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ディアナ様、しばらくお黙りください。

 少々暴走してしまいました。お恥ずかしい限りです。

 私は普段は非常に温厚なのですが、ちょっとしたスイッチが入るとつい口が悪くなる癖を持っているのです。

 いけませんね。これも、父の影響なのでしょうか。


 我が家も一応は貴族家の一員なのですけれども、やっていることは縄張りにある店の後ろ盾とかですからね。それなりに裏社会では名を知られている貴族家です。

 まぁ、今度帰省したら父を殴っておきましょう。父は強面の厳しい人ですが、娘である私には甘いので。


「え、ええと……僕は、ジェームズ・ハンスという。その、助けてくれてありがとう」


「わたしはディアナ・ブラスミュラーよ」


「私はラミア・ウィンストンと申します」


 ディアナ様は尊大に、私は慇懃に礼をします。

 ですが何故か、ハンスが怖がって見ているのは私の方でした。まったく、こんな小娘をそれほど怖がらなくてもいいものを。

 まぁ、当のハンスもまだ少年と呼べるほどに若いのですけど。恐らくディアナ様と同じくらいではないでしょうか。

 身長は私よりも低いですし、顔立ちにはどことなくあどけなさが残っています。


「その……きみたちは一体?」


 まぁ、確かに疑問ですよね。突然、見知らぬ人間が目の前に現れたわけですし。

 しかも敵の海賊の一味というわけでもないのに、洋上にいる船の上に突然現れたのですから。疑問に思わない方がおかしいというものです。

 さて。

 ディアナ様、私はこんな事態を想定していなかったので、ハンスに説得をしろと言われても無理ですよ。

 そんな風に横目でディアナ様を見やると、ディアナ様はふふんっ、と薄い胸を張られておりました。


「わたしはアルトルード王国の大賢者、ディアナ・ブラスミュラーよ!」


 だから何故素性を明かすのですか、ディアナ様。

 あと、既に自己紹介は終わっております。先程のハンスの「きみたちは一体?」という言葉は、個人情報を聞きたいのではなく一体どうしてここにいるのか、一体何故船の上に現れることができたのか、そういう疑問ですから。

 相変わらず微笑ましいディアナ様に、頭を抱えることしかできません。


「アルトルード王国の、大賢者……? そんな名前の大賢者いたっけ……?」


「ハンス様、少しばかり私の話を聞いてくださってもよろしいでしょうか」


「え、あ、ああ……」


 割り込みます。

 ディアナ様に説明をさせては、全部話しそうでいけません。このままだと、ハンスが将来的に物語に書かれるような偉大な海賊となり、色々な島でどんな仲間やどんな敵と出会うのか、全部説明しそうですから。

 ここは、どうにか私が誤魔化す方向の方が良いでしょう。嘘でも、とにかく納得さえさせればいいのですから。


「まず、大賢者というのは正式なものではありません。そちらを、まずご理解くださいませ」


「ええっ、わたし正式な大賢者じゃなかったの!?」


「ディアナ様、暫くお黙りくださいませ」


「え、どういう」


「お黙りくださいませ」


「どう」


「お黙りくださいませ」


 とりあえず、うるさいのは黙らせておきます。

 私がちゃんと納得してくださるように説明しますから。

 そんな私とディアナ様のやり取りにも、ハンスは目を白黒させながら混乱している様子です。


「ええと、正式なものじゃ、ないのかい?」


「ええ。大賢者という名前を名乗らせてもらっておりますが、それは実力を鑑みてのことです。先のディアナ様の戦いをご覧になったと思いますが、ディアナ様は非常に魔導に精通しておりますので、中級までの魔導であるならば詠唱することなく使用することができるのです。この実力を考慮して、自ら大賢者を名乗っているのです」


「ふむ……」


「そんなディアナ様ですので、大賢者であってもそうは使えない魔導である《瞬間移動テレポート》を使用することができるのです。ただ、まだディアナ様も習得したばかりですので上手く扱うことができないのです。その実験に私も随伴したのですが、少しばかり操作を誤りまして、こちらの船に転移をしてしまったのです」


「ちょ、ラミア……!」


「お黙りくださいませ」


 なんでわたしがたかが上級魔導くらいでミスをするのよ――そう言いたそうなディアナ様を制します。

 ただ、一応理由としてはしっかりしているものです。それに、同時にディアナ様が超級魔導すらも軽く扱える人物だということを隠してくれます。無理やり考えた理由ですが、割と理にはかなっていますよね。

 先程ディアナ様を止めたのも、『失敗したことをあっさりばらしやがった』という感じに受け止めてくださると最高なのですが。


「ふむ……僕は魔導のことについて詳しくないのだけれど、そういう技術があるんだね……」


「はい。恐らくディアナ様を越える魔導師は他にいないでしょう」


「いや、そういうことなら、分かった。そんな風に操作を誤ってくれて、僕にとっては幸運だったということかな」


「だから、誰が失敗――」


「ディアナ様、お黙りくださいませ」


 何度言えば分かるのでしょうか。

 いっそのこと口を塞ぎたい気持ちになりますが、さすがに主人に対してそんなことをする侍従であるわけにはいきません。

 ディアナ様、割と根に持つ方ですし。

 まぁ、無理やりではありますが、納得してくださったようです。『海賊王ハンス』でも、ハンスって割と単純で騙されやすい性格でしたからね。そのあたりはちゃんと原典に忠実だったみたいですね。


「でも、それだとアルトルード王国に戻ることも難しいね」


「はい。もう一度ディアナ様が操作を誤って、海の上に出るわけにはいきませんから。それだと今度こそ死んでしまいます」


「じゃあ……折角だし、僕と一緒に冒険をしないか? 僕は元々、ここの海賊たちから船を奪って、そのまま冒険に出るつもりだったんだ。いつかアルトルード王国に立ち寄ったときに、そのまま船を降りればいい」


 なるほど、素晴らしい提案ですね。

 アルトルード王国に戻ったところで何もありませんが、ハンスと一緒に冒険というのが最初からのテーマでしたし、こちらから持ちかける必要がなくなったと思えば良いですよね。

 このように、純真そうなハンスを騙すというのも申し訳ない気がしますけれど。


「でしたら、ディアナ様ともどもよろしくお願いします。ディアナ様、それでよろしいでしょうか?」


「え……あ、うん。聞いてなかったけどいいわよ」


「では、そういう形でお願いします」


 ディアナ様は、海の景色を眺めていて話を聞いていなかったようです。

 まぁ、全て任せてくださっていると思えばいいですよね。信頼してくださっていると思えば。

 海綺麗ですしね。見惚れるのも仕方ないですよね。


「ああ。僕としても、頼れる人が仲間になってくれて嬉しいよ」


「ええ。ディアナ様は非常にお強いですからね」


「あ、ま、まぁ、うん。そうだね」


 あはは、とハンスが乾いた笑いを浮かべています。

 なんだか、意思の疎通に齟齬があるような気がしますけど。


 まさか、私のことを戦闘要員として見込んでいるのですか。

 嫌ですよ。戦うの嫌いですし。

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