心外ながらディアナ様と一緒に戦います。
「一体どこから入り込みやがった!」
「誰だ!」
続々と、悪い海賊たちが入り口に集まってきます。
困りました。できれば平和的に解決したいのですけれども。
隣のディアナ様を見やると、とてもわくわくしております。表情だけでその気持ちが分かります。
憧れの『海賊王ハンス』――その始まりの場にあるというのが嬉しいのでしょう。
「ラミア、戦うわよ!」
「……ディアナ様お一人で殲滅することは可能と存じますが」
「仲間と協力するのが海賊ってものでしょう!」
「……はぁ」
ディアナ様が構えられました。
他の魔導師は魔導を使用するにあたって、補助具を用意するのが一般的だとされています。魔力を収束させるための杖や、魔導式が刻まれた宝石などですね。ですが、ディアナ様は天才的な魔導のセンスを持っておりますので、全くそういった補助具を必要としないのです。
ですが。
問題は、その使用される魔導です。
「いくわよ! 爆炎よここに――」
「ディアナ様。広域破壊魔導はやめてくださいませ」
「え、何で?」
「私やハンスも犠牲になってしまいます。ここは海の上ですから」
「あ、それもそうね」
危ないところでした。
ディアナ様は非常にお強いのです。お一人で敵軍を殲滅することができるほどに、その魔力は膨大ですし、強力な魔導を扱うことができるのです。
先程、ディアナ様が詠唱をされようとした魔導こそ、その代表的なもの――《超級爆炎》です。かつて、二万の敵軍を一撃で殲滅したとされる最上級の破壊魔導なのです。
こんな海の上でそんなもの使われては、まず間違いなく船ごと吹き飛んでしまいますよ。
「じゃあどうすればいいのよ」
「《光線》くらいで十分にございます。向かってくる敵の頭に向けて《光線》を放ってくださいませ」
「えー。あれ地味じゃない?」
むー、とディアナ様が唇を尖らせております。
《光線》はその名の通り、光線で敵を貫く魔導です。下級、中級、上級、超級、神級と分かれている魔導の中では、中級に位置するものですね。一般的な魔導師にとって、最も使いやすい攻撃魔導です。
「ま、しょーがないわね……《光線》」
ひゅんっ、とディアナ様の突き出した指先より光の線が放たれ、最も近くにいた海賊の頭を貫きます。それと共に、海賊が倒れました。
本来、普通の魔導師だと《光線》にも詠唱が必要なのですけど。
ディアナ様の魔導技術は他の追随を許さないものですので、上級魔導くらいまでは詠唱を必要とされないのです。
「やべぇぞ! こいつ魔導師だ!」
「くそっ! 全員でかかれぇ!」
最初の一人が魔導により落とされたことで、一斉にかかってくるおつもりのようです。
さすがに困りますね。《光線》は一人ずつしか倒せませんし。
その間も、ディアナ様は「《光線》、《光線》、もいっちょ《光線》ー!」と、とても楽しそうに海賊を殺しておりました。
あ、ちなみに私は魔導の才能が全くありませんので、何の魔導も使えません。
「うらぁっ!」
あ。
ディアナ様の《光線》を抜けて、一人の海賊がディアナ様に攻撃を仕掛けようとしています。
さすがにディアナ様を攻撃されると困ります。ディアナ様に何かあっては、私も帰ることができなくなりますし。
やれやれです。
「はっ!」
ディアナ様に近付こうとした海賊へ向けて。
思い切り、蹴りを放ちます。
私、魔導の才能はさっぱりありませんが、その代わり格闘術は鍛えておりますので。一応、従者及び護衛も兼ねているんですよ。
私の蹴りで、海賊が沈みます。ちなみに私の靴の先には鉄が仕込まれておりますので、やろうと思えば壁くらいなら蹴り壊せます。爪先が物凄く痛いのでやりませんけど。
「ぐはっ!」
「くそっ! この女も強いぞ!」
ディアナ様が遠くの敵を《光線》で落とし、近くの敵は私が蹴り倒すという形で殲滅します。
狭い通路というのが、逆に良かったですね。後ろを気にしなくてもいいですし。
四方を囲まれてしまった場合、ディアナ様から離れることができませんからね。まぁ、そのときには《鉄壁作成》とか使っていただいて周囲を囲めばいいでしょうか。
一対一なら、まず負ける相手はいませんし。
「き、きみたちは一体!?」
「通りすがりの大賢者よ!」
「ディアナ様、何故素性を明かすのですか」
「あ、そうだったわね」
まぁ、時代が違うので問題はありませんけど。
この時代の大賢者は誰なのでしょうか。少なくとも、ディアナ様以上の魔導師は存在しませんけどね。
ハンスは随分驚いている素振りでした。
「だ、大賢者……? ま、魔導師なら、この牢を壊してくれないか! 僕にも戦わせてくれ!」
「あ、そうね。《光線剣》!」
五人目の鳩尾を蹴り飛ばしました。
一体何人いるのでしょう。次から次へと湧いてきます。
さすがに、前衛が私一人だときつくなってきた頃合です。ハンスも戦ってくれるのならありがたいですね。
「ぐはぁっ!」
と、そんな五人目が私に蹴り飛ばされ。
いい場所に入ったのでしょう。そのまま何かを口から吐き出しました。いわゆる吐瀉物というやつですね。
それが、思い切り。
「ラミア!」
「……」
私へと、かかりました。
どこの馬の骨とも知らない男の、口から出た汚らしい吐瀉物が、私へとかかったのです。妙な臭いすらしてきます。せっかくの、ディアナ様にお仕えするためのお仕着せなのに。お気に入りの衣装だというのに。
さすがに。
許しておけません。
ぎろりと。
私へと吐瀉物を撒き散らしてきた、海賊を睨みつけて。
「何を……」
「ラミア! 落ち着いて!」
「何をさらしとんじゃ三下がぁぁぁぁぁっ!!」
思い切り、蹴り飛ばします。
私の服を汚したのです。死で償ってもらわなければ。
もう遠慮はしませんよ。
そこからは――私は、暴風と化しました。
ディアナ様の攻撃を待つことなく、自ら前に進み、ひたすらに海賊たちを蹴り飛ばします。
さすがに殺すのは忍びないと、ちょっと手加減していた私はもういませんよ。
「首を出せやぁぁぁぁっ!! 蹴り殺したらぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃああああああ!!」
海賊、およそ五十人。
うち三十人ほどを蹴り殺して、ようやく止まってくれました。あとはディアナ様の《光線》で頭を貫かれた者ばかりですね。途中参加のハンスは、後ろの方にいただけで何もしていません。
そんなハンスが、震えながら私とディアナ様を見て
、一言。
「きみたち……化け物か……?」
そんな、失礼極まりないことを言いました。