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ディアナ様は謎の肉をご所望です。

「ふぅ……今日も疲れたわね」


「お疲れ様です、ディアナ様。すぐに夕食になさいますか?」


「ええ。今日は早めに眠るから、夕食の後にはすぐ湯浴みをするわ。まったく……厄介な魔導具用意してくれたものよね」


 はぁ、と大きくディアナ様が溜息を吐かれます。

 結局、海賊関係で一日無駄にしてしまいましたが、本日からはきっちりと大賢者様としてのお仕事に励んでくださいました。本日の主な仕事は、古代遺跡から見つかった謎の魔導具の解析だったようです。

 古代は現在よりも魔導に関する知識が深く、より高い魔導の技術があったと言われています。しかし古代都市は滅亡し、そのまま文明ごと消え去ってしまったのだとか。そんな遺跡から出土する様々な魔導具を、解析するのもディアナ様のお仕事なのです。

 中には、所有しているだけで害を為すようなものもあるらしいですし。ディアナ様曰く、呪いの魔導具だとのことですが。

 ちなみに、ディアナ様が何故そのような些事を行っているのかというと、ディアナ様の魔導技術が他の追随を許さないほどに高いからです。ディアナ様以外の魔導師が挑戦して、解析を行うことが不可能だったものだけディアナ様が解析をなさるのだとか。


「どのような魔導具だったのですか?」


「一種の呪いを振り撒くような代物よ。それも、簡単な手順では発動しないように、念入りに魔導式を重ねたものだったわ。《栄光の手ハンド・オブ・グローリー》っていう幸運上昇の魔導式の隙間に、《渇きの呪いカース・オブ・ドライ》が刻まれていたのよ。手順通りに発動させたら、王国全土で以降十年は一切雨が降らなくなる代物だったわ」


「さすがにそれは困りますね」


 よく分かりませんが、さすがはディアナ様です。

 ふふんっ、とそんな私の賛辞に対して、薄い胸を張られます。魔導の知識や技術とは裏腹に、ディアナ様の身体的な成長はあまり思わしくないのです。


「まぁ、わたしなら発動もさせられるけどね。そんなことをしたら、農家が困っちゃうから」


「そうですね」


「発動自体も、割と面倒なのよ。《栄光の手ハンド・オブ・グローリー》の発動中に、そのまま《渇きの呪いカース・オブ・ドライ》を同時に発動させなきゃいけないからね。少なくとも、普通の魔導師だと《栄光の手ハンド・オブ・グローリー》以外の効果があるなんて考えもしないと思うわ」


「なるほど、さすがはディアナ様です」


「もっと褒めてもいいのよ」


 ふふんっ、と気分が良さそうです。

 ちなみに、そう言いはしますが私にはさっぱり分かりません。何せ私、魔導の知識は皆無ですから。

 まぁ、ちゃんとお仕事を真面目に行われているのは僥倖です。このまま何事もなく済めばいいのですが。

 しかし何事もなくなってしまうと、それはそれで困るんですよね。少々暴走していただく形でないと、国王陛下から追加のお給金をいただけなくなってしまいますし。

 つまり、私に負担がない程度に、適度にわがままを仰っていただくのが一番なのです。


「ではディアナ様、夕食をお持ちします」


「ええ、よろしくね」


「はい。少々お待ちくださいませ」


 ディアナ様から離れて、厨房へと向かいます。

 先日、何度も何度もディアナ様がご所望されておりましたので、今朝厨房のシェフに少々無理を言いました。ちゃんと作っていてくれているでしょうか。

 今日も厨房にいる当家のシェフ――グラハムに、声をかけます。


「グラハム」


「あいよ……ああ、ラミアか。ご主人の分はできてるぜ」


「ありがとうございます。注文通りですね」


「相変わらず、無茶言いやがる。大変だったんだぜ」


「グラハムが頑張ってくれた、と一言添えておきますとも」


「ああ、そうしてくれ」


 ふんっ、と無愛想なグラハムは、そのまま仕事に戻ってしまいました。

 まぁ、私としてはちゃんと作ってくれていますので、ありがたいことです。これでディアナ様にもご満足いただけますね。

 ちゃんと、主人の要望を叶えるのが侍従である私の仕事でもありますから。


 グラハムの作ってくれたディアナ様の夕食をカートに乗せて、そのままディアナ様の私室へと運びます。

 一応食堂はあるのですが、そちらをディアナ様は我々使用人のために開放してくれているのです。ディアナ様が誰かと一緒に食事を召し上がることは滅多にありませんし、基本的にはお部屋におられますので、別に使わないからと開放してくださいました。

 そのため、私たち使用人は空いた時間に食堂に向かって、事前にグラハムが用意してくれている使用人用のビュッフェから好きなものを取って食べているのです。恵まれた就職先ですよね、本当に。


「お待たせいたしました、ディアナ様」


「うん……え、それだけ?」


 ディアナ様の私室に入って、そのままテーブルの上に夕食を置きます。

 不思議そうな顔をされていますね。

 それも当然です。ディアナ様の夕食は前菜、サラダ、メインの魚料理、肉料理、デザート、そして食後のお飲物と、常にフルコースなのですから。

 だというのに、本日私が持ってきたのはただ一皿の大皿だけです。


「本日の夕食は、こちらになります」


「わぁ……!」


 銀のクロッシュを取って、中にあるものをディアナ様に見せると、その瞬間に目をきらきらとさせていました。

 そこにあったのは、ディアナ様の所望されていた肉料理――料理と呼んでいいのかは分かりませんが、大きな白い骨に肉をつけ、焼いたものなのです。この世界のどこにも存在しないであろう肉の形ですが、頑張って作ってもらいました。

 ちゃんとグラハムが作ったものですので、味は保証できるはずです。


「素晴らしいわ。これを食べたかったのよ」


「ありがとうございます」


「あなたの指示?」


「はい。グラハムに指示をし、作ってもらいました」


「そう。グラハムに特別ボーナスを出しておいて」


「承知いたしました」


 うきうきと、謎の肉を手に取られます。

 もちろん、両方に突き出た白い骨を握って、そのまま齧り付く感じですね。ディアナ様の小さな唇と綺麗な歯が、そんな肉を一口嚙みちぎりました。

 うんっ、と納得されています。


「美味しいわ、ラミア」


「ありがとうございます」


「でも、思っていたものとは少し違うわね。これは何かしら……薄切り肉を巻いているのかしら」


「まぁ、その形状の肉は存在しませんからね」


「ふぅん……」


 グラハムにしても、頑張ったのでしょう。こんな形の肉は存在しませんし、とにかく薄切り肉を巻いてそれっぽい形を作ったのだと思われます。

 ちゃんと大きな骨も用意してくれましたし、ディアナ様にもこれで満足してくだされば一番なのですが。

 ディアナ様はその後も、ゆっくりゆっくり謎の肉を召し上がられました。


「ふぅ……もうおなかいっぱい」


「はい。お下げいたします」


 ディアナ様が肉を下ろされ、そのまま下げます。

 まだ半分以上残っていますが、そもそも大きすぎる肉ですからね。あまりにも大きいからこそ、他の料理を一切出さなかったのです。

 勿体無いので、ディアナ様が口をつけていらっしゃらない部分を、後ほどグラハムに切ってもらいましょう。今日の私の夜食が決まりました。


「食後のお飲物は何になさいますか?」


「ああ……そうね。今日はいらないわ」


「承知いたしました」


「それより、ちょっと思ったんだけどね」


 あ。

 なんだか嫌な予感がします。

 こんな風に言い出すディアナ様が、今まで良いことを言ったことは一度もありません。

 ですが、私もプロです。

 笑顔で、ちゃんとディアナ様のお言葉に耳を傾けます。


「やっぱりわたし、ちょっと短慮が過ぎたかなって思ってたのよ」


「左様でございますか」


「うん、だからね」


 にこにこと、そう仰るディアナ様に笑顔を向けながら。

 またどんな変なことを言いだすんだこの女、という本音を一切出すことなく。


「もう一回海賊やってみようと思うの」


「ディアナ様、お気を確かに」

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