02 魔女のペットその一 もふもふ度★★★★
私は魔女だ。
名前はもうない。
ただ、境界の魔女と呼ばれることもある。
さあ、今日はお前たちに私の今の状況を教えてやろうじゃないか。
ん? 私は今、素晴らしく機嫌がいいからな。特別だぞ。
今、私は腕の中には銀の狐耳の可愛い弟、そして、後ろにはもふもふのペットがいる。
つまりどういうことだか教えてやろう。
ここは、オ・ア・シ・スだ!!
うん、最高だっ!!
「う、う~ん……」
私が幸せに浸っていると、胸元から呻き声がした。
どうやらイーフォは悪い夢を見ているらしいな。今日の朝まで奴隷だったのだ。仕方がないか。
イーフォは私が今朝攫った。
イーフォはここからかなり遠くの国の貴族の奴隷だった。この世界では国によっては獣人の扱いが低いらしい。こんなに可愛らしくてもふもふしているのに扱いが悪いとは私には理解ができないがな。
それを私が魔法でちょちょいのちょいと攫ってきたのだ!
まあ、イーフォとは2年前に迎えに行く約束をしていたからな。私はその約束を守った訳だ。
こう見えても私は律儀な魔女だからなっ!
うん、約束を守るとはさすが私だ。
「イーフォ、起きた方がいいぞ。夜眠れなくなるからな」
私はイーフォの頬をぺちぺち叩いて起こした。
小さい子供は昼寝をし過ぎると夜は活発になるからな。このくらいで起こしておかないと私が困る。私は夜は寝たい。それに、目の前にイーフォのふわふわした耳があるのに、触れないのは癪だ。
「イーフォ、起きろ。もうお昼だぞ」
私は耳の中をなでなでしたり、もふもふしてイーフォの起床を促した。うむ、気持ちがいい。
すると、イーフォはくすぐったいと身体を捩らせながら起きた。目を擦ってうーんと眠そうな声をあげる。
「おねえちゃん、ここ、どこぉ?」
「ん? ああ、庭だ。広くて気持ちがいいだろう?」
「うん!!」
「まあ、当たり前だ。私が作った庭だからなっ!!」
「おねえちゃん、すご~い!!」
私の声を聴いてイーフォや頭がはっきりたようで、手を叩いて、嬉しそうに私を褒める。
庭も私のこだわりの場所だからな。綺麗に整えられた花壇や小さなピクニックができるガセボ、そして、家庭菜園ができる場所まである。さすが私だ、としか言いようがないな。
うむ、よいぞよいぞ。もっと褒めるがよい!
しかし、嬉しそうに私を称賛していたイーフォは私の後ろに視線を止めると、突然ピタリと身体が固まった。蒼い瞳が思いっきり開かれている。
「どうした? 何か面白いものでもあったか?」
「お、おねえちゃん、い、いえが、なくなった……?」
私が振り返ると、そこにはあったはずの素晴らしきマイホームが見えなかったのだ。
きっとイーフォには得体のしれない白い壁があるようにしか見えないだろう。
「ん? 違うぞ。これは私のペットのケサパサだ」
「けさ、ぱさ…?」
「ああ、そうだ。ケサランパサランという妖精の一種だな。この世界にはなかったのだったか?」
「ぼく、はじめてみるよ……」
「まあ、ここまで大きいのは滅多にいないからな。なんせ、私の魔力を吸ってこのモフみを維持させているんだ」
この大きさのケサランパサランを見つけるのはこの私でも大変だった。
私は魔女の中で特別な魔女だ。だから、いろんな世界を渡り歩くなんてお茶の子さいさいだ。今まで渡った世界はかなりの数になる。その中でも私はある世界が気に入っている。まあ、その世界の神と仲がいいからな。尚更気に入っている。それは、地球と言う星がある世界だ。
地球にはいろんな国があるが、このケサランパサランはフィンランドと言う国のムー○ン谷を越えた先でやっと見つけたのだ。あの時のケサランパサランの群れは素晴らしかった……! うん、また行こう。まあ、私はその中でも一番大きくて、モフみが一番のこいつをさらっ……連れてきた。そして、ペットにしたのだ。
私の素晴らしき冒険譚はもっとあるがな、追々イーフォに聞かせてやろう。
ケサランパサランは私の魔力と日光さえあれば素晴らしいモフみを提供してくれる。日光に当たるとむくむくと大きくなる。魔力はモフみの維持のためと私の趣味だ。
そういえば、ここはいい感じに日差しが注いでいるからな。さっきから背中のケサパサがむくむくと大きくなっているのを感じていた。亜空間から出したときは3メートルくらいだったのに、もう8メートルくらいあるんじゃないか? まあ、素晴らしきもふもふ感は変わらんが。
イーフォは私の説明は要領を得なかったようで、きょとんとしていた。これから私の話を聞かせるにはもう少し勉強させねばらなんな。
とりあえず、私の後ろにある白い物体は私のペットと言うことは分かったようで、恐る恐る手を伸ばした。
イーフォがツンと指でケサパサをつつくとケサパサは初めての魔力に驚いたようで、ブルンッと身体を震わせた。それに、イーフォは珍しいものを見たように目を輝かせた。
「わぁぁぁ! おねえちゃん、みた? いま、うごいたよ!! ブルンってしたよ!!」
イーフォは楽しそうに何度もケサパサをつつき、きゃははと笑った。その度にケサパサはもふもふの毛を逆立て、ブルンッと巨体を震わせた。
まるで五月の女の子がト○ロをつついているみたいだ。背中から振動が伝わって面白い。
しかし、ケサパサは耐えられなかったようだ。きゅーっと可愛いらしい声を立てて私に助けを求めた。
私に助けを求めるとはいい判断だっ!
「イーフォ、そろそろいい加減にしろ。私のケサパサが困ってるぞ。元気がなくなったせいで体積が減った」
心なしかモフみにも影響が出てきている気がする。首元に触れるケサパサがさっきまでは柔らかかったのが少しチクチクしてきたんじゃないか? モフみが落ちたらイーフォでも私は本気で怒るぞ。
私の少し怒気の含んだ声で、イーフォはしゅんと耳と尻尾を垂らして落ち込んだ。
「ご、ごめんなさい!!」
イーフォの顔は青ざめていて、その瞳には恐怖が浮かんでいた。
私はポンッとイーフォの頭を叩いた。私の手が触れるとすぐにイーフォの身体がびくりと震えて、身体が強張っているのが分かる。
「いや、構わん。だが、気を付けろ。イーフォが初めてのことに脅えるように私のケサパサも初めて感じるイーフォの魔力に脅えているんだ。ケサパサは臆病者だからな」
私はいつも変わらない口調で言った。もう怒気は含んでいないはずだ。
イーフォは私が怒っていないことを感じ取ったのか、恐々と顔をゆっくりあげた。その表情は不安でいっぱいだった。
「おねえちゃん、ぼくのこと、きらいになった?」
イーフォの自分の服を握っている手は震えていた。
その手の中の服を見て、そういえば、服は変えていなかったな、と私は思い出す。こんなぼろを着続けさせる意味もない。買ってきた服を教えないとな。
クローゼットにある服は全て私の厳選したものだからな。イーフォに似合わないわけがない。
私はにやりと笑った。
「なに馬鹿なことを言ってるんだ。お前を嫌いになる理由がないだろ?」
そういうと、イーフォはぱぁっと顔を輝かせた。
「じゃあ、中に入るぞ。イーフォの服も変えないといけんな。それに、もう昼だ。メシも食わなきゃな。腹が減った」
私はイーフォの小さな手を引くと、ケサパサを押しのけてマイホームに入った。
押したときのケサパサのふわふわとしたモフみは最高だった。
ケサパサをもふもふしました。
次ももふもふします。