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08 魔女の教師探し 魔導士その一

 私は魔女だ。

 名前はもう捨てた。

 ただ、(うつ)ろの魔女と呼ばれることもある。


 さあ、今日はお前たちに私が今どこに向かっているか教えてやろう。

 ん? 私は今、比較的機嫌がいいからな。特別だぞ。


 私は今、二号の背に乗り、二号をもふもふしながら森の中を駆けている。

 向かう先は魔導大国と呼ばれているメジョリカだ。そこにはこの世界では実力者といえる魔導士がゴロゴロしている。まあ、私には一生かけても及ばないがな。


 そもそも、私はこの世界の魔法システムとは違う魔法を使っている。

 魔法というのはそれぞれの世界の魔法システムに準じており、そのシステムを介して行使される。どの世界でもそうだ。だから、世界のシステムを作る神の趣味によって魔法の違いがある。この世界の神は不器用で、システムを構築するのが得意でない。そのせいで空間魔法がまだ実装されていなかったり、固有スキルが少なかったりする。

 私はというと、自分の中に独自の魔法システムがある。私はそれを介して魔法を行使している。システムを介さないで魔法を使うのは神しかできないことだ。私は神ではなく魔女だからな、自分の中にシステムを作り、それを介すことで魔法を使っている。まあ、こんなことができるのもどの世界を探しても今のところ私くらいだろうな。私そのものが世界みたいなものなのだ。


 だから、私はイーフォに魔法を教えられない。この世界のシステムとは違うシステムを介しているのだ。魔法そのものが違う。教えようがない。

 その代わりに、イーフォには優秀な魔法の教師をつけることにした。私の弟に教えるのだ。生半可なやつにはやらせない。イーフォはこの世界では逸材だからな。伸ばせる才能は伸ばさないわけにはいかないだろう。

 私はイーフォをずっと自分の下に縛って置く気はない。イーフォにもイーフォの人生があるからな。だから、家から離れたいと言ったら応援する。その為にも今、将来不自由しないようにいろんなことを教えてやっている。私直々にな。

 言語はもちろん計算や生活の知恵など様々だ。料理も教えてやりたかったが、イーフォは私が料理に手を出そうとするとふわふわの狐耳を逆立てて怒るからな。せっかく私の素晴らしき手料理を作ってやろうっていうのにもったいない弟だ。まあ、最初の料理教室で指を切断してしまったのはやってしまったと思っている。この私が咄嗟に「てへぺろっ!」と言ってしまうくらい焦ったからな。

 そういえば、イーフォは剣も習いたいと言っていたな。完璧な私は確かに剣を使うこともできるが、ちょっと特殊だ。人に教えるのには向かんな。


 そんなこんな考えているうちに、メジョリカに近づいてきたな。

 私たちが住んでいる森は人里から離れた場所にある。私が見つけ、整え、結界を張り、中に入った者は迷いに迷って入り口に戻るという魔法がかけられているから誰も近寄らない。そもそも、強い魔物ばかりが住んでいる一帯だ。人はほとんど近寄りさえしない。まあ、一応挑戦する奴がいて、迷いの森と呼ばれているらしいがな。

 その森からメジョリカは本来ならば半月くらいかかる。だが、風魔法が使える二号ならば半日もかからない。風を切って走る姿は○コバスのようだ。中には入れないがな。


「二号、あそこだ」


 私は国境門の関所を指さして二号に合図した。

 一旦二号をもふりながら乗る時間は終わりだ。二号はこの世界にいない獣だ。無闇に混乱を招くなとここの神に言われているからな、猫サイズになってもらって一目から誤魔化す予定だ。

 二号に人目がつかない場所まで運んでもらうと、背中から降りる。


「助かった。あとは私の肩にでも乗るといい」


 二号はくぅーんと甘えるように鳴くと、みるみるうちに小さくなっていった。うん、小さくなった二号もかわいいな。

 私は子猫サイズになった二号を少し撫でると、肩にのせた。ちょうどいいサイズだ。


「じゃあ、行くか」




 私が関所に着くと、そこには数人の人が並んでいた。

 前に一度野暮用があって入ったことがあるが、メジョリカは国内に入るのに審査が時間がかかる。多分そのせいだろう。

 私も大人しくその列に並んだ。本来なら私を待たせるなんぞあり得ないことだがな、今は手元に二号がいる。今回は許してやろう。

 寛大な心を持っているだなんて、さすが私だな。


「お嬢さんもメジョリカに行くのですか?」


 二号のもふもふを堪能していると、綺麗なメジョリカ語で話しかけられた。私はもふもふを中断され、不機嫌になって声の方を見ると、そこには背の高い若い男が立っていた。こいつのメジョリカ語は発音がきれいだから、メジョリカの中心部のやつかもな。


「ああ、そうだ」


 私がメジョリカ語で返すと、男は一瞬驚いていた。


 ん? なんだ? 私のメジョリカ語の発音が素晴らしすぎて驚いたのか? 私の見た目はメジョリカ人に見えないからな。まあ、完璧な私に出来ないわけがなかろう。


 私がにやりと笑って男を見る。

 その男は面白そうなものを見たような顔をしていた。


「お前はメジョリカに帰るところか?」

「ええ、そうです。少し旅をしていた帰りですよ。お嬢さんは?」

「お前にお嬢さんと呼ばれる筋合いはないぞ。私はただの人探しだ」

「はははっ、威勢のいい方ですね。面白い。――ああ、人探しなら僕が手伝いますよ?」

「いらん」


 私は即座に断った。一瞬こいつがメジョリカ中央魔法都市の人間だったらイーフォの教師探しに便利だと思ったが、態度が気にくわん。何が面白いだ。それに、私は見た目は若くてもお嬢さんという歳ではない。

 私はその男を無視しようと顔を背けた。

 ―――すると、急に背後で魔法システムへの接続を感じ、その男が使おうとしている魔法を私の魔法で打ち消した。


「お前、覗きだなんて悪趣味だな…?」


 私は男の方へ振り返り、不機嫌に睨みつけた。

 男はあからさまに狼狽える。


「なん…の、こと、ですか……?」

「馬鹿か、お前。自分でしようとしたことは自分でわかっているだろう? 言っておくが、私に感謝しろよ。私をその魔法で見たらお前の頭が破裂していたぞ」


 私の言葉に男は青ざめていた。

 さっき、この男は私を『鑑定』という最近実装されたばかりの固有スキルで覗こうとした。このスキルはまだ調整されていないみたいで、読み取れる情報量がかなり多い。だから私はこの男を止めた。

 こいつの頭は私の情報をかけらでも読み取ったら即死ぬ。私は情報の塊だ。私自体にたくさんのシステムが搭載されているから当然だな。まあ、私が人に覗かれるのを好まないという意味でも止めた。私を覗こうなんぞ、デリカシーのない奴だ。

 そのまま死なせてもよかったが、ここの神に文句を言われるからな。それはめんどくさい。

 そもそも、ここの神はいろいろと杜撰すぎる。この固有スキルもそうだが、システムに粗が多すぎだ。私のシステムの完璧さを見習ってほしいくらいだな。まあ、こんな完璧なシステムは神でもそうそう作れないがな。ここの(バカ)には一生無理だろう。


「次はない。この機会に悪趣味な覗きはやめておくんだな」


 私がそう忠告すると、ちょうど門番に呼ばれて私の審査の時間になった。私は顔を蒼白にしている男を一瞥するとその場から去った。

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