プロローグ
俺は何度もこの夢を見る。
七年前、世界が変わってしまった日の事を......
そして今日も、俺はその夢を見る事になったらしい。
「なんだよ......これ......」
少し前まで、街は穏やかな時を進めていた。
だが、俺の目に映った街はその面影を残してはいない。
街に並んだ建造物は無惨に破壊され、休日で賑わっていた人々は姿を消し、瓦礫の山と豪炎だけが広がっている。
地獄、としか言いようのない程、街は変わり果てていた。
――そんな地獄の中心に、事の元凶は居た。
二十年前、それは《救世譚歌》によって滅せられたはずだった。
しかし今、それは再び姿を現し、人々に災厄を齎した。
「《喰魔》......」
通常兵器の効かない、規格外の化物。
《天師》が居なければ、勝てなかった敵。
......俺は、何も出来ないのか。
そう思った時だった。
『――強く、なりたいですか?』
何処からか声が聞こえた。
透きとおるような、澄んだ声。
『もう一度、問います。強くなりたいですか?』
幻聴、では無いのか。
そんな疑いをこの時の俺はする事もなく、
「俺は強くなりたいッ!!」
そう答えた。
それに対し、声は、
『では授けましょう。そのキッカケを』
そう言った次の瞬間、眩い輝きが俺を包んだ。
「くっ......!!」
その輝きに思わず目を瞑り――輝きが消え、目を開いた俺は真っ白な空間に居た。
『――さぁ、こちらへ』
声がさっきよりも近く、そして後ろから聞こえたような気がして、振り向くと――そこには一人の女の子が立っていた。
髪も肌も服も、全てが純白。
瞳の色は目を閉じていて分からなかったが、言葉を失う程にその姿は異様で、美しかった。
『時間が無いので、手短に』
女の子はそう言って俺に近づくと、右手を取って――その甲にキスをした。
「えぇっ!?」
あまりにも予想外な展開。
しかし女の子の方は気にする様子も無い。
『......この力を生かすも殺すも、貴方次第。ただ一つ、忘れないで下さい.......この力を使い続ければ――』
その言葉の続きを聞こうとして、俺の意識は夢の世界から強制的に覚醒させられた。