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銃と少女と魔法の島  作者: 芳賀勢斗
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【1日目】忘却の島

カモメの鳴き声が鳴り止まない砂浜に俺は居た。


「こちら01(ゼロイチ)、応答求む。繰り返す───…」


無線機の先にいるだれかに虚しく語りかけ続けて入るが、返答はない。

戦術端末のGPSで位置を確認しようにも、味方の位置おろか自身の居場所さえも不明。壊れては無さそうだが…地球上で衛星が近くにないなんて事はあるのだろうか? かりにも全地球測位システムと歌ってるGPS。故障以外に原因があるのか?


自衛隊のネットワークから完全に離れた状況に俺はかなり焦りを感じた。


こんな状況下でもまだ正気を保てている訳だが、それはあの地獄のようなサバイバル訓練のおかげかもしれない。

まさに孤立無援のこの状況下で何をしどう生き延びるか。

それを、たたき込まれ得た知識がまだ俺の心を支えている。


「現状確保できてるのは水5リットル、パック飯が10個と、缶詰が20個か…」


腹だけならかなり耐えれそうだが、水が心許ない。

水と言うのは人間にとってかなり重要で、水だけで1週間耐えれるほど過酷な環境では貴重な存在だ。食べないで過ごすというのは可能だが、飲まずに耐え抜くというのはそう長くは続かず数日で天からのお迎えが来てしまう。


「当面は水の確保だな」


なんとかなる。そう自身に言い聞かせながら重い腰を上げ視点を真っ青でキレイな青空から緑色でうっそうとしたジャングルへ変えた。


食糧満載の大きなリュックを背負い直し、手には無骨で重く硬い89式小銃を携え俺は一歩を踏み出した。


なんでこんな事になったかって?


そんなこと俺の後ろで燃えてるそいつを見ればわかるが…


そこには機首から砂浜にめり込むように墜落したC-1が俺を見つめていた。


俺は仲間30人と降下訓練で飛行中、突然ミサイルアラートが鳴り響きその後激しい急旋回をしたまでは記憶にある。

言っておきたいのは我が国日本はどことも戦争状態にはなかったし、そういう緊張状態でもなかった。


俺達も単なる訓練で予定と違うアラートに戸惑いはしたが、何かの抜き打ち的な何かと思った直後、窓の外で明るい火の玉、フレアが一瞬見えて肝が冷えた。

 

ヘッドセットからパイロット達の戸惑った声が聞こえ不安が増す。


《ど、どういう事だ! こんなの予定には無いぞ!》


《そんなこと言っている場合かっ! 回避行動を続けろ!》


中型輸送機C-1、90°バンクからの急旋回ができる高機動力が売りだが所詮鈍足で大きい輸送機だ。現代の対空ミサイルが見失うはずも無く俺達は落とされた。


俺はそう思ってる。

思っているというのは記憶が無いからそうとしか言えないと言うことだ。


気づけば俺はこの島の上でパラシュートを開き降下している途中だった。

眼下ではすでに墜落したC-1が燃えていて、機体は主翼を中心に炎上していたが、その翼自体は胴体と分断され、胴体自体は少し煙が出ていた程度だった。


しかし、機首は完全に潰れ、機体自体かなり衝撃でひしゃげている。俺みたいに偶然機外に放り出され、たまたまパラシュートが開きでもしなければ、あの機体に乗っていた奴らは助からない。


ゆっくりと降りていく中でそんなことを思っていた。


上空でさっと見渡した結果、この島は結構小さく、海底火山がそのまま盛り上がりできた島のような見た目だった。


火山を中心に深いジャングルが生い茂り、周りを砂浜が覆っている。島の反対側には砂浜のかわりに、火山から流れ出た溶岩で岩の海岸になっている。


恐竜でも出て来そうな面持ちだった。


高度が下がるにつれて島の詳細が明らかになってきた。

森にはわずかに道のようなものが確認され、たどると人工物…建物のようなものが見られた。

人が居た、もしくは居る形跡はあるようで、火山の中腹にはローマを感じさせる白い神殿…遺跡のような建物も見えた。


無事着地した俺はまず、C-1に向かい状況を確認する。

1人1人脈を確認していくが、脈を見るまでも無い無残な遺体も数多かった。

着地の衝撃で内臓をやられたのか穴という穴から血が出ていたり、体が変な方向に曲がっていたり。

かつての仲間達とも思い出が、遺体を見るたびに湧き上がってくる。風呂でバカしたり炎天下の中一緒に走り続けたり、連帯責任で腕立てをバカみたいにしたり。


グッと来るものを押さえ込み、荒れた機内を歩き回る。


不意に近くで物音が聞こえた。


「たっ! 隊長!」


そこには血だらけの隊長が力無く椅子にもたれかかっていた。


「その声は…スバル…か…」


今にも途絶えそうなか細い声に俺は悟る。手当を急いでいた手もピクッと止まってしまった。


「スバル…生きろ…!」


虚空を見つめる隊長は俺に「生きろ」と言葉を残し、1滴の涙と共に静かに息を引き取った。


別れは唐突に訪れる。良く聞くフレーズだったが実際に目の当たりにして強く痛感した俺だったが、俺は自衛隊員であり、ましてや《第1空挺団員》。最後の一兵になろうとも任務を遂行し達成する。


隊長に怒鳴られ続けてきたこの言葉を強く言い聞かせながら、隊長の手をそっと置いた。









やはり生存者は俺だけのようだった。

死んでいった仲間達の食糧武器弾薬、わずかな燃料を持てるだけリュックに詰め込みその場をあとにした。

使えそうな装備はたくさんあったが、さすがに無反動砲や軽、重機関銃類は運ぶことはできない。

 

かと言ってこの機内も安全というわけでは無い。いつ爆発してもおかしくはないのだ。

何が起きるかわからないこの状況下でこれら重火力装備を失うわけにはいかないため、近くに穴を掘りそこへ全部隠して置いた。


埋葬はもう少し待って欲しい。

きっと彼らもわかってくれると願いながら敬礼をしてC-1をあとにした。








ここが敵地ならもう敵兵が群がっていてもおかしくないがそれが無いと言うことは敵兵か居ないという可能性は否定はできないが確率は低い。

そもそもここがどこかはわからないがこの島自体戦略的価値があるようには思えない。

滑走路を満足に作れる地形には見えないし、大型船が近づけるほど深い海でも無かろう。


が、万が一というのは怖いもので重くかさばる89式小銃をおいていく勇気は無かった。


「なんだか日本の植生のそれとは違うような気がするな…東南の方のジャングルに似ている? そもそも習志野でいつも通りの降下訓練しに移動している最中になぜ落とされた? あのミサイルはどこから? 日本の近くにこんな島あったか?」


一旦落ち着くと疑問があふれ出てくるわけで混乱してくる。

習志野駐屯地からC-1の短い航続距離でまさか東南アジアまで来れるはずも無いし、ハワイなんかも考えなくてもわかる。


小笠原諸島なら砂浜からでも他の島が見えるはずだが、あいにくこの島は絶海の孤島だ。泳いで渡れる島なんか存在しない。


訳がわからない。


文明圏から隔離されたようなこの島に嫌な感じを覚えながらもジャングルの奥へと進んだ。


動物たちの鳴き声が聞いたことのあるものから無いものまでたくさん聞こえてくる。近くを鹿クラスの動物が走り去る事もあった。



「熊と鉢合わせたら89式小銃(こいつ)でどうこうなるとは思えないんだが…数撃つしか無いよなぁ」


野生動物との戦闘を考えると、5.56mm弾を使う89式より7.62mm弾を使う64式の方が良いが…

無い物ねだりしても仕方が無い。


弾薬は戦闘が無ければまだ余裕があるが、無駄にもできない。

使う場面はよく考えないとな


遅くても数日でC-1が撃墜された事を受けた自衛隊がこの辺りに偵察機なり救難機を回すだろう。砂浜にあれだけ盛大にC-1が落ちているんだからきっと見つけてくれる。それにここには照明弾も発煙弾もある。自分の存在を知らせるには充分だ。

そう信じて水場を探す俺だった。



いつでも発砲できるようにしっかりとグリップを握り、銃口はやや前方斜め下を向くように構え慎重に奥へ進んでいく。


頭上ではサルかリスかわからないが木から木へと飛び渡っている。

この森へ入ってからと言うもの何かの視線が向いているような議して落ち着かない。この動物達なら話は早いがそれ以外の場合少々やっかいごとになる。


それにしても…


「暑い…38℃ってところか? 湿度もだいぶ高い…」


汗が乾かずべっとりと肌と戦闘服を密着させる。

ヘルメットの中も蒸して、額から汗が滴り続けている。

早々に水が無くなりそうだと思いながらも飲み水を口にする。


腕をまくろうにも、見たこともないような虫がうじゃうじゃ見受けられて、毒のことを考えると肌を晒すのは得策じゃ無い。



我慢。



他に手はなかった。


こうして歩き続けること2時間。

当てもなく歩き続けてたわけでも無いが目的の場所は未だたどり着けない状況。

日はまだ昇っていそうだが、暗くなる前にこの森は抜けたい。


「道を間違ったか…?」


目指すは数少ない文明の形跡。空から確認できた遺跡や建物だ。

どの文明も水のあるところに成り立つってもんで、それを期待して森へ入ったわけだが、そこにたどり着けなければ本末転倒だ…


手元のコンパスはクルクルと当てにならない。地磁気が狂っているのか…太陽の方向と自分の感で前へ進む。


歩いている中でマラリアやその他感染症のリスクに少し不安になるが、気をつけようが無いだけにあっさり割り切れることができた。

そもそもマラリアって人が居てなんぼの感染症で、こんな人の居ないところでは存在しないって可能性の方が高いのか?


確証は無いが前向きな思考で居る方が良いだろう。






そこから20分は歩いただろうか。

突然森が若干開けたところに出る。

条件反射的に素早く身を隠そうと木の陰に移動し、辺りを確認したが異常は無い。


「あれは…石のモニュメントか?」


四角く切り出された石材がブロックのように縦積みされていた。

それが2本、高さは5メートル程だろうか? 広場のほぼ中央にそびえ立っている。


門か何かにも見えた。


「道は間違ってなかったのかもしれない…」


一瞬安堵するが、すぐに気持ちを切り替えて全身を続ける。

人影は無いが、先程からのなんだが妙な感じは依然続いている。


ひとまず石のモニュメントまで前進しさらに奥を確認する。


「あった…村だ」


人の気配は無いが、物々しい雰囲気にさすがの俺も足がすくんだ。

何故なら…




人骨が飾られているんだ…




緊張が最高潮に達し、銃を握る手が強張る。


薬室に実包が送り込まれているのを確認し前進する。

視界に入る全ての箇所に注意を払い、ゆっくりと村へ入っていく。

村に生活感は無く、数十年、下手すれば100年ほど無人だったかもしれないほど荒れ果てている。

石積みの住居は壁は残って入るがツタやコケで覆われていて、屋根は無い。屋根は植物で作られていた。そんな感じか


一件建物に入ってみたが、風化した頭蓋骨やらが無造作に散らばっている。

どの建物も似たような作りで、内部の様子も同様に風化した人骨が転がっていた。


「何か動物にやられたか、感染症か…いやまて」


どの骨も折れた…? いやこの骨は引っかかれたあとがある。

この頭蓋骨には歯形がくっきりと残っている?


「でもこの歯形…」


《タスケテ》


「っ!?」


心臓が止まる感覚があった。全身から冷や汗が噴き出す。

突然耳元でささやかれたような気がして、慌てて振り向き銃を向けるッ!











…だがそこには誰も居なかった


「だっ…誰か居るのかぁ!」


呼吸も荒く全身に鳥肌が立ってる。

訓練は実戦のように、実戦は訓練のようにと言う言葉はあるが、俺達は実戦の経験は無い。訓練を実戦のように日々高めてきたつもりだったが、訓練と実戦では根本的に違うものがある。

その差が今俺の中に渦巻いている恐怖心を増長させる。


不気味すぎる。正直怖い。

確かに聞こえた少女の声。熱中症で幻聴を聞いたか?

いや、そんな感じでは無いような気がする。気配だって感じた。

吐息すら感じたほどだ。


しばらく頭と心の整理のため休憩をしたあと、周囲の確認を再開することに決めた。

目的は水源を見つけること。それはまだ達成されていない。


「ほんと勘弁してくれ」


先程の少女の声に弱音を吐きながらも村のクリアリング兼水源探しを行う。


どんなに訓練された歴戦の兵士でも、恐れるものはみな「幽霊、おばけ、ゴースト」とかをあげる。

相手が生き物であれば銃を撃ては倒せるのだ。だが幽霊の類はどんなに訓練しようと倒すことはできない。


俺もそれ繋がりで幽霊は苦手で、無理に居ないと思い込ませている。


森へ入ってから感じる妙な視線と少女の声とが合わさって落ち着かない。

一旦落ち着けと自分に言い聞かせるように深呼吸する。

深い森だけあって空気は澄んでいて疲労した体に広がるような気がした。


改めて冷静に辺りを見渡すと、今まで聞こえなかった音がうっすらと届いていることに気付く。

それは紛れもない探し求めていたもの。

体が欲しているような気さえする。


「水だ!」


やや早歩きで音のする方へ急いだ。

草を掻き分け、一直線に向かう。

次第に足下は丸みを帯びた石が多くなっていき、コケ類も多くなっていく。


そして、ついに…


「あった!」


滝だ!

そこまで水量は無いが透き通る清水、滝壺で巻き上げられた水しぶきが火照った顔に吹き付けて自然と笑顔が作られた。


思わず水の中に頭を突っ込む。


冷たい水、乾いた体が一気に潤う感覚。こんなのレンジャー訓練以来だ。

今回は飲んでもいないのにこの有様。水も節約して歩き続けてて体ももう限界だったんだう。


さすがに生水をがぶ飲みする気にはならなかったが、こうして顔を突っ込むだけで気は軽くなった。

水に関しては心配いらなくなったことも大きい。


重いリュックから仲間からもらい受けた水筒を数本取りだし水に沈める。

コポコポコポコポと言う水の入る音一つ一つに喜びを感じ、悲しみのような感情が入り乱れる。

この小さな島で水を得た嬉しさ、仲間を失った悲しみ。そして自分だけ生き延びた罪悪感。


心に余裕が生まれると同時に、これら感情が湧いて渦巻く。


滲む視界を拭いながら抜けきった体にむち打って立ち上がる。


肺に溜まったよどんだ空気を吐き出すように長い深呼吸を1つ。


空はすでに赤みを帯び始め夜の到来を待ちわびている。



















そんな中…


この島の正体をまるで知らない俺が、この島に牙を突き立てられている事も知らずにくんだ水をリュックにつめる。













とある海上。



た…す、けて…


その声は波に紛れて静かに消えていった。

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