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異世界小説書こうと思ったら・・  作者: 希灯路(きひろ)
序章 『これは現実?夢の世界?』
4/6

第4話 「生きていく為に」

その日は異世界生活開始の初日と呼ぶべきだろうか、

ヤガミは準備を整えると一人の銀髪美少女に声をかける。

「シエラ、行くぞーー」

すると一人の銀髪美少女がヤガミの前に姿を現す。


「うっさいわね、急かさないで」

銀色の髪は頭部、上方で縛られ、まとまっている。

俗にいうポニーテールだ。

服装はファンタジー世界にありがちな魔導士風な可愛い服装と言うべきか。

動きやすさを求めつつ可愛さを無くさない。

「素晴らしい・・・」

思わず声に出すと、

「おっさん・・・ダマレ」

シエラは呆れた顔をし、だが少し嬉しそうだ。


地球での一日の生活の中、今のシエラは人間らしく見えた。

夢の中、というかたちでシエラは八神とともに地球で過ごしている。

その中で多くの俺の常識や価値観、世界観を学んでいたのか、自然と今のシエラを

受け入れられている自分が居た。


「半日で変わるものだな」

実際には1日半であるがこちらでの生活は半日しか経っていなかった。

眠りとともに二つの世界を行き来している、というのが今の認識でいいだろう。

こちらで眠りにつく怖さもまだ残っている。


当然のことながら向こうでも同じ怖さを消せずにはいられない。

これから何日も同じことが続いていけば解消されるのだろうか・・・。

不思議とそんな世界に疲労感はなかった。アーリアスのヤガミの中では夢、という感じ

なのだろうか、当然寝ていただけなので肉体的な疲労はない。

精神的にどうなのだろう、と思うが今のところ、問題はない。

これからこちらで何年も過ごせば、それは負荷となってくるかもしれない。

こちらの世界では魔物が出るし日常的に人の死を見ていくことになる、気がする。


「セイナーク」

ふ、とそれを呼び出し、何度か思うように振ってみる。

「これで俺も魔物ってのと闘えるかな?シエラは魔物も問題ないのか?」

と、後方にいたシエラに聞く。

「いまとなっては襲ってくるわね。

この森には多くの魔物を放っていたけど従属の影響か

今は私の支配から外れてる。数も多いし今頃、

森を出て暴れているかもしれないわね」

何か思いにふけるようにシエラは笑う。

「え・・?」

その言葉に一瞬、寒気を感じた。

「それってけっこう大惨事じゃ・・?」

振り返りシエラを見る。

「どうなのかしら・・?よくわからないわ」

淡々とシエラが言う。

不安の中、ヤガミは最悪の状況を思い浮かべ足を向ける。

「シエラ、魔物狩りだ!!」

ヤガミの様子を観察していたシエラも隣りへと足を進め、物語は始まった。

当面の目標はシエラから解放された魔物たちとこの世界の住人との

接敵による行方、間違いなくヤガミの起こした行動による不始末、

そう言うべきか悩むところだが・・・

出来る限り悲劇は見たくない。


とりあえず目的地は、この銀煙の森から南西へ行った先、

フィアーク王国の商業都市 シーアス。

一行は足を進める。早朝、シエラの架空のツヨーーーイお爺さんの

小屋を離れた二人は数時間は歩いている。

道中、魔物に遭遇すること数十回、ビクビクするヤガミをよそに

すべてシエラによりあっさりと淘汰されていった。

銀煙の森と呼ばれるこの森は、いわば上級者向けだった。

シエラは周囲の様子に目もくれず進み、ヤガミは変わらない風景、

木々の合間を周囲の音にビクビクしながら歩いていた。


「ん?」

ヤガミの視線の先に黒い大きな狼のようなものが映る。

黒い体毛に赤毛のトサカが目立つ。

「シエラ!」

同時にシエラは手の平をそれに向け銀炎ではない炎を放つ。

それは狼の頭部を直撃し、消し去った。


「まったく・・ハウンドくらい何とかしなさいよ」

言い放ちシエラは考え込む。

「このままじゃ、めんど・・じゃなくて良くないわ」

「めんど・・なんだって?」

「う・る・さ・い」

シュンとなるヤガミ。

「そういえばなんで銀色の炎は使わないんだ?」

とあっさり聞くヤガミ。

「あんたねぇ・・死にたいの?」

「へ?」

「私の正体を隠すために決まってるでしょーーが!!」

魂を司る銀の魔神、シエラはその名の示す通り銀色の炎を生み出す。

この銀炎は伝説になるほどの魔法で

それを無尽に放つシエラは恐怖の対象だそうな・・・。

「いま、使ってるのは人間の魔法の()()()ものよ」

「まぁ・・いいわ、次からヤガミがやんなさい」

「は?」

「は? じゃないわよ。この世界で生きていくんでしょ!!

回復はしたげるから、一度やんなさいよ!」

流石はシエラさん、回復魔法的なものも使えるようで・・賢者的なヤツですか。

「よし!セイナーク!!」

ヤガミの右手より長剣が現れる。


「さて・・」

二人はしばらく進み。周囲を見渡すと先ほどの

ハウンドがさらに1頭、2頭、3,4,5,6,7,8、・・・

「シエラさん」

全部で10頭居た。思わずシエラに助けを求めるが・・・。

「集まってきたわね、行きなさい!サポートしたげるから」

と突き放された。

「マジ?」

「マ・ジ・よ」

そんな二人のやり取りの中、4頭のハウンドが迫ってくる。

覚悟を決め、ヤガミは走り出す。

迫ってくるハウンドから逃げるように・・・。

「むーーりーー」

と、涙を流すが・・後方から悲鳴が聞こえる。

「キャァァ・・」

シエラが襲われているようだ。

「シエラ!!」

ヤガミは振り向き、即座に動いていた。

4頭のハウンドはシエラを囲み、ここぞと威嚇し、牙を剥く。

ヤガミはその中には入らず、1頭に狙いを定め、セイナークを振り上げ、一閃する。

同時にハウンドの首は落ちた。


残った胴体を蹴り倒し、同時に一突き、ハウンドは後方へと飛び、残る2頭はシエラへと

襲い掛かる。

「シエラ!!」

振り返るとそこには満面の笑みのシエラが居た。

「いい感じね、がんばんなさい」

2頭のハウンドへの衝撃が瞬間、奔った。

一瞬で吹き飛ぶ2頭に、さらに6頭のハウンドが向かってくる。

ヤガミはそれを目の当たりにしながら後方へ飛んだハウンドへとさらに

足を進めセイナークを一閃させ、それは動かなくなる。


そして向かってくる6頭へと目を向け、

ナイフを放った。

小屋で見つけた投げナイフだった。ダーツは得意だった八神だが、これはいけるか、

と思いながら迫ってくるハウンドへと放つ。

それは見事にハウンドの眉間を捉え、さらに1本、1本、と4度、それを行い、

眉間、ハズレ、右目、体、と3体のハウンドは倒れ込む。

飛び掛かる1頭の攻撃を躱し、2頭のハウンドをセイナークで向かえ討つ。

「グガァァァ」

ハウンドの牙を避けつつ下方からセイナークを突き上げ、それを抜きながら、さらに迫りくる

ハウンドにセイナークを右から左へ一閃、後方へと飛ぶ。

同時に後方からはシエラにより最後の1頭が仕留められていた。


「プハアアアアアア・・・」

大きく深呼吸し、一連の自分の行動に驚きを隠せずにいた。

「俺って・・・」


後方のシエラが声をかける。

「体の記憶なのかしら・・・1,2頭いければいいと思ってたけど・・・」

11頭居たハウンドはシエラが4頭、ヤガミが7頭という戦果であった。

黒い血が落ちるセイナークの剣身にヤガミは今になって恐怖を感じた。

それは対峙する相手を殺す為の道具だと・・・。


『見事なり、主よ』

セイナークが語りかけてくる。

同時に心は平静へと変わる

セイナークの能力なのだろうか。不思議と落ち着きを取り戻す。


「シエラ、だましたなーー!!」

「なによ!!ああでもしなきゃ経験積めないんでしょ!!」

シエラが魔物に殺される、はずなんてないのだ。

ここまでの道中、俺は何を見てきた。

彼女の手により既に百体以上の魔物があっさりと消え去っている。

なにせ伝説とされる八魔神で本来、彼女の支配下にあった魔物たちなんだから。


「はぁ・・・しかし、思った以上に体が動くもんだな」

小説を書く八神は物事を多角的に立体的に見て、動きを文章にする。

難しいし、読者にはその動きに筆者とは違う動き方を想像させないように簡潔に明確に

文章をおこす。

そんな感覚だった。経験則と言えなくはない、思った通りのハウンドの動き、自分の行動。

それが見事に一致していた。

「まぁ・・なんとかなるものなんだな」


シエラを見るとこちらをジッと見ていた。

「なんだ?」

怪訝な顔のシエラに声をかける。

「まあ、いいわ。考えても仕方ないし・・初の魔物討伐おめでとうね」

と、さっさと先へと進む。


シエラによると思った以上に魔物たちはこの森を離れていないようだ。

これまでに倒した魔物の総数を考えるにすでに半数以上は倒しているとの事。


今どれだけの事が起こっているのだろうか。

彼女の手によるとあっさりとしたものであったが

本来はどうなのだろう。

いまヤガミの中での認識がシエラのみである故、

これが凄いことなのかまったくわからなかった。


その後も道中、何度も魔物と遭遇したが2人は無事に

銀煙の森を抜け街道へと着いた。

戦果としては208体の多種多様な魔物たち。

その中で上位の魔物であるデスバーネスと呼ばれる

真っ赤な熊と蠍のキメラのようなものと遭遇した時には

漏らしそうになったが、シエラの魔法により撃退された。

さすがにこの時、シエラは銀炎を使っていたが、

完全に周囲の危険がないかを念入りに確かめていた。


「ビビったぁ・・・」

街道で座り込み、思い出すだけで震えが体を支配する。

「あんなのは早々、遭遇しないわ。まぁ、私が連れてきたんだけど」

と、シエラがなだめる。


二人は街道を歩きだし、安全な道のりを確保した。

この街道はフィアーク王国、王都エレノーアと商業都市シーアスを結ぶ街道、

名をディーア街道と言うらしい。


国の管理下の街道だからなのだろう、道は整備され歩きやすかった。

街道沿いには所々に休憩するスペースも確保され休めるようだ。

さらにはこの街道には常時、フィアーク王国の騎士団が

街道を巡回し魔物を退治しているらしい。

それでも魔物が街道に近づくこともあるが、この街道を使う

冒険者だったり傭兵が退治している。

よほど運が悪ければ街道沿いで魔物に襲われることもあるそうだ。


そしてヤガミもここでたくさんの人たちを見かけることができた。

行商人や旅人、冒険者?、豪華な馬車に乗った貴族?、など目にすることができた。

今まずするべきことは情報の収集だろう。

耳を凝らし周囲の人たちの声を静かに聞く。

「昨夜、王都方面で魔物がでたらしい・・」

「ルーテシア騎士団が討伐したってよ・・」

「ディーアの守護神様さすがだなぁ・・」

「銀煙の森から来てるんじゃないかって報告があったらしいぞ」

「あそこかぁ。。最近、名のある冒険者があそこから帰ってない」

「本当らしい。ギルドで報告があった」

等々・・

しばらく経ち、いろいろと分かってきた。

「特に問題はない・・のかな」

ホッと気が楽になる。

「ミッションコンプリート!!」

心の中での解決と自分で祝う。

正直、被害者とか居たら不可抗力とはいえ気が重くなる。

「ルーテシア騎士団ありがとう!!」

再度、心の中で感謝。


シエラはというと、その間、静かに周囲を窺う。

そしてヤガミの視線に気付くと駆け寄ってくる。

「車があれば最高だったわね」

シエラは言う。

「まったく、ああいうのはこの世界には無いのか?」

とヤガミ。

「魔力で動くものならあるかもね、重さを軽くして・・ようやく動くかどうか?」

と、シエラ。続けて

「まぁ、幻獣や召喚獣なんかを使役すればあれより早いわね。空も飛べるし!」

「やっぱり、そういうのも居るのか・・・」

情報の交換をしつつ、二人は歩き続けた。

シエラは何故か不満そうだった。


小屋を出てすでに8時間は経っただろうか。

ようやく目的地のシーアスに着いた。

商業都市シーアス。フィアーク王国の経済を司る、その街は王の弟にあたる

王弟ランサーク・フィアークが統治する都市であった。

当然のごとく都市と言ってもビルが建っているわけではなく、

石材の城が中央に、さらには石材の家々が中央周辺にあり、

その外側を木材で作った家々があり、その道筋には露店がいくつもあった。


街の周囲には石材により城壁が囲み、安全を確保しているようだ。

露店には武器、鎧、盾、衣服に装飾品、食べ物だったり、と様々である。

城壁の周囲は堀となっており、城門を通り、中に入っていくようだ。

二人は城門の前で休憩を取りながら観察を続けている。

城門には兵が居たが特に持ち物を検査されるなんて事はない様だ。


また、身分を示すようなものも掲示するシステムも無さげ、

たまに兵士が話しかけている人も居たが問題なく入っている。

「ふーむ・・問題なさそうだな。シエラ行くよ」

城門を通る際のある程度の情報を収集し、特別なものはないと判断できる。


緊張しながら二人は城門をくぐり、これといった問題も起こることなく、

ヤガミは異世界に来て初めての文化に触れるのであった。


大きな道の左右には露店がたくさんあった。道行く人々は人間ばかりであった。

ここに来る際も気付いていたが多種多様な人種、エルフ、ドワーフ、亜人といった類の

人たちは見ることはなかった。

「TVでやってたデミ・ヒューマンだっけ?

こんな田舎の国じゃ迫害対象になるわ、居ないわよ」

と、シエラ。

「そか・・」

シエラさん・・・地球での事、めっさ勉強してるな。

うかつなことは言えないな・・・

なんて思ったが口には出さなかった。

「さて・・」

周囲を見渡し期待の中、最初の行動は食事だった。


これまで携帯食ばかり食べてきたから当然だろう。

また至極当然にシエラは料理なんてするわけがない。

そもそも彼女は本来、食事を必要とはしなかったわけだが・・・。

シエラさんの言うには魔族は食事という行為は出来るし

消化器官もあるそうだが、食べなくてもまったく問題ないそうで、

あくまで魔族個人での嗜好が左右されるそうな。


羨ましいとは思わないが危機的状況に陥った時は助かる、と言えよう。

なお、魔物の肉は毒性が強く食べれないそうだ。

時間をかけて毒抜きすることは出来るそうだが、

食感、味ともに食べれたものではなく栄養といったものもないそうで。


「うっほ、これめっさうっめー」

露店での食事を満喫しているヤガミの笑顔に思わずシエラは笑ってしまう。

「ははは、それゴリラじゃん」

なんて地球の言い方をしてしまう。

「ほんと、よく覚えてるな。シエラは」

「そうね、面白かったわよ今夜も楽しみね」

と、先に歩いていくシエラ。


シエラも串に刺さった鶏肉のようなものを頬張る。

「さてさて、これからどうしたものか・・」

現状においてするべきことは終わり、

特に何をすればいいのかも分からない。

この世界においての当たり前な常識すら分からない二人だった。

周囲を見渡しても分かることは無かった、

さらにはシエラという爆弾を抱えての迂闊な情報収集の危険性もある。


「参ったねぇ・・」

、とここでありがちなことが起こる。


「やめてください、離して!!いやぁ!!」

大通りから外れた小道から聞こえる女性の悲鳴。

ヤガミはすかさず声の聞こえるほうへと走っていく。


シエラはというと興味なく、設備されているベンチに腰掛ける。

「なにかしら・・ちょっとイラッとするわ」


そしてヤガミはそこに到着する。

ここでヤガミは驚きの中、声の主へとたどり着いた。

「お嬢さん、大丈夫ですか・・・っと。。えぇぇぇええぇぇぇ!!真実ちゃん!!」

四人の男たちに囲まれている女性の顔は真実と瓜二つであった。

身体の線がよくわかる服装に外套を纏った真実。

ありえない現状に戸惑うヤガミ。


当の真実にそっくりな女の子も場違いな言葉を返す。

「なんで私の名前知ってるんですか!!誰??あなた!!!」

さらにつづけ

「って、助けなさいよ!!」

さらには、

「手を離せ!!この毛むくじゃら!!」

と拳を男の一人に放ち、同時に背後の男へ裏拳、左右の男ののどに手刀を入れ男たちは

一瞬でうずくまる。


「・・・・・」

唖然とするヤガミ。

「助けとか必要なくね?」

と一言。


数秒でのイベント消化。

なんて思ってる場合じゃなかった。

地球での八神広樹の後輩でレストランでウェイトレスをしている山名真実。

彼女によく似た女性にヤガミは出会ったのだった。

「お兄さん、名前は??なんで私の名前知ってるの??」

女性は即座にヤガミへと問答を始めてきた。

「あ・・ヤガミです。えっと・・・知り合いのウェイトレスをしてる女の子に

そっくりで、その子の名前が山名 真実って言うので・・つい」

他人行儀・・・というか、あまりにも鮮やかな4人討ちに怯えているヤガミ。

自身が隠すべきか迷っている異世界人を思わせるワードも口に出す始末。

「ウェイトレス??・・・え?ヤガミさんは私を助けに来てくれたの?」

と、女性。

「そうですね、悲鳴というか声が聞こえたので・・・助けようと、走ってきました」

しどろもどろに答えるヤガミ。

「そ、ありがとね。で、知人に瓜二つの私に驚いて硬直してた、と」

「はい、すみません」

周囲に沈黙が生まれる。

「ふふ・・あははは。センパイだぁ~~」

女性は突然、ヤガミへと抱き着いてきた。

服が薄いからかわずかな胸の感触がヤガミを襲う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・えええええええええええええええええ!!!!!!!」


「やっぱり・・・」

椅子に腰掛けたシエラはうつむき、そう呟いていた。


山名真実は普通の女の子であった。胸こそ小さいが愛嬌ある性格。

うっすら茶髪がかった髪は柔らかそうで、

仕事に対して真面目に向き合う子だった。

そんな彼女に仕事を教えながら、当時の八神は大きく年の離れた胸こそ小さかった

真実に少しづつ心動かされていった。

だが、1年と経ったとき社内での部署異動が行われ、

それから数カ月の後、会社を辞めていった。

その数ヶ月の間、部署の変わった彼女の相談に乗っていた八神は事情を聞かされていた。

新しい部署にやりがいを感じれなく、元の部署に戻してほしいと上役に相談したが却下され、

悶々と月日を経過し、退社の決意へと進んでいったそうだ。

退社後もメールで何度もやり取りし、いろいろと聞かされていた。


そんな中、八神は真実に告白をし玉砕していたりもするが・・それは別のお話し。


そんな彼女であったがその後も普通にメールでやり取りをしていたがいつしか、

互いに距離を置き、時が経ちレストランでの再会へと至るのであった。

「胸、小さくてスミマセンネ」


「ってわけだ、シエラ」

ヤガミの説明にうんざりしつつ話を聞くシエラ。

「そんな気はしてたけど・・・」

つづけて

「あなた、レストランで私が見えてたわね?」

とマミに問う。


ここは宿屋の一室である。

マミの泊まっていた宿に二人は泊まることになり現在へと至る。

信じられなかったが、マミは山名真実、その人だったのだ。

しかも、この世界に来たのは八神よりも2ヵ月くらい早く来ていたそうだ。

状況としては八神と同じで、ある日、眠りにつき、この世界へ。


だがヤガミとは違い、容姿は、小さな胸の真実のままだった。

たまたま出会った傭兵に事情を話すと理解を示し、闘い方、この世界の事、

生き方などを事細かに教えられ、現在へと至る。

身体能力はヤガミ同様高くなっており、胸こそ変わらないが、持ち前の吸収力で1ヵ月で

ある程度の事は頭に入れ、その傭兵と別れ、ここシーアスへと旅を続けて来たそうだ。

なお、4人組に襲われていた時は

「カッコいい人が助けに来ないかなー」程度の考えだったそうだ。




「見間違いと思ってたけど・・・見えてました」

先ほどの問いに答えるマミ。

「やっぱり・・!!でも・・・どういうこと・・・こんなこと・・・」

考え込みシエラはそれ以上話すことはなかった。


ここ、マミの部屋に来る前にシエラとは密談を済ませていた。

八神の知り合いとはいえ、自分の存在を知られれば、安全とは限らない。

というシエラの意見を尊重し、あくまでシエラはこの世界で初めて会った魔導士で

シエラ自身、辺境での暮らしの中で常識を多くは知らない、という設定とする。

との互いに確認を済ませての現在だった。


「私以外にもこんな事になる人がいるなんて驚きました」

まったく同意であった。自分以外にも地球からこの世界に来てる人が居るなんて、

しかも・・知人である。

「マミちゃん、いろいろ教えてくれ」

両手を顔の前で合わせ頼むヤガミ。

「いいですよ、昔と逆になってますね」

と笑顔で受け応えるマミ。


世界の名はアーリアス、6つの大陸に海底神殿、空中都市、さらに別次元世界として

天界、魔界があると言われている。

暦はアーリアス歴1358年、7月19日。


この世界にはきちんとした身分を明かすものはない。

大きな国家では義務付けているが小さな国家、しかも辺境ともなれば

義務はなく、基本的には出身地で意思の疎通は叶う。

また、世界各地に点在する中立都市によって身分は作れた。

ギルドや協会、商会など中立都市によって、

すべての国家、組織にはその独自のシステムが生きていた。



「冒険者ギルド」

言わずと知れた国家にも属さぬ完全な中立的存在。

国家間の争いには絶対に関与せず、それを破ったものには

相応の償いが待っている。という組織だ。

この関係からすべての国家への自由な出入り権限を持っている。


「魔導ギルド」

魔法、召喚術、魔術、など多種多彩な魔力を用いた技を極めたい者が集う。

その蓄積された技術は計り知れないほどの量で

資質を見極め、金額をもって各国へとメンバーを派遣することもある。

こちらも当然の如く、国家間戦闘への参加行為は完全に禁止されており、

国家レベルでの魔物の討伐のみメンバーを派遣する。


「鍛冶ギルド」

鍛冶の技を極めたい者が集うギルド。

武器、防具などオーダーメイドで個人間での契約により取引をする。

その技を極めた者は名工と呼ばれ、国家間での軍事バランスを崩しかねないほど

強力な鍛冶師もおり、伝説の名工と呼ばれる。


「商会ギルド」

商業、商いによって国家への商売も許される組織。

メンバーは各々、商会に参加、自分で立ち上げることも出来る。

大きな商会ともなると国家間での戦闘に巻き込まれることもあるが

基本的に商会独自の判断によって承認されている。


「魔工ギルド」

魔工師、魔法師、薬師など魔力を伴う物品、薬、結界などを学ぶギルド。

非常に目立たないが、確実に必要不可欠な後年、無くなることは無い知識を持てる組織。

ギルドにて国家からの依頼を受け、仕事をこなす。公務員のようなものである。


「傭兵協会」

言わずと知れた武闘派集団である。国家間での戦争にも金額によって参加し、

実力のあるものは国家よりスカウトも自由。

冒険者と同レベルの自由を持つが敵対した国家からは狙われる事もある。

このアーリアスという世界においては最も実力が左右される組織である。


他にも様々なギルドがあった。

とりあえずはこれらのものを理解しておけば問題ないとの事だった。

そして、このマミもまた、傭兵協会に所属しているそうだ。


「国家間の戦闘の自由とか怖くないのか?」

と説明を聞き終えたヤガミは聞く。

「ダイジョブだよー、参加する自由もあれば拒否する自由もあるしー、

いざというとき、自分の判断で決めれるから、冒険者みたいなリスクも無し。

責任は重いけど、自分の判断を信じて進めばいい」

「って、エルも言ってた」

と、明るく答えるマミ。

「確かに・・判断を誤った時、冒険者ギルドは怖いな・・・・。

・・・ん?エルって??」

考え込むなか、フッ・・湧き出た名前に反応を示す。

「エルは私にいろいろ教えてくれた人だよ、すっごい強いの!!

大きな剣で魔物をバッサバッサと斬り倒していくんだから!!」


このとき、シエラをよく見ていたら気付いただろう。

「エル」という名前を聞いたとき、その表情は鬼気迫るものがあった。

だが、俺もマミも気付けなかった。

「闘神・・・」

ボソッと言ったシエラであった。



「シエラ?帰るよ??」

どれくらいの時間がシエラの中で過ぎたのだろうか。

「え?話しは終わったの??」

シエラの顔を見て驚くヤガミ。

「ダイジョブか?顔色悪いぞ」

と額に手を当てる。

青白い顔同様にシエラの額は冷めきっていた。

すぐさま、ヤガミの手を払いのけるとシエラは立ち上がり歩き出す。

「ほんとにダイジョブか??」

「ダイジョブよ・・」


そんな中、マミとシエラは互いに目を合わしていたことに俺は気付かなかった。

戸を開け二人は歩いて行く。

ヤガミはシエラを心配し何度も声をかけるが

シエラは「ダイジョブよ」の一点張り。

シエラの部屋の戸をヤガミが開け、シエラを見送る。

「今日はあっちには行けそうにないから、ゆっくりしなさい」

戸が閉まりシエラは部屋の外に向かいそう言った。

残されたヤガミは一人、隣の自分の部屋へと戻った。


その部屋は寝具、手洗い場、大きめの机に4つの椅子、他には何もなかった。

ふ、と窓の外を見てみるといくつか人影がわかる。

そして視線を隣へと移すと明りが見える。シエラの部屋である。

机の上にある燭台に火を灯せば、まあ、それなりに明るかった。

空には星々が輝き、二つの満月が見えた。

「ゆっくり・・・か」

シエラの言葉が思い出される。

妙に落ち着いている自分がいる。同じ境遇の人、それも知り合いと出会った。

奇跡的な話、それ以上とも思う。

「真実ちゃんが・・俺と同じ・・・・」

マミの姿を思い返すたびに感情がヤガミを満たす。

ヤガミは高ぶりを抑えきれず寝具へと入り、事を済ませ眠った。

「ハァハァ・・・」

罪悪感を覚えつつ意識が奪われる。

アーリアスという世界を知り、俺は一歩踏み出した。


「生きていく為に」

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