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「あー。やっと終わった……」
授業終了のチャイムが鳴ると同時に机に突っ伏す。授業とはどうしてこうも長く感じるのだろう。たかが1時間、されど1時間。これまでの人生で1番長く感じたのではないかと考えるが、しかしそれは毎回思うことである。
いかにも気怠そうな顔、やや茶色がかったボサボサの髪で突っ伏している少年、槻代恭祐。今日の授業を終え疲労MAXである。出来ることなら勉強したくない。いや、学校すら来たくない。学生誰もがそう思うが、恭祐も考えることは同様、ごく平凡な高校生である。
「こんなん学んで何かのためになんのかねぇ」
本日最後の授業は歴史。各机にはモニターが設置されており、画面には歴史上の人物が映し出されている。授業はモニターを見ながら教師の話を聞き、必要事項を入力していく形式となっており、学校によっては教育形式は異なるようで、現在も教科書を使った教育をしているところもある。
くだらない。
教科書に載っていることが真実と言い張り、それを覚えるだけの教育など何の意味があるのか。時代が変われば歴史も変わる。都合よく解釈され、時には改変された歴史、そんなもの、作り話と何ら変わらない。いくら歴史を学ぼうが、同じ過ちは繰り返される。それが人間である。
(馬鹿らし……)
教室を見渡すと、帰宅準備をする生徒や教室に残り友人と駄弁る生徒でがやついている。自分も帰ろうと立ち上がる。と、肩に軽い衝撃。
「何一人で耽ってんだ?」
聞き覚えのある声に振り返る。頭にはヘッドバンド、茶髪でワイシャツのボタンを外したチャラい男が立っていた。
「黄昏れてどうしたんだ? 考え事か?」
話しかけてきたのは高校1年からの友人、神宮東。チャラい見た目をしているが人懐っこく、校内でも友人は多い。
「さては、恋でもしたろ?」
「なわけあるか」
冗談を交えながらも、こちらの様子を気にしてくれている。
「今の教育なんて試験のため、だろ? 真偽も確かじゃないのにマルバツ付けられ、成績悪けりゃ落ちこぼれ。お国のための教育なら他に方法あんだろ」
「そうかもな」
ふっと漏らすように言いつつ、東は続ける。
「でも……それが誰か一人でも、ほんの少しでも心に残るのなら、それはもう意味のあるものになってると俺は思うぜ」
あくまで俺の考えだけどなと東は付け加える。
確かにそうだ。人は誰かの記憶の中に残り、認識されることにより初めて自分の存在価値に気付くことができる。たとえ、自分が世界から消えようとも、心に居続けたい、その願いが「歴史」という形で今も残り続けているのかもしれない。
「とまぁ、この前のテスト赤点だった言い訳なんだけどな」
良いこと言ったと思ったらこれだった。まぁでも、
「少しスッキリしたぜ。サンキュな」
良い奴なんだよな。