ける。
…なるほど。機関銃相手にマスケット銃で戦うにはあぁ言う戦術が有効なのか。参考にはならないがな
一瞬桜がマスケット銃の代わりにRPG-7を乱射してる光景をイメージするが頭を振り忘れる。本当にできそうだから恐い
まぁ、こんなくだらないあの日の日常? こんな映画がなぜ出てきたと言えば、自己犠牲と言うのは美化されがちだが、それで助けられた側のことはあまり書かれない。
この映画…最初舐めてみてたが…後編を見た辺りからかなり真剣に考えながらみてた。
映画とかのフィクションって考えたらつまらなくなると言われるが、あの時は考えれば考えるほど考えされられたと言って良い。
そこである結論に到る
─────ヴィエラーヤには忘れられない過去というのがあるのかも知れない
結論には到るがそれを訪ねるのは…やめた方が良い。
ヴィエラーヤと桜はそれほど年齢が離れているようには見えない。同い年かもしれない。
こんな悲惨な状況じゃ無きゃ普通に女の子同士の仲の良い友達として出会えていたのかと思う。
年齢としては俺が一番上だが…人生経験としてはヴィエラーヤが先輩と言うことかな。
ヴィエラーヤに真剣に言いよられた桜も、納得はしてない様子だが静かに頷く。
「まぁ、これは桜の使う神威っていう力に何らかの代償が伴う場合の話だ。本当に得れば失うって言う法則すら通用しない無尽蔵なでたらめな力なら俺達も楽できるかな? その時はよろしく頼むよ」
あの魔法少女達も希望を生む代わりに絶望を撒き散らすって言ってたしな…神だからってその法則すらねじ曲げる事ができるのだろうか?
それは無から有を生み出すのと同義。
…それこそが神だからこそ成し得ること…なのだろうか?
なんとなく得れば失うと言う覆すことのできない絶対的な法則が人間に課せられた枷のような気がした。
ならばその稼が解かれた人間は何なのだろうか?
神威が枷を解いた先にある力なら、枷を解いた存在が神になれる器と言うことなのか?
妄想だが話は通る。
そうこう話している内にリルと言う謎の多い少女の後を追う戦車は樹海を超え、山登りをしていた。
そこまで厳しい傾斜じゃ無いから、少しエンジンのうなりが大きくなるも問題なく進み続ける。
こんな道でも進めるもんなんだな
ガタガタと地面を踏みしめしっかりと前進を続ける力強さに改めて感心する。
少女は歩く速さを変えず一定で先導し続ける。
道も悪いのに大した大した体力だな。
俺達は山というか…丘を上がり続け、海まで見通せるであろあ高さまで来ていた。まぁ、今は夜で暗いから見えないので体感的に見えるだろう高さだ。
だんだんと地面は土から乾いた砂地のような感じになる。
背の高い木々も無く、所々に植物がある程度。
…昭和新山? とか言ったか?
昔旅行で行ったことがある。確か北海道だ。
「なぁ桜、昭和新山? って確か北海道だったよな?」
「ふぇ? そ、そうですけど…どうかしたんですか?」
「いや、なんとなくここが似てるなぁって」
桜は少し考えた後、火山だからとか砂っぽい感じがそう思うんじゃ無いかなと言った。
もっともあの山は火山ガスとかで近づけないんだけどと残す。
確かに火山性のガスの臭いは軽く漂っているが、まだ温泉街よりも薄い。
そうそう、良く温泉で硫黄の臭い~♪とみんな言うが…硫黄は無臭だ。
卵の腐った臭い。それは紛れもない火山ガス…硫化水素による物だ。もちろん有毒。
有毒ガスを吸って温泉気分を味わう…なんとも奇怪な物だと俺はいつも思う。
硫化水素は水に溶ければ硫酸やら塩酸とかになるらしい。
先頭を歩くリル。ついてきてと言われここまで来たがなんとなく俺は行き先がわかっていた。
俺がこの島に来た時、輸送機から投げ出され落下傘で降下する俺が見た神殿のような建物。
俺が文明のある島だと確信した建物だ。
そのためリルにはあえて行き先を尋ねてはいなかった。
「少し良いかリルさん」
「なんでしょうか?」
「さっきからリザルト…化け物の姿が全く見えない。これは偶然なのか?」
「いいえ。リザルトはこの山を登ることはできないのです」
「…ほぉ。それには理由があるのか?」
ここで突然の有力情報だ。
それが本当なら俺達の安全圏ができるって事になる。
「…それにはまず姫様のことを知って頂けなければいけません。それにはまず神殿へおいで頂かなければいけないのです」
「立ち話で済ませる無い容赦ないって事か。了解したよ。その神殿へはどの位でつく?」
「もう少しです」
そうか。と短い返事をしその旨を車内の桜やヴィエラーヤにも伝える。
「リルって言う人は信用にたるのかしら? 森を剣の一振りで切り開く力を持っているなら、あの時助けてくれたって良いじゃない? なんだか知らないけど私達が3日間この島で生き延びる様を高みの見物してたのよ?」
ヴィエラーヤはリルとの出合を聞いて怪訝な顔をした。
俺は…どこか堅苦しいリルの話し方だが噓をついている用には聞こえない。時折見るその目からはどこか強い意志を感じる。
確かに3日間で失ったものはどれもかけがえの無いものばかりだ。
最初からここが安全地帯とわかっていたならもっと良い結果もあったんじゃ無いかと思うところはある。
「この島について何か知っている事は事実だ。今は詳報が欲しい。リルと言う少女とラピスというお姫様と敵対するのか友好的に接するのかは会ってからでも遅くはないはずだ」
「それはそうだろうけど…そうね。詳報は必要よね…。現に火山周辺は安全地帯とわかっただけでも収穫は大きい。新城、あなたに判断は委ねるわ」
理解してくれて良かったと胸をなで下ろす。
ちょうどその時、荒れ地を進む戦車の振動が急に静かになる。
停車したわけではない。
改めて体を車外へ出し周囲を確認する。
「あぁ、もうすぐのようだ」
ただ山を削って道を作ったような道から、今はタイルか何かでしっかりと舗装された道となっていた。
彼女の言うとおり目的地はもうそろのようだ。
それを告げると桜とヴィエラーヤもそれぞれ扉を開けて顔を出す。
徐々に見えてきた巨大な人工物。不思議と真っ白で薄汚れた感じはない。
所々にヒビや欠けが見受けられるがとても森の中で発見した村の建物とは比較にならないほどに古めかしさはない。
「大きいですね…」
「あぁ、遠くで見るよりずっと大きくてキレイだ」
「ローマでこんな遺跡あったわよね、そっくりでは無いけど…雰囲気はある感じかしら」
みんな「ほぇぇ~」と言ったぽかーんという顔をしたまま巨大な建築物に目を向けていた。
「ここがラピス様の眠る神殿でございます…その乗り物は…」
「わかってる。みんな下りよう。戦車じゃ中へは入れないからな」
74式戦車はそのまま入り口と思われるところまで進み、180°旋回。
入り口を守る様な形で停車し、その力強いエンジンを静める。
「ナナヨン! お疲れ様!」
車体前面の上部に滑り落ちないように桜が立つとニコニコとその凶悪な砲身を撫でる。
冷たく無骨な金属の塊のそれはエンジンルームからメラメラと陰ろうが立っていた。そんな74式戦車がどこか満足そうな雰囲気を醸し出しているような気がして、ふと俺まで口元が緩んでしまった。
「何やってるのよ桜、早く行くわよ」
「え、あっ! 待ってよ! 置いてかないでよ!」
慌てた桜がピョンと飛び降り走ってくる。
「ヴィエラーヤ、武器は下ろしとけよ。俺達は戦いに来たわけじゃ無い。たが…」
「わかっているわ。相手の意図がわからない以上油断なんてしないわよ」
リルという少女はやはり不安要素が多い。
彼女の口にするラピスという姫も同様だ。
「中へご案内します」
俺達の準備ができたと悟ったのか、再び足を進めるリル。
石のレンガを積み上げて作ったような階段を10段くらい上がりとても大きな入り口を正面にする。
「ほぇ~」
「口開いてるぞ桜」
「だってだって! 私海外とか行ったこと無いし…こんな大きくて日本には無かった建物なんて人生初って言うか…」
「そうだな。俺も旅行で海外には行ったこと無いが…確かにこんな石重ねただけの建物が何百年も前から存在するって思うと考え深いかもな」
俺達が率直なこの神殿のような建物の感想を言い合って、大体話が出尽くして会話が途切れた頃にリルは口を開いた。
「ここはアストカン神殿と言います。建築されてからおよそ“9000年”が経つでしょうか…いえ…もっとでしょうか…」
「は?」
「きゅっ…キュウセンネン?」
「ちょ…それはあり得ないわ! 9千年もの間雨風の風化に晒されてこれだけキレイに残るなんて有り得ないわよ! 大体この島には島民と呼べる存在なんて居ないのだし維持だってできっこない」
俺達はあまりにも突拍子も無い数字に信じる事なんて出来なかった。
「それほど珍しいのでしょうか? あり得ないと申されましても…9000年前にアストリア王国に建築されましたところをこの目にしているのです」
「はぇ?」
「…」
「かっ、からかってる?」
「からかってなどおりません。この希望も夢も無い孤独な島でアストカン神殿はラピス様と共に…この9000年の長きにわたって救世主様をお待ちしていたのです。」
リルの嘘偽りなど有りはしないという強い視線をヴィエラーヤに向けた。
だとしても9千年もの間生きてるって…どういうことだ?
それは人なのか?
「リル…君は一体」
その問いには答えない。
静かに前に向き直ると、下に伸びる長く先が見えない程の階段に足を踏み入れた。
結構歩いた事からもうここは地下なのかもしれない。方向的には火山の中に入っているかもな。
…この調子だと確実に入るだろう。
「わぁっ…キレイです…宝石なんて初めて見ました!」
「凄いな…水晶って感じだが…こんなにキレイだなんて初めて知った…それにしてもこの光ってる石とかコケか? 見たことも聞いたこともないな…」
「全く…気を抜くなっていったのはどこの誰よ…」
階段はなおも深く下へ伸びる。また戻ることを考えると億劫になるが…
「火山の中って言うのもあるのかもしれないな。宝石とかって火山活動によるものだろ? たしか」
「あぁ~ 学校で習ったような気もしなくも無い」
先程の神殿のようにキレイな道ではない。人と人とがギリギリ行き交えれる程の道幅。水の滴る天井は俺がもう少し身長が高かったら擦っていたかもしれない。要するにそこまで高くない。
1.7m…気持ちもうちょっと高いくらいだ。
どっかの洞窟や坑道に近い様子だ。
桜の言うように所々に売り払えば一生遊べるだけの価値があるであろう宝石の原石が生えるように点在している。
中には紫色やピンク、白色に赤色に自ら発光する宝石やコケのようなものも見受けられる。
そのため日が差すことの無いこの地中深くでも、視界が無くなると言うことには今のところなってはいない。
「こんなところにラピス様って言うのは居るのか?」
「…はい。もうすぐです。そこでラピス様が…眠られています」
やがて階段の終わりがやっと来た。
「この先か?」
俺達がたどり着いたのは洞窟の先にあるとは思えない重厚かつ華美な装飾は無いものの気品ある…おしゃれ? な両開きの扉だった。
言葉は無いがリルは首を縦に振る。
扉に鍵でもかかっているのか鍵穴のような場所に人差し指を近づけ、その指先が小さく動く。
(アンロック)
「っ!?」
「っ…」
「魔法っ!?」
一瞬遅れて動いた指先をなぞるように光り輝く模様が空中に浮かび上がり、吸い込まれるように扉へ消えていく。
「お、おい今の…」
ガチャリと重苦しい音を響かせながら、両扉は開かれる。
中は暗くてよく見えない。
「…この中にラピス様が眠っておられます…。救世主様方。姫様の存在は…“いかなる者”にも他言無用でお願いいたします」
いかなる者。その言葉が彼女の中でとても強調されているような気がした。
どういう意味だ?
素直に俺達以外…には話さなければ良いのだろうが…
「あぁ。問題ないよ。そもそも口を滑らす相手がいないんだからな」
ゆっくりとリルは首を振る。
「理由は後でお話しします。しかし、これだけは知っておいて下さい」
「?」
「この先…近いうちにまた何人もあなた方と同じようにこの島に迷い込んでしまうことになるでしょう…この地下通路。そしてラピス様の眠るこの部屋…ラピス様の存在そのものを秘匿として頂くことを確約して下さい」
「ラピス様ってのはそんなに特殊な存在なのか? 何千年も生きている事ならば確かにそれは特異…と言わざる負えないが…」
これは違うんだろう。俺は心のどこかでそんな浅はかで単純な理由ではないのだと思っていた。
そもそもなぜ何千年も眠らなければならないのか?
なぜこんな絶海の孤島で孤独に眠らなければならない?
「…正直なところそこまでして重大な秘密を知りたいというわけじゃないんだ。別にそれを知らなくても、俺達の目的は元の居場所に生きて帰ること。それだけだ」
「それでは尚更、誓っていただかなくてはなりません。ラピス様を救われなければ元の世界への帰還という目的は果たすことができないのですから」
「どういう意味だ? 返答によっては敵対の言葉となることはわかっているな?」
「脅迫も脅したつもりもありません。純粋にラピス様にしか世界を越え“させる”と言う偉業は成し得ないのです」
「私達がこの島に来たのもラピス様ってのが原因なのかしら? こんな化け物ばかりいて毎晩命からがら過ごさせて、仕舞には三日生き残った力があるなら助けて下さい? 正気の沙汰じゃ無いわ」
ヴィエラーヤが憎しみを込めた目でリルを睨みつける。
確かにそうだ。俺にも…俺達にはこの島で失ったものが多すぎる。
部隊のみんな…倉木…工藤…。
そいつらのことを思うと目の前のリルやラピス様って言うものに思うところが無いわけではない。
────なのだが…
「俺の目的はただ1つ。彼女…倉木桜を守り俺達の居た日本へ送り届ける。リル、ラピス様って言うのはそれが可能なのか? それが確約されるのか?」
しばしの沈黙があった。
決してリルが動揺し言葉が遅れたのではない。
新城の真っ直ぐな視線がリルへ突き刺さった。
“あぁ…本当に救世主”
なのだと…待ちに待った救世主様なのだと。
久しく光を浴びなかった冷たく乾ききったリルの心を…一筋の光が一新する。
【リル…救世主を…お願い…】
昔の記憶だった。
ラピス様との最後の記憶。そうだ…
何で彼らをラピス様の救世主様と確信できるのか。
それはリルにもわからなかった。
だが…誰かを救いたい。救わなきゃいけない。助けたい。助けなきゃいけない。
そんな想いを決意した者の目をリルは思い出した。
「ラピス様に不可能はないのですっ!」




