09 魔女の教師探し 魔導士その二
入国審査はすぐに終わらせた。
まあ、私の身分証明書は確実なものだからな。止める門番はいないだろう。
最悪魔法で洗の…、いや、説得するから早く終わる。
私は門をくぐると、肩に乗せていた二号を頭にのせ、腕を空に向かってぐっと挙げた。
あー、ずっと待たされたり、審査の書類を書くために座らされていたから体を伸ばすと気持ちいいな。
「ふぅ、中央魔法都市に向かうか」
「もう審査が終わったんですね。僕もついていきますよ」
なんか幻聴が聞こえた。
さっきの男とおんなじ声な気がするが、気のせいだろう。
視界になんかがちらついてうざいな。
ああ、そういえばこの関所から中央魔法都市までは距離があるんだったな。
二号で行くか? それとも風魔法で行ったほうがいいか?
確かこの世界では風魔法で飛ぶ術はあったはずなんだが。どうだったか曖昧だな。
私は周りを見回した。
どうやら門の前に広がっているこの村では馬を貸し出しているみたいだが、馬で行くのは却下だな。時間がかかる。私は早く帰りたい。
「馬でいかれるのですか? 案内いたしますよ」
また幻聴か。うるさいな。
ふ~む、一応人を乗せる魔法道具も売っているみたいだな。
ああ、あれは空飛ぶ箒か? いつも不思議なんだが、なんでどの世界でもみんな箒に乗りたがるんだ? 結構股が痛くなるし、他にも快適な乗り物があるだろ?
私のおすすめはやっぱりもふもふな魔獣に乗ることだな。あれは癖になる。
「ああ、箒をつかわれるのですね? 借りてきましょうか?」
しっかし、この幻聴、鬱陶しいな。
うーむ、二号はみられる可能性もあるからな。乗合馬車もあるみたいだが、仕方がない。今回は自分で飛ぶか。
私は地面を蹴ると、ふわりと浮かび上がった。そして、そのまま中央魔法都市の方向へ飛ぶ。
下から「待ってください!!」という声がしたが、無視しておいた。しつこい男は嫌いだ。それにこの私に付きまとうなんて、生きてるだけ光栄に思えよ!!
メジョリカ中央魔法都市はこの世界で一番魔法が発達している場所だ。そこでは魔法で作られた交通機関がたくさん行き交い、生活には魔法道具が欠かせないくらい魔法が浸透している。一般市民にまで魔法が浸透しているのはこの世界ではこの都市だけだ。
都市の真ん中には高い塔が連なった城が建っており、その近くに大きな建物があるのが空から見えた。あれが私の目的地の王立魔法学園だな。
魔法道具の箒で2,3日かかる道のりがだいたい数時間で着いた。まあ、転移魔法を使ってないしこんなものだったらここの神に文句も言われんだろう。
私は地面に降り立つと、都市にある門へと向かった。
身分証明書を見せて中に入ると、すぐに魔法学園に向かった。おなかが減ってきたからな。早く終わらせて家に帰りたい。
魔法学園に着くと、私はすぐに門番にさっきとは違う身分証明を見せた。すると、その門番は慌てて頭を下げて私を控え室に通した。案内する様子が挙動不振すぎてうざかった。
控え室で二号を膝に乗せ、紅茶を啜って少し待つと、すぐに私は違う部屋に案内された。突然来たとはいえいい対応だな。まあ、私が来たのだから時間を開けるのは当たり前だがな。
案内係が扉を開けると、そこには三人のジジイどもが跪いていた。
「ようこそおいでくださいました、魔女さま」
ジジイの一人が恭しく傅く。
チッと私は盛大に舌を打った。
「面倒ごとは嫌いだ。頭を上げて楽にしろ」
「しっ、しかし、魔の三輝星の方に―――」
「うるさい。そういうなら私の機嫌が悪くならないうちに従え」
ぴしゃりと私はジジイの言葉を遮った。
ああ、本当にめんどくさい。
確かに私はこの世界唯一の『魔の三輝星』だが、それはイーフォを早く迎えに行くために必要だったからだ。こんなハゲジジイどもに頭を下げられるためではない。
『輝星システム』とは、一つの分野に特化した者が神殿に行くと、神からその努力の証として輝星と呼ばれる星の刺青を胸元に刻んでもらえるというものだ。分野はいろいろあって、魔法や剣、医療など様々だ。星の数も最大三つで、多くなるほどそれに特化し、神に認められているといわれる。私はこの世界で行動するのに便利だったから、神を脅し…、いや、説得して付けさせた。もちろん一番位の高い三輝星にだ。
まあ、私が一番じゃないということがあり得ないのだがな。
だが、あの神に認められても露ほどもうれしくないな。
私が低い声を出したからか、ジジイどもは顔を上げて私に席を勧めた。ジジイどもは私が座ると、目を輝かせてこちらを見ていた。
はぁ、本当にめんどくさいジジイどもだな。すぐに用事を済ませて帰るか。
私は出された紅茶に手を伸ばす。
「私の用件は一つだ。弟に魔法を教えるやつを探している。通いではなく住み込みになるからな、良さそうなのはいないか?」
前置きを言うのも面倒だから、私は直球にジジイどもに聞いた。すると、ジジイどもは総じて先ほどとは打って変わって怪訝そうな顔をする。
おい、ジジイが首を傾げてもかわいくないぞ。そういうのはイーフォや二号、アールがするからかわいいんだ。ちなみにケサパサは丸い毛玉だからな。首を傾げるところなんざ見たことがない。
「あ、あの、魔女さま」
私がジジイどもの反応に眉を寄せたからだろう。一番偉そうなハゲジジイが恐る恐る口を開いた。私がなんだとぞんざいに聞き返すと、ハゲジジイは続ける。
「大変失礼を申し上げますが、魔女さまは三輝星であらせられます。きっとわたくし共では到底及ばぬ魔の深淵を理解していらっしゃるでしょう。そんなお方の弟君に我々が教鞭を振るうなどおこがましい限りでございます」
さっきよりもジジイは粛々と頭を下げる。
つまり、私自身で教えろってことだな。確かに筋は通っているし、私自身が教えるのが一番手っ取り早いだろう。だがこいつらは魔の分野で次点と言われる二輝星もいるのに、たった一人を教える実力もないと言いたいのか? それとも面倒事も抱えたくないのか? せっかく私に貸しが作れるのにな。
「この恩を売るいい機会を逃す気なのか?」
私が目を細めて鼻で笑うと、ジジイどもは慌てたように首を振った。
「め、滅相もありませんっ!! わたくし共は魔女さまに恩を売るなど考えたことがございません。魔女さまはここ数百年もの間誰もが到達し得なかった魔の三輝星でございます。尊敬こそあれど下心は一片もありません」
つまりさっきから感じるこの視線は尊敬や羨望、そして、畏怖だな。自分たちが知らぬ魔の深みを除いた私に対する尊敬。それをうらやましく思う気持ち。だが、おそらく魔の二輝星を持っているジジイどもは並大抵の奴らよりも魔法を深く知っているゆえにその深淵に対する恐怖もある。
何においても完璧な私を無条件に敬いたくなる気持ちは分かるが、人間の感情は面倒だな。つくづく、理解したくない。
「そうか。だが、私直々こうして頼みに来ている意味が分からんのか?」
「それは、……魔女さまがご自分が弟君に指導するのに適さないとお考えだからでしょうか?」
「そうだ。私は感覚型でいろいろと特殊だからな、教えるのには向かん」
はぁ、いちいち説明しないとわからないのか?
こいつらは魔法を研究しすぎて察するスキルとかがいろいろと欠如してすぎだな。ハゲ頭には魔法式しか詰まってないんじゃないか? まったく、完璧な私を見習ってほしいくらいだ。
それにしても、なんでここまで頑なに断るんだ?
そう思って私はある結論に到達した。
「おい、お前らの名前と輝星の数はいくつだ?」
そういえば話を遮ったせいで聞いていないと思って尋ねると、ジジイどもは目をそらしてジトリと汗をかいていた。だが、私の質問に答えるわけにはいかないとわかっているのだろう。真ん中にいるさっきから話していたハゲからゆるりと口を開いた。
「……わたくしは二輝星を仰せつかっておりますジル・ヴェ・シェリデロスでございます。この学園では副学長を務めさせていただいております」
ほう、副学長とな。この私に対して学長ではなく副学長をよこすとはいい度胸だな。それに続けて聞くと、脇にいた二人は一輝星だと? 私をなめているのか? これでもこの国で一代限りの公爵をもっているんだぞ? 魔導大国にとっては一番の賓客だぞ? 緊急とはいえこの学園の責任者を出すのが当たり前だろう? その説明もなかったとはどういうことだ。
こんな奴らになめられるなんぞ、元々この部屋に入った時点で機嫌が悪いというのに余計に不愉快だな。
「学長はどうした?」
私は怒気を含ませた声でハゲどもを威圧した。